マッサ「とてつもない勝利」ついに引き寄せた”過去の闇”への審理、2008年F1タイトル訴訟に進展
元F1ドライバーのフェリペ・マッサが2008年のF1世界選手権タイトルを巡って起こした訴訟について、ロンドンの高等法院は本格的な審理に進むことを認める判決を下した。
これにより、マッサがフォーミュラ・ワン・マネジメント(FOM)、国際自動車連盟(FIA)、バーニー・エクレストンを相手取り求めている総額6400万ポンド(約131億円)の損害賠償請求が、正式に法廷で争われる見通しとなった。
判決:タイトル変更は「不可」、共謀の追及は「可」
被告側(FIA、FOM、エクレストン)は先月、マッサの訴えは不当であり却下すべきだと裁判所に申し立てた。理由として、マッサがタイトルを失ったのは2008年シンガポールGPでのパフォーマンス不足であること、さらに訴えが遅すぎる点を挙げていた。
だが、ジェイ判事は11月20日、被告側の主張を退け、訴訟継続を認めた。判事は、マッサが主張する「不法な手段による共謀(隠蔽工作)」について、裁判で立証され得る「現実的な見込みがある」と判断した。
一方でマッサ側の要求の一部は却下した。それは「マッサこそが正当なチャンピオンである」という宣言を裁判所に求めること(宣言的救済)についてだ。判事は「実際的な効用の欠如」を理由として、こう述べている。
「本件において宣言的救済が認められないことは明白だ。FIAはこの裁判所の管轄外にある国際的なスポーツ団体であり、そのような宣言を単に無視するだろう」
「この裁判が2008年のドライバーズ選手権の結果を書き換えることはできない」
つまり裁判所は、「歴史を塗り替えてマッサを王者認定することはできない」としつつも、「組織的な不正があったかどうかを審理し、その損害を問うこと」は認める判断を下したことになる。
マッサ「とてつもない勝利だ」
この判決を受け、マッサは声明を発表し、自身の正当性が認められたことを喜んだ。
「これはとてつもない勝利だ。僕にとって、正義にとって、そしてF1を愛するすべての人にとって素晴らしい日だ」
「真実は裁判で明らかになるだろう。被告人たちの共謀に関するあらゆる文書、あらゆる通信、あらゆる証拠が提示されることになる」
一方、FIAは判決について、裁判所がマッサの請求の一部(タイトル認定など)を退けたことに触れつつ、「大幅に限定された範囲」で審理が進むことを認めた。
かつてのF1界のトップたちが法廷に立たされ、過去の「闇」が白日の下に晒されることになるのか。歴史的な裁判の行方に注目が集まる。
この訴訟の中心にあるのは、2008年シンガポールGPで起きた悪名高き「クラッシュゲート」事件だ。
当時ルノーに所属していたネルソン・ピケJr.がチームの指示で故意にクラッシュし、フェルナンド・アロンソの勝利をお膳立てしたこのレースで、トップを快走していたマッサはセーフティーカー導入による混乱とピットミスで13位に沈み、最終的にルイス・ハミルトン(当時マクラーレン)にわずか1ポイント差でタイトルを逃した。
事件は翌年、ピケJr.の告発で明るみに出たが、マッサ側は「当時のF1最高権威者だったエクレストンやFIAは、2008年シーズン中に既に事実を知っていたにもかかわらず隠蔽し、適切な調査を行わなかった」と主張している。
エクレストン自身も2023年に「シーズン終了前に隠蔽を知っていた」ことを示唆する発言をしており、これがマッサの提訴の直接的な引き金となった。