“夢の国”に仕込まれた驚くべき科学の知見 東京ディズニシー「プロメテウス火山」の秘密

プロメテウス火山から流れたパホイホイ溶岩=2月13日午後、千葉県浦安市(松井英幸撮影)

東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)のテーマパーク「東京ディズニーシー」の中央にそびえ立つ「プロメテウス火山」。赤茶色の岩肌や、轟音を立てて噴火する様子は、本物の火山を見ているかのようだ。この人工の火山、実は地球科学の観点でも驚くほど忠実で、火山研究者や地学教員らから高く評価されている。「夢の国」に巧妙に仕込まれた科学の知見を知れば、園内を巡る楽しみがもっと増えるに違いない。

「本物と錯覚するほどリアル」

東京ディズニシーに入園し、ミラコスタ通りを抜けると、メディテレーニアンハーバーの壮大な景観の先に、プロメテウス火山の雄姿が目に飛び込んでくる。園内のほとんどのエリアから見ることができる、東京ディズニーシーのシンボル的存在だ。時折噴き出す炎や噴煙が冒険心をかき立てる。

噴火するプロメテウス火山がメディテレーニアンハーバーを赤く照らす

多くの来園者にとっては、大自然の雰囲気を何となく楽しめる演出にすぎないが、岩肌をよく観察すると、細部まで精巧に作りこまれていることが分かる。質感は本物の山のようで、風化した草木なども再現されている。

火山ガスの影響で枯れてしまった草

この構築物を地質学の観点から“研究”したのが、火山学の権威、静岡大学の小山真人名誉教授だ。「火山学者が本物と錯覚するほどのリアルな造形であり、2001年のディズニシー開園時から研究者の界隈で話題になっていた」と話す。

2つの火山の複合体

小山教授の分析によると、プロメテウス火山は地質学的に2つの火山の複合体だという。一つはドーナツ状の地形を特徴とし、火山湖を有する火山であり、もう一つは典型的な円錐状の火山だ。

ミステリアスアイランドから望むプロメテウス火山。火山湖と山頂が一望できる

プロメテウス火山の周囲を巡ると、火山湖に見られる「間欠泉」や、火山から流れ出た溶岩がゆっくり冷え固まる際にできる規則正しい割れ目「柱状節理」、粘り気が弱い溶岩流が冷え固まった滑らかな「パホイホイ溶岩」などを観察できる。

火山湖から噴き出す間欠泉ミステリアスアイランド入口付近には見事な柱状節理が見える

火山のふもとの通路には、噴火に伴う火山弾の直撃を避けるための防護ネットが張られ、金網に柔らかい溶岩片が絡みついている様子まで再現されている。

金網に引っかかったスパター(溶岩片)

パホイホイ溶岩を絶賛、噴火史を考察

小山教授は、特にパホイホイ溶岩の造形や質感を絶賛する。玄武岩質の溶岩流が急速に冷えてガラス質になった時の光沢が出ているうえ、火山ガスが抜けた気泡まで再現されているという。こうした現象は、通常は活火山など厳しい自然環境でなければ見ることができないため、「安全に観察できるのは東京ディズニーシーだけだ」と話す。

パホイホイ溶岩の質感を絶賛する静岡大学の小山真人名誉教授

プロメテウス火山を詳しく観察した小山教授は、その噴火の歴史も考察した。最初は海底で噴火が始まり、陸上とは異なる海底火山が形成されたが、海面が下がって陸上に溶岩が流れ出した。こんどは海面が上昇したため、水とマグマが触れ合って大爆発が起こり、火山湖が生まれた。その後、火口の位置が移動し、パホイホイ溶岩が静かに流れるようになったという。

プロメテウス火山の噴火史(小山真人・静岡大学名誉教授提供)

火山学者が噴火史の仮説を立てられるほど、プロメテウス火山には地質学的な知見がふんだんに盛り込まれている。

真相はベールに包まれたまま

これほど精巧なプロメテウス火山は、いったい誰が、どのように設計や監修をしたのか? 東京ディズニーシーを運営するオリエンタルランドに問い合わせた、当時の資料がないので分からないという。また、東京ディズニーシーの計画や設計に深くかかわった米ウォルト・ディズニー社にも質問したが、回答を得られなかった。

地質学や火山学の専門家が監修したことは間違いなさそうだが、真相はベールに包まれたままだ。

火山の作用によってできた地層を観察できる

東京ディズニーシーには魅力的なアトラクションやショー、パレードが多いが、火山の知識を少し学んで訪れると、プロメテウス火山の形成や成長といった壮大なストーリーに気づくことができる。取材を終えて、高さ51メートルの人工火山の麓に立つと、その圧倒的な存在感に魅了された。空想と現実世界のはざまで、冒険と科学が混ざりあうこの感覚こそ、ディズニーが演出する夢と魔法なのかもしれない。(文・写真 松井英幸)

ミステリアスアイランドから一望できる火山湖

関連記事: