ChatGPT、巨額赤字受けサービス開始3年で広告解禁 「Facebookと同じ過ち」危惧の声

 人工知能(AI)開発の米Open(オープン)AIが2026年2月9日、対話型AIの「Chat(チャット)GPT」上での広告配信テストを米国で開始した。22年11月末の開始から3年あまり「広告なし」の方針を貫いてきたが、AIデータセンターの投資などで赤字が膨らむ中、新たな収益源を模索せざるを得なかった。ユーザーと広告主企業からの支持は得られるのか。 【関連画像】アンソロピックがスーパーボウルで流したCM。画像はYouTubeのもの  チャットGPTが広告配信を始める前日の8日。米シリコンバレー近くのリーバイス・スタジアムでプロアメリカンフットボールリーグNFLの王者決定戦「スーパーボウル」が開催された。米調査会社ニールセンによると、約1億2500万人がスーパーボウルの中継を視聴したという。そこで流れたあるCMが、テック業界で話題になった。  鉄棒で懸垂をする痩せた男性が、隣に立つ筋骨隆々のトレーナーに「手っ取り早くシックスパック(割れた腹筋)を手に入れたい」と嘆く。トレーナーはほほ笑みながら、「あなたにぴったりのトレーニングプランをつくりましょう」と対話を続けるが、突然「自信はジムの中だけで磨くものではありませんよ」と話題を変える。続いて身長を高く見せる靴の中敷きの宣伝を始めるのだ。  その上で「AIに広告がやってくる。でも我々は違う」という旨のメッセージを表示する。このCMは、オープンAIのライバルである米Anthropic(アンソロピック)のもの。26年1月に広告配信の概要を発表していたオープンAIへの皮肉であることは明らかである。  こまめにX(旧ツイッター)で情報発信をすることで知られるオープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は、即座に反応した。「こんな広告の出し方はしない。我々はばかではないし、ユーザーがこんな広告を拒否することは分かっている」と投稿し、アンソロピックのCMを不誠実だと非難した。

 そもそもアルトマン氏はチャットGPTに広告を出すことに乗り気ではなかった。24年の講演では「個人的に広告が嫌い」であり、AIに広告を導入するとしても「最後の手段だ」と述べていた。  その考えを曲げざるを得なかった背景には、オープンAIの巨額赤字がある。英金融会社HSBCの調査に基づく英フィナンシャル・タイムズなどの報道によると、オープンAIは研究開発用のデータセンター費用や米Microsoft(マイクロソフト)への分配金がかさみ、30年まで赤字となり、事業の継続に2000億ドル(約30兆5000億円)を超える資金調達が必要になる。  もっともオープンAIは異なる理由を掲げている。「汎用人工知能(AGI)で全人類に利益をもたらす」という同社のミッションを遂行するために、無料あるいは低価格でアクセスできるようにすることが目的だという。そのため、広告配信の対象は無料プランと月額8ドルの「Go」プランのユーザーに限定している。 ●フェイスブック型ではなくグーグル型に  オープンAIの内部では、チャットGPTなどのサービスを統括するアプリケーション部門CEOであるフィジー・シモ氏が、広告配信の仕組み構築に取り組んでいる。米Facebook(フェイスブック、現Meta=メタ)でもアプリ部門のトップ、米食品宅配大手「インスタカート」運営会社ではCEOを務めてきた人物である。  広告配信を開始した翌日10日、テック系ポッドキャストに出演したシモ氏は、高度な大規模言語モデル(LLM)や画像生成の機能など「最高の知能をすべての人に提供し続けるためには、広告モデルが不可欠だ」と説明した。  その一方で、ユーザーの属性や趣向に関連した広告を出すフェイスブック型の広告ではなく、チャットGPTでは質問や対話の流れに沿った広告を表示するGoogle(グーグル)型の広告に特化すると説明した。さらにユーザーが広告の商品について質問した際に、マイナス点を指摘するなど、AIが中立の立場を取るようにするという。  ユーザーが納得できるような広告配信の仕組みを、オープンAIは構築できるのか。デジタル広告に詳しい米ボストン・カレッジのコミュニケーション学科のマイケル・セラジオ教授は、懐疑的に見ている。その背景には「デジタルに限らず、最も成功する広告とは、広告のように見えない」ことがあると指摘する。  例えば、Z世代など若者を対象とするショート動画のインフルエンサーを起用した化粧品のプロモーションでは、「朝のお化粧ルーティン」といったテーマの中でうまく広告主の商品を紛れ込ませる、あるいは化粧とまったく関係ないテーマの動画の中で部屋の棚に商品をちらりと映すといった手法が使われる。  オープンAIは、AIの対話が広告に影響されることはないとしているが、広告ビジネスの本来の目的が売り上げなど成果の拡大にある以上、「AIの中立性」と「収益最大化」の間でジレンマが生じることは間違いない。最終的には、AIとの対話の中で、特定のブランドや製品への利益誘導が、「ほのかに含まれるような形になっていく可能性がある」とセラジオ教授は見立てる。 ●AI広告の優位性をいかに示すか  広告ビジネスを軌道に乗せるには、費用の面でも広告主を納得させる必要がある。当面はテスト運営と位置付けるチャットGPTの広告配信に参加するために、オープンAIは20万ドル(約3000万円)以上の広告費を投じることを広告主に求めているという報道がある。一定の条件を設けることで、ユーザー体験を損なう低品質な広告を排除する狙いがあると見られる。  この金額は、アメフトなど人気スポーツ中継のCM枠に匹敵するという。そうした高額の広告費を求め続けるうえでは、「グーグルやメタの広告よりも、優れた広告枠であることを広告主に納得させる必要がある」(セラジオ教授)。となればやはり、ユーザーの関心、消費傾向、私生活の悩みなど、SNSよりも深いレベルで蓄積したユーザー心理のデータを、ターゲティング(ユーザーの絞り込み)などでいかに活用するのか、という点が焦点になる。  既存の有料プランの他に、広告付きプランを加えることで成功したサービスの例としては、米Netflix(ネットフリックス)がある。22年11月の広告付きプランを追加してから3年あまりが経過した。広告配信を支えるクラウド環境の整備などで「25年は大きな進展があった」(広告部門プレジデントのエイミー・ラインハルト氏)。26年の広告収益は前年比の約2倍になるという見通しを示している。  米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)も、ECサイトの検索結果などで商品を表示する広告事業の売り上げを伸ばしている。25年第4四半期の決算発表によると、広告事業の売上高は約213億ドル(約3.3兆円)で、前年同期比が23%増。売り上げ全体の10%を占める同社事業の柱の1つになっている。  オープンAIのシモ氏は、チャットGPTの広告収入が同社収益の中で「一部にとどまる」として、あくまでも有料ユーザーからの利用料やBtoB(企業間取引)を軸に据えるとしている。 ●AI広告への反発で離職する研究員も  広告を収益の柱としているSNSや動画サービスは、広告の閲覧率を高めるためにユーザーをアプリへ釘付けにしようとする傾向がある。メタのマーク・ザッカーバーグCEOが2月中旬に米ロサンゼルスの裁判所で証言台に立った裁判では、インスタグラムのアルゴリズムが意図的に中毒性を高めるよう設計されているとして、ユーザーから訴えられた。  米紙ニューヨーク・タイムズは「オープンAIはフェイスブック(現メタ)と同じ過ちを犯そうとしている」として、広告配信をきっかけにオープンAIを退職した研究者による手記を掲載した。  デジタル広告はこれまで、SNSをはじめとする無料サービスの拡大を支えてきた。ネットと同等かそれ以上の変革といわれるAI技術でも、広告モデルは発展を後押しする推進力となるのか。それとも新たなゆがみを生み出すのか。オープンAIの選択は、AI時代の収益モデルのあり方を占う重要な起点となる。

松元 英樹

日経ビジネス
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