トランプ関税、振り回される市場と企業-方針転換と報復合戦が拍車
米国のトランプ大統領は、自らの関税計画を戦略的勝利と位置づけている。一方で、市場や企業幹部らに見えるのは、この先のさらなる混乱だけだ。
長期間にわたる貿易戦争が世界経済を損なうとの懸念が、投資家の間で再燃し、株式市場は10日、急落した。トランプ氏が上乗せ関税を一時停止すると発表した9日、ウォール街で半日だけ起きた高揚は、全て吹き飛んだ。
ホワイトハウスが11日、中国からの輸入品に対して賦課している関税は合計で少なくとも145%に上昇すると明確にしたことで、トランプ大統領の貿易戦争の規模が改めて浮き彫りとなった。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)によると、他の貿易相手国に対する一時的な救済措置があったとしても、対中関税の税率により、米国の平均関税率は歴史的水準まで上昇している。
市場の混乱が続く中、11日はドルと共に米国債も下落した。経済不安はウォール街だけにとどまらなかった。ミシガン大学が発表した4月の消費者マインド指数(速報値)によると、米国の消費者信頼感は約3年ぶりの低水準に落ち込み、インフレ期待は数十年ぶりの高水準に急上昇した。
トランプ氏は10日、「移行上の問題」を認めたものの、自身の手法に自信を示し、「最終的には素晴らしいものになるだろう」と記者団に述べた。株価の急落について尋ねられた際には、詳細を見ていないと述べ、ベッセント財務長官に記者からの質問に答えるよう指示した。
ベッセント氏は、 「2日下落、1日上昇なら悪くない割合だ。90日後には、関税についてかなり明確になるだろう」と述べ、株価の急落については重視しない態度を示した。
トランプ氏の顧問らは、関税を巡る転換を、本人が示唆したような市場のパニックによる後退ではなく、意図的な交渉戦略と主張としている。
トランプ氏は、貿易相手国との関税に関する最初の合意は「間近」だと述べ、ラトニック商務長官はトランプ氏の行動があったからこそ、各国が「これまで決して出さなかった提案をしている」と強調した。
不透明
米中の対立は沈静化する兆しもなく、6900億ドル相当の通商関係を壊滅させる瀬戸際に来ている。ブルームバーグニュースは、米ネット通販大手のアマゾン・ドット・コムが、中国や他のアジア地域からの注文をキャンセルし始めたと報じた。
トランプ氏は以前、関税は米国の生産や雇用の押し上げにつながると主張し、米国は長期的な利益のために、短期的な痛みを耐えなければならないと主張していた。同氏による方針の急転換は、その決意に疑問を投げかけるものだ。
関税の一時停止により、投資家たちは少なくとも数時間は浮き足立ったが、多くの経営者はこの動きを一時的なものと指摘した。トランプ氏は再び方針を変えかねないためだ。
中国の習近平国家主席も譲らない姿勢を見せており、米中間の何らかの合意の見通しは不透明なままだ。中国は10日、ハリウッド映画なども含め、報復の範囲を拡大した。さらに11日、中国財政省は米国からの全輸入品に対する関税を、12日に84%から125%に引き上げると発表した。
トランプ氏が他の国々と合意に達するかどうかも不透明だ。同氏は10日、「私たちに好ましい合意をしなければならない」と述べたが、合意を受け入れる具体的な条件については詳細を明かしていない。
米アパレル・フットウエア協会(AAFA)のスティーブ・ラマー会長は、トランプ氏の「場当たり的な関税政策」に懸念を表明。一時停止を歓迎はするものの、「米国の雇用を支える投資を促したいのであれば、包括的で予測可能、持続的な政策が必要であり、その第一歩に過ぎない」と述べた。
トランプ氏は、特定の企業に対する免除措置の可能性に言及しているほか、基本の10%の関税についても交渉を検討すると発言。一方で交渉が不調に終わった場合は7月初旬までに高い関税に戻す意向を示すなど、さらなる不確実性をもたらしている。
続く重荷
トランプ氏は、状況を評価し、「何よりも直感的に」決定を下すつもりだと述べた。
60カ国近い貿易相手国に対する関税引き上げが停止されたものの、トランプ氏は、その他の国々に対しては上乗せ関税を進める意向を示している。また、医薬品、木材、半導体、銅、さらにおそらく重要鉱物に対しても、関税引き上げを計画している。
全米小売業協会(NRF)の政府関係担当副社長のデビッド・フレンチ氏は、90日間の停止を評価する一方、一律10%の関税が経済に打撃を与えると話す。
フレンチ氏は、「世界的な関税は依然として有効で、輸入品に対する大幅な増税だ」と述べた。また、「中国との対立激化も懸念事項で、特に調達先を変更できない企業にとっては深刻だ。より良い貿易の必要性には同意するが、そのためには関税以外の手段を用いる必要がある」と訴えた。
他の業界団体は沈黙を守っている。米国商工会議所、全米製造業者協会は、9日のトランプ氏の発表以来、新たな公式声明を出していない。両団体は以前、トランプ関税の影響について警告していた。
一方、政権は引き続き団結した姿勢を見せている。ロリンズ農務長官は、政権は中国の報復措置の影響を「刻一刻と」監視していると述べた。同氏は「今後、市場がさらに動き、調整されるだろう」と予測したが、必要であれば、トランプ氏の重要な支持基盤である農家への支援を行う用意があると強調した。
原題:Trump’s Tariff Shift Still Has Markets, Industries Panicked (1) (抜粋)