障がい者の「性」はタブー視「ないがしろにされている」 障がい者専門「性サービス」を立ち上げた女性の決意

小西理恵さん/一般社団法人 輝き製作所所長 。別事業で、障がい者専門の風俗店も運営。(写真はイメージ/gettyimages) この記事の写真をすべて見る

 性欲は、人間の三大欲求とも言われる自然な欲求だ。だが、“障がい者の性”はタブー視されがちだ。障がい者向けの性サービスを提供する女性がいる。そこに真正面から向き合う理由を聞いた。

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「性」の欲求は大切なもの

「性は、人が生きるために必要なもの。自分の性を実現できず、ないことにされて、つらさを感じる人もいます」

 小西理恵さんは、“障がいと性”をテーマに、障がい者向けの性サービスや性の介助、性教育や講演などの活動を行っている。2020年に生まれ育った大阪で立ち上げた一般社団法人「輝き製作所」の代表理事を務めるほか、自身でも障がい者向けの性サービスを提供している。

「性欲は誰にでもある、ごく自然で当たり前のもの」と語る小西さんが、多様な性のあり方を知るきっかけになったのは、19歳で飛び込んだ性風俗業界での経験だ。

「少額のお金が必要で、“嫌だったらやめればいいか”という軽い気持ち」で、性風俗の仕事を始めた。飲食など性風俗以外の仕事をする期間もありながら、性風俗の仕事に戻るというサイクルが30歳ぐらいまで続いた。その中で自然と、「性の欲求は、どんな人の中にも当たり前に存在する大切なもの」という認識が根付いた。

性のあり方は多様

「ずっと続けられる仕事ではないと思っていましたが、風俗の仕事で得たお金で、何か自分の夢を叶えることができるんじゃないかという希望もありました」

 約10年間で、ヘルスから始まり、SMクラブ、M性感と3つのジャンルの性風俗を経験。さまざまな性癖を持つ客と接する中で、性の多様なあり方を学んだ。

「例えば、“自分のことを女性として扱ってほしい”という要望を持つ男性客もいました。性のあり方というのは本当にさまざまだと視野が広がったし、接客する上での柔軟性も身についたと思います」

大好きな祖母を看取る

 最初の転機になったのが、祖母の看取りだ。幼い頃から両親と離れて暮らし、妹とともに祖母に育てられた。「今度は私がお世話する番」と、介護施設での生活から、終末期の入院生活にわたり、キーパーソンとして祖母を間近で支えた。

【続きを読む】 障がい者向けヘルスで50代男性は「生まれて初めて男になれた」と語った 今も忘れられない原点とは https://dot.asahi.com/articles/-/254703


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性欲は誰にもある自然な欲求。障がいのある人の性がないがしろにされていると感じた(写真はイメージ/gettyimages)

 延命治療をするのか、延命治療はせずに自然な流れで最期を看取るのかという究極の選択も迫られた。大好きな祖母の最期を、自分が決めないといけないつらさに、悩んで泣いた。最終的には祖母自身の「延命だけはせんといてや」という言葉を信じ、延命はせず、自宅で最期を看取った。

「ものすごい葛藤でしたが、命が終わっていく過程を間近で見られたのは、とても貴重な経験でもあったと思います。この経験を機に、私のように家族を看取る人のケアやサポートをしたいという思いが強くなり、介護の世界を志すようになりました」

「何をしても楽しくない」という男性

 福祉の資格を取るため、専門学校に通い始めた。当初は高齢者介護を学ぶ目的で入ったが、授業の中で障がい者福祉についても学ぶ機会があった。障がい者福祉のグループホームに見学に行ったことが、2度目の転機となった。

「グループホームで出会ったのが、『何をしても楽しくない』という統合失調症の男性患者さんでした。支援者も彼がどういうことに楽しさや充実感を感じるのかがわからず困っていた。私は風俗店で働いた経験から、男性が女性と触れ合うことで、本能的に満たされるものがあるはずと、率直に“女の人と遊んだらいいんじゃないかな?”と思ったのです。でも、女の人と遊ぶにしても、接点がない。障がい者も利用できる性のサービス、例えば風俗店のようなものが、こんなにもないんだと知るきっかけになりました」

障がい者の「自由」がない

 ストレス解消、現実逃避、癒やされたい、非日常を体験したい、単純な好奇心――風俗店を利用する男性の心理には、“性欲の処理”を超えた動機もあると感じてきた。性風俗に救われる人や、精神的な拠り所になっている人もいる。

 性風俗に嫌悪感を持つ人もいるが、風俗営業法の基準を満たしている風俗店は合法化されており、利用が法的に問題になることはない。性の優先順位が人それぞれであるように、風俗店を利用するのもしないのも、あくまで「個人の自由」だ。

 だが、利用者が障がい者である場合、一般的な風俗店ではサービスの提供を断られるケースが少なくない。


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「障がい者専門風俗嬢のわたし」から(C)araipiyoko,konishirie / KADOKAWA

 障がい者の場合、自分で予約し、店に出向き、コミュニケーションを取ること自体が難しく、第三者の助けが必要になるといったハードルもある。障がい者が利用できる性のサービスは極端に限られているのが現状で、はなから選択の余地すらない現実を知った。

「日本では性的なことが隠されがちですが、性は“身体のこと”の一部。特殊なものではなく、人間が自然に持つものです。性のサービス=性欲の処理というイメージが強いかもしれませんが、私は身体と心の変化を整理して、どう対処していくかを考えるのも性のサービスの大切な部分だと思っています」

 そして、障がい者の性についての問題意識をこう話す。

「障がい者にも性欲はあって当然。にもかかわらず、ないことにされている。これは問題だなと思いました。例えばサービスを利用したいのに、自分で予約できない人はどうしたらいいのか、もっと考えないといけないんじゃないかと思ったんです」

いかに社会から孤立して生きてきたか

 時を同じくして、障がい者の性が“ないことにされている”ゆえの衝撃的なエピソードを聞いた。障がいがある男性の性的な欲求に、実の母親が応えていた結果、妊娠した末に堕胎したという。

 耳を疑う話だったが、その母親と障がい者である息子が、いかに社会から孤立していたのかを考えたことが、今の道に進むきっかけになった。

 障がいのある息子を持つ母親が、周りの誰にも悩みを相談できず、やむを得ず自慰行為を手伝ったり、性行為に及んだりというケースは、昔から少なからずある話と知り、強いショックを受けたという。

「母親は、“自分がなんとかしないと、息子が性犯罪を犯してしまうかもしれない”と悩んだ末に、自分の身体を差し出すしかないという発想に至ってしまう。なぜ母親だけでそこまで頑張らないといけないのか、一人で抱え込まないといけないのか。そうした人々の力になりたいと強く思うようになったんです」

(構成/ライター・松岡かすみ)

障がい者専門風俗嬢のわたし (シリーズ立ち行かないわたしたち)

あらい ぴろよ,小西 理恵

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