「雲」のシミュレーションに”自然法則”は必要ない!?…実際の原理を考慮しなくても「現実そっくりのCG」が生成できるワケ(現代ビジネス)

「いつの日かAIは自我を持ち、人類を排除するのではないか―」2024年のノーベル物理学賞を受賞した天才・ヒントンの警告を、物理学者・田口善弘は真っ向から否定する。 【写真】知能とはなにか…意外と知らない人工知能と機械学習の「致命的な違い」 理由は単純だ。人工知能(AI)と人間の知能は本質的に異なるからである。しかし、そもそも「知能」とは何なのだろうか。その謎を解くには、「知能」という概念を再定義し、人間とAIの知能の「違い」を探求しなくてはならない。生成AIをめぐる混沌とした現状を物理学者が鮮やかに読み解く田口氏の著書『知能とはなにか』より、一部抜粋・再編集してお届けする。

こんな調子で、物理学者たちは、みんなが勝手に好きな非線形非平衡多自由度系を構築してシミュレーションを行い、論文を書いた。その過程でわかってきたことは現実をシミュレーションする場合に、必ずしも現実と同じ原理を採用しなくてもいい、ということだった。言っていることがわからないかもしれないので例をあげて説明しよう。 図表5-4はあるダイナミカルモデルで作成された雲の生成のシミュレーションである。雲の生成原理は、かなりの程度まで理解されており、地表が温められて空気が上昇し、膨張して温度が下がって、空気中の水蒸気が凝結するなどのプロセスを経る。 だが、この雲の生成を再現するダイナミカルモデルには前記のような正確な情報は何も組み込まれていない。(1)浮力 (2)粘性 (3)拡散 (4)非圧縮性効果 (5)移流 (6)断熱膨張 (7)相転移 (8)潜熱 (9)引きずり (10)液滴の落下、といった、雲の生成に重要だとされるプロセスは大まかには取り入れられているが、決して現実そのものではない。にもかかわらず、生成される雲は現実のものにとてもよく似ていた。 なんだかいい加減そうに見えるがこの発見はいまでも使われていて、特撮映画での動物の群れや群衆の動き、炎のパターンをCGで作るときに、現実そのものではないにもかかわらず、現実そっくりの結果を出す。しかも、現実を反映した正確な情報を用いたら、とんでもなく時間がかかるが、ダイナミカルモデルは、現実モデルよりも圧倒的に早く遜色のない結果を叩き出すのである。 図表5-5は群衆シミュレーションで作成された画像である。CGで描かれた人物はもちろん、現実の人間ではないが、動きだけ見ると群衆が動いているときのように見える。これなども現実のシミュレーターであるダイナミカルシステムの応用例である。 図表5-6は、水の動きをシミュレートしている動画の一シーンだが本当に流体の運動を計算しているわけではなく、ダイナミカルシステムでそれらしい映像を作っているだけだが非常に精緻である。

現代ビジネス
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