IPO予備軍を勇気づけたJX金属上場、低い発射台奏功で株価好調
今年最大の大型上場となったJX金属の株価は、初値形成後に大きく値を上げ、年内の新規株式公開(IPO)を目指す他の日本企業群に自信を与える結果となった。
JX金属株は上場初日となった19日の取引を公開価格(820円)に対し6.6%高となる874円で終了し、一時は883円まで買われた。初値は843円だった。
3月上旬に決まった公開価格の仮条件(810-820円)は事前の投資家需要が芳しくなく、想定価格の862円から引き下げられたが、発射台が低く決まったことがかえって奏功し、上場後に人気を集める展開となった。祝日明けの21日も一時5.5%高の922円と続伸している。
同社の売り出し総額は4390億円と昨年の東京地下鉄(東京メトロ)を上回り、2018年上場の国内通信大手のソフトバンク以来、6年ぶりの大型IPOだ。事情に詳しい関係者によると、直前では売り出し株数に対する投資家の需要は3倍強、海外では5倍に達し、需要動向に応じ追加で売り出すオーバーアロットメントも行われた。
アイザワ証券投資顧問部の三井郁男ファンドマネジャーは、JX金属という規模の大きな会社のIPOで株価が好調だったことは後続企業にとっても追い風になるとみる。個人投資家に対し他のIPOも価格が割高でなければ、「リターンが出るという期待を持たせやすい」と述べた。関係者によると、JX金属のIPOでは全体の67%が一般投資家に販売された。
出だしの好調は、東証株価指数(TOPIX)が昨年9月以来の6日続伸となるなど日本株相場全体が回復基調を強めていることも後押しした。日本のIPO市場は国内外の機関投資家も参加するが、国内投資家への割り当ては個人含む一般投資家の割合が多い。中小型企業や新興企業の上場案件も多いため、個人の存在感は大きい。
JX金属は銅など非鉄金属の製錬事業のほか、世界シェア6割超を握るスパッタリングターゲットなど半導体材料事業も展開している。仮条件決定前の機関投資家の調査では、半導体材料事業の将来性に対する評価は高かったものの、日本の半導体関連銘柄は中国の高性能人工知能(AI)が脅威になるとの警戒から1月後半以降、大幅な調整を強いられていた。
SMBC信託銀行の山口真弘チーフマーケットアナリストは、JX金属株の値動きについて「最近の半導体セクターの流れからすると、思ったより強い値動き」と分析。投資家心理が「まだ極端に悪くなっていないことを示している」と述べた。
昨年の国内IPO市場は9610億円と6年ぶりの高水準に膨らんだが、今年はこれまで低調に推移していたため、投資銀行関係者はJX金属の上場が勢いづけることに期待している。