NVIDIAのグラボが高すぎる割に性能や品質が低いとして「NVIDIAはデタラメまみれ」と題したブログ記事が話題に、「DLSSで性能を水増し」「レビュワーに多大な要求」などなど

ハードウェア

NVIDIAはGPU分野で多大な影響力を持っており、近年ではAI向けのGPUの需要増加などが影響して時価総額1位の企業になるなど急速な成長を続けています。しかし、PCゲーマーらはNVIDIAに対して多様な不満を抱えており、ウェブ開発者のセビン氏が公開した「NVIDIA is full of shit(NVIDIAはデタラメまみれ)」とうタイトルのブログ記事が大きな話題を呼んでいます。

NVIDIA is full of shit - Sebin's Blog

https://blog.sebin-nyshkim.net/posts/nvidia-is-full-of-shit/

◆価格が高すぎる

セビン氏は、まずNVIDIA製GPUを搭載したグラフィックボードの価格が高すぎることに言及しています。例えば、2025年1月に発表された「GeForce RTX 50シリーズ」の中でも最上位機種のGeForce RTX 5090の公式ページでは価格が「39万3800円より」と説明されています。

しかし、GeForce RTX 5090の発売直後は60万円を超える製品も少なくなく、価格が落ち着いてきた記事作成時点でも50万円前後で販売されています。Amazon.co.jpの場合、最も安価なのは「ZOTAC GAMING GeForce RTX 5090 SOLID OC」の40万1000円で、60万円を超える製品もラインナップされています。

海外では「そもそも新品を入手できない」という状態に陥っているとのこと。NeweggなどのオンラインショップではGeForce RTX 5090搭載カードが3359.99ドル(約49万円)といった価格で売られていますが、販売開始直後に売り切れてしまうそうです。

その一方でebayなどの中古品売買プラットフォームには在庫が潤沢に存在し、割高な価格で販売されています。以下の製品の場合は3349.95ユーロ(約57万5000円)で売られています。

◆DLSSで処理性能をごまかしている NVIDIAはGeForce RTX 50シリーズの性能が前世代と比べて飛躍的に向上しているとアピールしており、ジェンスン・ファンCEOは「GeForce RTX 5070はGeForce RTX 4090」と同等性能であると述べていました。

GeForce RTX 5070の公式ページではGeForce RTX 4070と比べてゲーミング製の大幅な向上がアピールされています。しかし、緑色で示された「GeForce RTX 5070の性能」の多くは前世代モデルが対応していないAI技術「DLSS 4」を用いた際の性能を示しており、公平な比較とは言えません。

DLSSはAIを用いてゲームのフレーム描画をサポートする技術で、「各フレームを最終レンダリング解像度より低い解像度でレンダリングし、その低解像度フレームを引き延ばす」という超解像機能や「各フレームの間のフレームをAIで推測して描画する」というフレーム補間機能が含まれています。DLSS 3のフレーム補間機能では「各フレームの間に1フレームを挿入する」というものでしたが、DLSS 4では「各フレームの間に最大3フレームを挿入する」というマルチフレーム生成に対応しました。つまり、理論的にはDLSS 4を有効化するとDLSS 3と比べて2倍のフレームを描画できるというわけです。 GeForce RTX 50シリーズはDLSS 4によって前世代モデルよりも秒間処理フレーム数(フレームレート)が向上しましたが、セビン氏は「DLSSを伴わない素の性能は大して向上していない」と指摘しています。

以下の動画は、GeForce RTX 4090でCyberpunk 2077を「4K解像度」「レイトレーシング有効」という設定でプレイするNVIDIA公式デモ動画です。DLSS 3.5無効状態ではフレームレートが20FPS前後ですが、DLSS 3.5を有効化すると95FPS前後でのプレイが可能です。

Cyberpunk 2077 | 4K DLSS 3.5 Comparison - YouTube

そして、GeForce RTX 5090でCyberpunk 2077を同条件でプレイしたデモ動画が以下。DLSS 4無効時はフレームレートが27FPS前後ですが、DLSS 4を有効化すると230FPSを超えるフレームレートでプレイできます。

DLSS 4 vs DLSS Off Comparison | Cyberpunk 2077 - YouTube

上記の2本の動画を見ても分かる通り、NVIDIAは「DLSSを有効化することで、高画質ゲームを高フレームレートでプレイできる」ということを強調するプロモーション戦略を展開しています。しかし、DLSS無効時のフレームレートを比較すると、GeForce RTX 5090は前世代モデルと比べて7FPS前後しか向上していません。それでいて、GeForce RTX 5090の価格は前世代モデルと比べて高くなっています。 「DLSSを有効化した際にフレームレートが向上するなら、それでいいのでは?」と考える人もいるかもしれませんが、DLSSを最大限活用するにはゲーム側の対応が必要なほか、「画質が劣化する」という問題も抱えています。

上述の通り、DLSSの超解像機能には「低解像度フレームを引き延ばす」という処理工程が含まれるのですが、この引き延ばし処理が影響して「キャラクターや武器などの描画がぼやける」という問題が発生することがあります。

また、フレーム補間機能も「前後のフレームを元に間のフレームを予測する」という処理の都合上、破綻したフレームが生成されてしまうことがあります。破綻した補間フレームがどんなものかは、以下の動画を19分36秒頃から再生するとよく分かります。

Fake Frame Image Quality: DLSS 4, MFG 4X, & NVIDIA Transformer Model Comparison - YouTube

キャラクターの足元に着目すると、靴の周辺の描画がおかしくなっていることが分かります。

◆安全でない設計を改善しない 2021年にGeForce RTX 4090が登場した際には、複数のユーザーが「コネクタが溶ける」という問題に遭遇しました。

GeForce RTX 4090のコネクタ融解問題についてNVIDIAが「差し込みが完全か確認を」と注意喚起 - GIGAZINE

ケーブル融解問題はケーブルの差し込みが不完全だったことが原因と考えられていますが、そもそもGeForce RTX 30シリーズまでの設計では「ケーブルの差し込み不全などで電力が正しく供給されない場合、グラフィックボードの電源が入らない」という安全措置が設けられていました。GeForce RTX 40シリーズでは設計変更によって電力が正しく供給されていない状態でもグラフィックボードが稼働するようになり、結果として融解問題を引き起こすこととなりました。NVIDIAはGeForce RTX 50シリーズでも問題のある設計を採用し続けており、依然としてケーブル融解のリスクがあります。 ちなみに、AMDのシニアマーケティングディレクターは自社の設計がNVIDIAよりも安全であることをX(旧Twitter)でアピールしています。

◆レビュワーに対する要求が激しい NVIDIAの新モデルリリース前後には、レビュワーによる詳細レビュー記事やレビュー動画が公開されることが通例となっています。しかし、NVIDIAはレビューに対してレビュー時にNVIDIAの最新技術をアピールするように求めていることが報じられています。

例えば、2020年にハードウェア系YouTubeチャンネルのHardware UnboxedGeForce RTX 30シリーズのレビュー動画を投稿した際にはNVIDIAから「ラスタライズ性能だけでなく、DLSSなどの機能にも言及しなければ、レビュー用製品の提供を打ち切る」という通知が届いたそうです。

同様の通知は200万人以上のチャンネル登録者を抱えるYouTubeチャネルのGamers Nexusにも届いています。こうしたNVIDIAの対応はレビュワーに対して「NVIDIAの要求に沿ったコンテンツを制作しなければならない」という圧を与えることになり、PCゲーマーが公平な情報を入手できない事態につながる可能性もあります。

NVIDIA's Dirty Manipulation of Reviews - YouTube

◆AIチップに注力しすぎ セビン氏は、NVIDIAが上記のような横暴とも言える慣行を続けている原因について「PCゲーミング市場がNVIDIAにとって重要ではなくっているからだ」と考察しています。以下の図は、NVIDIAの売上高に占める「データセンターやAI向けプロセッサ」「PC向けGPU」「3D解析向けGPU」「自動車向けGPU」「マイニング向けGPU」の売上高の割合を示したものです。NVIDIAはデータセンターやAI向けのプロセッサで多額の売上を獲得しており、PC向けのGPUの重要度が減少していることが伺えます。

なお、ゲーミングプラットフォーム「Steam」のGPUメーカーシェア調査の結果をみると、NVIDIAがAMDやIntelを抑えて圧倒的なシェアを保持していることが分かります。

Steamユーザーが使っているGPUのモデルごとのシェアはこんな感じ。上位にはNVIDIA製GPUがズラリと並んでいます。

これらの事実をもとに、セビン氏は「NVIDIAはGPU戦争の明確な勝者です。敗者は、私たち全員です」と述べています。

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