米国での新車購入、一部の高所得者でさえ高嶺の花に-価格が大幅上昇
マーク・レビーンさんは、3年ごとに独メルセデス・ベンツグループのスポーツタイプ多目的車(SUV)の新車をリースするのがお決まりだった。新車を運転できる上、メンテナンスや保証期間切れの心配もない点が気に入っていた。しかし昨年、2018年型「GLE 350」を借り換えようとディーラーを訪ねた際、レビーンさんは驚きの事実に直面することとなった。同じGLE 350のより新しいバージョンをリースしようとしたのだが、ディーラーから伝えられた毎月の支払額は約1200ドル(約18万円)。それまで(640ドル)のほぼ2倍だった。
「冗談でしょう?」と、米フロリダ州南部に家族と住む心臓医のレビーンさんはディーラーに尋ねた。ステランティスの「ジープ・グランドチェロキー」やトヨタ自動車の「ハイランダー」といった大衆車ブランドも検討したが、そうした車でも毎月の支払額は以前乗っていたメルセデス車に迫るほどに膨らんでいた。レビーンさんは仕方なくこう訪ねた。「中古車で何かありますか?」。
こうして、増加を続ける中古車購入者にレビーンさんが新たに仲間入りすることとなった。レビーンさんは毎月748ドルの支払いで3年落ちのメルセデスのセダン「Eクラス」を購入。新車が「ばかげた」価格になっていることから、中古車の購入が「ニューノーマル(新常態)」になっているとレビーンさんは説明した。だが満足はしていない。
「中古車を買ったことなど一度もなかった。中古車購入というのは誰か他の人にとっての悪夢であり、そんなことは自分は望んでいなかったからだ」とレビーンさん(61)。その上で、「だが私にどんな選択肢があったというのか」と続けた。
米国では、レビーンさんのように十分な収入を得ている人でさえ新車市場から締め出されつつある。価格を大きく押し上げた新型コロナウイルス禍の供給不足の問題は過去のものとなったが、新車を巡るコストの上昇は止まらない。調査会社コックス・オートモーティブによると、今年の新車の平均価格は4万8205ドルで、5年前と比較し21%上昇している。消費者の間では、自動車の値ごろ感に対する不満の強まりも日々の生活における経済の関心事となっており、5日に大統領選の投票に向かう有権者の頭の中にもそうした意識がよぎることは避けられない。
価格の高さを受け、購入をためらう人も増えている。自動車市場調査会社エドマンズ・ドット・コムの最近の調査では、米国の自動車購入者の半分近くが、新車購入の費用として3万5000ドル以下を考えていることが分かった。これはある意味で当然といえる。消費者が下取りに出す車は平均で6年落ちであり、そうした人が最後に新車を買った時の平均価格は3万ドル台半ばだったためだ。それがショールームに戻って5万ドル近い支払いになると分かれば、購入希望者は何もせずそのまま立ち去ってしまうことになる。エドマンズの調査では、消費者の73%が費用を理由に新車購入を控えていることが示された。
エドマンズのインサイト担当責任者、ジェシカ・コールドウェル氏は、消費者は「同じ車を買うのになぜ毎月300ドルも高くなるのか」と価格の高さにただただ驚いていると指摘した。
コックスによると、新車ローンの毎月の支払額は現在平均767ドルで、4年前と比較し17%上昇。エドマンズによれば、今年の新車購入者の6人に1人は、毎月の支払いが1000ドルを超える見通しだ。技術の進歩や自動車メーカーによる利幅拡大の追求、自動車ローン金利の大幅上昇により購入者のコストは大きく膨らんでいる。
大統領選の争点の一つとなっているインフレ議論では、住宅と食品のコスト増に最も注目が集まっている。だが自動車の値ごろ感の危機は「家の車庫に新車を止める」という米国民の生活における基本的な願望を台無しにしている。今では富裕層だけが享受できる領域になりつつある。
ブルームバーグがコンサルタント会社アリックスパートナーズに委託して実施した調査によれば、昨年は年間平均収入が26万5000ドルという米国の上位2割の世帯が、新車への支出全体の55%を占めた。この比率は2020年には40%だった。最も低い所得層(23年では年収1万6000ドル未満)は過去2年間にわたり新車市場から完全に締め出されている。23年においては、年間所得が1万6000-4万1000ドルの消費者が新車販売全体に占める比率はわずか6%だった。
Share of new-vehicle expenditures in the US, by pretax income quintile
Source: AlixPartners
アリックスパートナーズのマーク・ウェークフィールド氏は「新車市場はより裕福な購買層へと移行している」と指摘。「消費者は中古車の購入を余儀なくされているほか、同じ車をより長い期間保有せざるをを得なくなっている」と述べた。
価格だけでなく、ローン金利の高さも状況の悪化に拍車をかけている。9月の自動車ローン金利は新車購入で平均7.1%、中古車では同11.2%。5年前はそれぞれ5.7%、8.4%だった。米連邦公開市場委員会(FOMC)は9月に0.5ポイントの利下げを決定したが、この利下げが自動車ローンに反映されるのには時間がかかり、反映されても毎月の支払額は10-20ドル程度しか減らないだろうと、専門家は指摘する。そうした状況を受け、購入者は毎月の支払いを妥当な範囲内に抑えるための工夫を強いられている。エドマンズによると現在、自動車ローンの約5件に1件は期間が7年。数年前は、ローン期間は5年が一般的だった。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:Even Some High-Income Americans Can’t Afford New Cars Anymore(抜粋)