トランプ氏の貿易戦争、「不確実性」の恐怖招来-国際金融会議の焦点

今週、国際金融会議出席のため米首都ワシントンに集まった各国・地域の財務相・中央銀行総裁らは、世界経済秩序の刷新を目指すトランプ米大統領の取り組みが市場を揺るがし、経済成長を危うくする様子を目の当たりにすることとなった。

  トランプ政権の関税措置が自由貿易の原則を覆す事態について、各国・地域の高官は非公開の会合やパネル討論会で議論。そんな中で、145%と事実上の貿易制裁に相当するとベッセント米財務長官も認めたとされる中国への高関税率について、米国が引き下げる可能性があるとのシグナルが伝わると、市場に新たな衝撃が走った。

  国際通貨基金(IMF)と世界銀行の春季会合に集まる計200カ国・地域の財務相・中銀総裁らは通常、世界経済が直面する最重要課題への対応を話し合うが、今週の会合の場合、トランプ政権の政策がそうした課題の筆頭に挙げられている。

  トランプ政権は米関税措置の見直しを求める日本などと交渉を行い、ホワイトハウスは幾つかの新たな貿易協定の枠組みが近くまとまるとして安心を呼び掛けている。

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  これに対し各国・地域の代表団は引き続きトランプ政権が何を要求し、それにどう応えることができるか模索に努めている。

  世界経済が減速に向かい、トランプ氏の関税政策が引き起こした世界貿易の混乱の解消される見通しがない状況にあって、国際金融会議の出席者の一部は事態の一段の悪化がなかったとして安堵(あんど)しつつも、今後の展開を巡り決して安心できずにいる。

  IMFのゲオルギエワ専務理事は24日に記者団に対し、「私が実際にしばしば耳にする懸念は関税ですらなく、それは不確実性というものだ」とし、「明確さを追求していきたい」と語った。

  今週のキーワードと言える「不確実性」は企業の経営トップの間にも浸透している。目まぐるしく二転三転するトランプ政権の政策を背景に、四半期決算後の電話会見でも、世界中のトレーディングフロアでも先行き不透明感を指摘する声が聴かれた。

  為替仲介大手ペッパーストーンの上級調査ストラテジスト、マイケル・ブラウン氏は「一連の見出し全てに反応するのは率直に言ってストラテジスト、投資家の双方にとって悪夢のようなものだ」とし、「ホワイトハウスの政策策定が引き続き一貫性を欠き、不確実性が高く、ブレが大きいことを物語っている」とコメントした。

  IMFは米東部時間22日午前(日本時間同日午後)に公表した最新の世界経済見通し(WEO)で、今年の成長見通しを新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)期以来の低水準に下方修正し、さらなる状況悪化の可能性を警告した。

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  その後、トランプ氏が対中追加関税率を「大幅」に引き下げる用意を表明するとともに、パウエル連邦準制度理事会(FRB)議長解任の意図を否定すると、市場には安心感が広がった。

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  ただ、ベッセント氏が米国として対中関税率を一方的に引き下げることはないと明確にし、楽観ムードは後退した。国際金融会議の際に通常行われている米中財務相会談の予定がないことも、両国間の高度の緊張を反映している。

  中国商務省の何亜東報道官は24日の記者会見で、「協議の進展を伝える報道はいずれも根拠がない」と述べ、米中間の意思疎通で進展があったとの臆測を否定。他方、トランプ氏は貿易を巡る中国との政府間交渉は進行中だと述べたものの、詳細は示さなかった。

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緊急性低下の声も

  主要7カ国(G7)の政府当局者の1人は、米国は自国の強引な政策がうまく機能していることを証明するため、貿易交渉を成功させなければならず、過去数週間に力のバランスに変化があったと見受けられると話す。このため、米国側の要求に急いで対応する必要性は低下しているという。

  ワシントンを訪れている当局者は、米国に関税措置の見直しを求める一方で、トランプ氏との間で緊張を招いたり同氏を敵に回したりすることのないよう、公の場でも非公開の場でも慎重に振る舞っている。また、20カ国・地域(G20)財務相・中銀総裁会議の参加者の一部からは、ベッセント氏が各国・地域の懸念を和らげようと努めていたとの指摘があった。

  欧州投資銀行(EIB)のカルビニョ総裁は、ベッセント氏が23日に国際金融協会(IIF)のイベントで行った講演で「米国第一主義は米国だけを意味するものではない」と強調したのは「非常に歓迎すべき展開だ」とコメントした。

  それでも、事態の正常化への回帰には程遠いとする見方もある。スウェーデンのスバンテゾン財務相はインタビューで、「正直に言って米国は信頼を取り戻さなければならない」と指摘する。

  貿易戦争の「強度とペース」やトランプ政権の意思伝達の在り方に「われわれの多くは驚いている」とし、「メッセージを頻繁に変えれば、信頼性の問題が生じる。信頼を固めるには行動が必要だ」とスバンテゾン氏は語った。

原題:Trump’s Trade Whiplash Sinks World Into Dreaded ‘Uncertainty’(抜粋)

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