モバイルバッテリー火災、猛暑のこの夏「要注意」…山手線でバッグから炎・500㎡焼いたケースも

 リチウムイオン電池内蔵のモバイルバッテリーなどが発火する火災が、後を絶たない。電池を利用した小型家電は充電して繰り返し使える利便性から普及が進んでいるが、熱や衝撃に弱い欠点もある。危険な暑さが続くこの夏は特に注意が必要だ。(小川朝熙)

突然の発火

 「スマートフォンを充電していたらモバイルバッテリーが熱くなった。電源コードを外しても熱が冷めず、30秒後に火が出た」

再現実験で発火するモバイルバッテリー(NITE提供)

 参院選の投開票日だった20日夕、東京都新宿区を走るJR山手線の車内で発生した火災。火元となったバッテリーの持ち主の女性は警視庁の調べに、こう経緯を説明した。近くにいた男性によると、女性のバッグから白い煙が漏れ出た直後、炎が上がり、驚いた女性がバッグを床に放り投げると、周囲の乗客らが悲鳴を上げて避難したという。

 警視庁によると、女性は指にやけどを負い、男女4人も足をひねるなどの軽傷を負った。山手線は最大2時間の遅れが生じ、約10万人に影響が出た。バッテリーは中国製で、発火や発煙の恐れがあるとしてリコールの対象になっていた。

 東京都国立市の自動車販売店では3日夜、床面など約500平方メートルを焼く火災が起きた。運営会社や消防によると、スタッフのいない閉店後の店内で、自動車整備士らが着用する「ファン付き作業着」を充電していたといい、電池から発火した可能性が浮上している。

夏は高リスク

 製品事故を分析する「製品評価技術基盤機構(NITE)」によると、リチウムイオン電池には、可燃性の電解液が含まれており、内部が高温になると気化して膨張したり発火したりする恐れがある。

 直射日光が当たる場所や蒸し暑い車内などでは、リスクがさらに高まる。実際に、2020~24年に起きたリチウムイオン電池の発火事故計1860件のうち、34%にあたる641件は6~8月の夏場に起きていた。

 東京消防庁によると、24年中に発生した電池関連の火災の製品別では、モバイルバッテリーが最多の77件で、携帯電話が29件、電動アシスト付き自転車が15件と続いた。ファン付き作業着(4件)や携帯型扇風機(3件)の出火もあった。

 気象庁によると、今年6月の月平均気温は平年より2・34度高く、統計を取り始めた1898年以降で最高を記録。7~9月も猛暑が予想されている。携帯型扇風機など、電池が使われた「暑さ対策グッズ」の使用には注意が必要だ。

航空機でも

 航空機内での発火も問題となっている。韓国・ 釜山(プサン) の空港で今年1月に起きた旅客機火災は、座席上の荷物棚にあったモバイルバッテリーが原因とみられている。同様の事故が相次ぐ中国では、政府の認証を受けていないモバイルバッテリーを国内線に持ち込むことが6月から禁じられた。日本でも航空各社と国土交通省が今月から、荷物棚には入れず、充電する場合は手元などに置くよう協力を求めている。

「温度と衝撃」回避を

火災や事故を防ぐポイント

 火災や事故を防ぐにはどうすればいいのか。リチウムイオン電池に詳しい早稲田大の所千晴教授(資源循環工学)が最も「注意が必要」と強調するのが、温度と衝撃だ。高温の車内などに放置すると電池が膨張して発火する恐れがある。落下させると、衝撃で電子回路がショートして異常発熱することがあり、一定時間が経過した後に火を噴いたケースもあるという。

 電池の劣化につながるため、充電し過ぎも禁物だ。安全性の基準を満たしていることを示す「PSEマーク」付きの製品の使用が推奨されるという。所教授は「精密機器との認識を持ち、丁寧に扱うことが重要。発熱や膨張などの異変を感じたら、すぐ使用をやめてほしい」と話した。

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