阪神・新外国人ディベイニーの遊撃守備に岡田球団顧問「しんどいなぁ」木浪聖也の再生こそが連覇への最短の道だ(中日スポーツ)
◇コラム「田所龍一の『虎カルテ』」 プロ野球のオープン戦が開幕した。球団初の2年連続リーグ優勝を狙う阪神・藤川球児監督も「若手の引き上げとかは考えていない。シーズンへの準備を始めていますから。元々、育成をしているつもりもないし、勝ちにいくための準備。そういう時期に入っています」と気を引き締めた。 ◆阪神の藤川監督、「藤村富美男監督退陣要求書」を見学【写真】 今年も阪神の1番から5番までは不動である。問題は昨シーズン、ついに固定できなかった「左翼」と「遊撃」。この中で注目したいのが「遊撃」である。球団は年俸約90万ドル(約1億4000万円)で新外国人選手、キャム・ディベイニー内野手(28)=前パイレーツ=を獲得した。マイナーリーグで通算85本塁打。長打力と強肩が売りという。 球団の狙いは彼を5番・大山悠輔一塁手のあとの「6番」に入れ、守備位置は「遊撃」。本来ならこの《一石二鳥》の作戦で遊撃のポジション争いと6番問題は決着がつくはずだった。だが、いざキャンプで遊撃の守備に就いてみると「問題」が発覚した。 キャンプ中盤に視察した岡田彰布球団顧問は、ディベイニー選手の動きを見た瞬間に「しんどいなぁ」と漏らした。 「足が使えてへん。大リーグの内野手の共通した特徴やな」 強肩が自慢の外国人選手はどうしても打球を待って捕ろうとする。だが、日本ではボテボテの内野安打を防ぐために、前へ前へと出て打球を処理する。「いまのままでは、相当打たなければ、守備のマイナス面は補えない」というのが多くの評論家たちの意見だ。そのためディベイニー選手は連日、小幡竜平選手や熊谷敬宥選手らと《特守》に励んでいる。 ここでふと、疑問に思ったことがある。球団は、本気でディベイニー選手に「遊撃」を任せる気なのだろうか。阪神には2023年の岡田阪神の18年ぶりのリーグ優勝、2度目の「日本一」に貢献し、ゴールデングラブ賞、ベストナインに輝いた木浪聖也内野手がいるではないか。彼の再生こそが「連覇」への最短の道ではないのか。 木浪聖也:1994年6月15日生まれ、現在31歳。青森山田高から亜細亜大学、社会人のHondaを経て2018年のドラフト3位で阪神に入団した。1年目のオープン戦で12球団最多の22安打を記録。オープン戦の新人最多安打記録を更新。矢野監督は開幕スタメン「1番・遊撃」に抜擢した。だが…。 初安打までに18打席もかかるなど2軍落ちも経験。プロの厳しさを味わった。そんな木浪選手にもう一度スポットライトが当たったのは22年、高知・安芸で行われた秋季キャンプだった。 就任したばかりの岡田彰布監督は第2クールの初日に投内連係プレーの特別練習を行い、それまで「二塁」を守っていた木浪を「遊撃」に入れた。そして練習後、岡田監督は興奮した表情でこう話した。 「いやいや、新しい発見というか、あんなに肩が強いとは思わんかったわ」 記者たちは「誰のことです?」と聞きかえした。 「木浪のことや。肩が強いとは聞いてたけど、あれほどとは…。いままで何処におったんや(笑い)。そっちの方がビックリや。1軍にもそないにおらんかったやろ。何しとったんや?」 岡田監督は木浪の状況判断の早さと勝負強いバッティングを買い、4月初旬から「8番・遊撃」に抜擢した。8番・木浪選手が出塁。バントで投手が送り、同期入団の1番・近本光司選手がタイムリー。こうして8番からの攻撃は岡田野球の「必勝パターン」と言われ、木浪は《恐怖の8番》と呼ばれた。だが…。 25年に藤川監督が就任。そして木浪にとって《悪夢》の4月19日を迎えた。甲子園球場で行われた広島戦。2回、先頭のファビアンの打球を弾いてエラーしたのを皮切りに、一塁への悪送球、なんでもないゴロをトンネル。なんと3失策。0-3で負けた。 「何が起きたのか、頭の中が真っ白になって…。崩壊していました」と木浪は当時を振り返った。そんな木浪を藤川監督は翌日の試合からスタメンから外した。 「悔しくてその夜は眠れませんでした。このまま野球を続けられるのか―と考えました。でも、やっぱり野球をやりたい。練習できる時間が増えたと思うようにしました。練習した分は必ず自分に返ってきますから」 木浪は自分の練習だけでなく、1軍で悩み苦しんでいる後輩たちにも寄り添った。 「ボクもいろんな経験をつみました。自分が苦しかったとき、先輩にどんな言葉をかけてもらいたかったか―を考えて後輩たちに接しています」 「8番・遊撃・木浪」の復活こそが《連覇》のキーポイントと筆者は思う。あるOBはこんな話をした。 「新監督というものは口では《前監督》の功績をたたえても、前監督の遺産で勝った―とは言われたくない。選手にしても自分が見出した者を使いたい。その意味で木浪は《岡田色》が強い選手だったのかもしれない。木浪にとって今年は選手生命のかかった年になる。レギュラーを奪回すれば木浪の勝ちだ」 プロ野球選手は30歳を過ぎると「引退」へのカウントダウンが始まる―と言われている。定位置奪回がならなければ、今年の6月で32歳を迎える木浪にも厳しいオフがやってくる。オープン戦の1打席1打席が「タイガースで野球をやり尽くしたい」という木浪の真剣勝負の打席になる。 ▼田所龍一(たどころ・りゅういち) 1956(昭和31)年3月6日生まれ、大阪府池田市出身の69歳。大阪芸術大学芸術学部文芸学科卒。79年にサンケイスポーツ入社。同年12月から虎番記者に。85年の「日本一」など10年にわたって担当。その後、産経新聞社運動部長、京都、中部総局長など歴任。産経新聞夕刊で『虎番疾風録』『勇者の物語』『小林繁伝』を執筆。
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