氷河の39%がすでに消失確定。そこから先は「0.1度」の違いで運命が変わる

Image: Ken Schulze / Shutterstock

たかが0.1度。されど0.1度。

地球温暖化が現在のペースで進めば、世界中の氷河の3分の2以上が消えてしまう。国際的な科学者チームが、そんな衝撃的な未来を示す研究結果を科学誌Scienceに発表しました。

氷河の消失は、美しい自然の景観が失われるという話にとどまりません。海面の上昇や水資源の枯渇、さらには文化や暮らしの崩壊など、深刻な負の連鎖を引き起こす可能性があります。

39%の氷河がすでに消失確定

今回の研究によると、たとえいますぐ温室効果ガスの排出を止めたとしても、地球上に存在する氷河の39%はすでに解けてなくなる運命にあるとされています。

これは過去1世紀で世界平均気温が1.2度上昇したことに起因しており、11.3cmの海面上昇を引き起こすと見られています。

特に影響が深刻なのはアメリカ西部やカナダの氷河で、現在の温暖化レベルでも75%はすでに融解が確定しているといいます。

また、ヨーロッパのアルプス、アメリカとカナダにまたがるロッキー山脈、アイスランドの氷河は、パリ協定の野心的じゃないほうの目標である2度の気温上昇で、ほぼほぼ全部消失してしまうと予想されています。

さらに、河川の流域で何億もの人々に水を供給しているヒマラヤ中部と東部では、気温が2度上昇すると氷河の75%を失うそうです。

現在の国際的な取り組みのレベルでは、世界平均気温は2度どころか2.7度上昇するとされています(3度を超えるという予測もあります)。

もしも世界平均気温が2.7度上昇した場合、氷河は現在の質量の24%しか残らず23cmの海面上昇につながるといいます。

ところが、もしも気温上昇をパリ協定の野心的な目標である1.5度に抑えることができれば、氷河の53%が解けないまま残り海面上昇も14cmですむそうです。

この違いによって、氷河が解けて流れ出した水の影響を受ける周辺地域や、海面上昇の影響を受ける沿岸地域の潜在的な被害を未然に防ぐことができます。近くにいないと目に見えない変化ですが、めちゃくちゃ大きいです。

今回の研究には参加していない、ノーザンブリア大学(イギリス)のAndrew Shepherd氏は、研究が持つ意味についてこう述べています

「この研究は、仮に今すぐ温暖化が止まったとしても、氷河の融解は何世紀にもわたって続くことを示しています。これは、私たちの生涯を通して劇的な変化が起こるという考えさせられる結果です。このまま化石燃料を燃やし続けるようなら、山の景観はまったく別物になってしまうでしょう」

「たった0.1度」が氷河の運命を左右する

研究チームは、グリーンランドと南極の氷床を除く20万以上の氷河を対象に、8種類の氷河モデルを使って今後数千年にわたる変化をシミュレーションしました。

その結果、気温が0.1度上昇するごとに、約2%の氷河が失われるという驚きの事実が明らかになりました。

「この研究の特にユニークな点は、気温が0.1度上昇するごとに、どれほど大きな違いが生まれるかを明確に示せたことです」と、共同筆頭著者であるインスブルック大学(オーストリア)のLilian Schuster氏は語っています

この「たった0.1度」の変化が、氷河の消失量だけでなく、それに依存する水資源や生態系、観光産業、そして文化までも左右するといいます。

「この研究は、温暖化の進行を0.1度でも抑えることができれば、その分だけ氷河の消失によって生じる人々の苦しみを減らすことができると示しています。だからこそ、まだ間に合うという希望を持って行動してほしいです」とSchuster氏は強調しています。

遠い存在の氷河がもたらす身近なコスト

多くの人にとって、氷河は遠い山奥の自然現象に思えるかもしれません。でも、海面上昇の25%は氷河の融解によるものであり、沿岸部に暮らす人々の防災コストになって跳ね返ってきます。

ブリュッセル自由大学の氷河学者で、研究の共同主執筆者を務めたHarry Zekollari氏は、次のように述べています

「ベルギーで氷河学をやっている理由をいつも尋ねられますが、答えは『海面上昇』です。地球上のあらゆる場所で氷河が解けており、山から遠く離れた沿岸地域の護岸にも影響を与えているのです」

すべてはつながっていて、遠い場所で起こっていることだから自分には関係ないやってわけにはいかないんですよね。

未来を左右するのは「いま」

研究者たちは、氷河の未来がまだ完全に決まってしまったわけではないと強調しています。

先述のZekollari氏も氷河の未来について、こう訴えます

「残念ながら多くの氷河は失われてしまうでしょう。しかし、野心的な目標を設定すれば、まだ多くの氷河を守ることができます。氷河は美しいだけでなく、水の供給や海面水位の調整、観光、水力発電、精神的価値、生態系など、さまざまな面で重要な役割を果たしています」

カーネギーメロン大学土木・環境工学科の准教授で、本研究の共同執筆者でもあるDavid Rounce氏も、氷河の現状と未来について次のように訴えます

「現在起こっている氷河の融解は、数十年前から続いている温暖化を反映しています。いま私たちが下す決断によって、世界中の水資源や海岸線、生態系の未来が決まるのです」

たしかに、気温が上がれば氷河は解けてしまいます。水も、土地も、文化も、命さえも失われていくかもしれません。

でも、ポジティブに考えれば、気温の上昇をたった0.1度でも低く抑えることができれば、その分だけ確実に氷河の一部が失われずにすんで、多くの人々を潜在的な被害から守れるってことでもあるんですよね。

「どうせ何をしても変わらない」とあきらめるのではなく、「次の0.1度の上昇を防ぐため」にできる限りの努力をすることで、数十年後の私たち自身、そして数百年後の未来の世代にとって、想像もできないほど大きな変化につながるんじゃないでしょうか。

Source: Phys.org, The Guardian, EurekAlert!

Reference: Zekollari et al. 2025 / Science

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