コロナ禍以来の大幅下方修正、背景に回答率の低下傾向-米雇用統計
米労働省労働統計局(BLS)が1日発表した7月の雇用統計では、過去2カ月の非農業部門雇用者数の伸びが新型コロナウイルス禍以来の大幅下方修正となった。7月自体の伸びも予想を下回り、労働市場の激変ぶりが示された。
5、6両月合わせた下方修正は約26万人で、季節調整に絡む問題が一因だが、回答率の低下という一段と広範な傾向も背景にあると、エコノミストは指摘する。
トランプ大統領はこの修正を早速取り上げて「重大な誤り」だと非難し、BLSのエリカ・マッケンターファー局長を解任すると自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。
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今回の下方修正の多くは州・地方政府の公教育分野に見られた。これらの分野は6月の雇用を大きく押し上げたが、その大半が1カ月後に大幅に修正された。BLSはブルームバーグへの電子メールで、同分野が修正の約40%を占め、「初回発表後に届いた追加・修正サンプルを通常通り反映した結果だ」とコメントした。
これは労働市場データに限らず統計全体について、回答率の低下という一層懸念される根本的な傾向を示唆している。
BLSは雇用統計調査に当たり企業を対象に3カ月かけてデータを収集し、一段と完全な全体像を把握している。しかし、最初の調査に回答する企業の割合は減少しており、最近では初回の回収率が60%を下回ることが繰り返されている。これは通常70%以上あったコロナ禍前の水準からは大幅な低下だ。
インフレーション・インサイツのオメイア・シャリフ社長は「データの欠損が多く、後から入ってくる分が増えれば増えるほど、修正幅が大きくなる可能性も高くなる」と指摘。「回答率が50%では、到底十分とは言えない」と話した。
米雇用統計は二つの調査から構成される。一つは企業を対象とした調査で、雇用者数を算出し、もう一つは世帯を対象とした調査で失業率を算出する。世帯調査でも回答率の低下が顕在化している。BLSは雇用者数のデータに関し、「回収率と後の修正との間に明確な関係は見られなかった」との分析結果を示した。
回答率の低下は過去数年続いており、その背景には国民が煩雑な調査にうんざりしていることや、政府やその他の機関への信頼が低下していることがある。統計機関もまた、予算の制約や人員不足に見舞われており、こうした問題はトランプ政権下でさらに深刻化している。
EYパルテノンのチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は「政府機関への予算削減が経済データの収集や分析能力に影響を及ぼしている」と指摘。「BLSが実施している全ての調査で、今後は一層大きな変動が生じる可能性がある」と述べた。
BLSは先月、消費者物価指数(CPI)サンプルの約15%が平均で収集停止となっていると発表していた。これはBLSが6月に発表した3都市圏でのデータ収集停止に加わるもので、現在のリソースではデータ収集が維持できない場合にこうした措置を取るとしている。
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トランプ政権の影響?
スコシアバンクのエコノミスト、デレク・ホルト氏はリポートで、回答率の低下には別の要因もあるかもしれないとし、ワシントン発のさまざまな政策変更の影響を挙げた。
ホルト氏は「通商や移民、財政その他の政策の急速な変更の影響への対応に雇用主が追われ、そうした混乱の中で回答率が低下し、データの質がさらに損なわれている可能性がある」との見解を示した。
7月の雇用統計発表に先立ち、ウォラー連邦準備制度理事会(FRB)理事は1日、先月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、0.25ポイント利下げを支持して金利据え置きに反対票を投じた理由として、「今後見込まれるデータ修正」を理由の一つに挙げていた。
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BLSが実施する雇用者数の継続的な修正に加え、毎年2月には一段と正確だが即時性に欠けるデータソースに基づいた大規模な年次改定も行われる。BLSはその改定値の予備推計を数カ月前に公表するが、昨年の予測値は2009年以来最大だった。
原題:Biggest Job Revisions Since 2020 Expose Pitfall of Economic Data(抜粋)