米政府閉鎖でトランプがノリノリで召喚した「死神」の正体(ニューズウィーク日本版)

トランプ米大統領は行政管理予算局(OMB)のラッセル・ボート局長を死に神に見立てた生成AI動画を投稿。それと一緒に1976年のヒット曲「死神」のパロディーを流した。ボートは連邦政府支出に強硬に反対してきた人物であり、職業人生の大半を国家予算の縮小にささげてきた。【サム・ポトリッキオ(米ジョージタウン大学教授)】 【動画】トランプ関税の今後は「半導体」と「政権の穴」で読める...予測のポイントを解説 今回の政府機関閉鎖で、ボートの出番がついに訪れた。AI動画のボートは大鎌を振りかざし、職員の大量解雇を断行する。トランプの狙いは大統領権限のさらなる強化。ボートの目標は100年に1度レベルの政府の革命的再構築だ。 政府閉鎖の経済への影響を考える上で、最も重要なのはどれほど長く続くかだ。7年前の第1次トランプ政権における閉鎖期間は1カ月強だった。それ以来、連邦政府職員は閉鎖終了後に未払い分の給与を保証されるようになったが、75万人の職員が給与を受け取れない事態は、商業分野に甚大な影響を及ぼす可能性がある。 私は今週、議会関係の仕事で外国の国会議員向けに講演する予定だが、会計処理は閉鎖終了まで行われない。もし数百万人が同じ状況になるとしたら、全米規模で消費が停滞しかねない。 アメリカの雇用統計は閉鎖前から弱含みだった。9月の新規雇用件数は4万5000人増の予想だったが、実際は3万2000人減。減速傾向の経済に長期の政府閉鎖が加われば、致命的な打撃となりかねない。 大統領経済諮問委員会によれば、2013年の政府閉鎖では12万人の雇用が失われた。第1次トランプ政権の時は実質経済成長率を年換算で0.4%ポイント押し下げた。 ただし、トランプの投稿や言動は現実を誇張している可能性もある。先日も「われわれは政府閉鎖の間に(民主党にとって)取り返しのつかないことをやれる」と語り、その後ボートが作成を主導した保守派の政策提言「プロジェクト2025」と、政府閉鎖によるより壮大な計画の実現を支持すると投稿した。 だが大統領選中のトランプは、可能な限りこの計画から距離を置こうとしていた。有権者に不人気であることを知っていたからだ。ある世論調査によると、プロジェクト2025を積極的に支持する有権者はわずか4%。共和党のMAGA(アメリカを再び偉大に)派の支持も9%しかなかった。 多くの研究によれば、MAGA派は必要なサービスを提供する政府機関(トランプの言う「民主党機関」)の解体でより大きな影響を受ける可能性がある。地域レベルで見ると、共和党が強い州は連邦政府から民主党が強い州より多くの資金を得ている。 政府閉鎖が長引けば長引くほど、一般有権者の家計に大きな影響が出そうだ。医療保険制度改革法(オバマケア)の保険料補助は終了する予定であり、民主党は自分たちの延長要求を共和党側が拒否し続ければ来年の保険料急騰を招き、国民医療に壊滅的被害をもたらすと主張している。実際に有権者が経済的打撃を受けた場合、共和党への反発と非難はさらに大きくなりそうだ。 結局のところ、最も重要なのは26年11月の中間選挙だ。勝利が危ういと判断すれば、共和・民主のどちらか一方が妥協して政府閉鎖の終了に同意するだろう。 そして中間選挙が終われば、トランプはレームダック(死に体)化する可能性が高い。大統領支持率と中間選挙の結果の間にはほぼ完璧な相関関係がある。今回の政府閉鎖で民主党の責任を問う声が多数派になったとしても、トランプの支持率が向上する公算は小さいだろう(現時点では、共和党への非難は民主党批判より11%ポイント多い)。 果たしてトランプの「死神」はこの流れを変えられるだろうか。

サム・ポトリッキオ(米ジョージタウン大学教授)

ニューズウィーク日本版
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