テスラ自動運転「26年中に日本解禁」の現実味──日産・NVIDIAも参戦、一番乗りはどこか
「iPhoneにタイヤをつけたようなクルマ」と表現される米Tesla。IT・ビジネス分野のライターである山崎潤一郎が、デジタルガジェットとして、そしてときには、ファミリーカーとしての視点で、このクルマを連載形式でリポートします。
2026年3月5日付の日本経済新聞において『テスラ、日本でAI自動運転「26年実装目指す」テスト車種拡大』という記事が配信されました。ここで言う「AI自動運転」というのは、SAE自動運転レベル2にカテゴライズされる「FSD Supervised(監視付)」のことです。つまり、運転主体は人であり、システムは「支援」にとどまるため、事故の責任はドライバーにあります。FSD Supervisedは、高速道路だけでなく、市街地走行でもハンズオフを実現する仕組みです。
件の記事の中で、Tesla Japanの橋本理智社長は「2026年中に実装を目指す」と述べています。筆者の乗る21年製Model 3は、HW3という1世代前のチップを搭載した車両のため、現状のFSD Supervisedの対象外の可能性が大きいのですが、それでもTeslaユーザーとして、わくわくすることには変わりありません。
昨年、Tesla Inc.の幹部が、25年第3四半期(Q3)決算説明会において「HW3用のV14 Liteバージョンの開発に取り組んでおり、これは来年の第2四半期にリリースされる予定(大意)」と発言していることから、Model 3に限っていうと、HW3は19年4月中旬の生産分から搭載されているだけに、筆者も含め世界中に多くのユーザーが存在します。この発言は、そのようなユーザーに安心感を与えるメッセージとなりました。
本稿では、橋本社長が述べた通り、26年中にFSD Supervisedが解禁されるのかどうかを現在の各種情報からひもといてみます。
レベル2であるFSD Supervisedは、自動運転というより、正確には、ADAS(先進運転支援システム)にカテゴライズされるシステムです。考え方によっては、現状のModel 3やYは、国の安全基準や技術基準に適合した上で、型式認証を得ているので、ソフトウェアアップデートでADASの機能を追加する程度であれば、それほど難しい話ではないように感じるかもしれません。
しかし、道路運送車両法において、通信を用いた車載ソフトウェアのアップデートに関する特定改造等許可制度が、20年11月23日より導入されています。OTAアップデートもこの範囲に入ります。この制度、本来的にはレベル3以上の自動運転システムをターゲットにして制定されたものです。
しかし、レベル2のADASについても、ソフトウェアの改変をしようとする場合には、特定改造等として事前の許可が必要となる場合もあります。FSD Supervisedもこの制度下において、事前の許可が必要となるものと思われます。
例えば、ナビゲーションの地図やインフォテイメント機能のアップデートであれば、事前の許可は不要です。しかし、保安基準により規制されているエンジン、ハンドル、ブレーキなどの各装置の性能変更が伴うものについては、許可を必要とします。FSD Supervisedは、まさに、ハンドルやブレーキといった保安基準に該当する装置の性能に変更を加えることから、規制当局の許可が必要となるわけです。
ここで問題になるのが、規制当局がどのような判断基準においてFSD Supervisedの性能を審査し許諾を与えるのか、という部分です。以後は、筆者の推論も含まれているという前提でお読みください。
日本の車載ソフトウェアのアップデート制度は、国連欧州経済委員会(UNECE)が策定した、OTAソフトウェアアップデートの国際法規への対応も含まれています。これは、国際法規であるため、例えば欧州において、FSD Supervisedが認められれば、相互認証の観点から、日本でも自動的に認められるのではないかと考えてしまいますが、そうではありません。
相互認証される対象は、ソフトウェアを安全に管理するプロセスを認証することであり、FSD SupervisedというTeslaのADAS機能の一般公道使用を許可するものとは、切り離して考えるべきものです。
26年4月上旬、オランダの規制当局は、FSD Supervisedを認可し、一部のTeslaユーザーは既に利用しているようです。Xには、ユーザーの歓びに満ちた走行動画の様子が数多く投稿されています。
ただ、オランダが認可したからと言って、他の欧州各国も順次認可するのかというと、そのような簡単な話ではないようです。一部の国では、慎重な姿勢を崩していないところもあるようです。
それは日本も同様です。別途、道路運送車両法の保安基準適合を満たしているのかが判断され、特定改造許可の取得が必須条件とされます。オランダや欧州の規制当局とは関係なく、FSD SupervisedのOTAによる配信や走行許可は、国土交通省が個別に判断するものなのです。
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市街地でのハンズオフを実現するADASという意味では、日産と英Wayve Technologyが共同で進める「次世代プロパイロット」という存在も忘れてはなりません。日産は、27年度の社会実装を目指しているとしています。詳しくは本連載の『日本にも「自動運転」がやってくる 先行する海外メーカー、国内勢は"いつか来た道"を回避できるのか』をご覧ください。
日産の次世代プロパイロットに搭載される予定の「Wayve AI Driver」もE2E方式で構築された自動運転システムです。ただ、FSD Supervisedとの大きな違いがあります。同じE2EでもWayve AI Driverは、「LINGO」というモデルを研究しているという点です。これは自然言語を使って運転シーンにコメントし、意思決定を説明するモデルです。
従って、経済産業省が言及している「E2Eはブラックボックスであることが社会実装の課題」と指摘している点への直接的な応答と考えることができます。ただ、Wayve AI Driverのコアアーキテクチャの詳細については、Wayve側が非公開にしているようなので、詳細は不明です。
日本でのレベル2による市街地ADASに関していうと、日産+Wayve以外にも強力なライバルが登場しそうです。米NVIDIAが発表した「Alpamayo」という自動運転システムです。こちらもカメラやセンサーで読み込んだ情報をニューラルネットワークで学習する際にE2E方式を採用しています。
ただし、Teslaの純粋なE2Eと異なる点は、VLAモデルという仕組みを実装しており、車両に対する最終出力(ハンドルやブレーキ操作等)する手前で、意思決定の言語的根拠を出力できる仕組みを可能にしている。これも経済産業省が懸念を示すブラックボックス対策の1つと考えることができます。
これは偶然ですが、筆者は3月末に、仮ナンバーを付けた日本未発売のEVであるメルセデス・ベンツ新型CLA250+に遭遇しました。
車両の側面には、「Mercedes-Benz AG」「NVIDIA Corporation」の文字が書かれ、取って付けたような形でセンサーやカメラが搭載されています。車両後方には、「Test Vehicle - Keep Distance」の文字もあります。
NVIDIAは、Alpamayoの社会実装に際し、「メルセデス・ベンツAG」とタッグを組んでいることは発表済みです。Alpamayoは、レベル2+のADASで運用を始めるそうなので、この車両は、おそらく日本国内で走行データを収集しているものと思われます。
先ほどから「LINGO」や「VLAモデル」において、「言語化」という要件が登場しますが、それがどのようなものであるかが分かりやすく説明されているサイトがあります。日本の自動運転システムスタートアップである「チューリング」が公開している「RACER: 自動運転VLAモデルの学習データセットの構築」ページにその説明があります。
ページの冒頭に誘導員が交通整理する工事現場にさしかかったテスト車両からの画像が提示されています。詳細は該当ページでご確認いただくとして、人間のドライバーでもその対応に迷いそうなシチュエーションですが、この状況下でシステムがどのような判断を下したのかが言語化されて下記の様に明記されています。
(日本語訳)自車は、現在の車線を制御している赤信号に従う必要があるため停止を決定した。前方の白い車両が完全に停止しており前進できないため、安全な停止距離を保って停止する必要がある。さらに、左側に駐車している大型トラックやコーンや標識が設置された工事区域により横方向への回避はできない。加えて、実線の車線区分線やバリアによって現在の車線を維持することが求められており、停止することが唯一の実行可能な行動となっている。
日本の規制当局としては、ロングテール(希にしか遭遇しない状況)なシチュエーションを事前に再現して上記のような形で車両の挙動を説明できるか否かという点も重視しているものと思われます。NVIDIAのAlpamayo(VLAモデル)には、そのようなシミュレーションを仮想で構築できる「AlpaSim」というシミュレーターも備えています。
ここまでFSD Supervisedを中心に、3つのシステムの特徴について説明しました。FSD Supervised vs 日産+Wayve vs NVIDIA Alpamayoの三つどもえの戦いが水面下で繰り広げられているのかもしれません。さて、ここ日本で最初に認可されるのは、どのシステムでしょうか。
まっ、いったん解禁されると、ユーザー視点では車両価格が最も安価なTeslaが有利でしょうけどね。さらに、既存のフリート車両にOTAで実装できるわけですから。他社は、新たに対応したクルマを購入しなければならないのでは?
Teslaユーザーとしては、FSD Supervisedの早期実現を切に望むと同時に、運転免許証を返納しなければならない年齢に達するまでには、レベル2+はもちろん、レベル3~4が社会実装されることを願っています。
著者プロフィール
音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla
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