火星・南極域の地下に湖は存在しない? NASA探査機による最新の観測成果

火星の南極域の地下に湖が存在するかもしれない。そんな研究成果が2018年に発表されて話題になりました。

湖ということは液体の水が存在することになるわけですから、この成果は地球外生命探査の観点からも注目され、検証した研究の成果も発表されています。

【▲ ESAの火星探査機「Mars Experss」が2015年2月25日に観測した火星。中央下に南極の氷床が写っている(Credit: ESA/DLR/FU Berlin, CC BY-SA 3.0 IGO)】

今回、アメリカのPSI=惑星科学研究所のGareth Morganさんたち研究チームは、2018年の発見に関する新たな検証結果を発表しました。

最新の観測データにもとづいた今回の研究では、議論が決着するところまではいかないものの、「火星の南極域の地下に湖が存在する」という仮説を支持することは困難だと結論付けられています。

氷床の地下1.5kmに幅20kmの氷底湖が存在する?

そもそも「湖が存在するかもしれない」という仮説に結びついたのは、ESA=ヨーロッパ宇宙機関の火星探査機「Mars Express(マーズ・エクスプレス)」に搭載されている地下探査レーダー高度計「MARSIS」の観測データでした。

NASA=アメリカ航空宇宙局によると、軌道上から火星の地表に向けて照射されたレーダー信号は地表や地中で反射されて戻ってきますが、その強さは地層が何でできているかによって異なります。

大半の地層はレーダーで用いられる電波を吸収したり透過したりするため、反射される信号は微弱です。一方、液体の水は表面の反射率が高くなるので、もしも水があれば信号は通常よりも強く反射されることになります。

MARSISが捉えたのは、まさにこの「通常よりも強く反射されたレーダー信号」でした。分析の結果、南極を覆う氷床の下、地下1.5kmの深さに幅20kmほどの氷底湖が存在する可能性があると解釈されたのです。低温であるにも関わらず凍結していないのは、塩分濃度が高いからではないかと考えられていました。

【▲ Mars Expressの観測成果を解説したESAの動画(英語)(Credit: ESA)】

NASA探査機MROの姿勢を工夫して観測を実施

今回、Morganさんたちは、NASAの火星探査機「MRO(Mars Reconnaissance Orbiter)」に搭載されている浅部レーダー「SHARAD」を使用して、氷底湖が存在するとされるエリアの観測を行いました。

実は、MROのSHARADは火星の南極域をこれまでにも観測しています。研究に参加したPSIのThan Putzigさんは「このエリアはSHARADで20年近く観測し続けてきましたが、これほどの深さからは何も見つかっていませんでした」とコメントしています。

そこで考案されたのが、MROの姿勢を大きく変更して観測を行う手法でした。SHARADのアンテナが取り付けられているMROの機体後部上方が火星表面を向くように、探査機を120度回転させる、言ってみれば「宙返り」するような姿勢で観測を行ったのです。

【▲ NASAの火星探査機「MRO」のイメージ図。探査機本体から左右に張り出した細長い棒のようなものが浅部レーダー「SHARAD」のアンテナ(Credit: NASA/JPL-Caltech)】【▲ 今回実施されたMROの「宙返り」を説明した図。SHARADのアンテナが探査機本体よりも火星側になるように、機体を120度回転させている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

今回実施された「宙返り」は、SHARADのアンテナ取り付け位置のデメリットを補うために考案されました。この位置に取り付けられたアンテナで火星表面を観測しようとすると、機体を30度くらいまでしか傾けない通常の姿勢では探査機本体が視界の一部をさえぎるため、感度が低下してしまうのだといいます。

特殊な姿勢での観測の結果、SHARADは湖が存在する可能性のあるエリアからの微かな信号を捉えました。周辺も広範囲に観測したものの、信号はまったく検出されなかったことから、ここには信号を反射する何かがあることが示唆されます。

ただし、検出されたのはMARSISが捉えたような明るい信号ではないことから、前述の通り、液体の水が存在するという考えを支持するのは非常に困難だとMorganさんは述べています。

【▲ ESAの火星探査機「Mars Express」の観測データをもとに氷底湖の存在が推定されたエリア(水色)と、NASAの火星探査機「MRO」による観測時の軌道(赤)を示した図(Credit: Planetary Science Institute)】

「では何が信号を反射しているのか?」という疑問が浮かびますが、SHARADの観測データは氷床の下に山や谷が埋もれていることを示していることから、MARSISは古代に流れた溶岩流のように表面が滑らかで反射率が高い領域を検出した可能性がある、と研究チームでは考えているということです。

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典

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