トランプ関税が4日発動へ、その狙いと効果は-QuickTake

トランプ米大統領は1日(日本時間2日)、カナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税をそれぞれ賦課する大統領令に署名した。実際の関税発効は4日午前0時1分(日本時間同日午後2時1分)となる。

  トランプ氏はかねて同盟国と敵対国双方に対する関税賦課の公約を掲げており、世界のサプライチェーンを塗り替える貿易戦争の幕開けと言えそうだ。

トランプ氏のアプローチはどれほど劇的なのか?

  これら3カ国からの輸入品に対する米国の関税の一部は、すでにトランプ氏が義務付けた水準に近づいているか、あるいは上回っている。しかし、それらは特定のカテゴリーの輸入品にのみ適用されており、全面的に賦課するのは大きな転換だ。

  米通商代表部(USTR)によれば、米国の物品輸入額の94%を占める工業製品輸入の貿易加重平均関税率は現在2%となっている。

Average tariff levels on goods under different scenarios

Source: US ITC, Bloomberg Economics

トランプ氏は何を達成しようとしているのか?

  ベッセント財務長官は1月の指名承認公聴会で、トランプ大統領が新たな関税をどのように進めていく意向なのかヒントを示していた。ベッセント氏は上院議員に対し、トランプ政権が3つの目的で新たな関税を発動することを見込んでおくべきだと語った。不公正な取引慣行の是正、連邦歳入の増加、各国との交渉材料だ。

  米製造業の活性化:トランプ氏は、関税を利用して製造業を活性化し、米国が貿易不均衡によって他国から「食い物にされる」のを阻止すると主張してきた。企業を米国に誘致する方法として、承認手続き迅速化などの優遇措置と関税を併用する考えを示している。

  ブルームバーグ・ニュースのジョン・ミクルスウェイト編集主幹との昨年10月のインタビューでは、「わが国に企業を呼び戻す」と語り、「米国内で製造する企業に対しては、さらに税金を引き下げるつもりだ。強力な関税でこれらの企業を保護する」と述べていた。

  ラトニック商務長官候補は上院の承認公聴会で、関税計画は米国が世界の尊敬を取り戻すための手段だと説明。米国の同盟国も敵対国も一様に「われわれを利用し、われわれを軽んじている。それを終わらせたい」としていた。

トランプ氏は関税を利用して製造業を活性化させると主張

  歳入増:関税からの収入は、トランプ大統領が公約した減税の財源となり得る。トランプ氏は2017年に導入した所得税減税の延長を望んでいる。同減税措置の多くは2025年末に期限切れとなる。トランプ政権では社会保障給付金やチップへの課税減免などの案も浮上。また法人税率を21%から15%に引き下げることも目指している。

  これらの措置で連邦政府の歳入は向こう10年間で4兆6000億ドル減ると見込まれる。一方でベッセント氏は、トランプ大統領の追加関税が完全に実施されれば、同じ期間に2兆5000億ドルから3兆ドルの歳入をもたらす可能性があると主張している。

  外交の武器:ベッセント氏によれば、トランプ氏は経済制裁の効果については懐疑的である一方、関税こそが交渉で優位に立つための手段だと考えている。

  トランプ氏の戦略は、1月のコロンビアに対する関税賦課を巡る駆け引きからうかがうことができる。トランプ氏は当初、米国から強制送還される不法移民を乗せた米軍用機の着陸をコロンビアが拒否したことを理由に、同国に対する関税賦課と制裁措置を明らかにした。しかしその後、コロンビアがトランプ氏の全ての条件に同意したのを受け、これら措置を保留にした。

関連記事:トランプ氏、コロンビアへの関税賦課と制裁を保留-移民問題で合意

トランプ氏はカナダ、メキシコ、中国からの輸入品に追加関税を賦課する大統領令に署名

トランプ氏のアプローチは新しいのか?

  米国はこれまでの歴史の大部分において輸入品に重い関税を課してきた。だが、政府の指導者たちが1930年代以降、自由貿易の考え方を受け入れたため、この政策をほとんど放棄した。

  その大きな理由は1930年に制定されたスムート・ホーリー法への反発だ。この法律によって輸入関税率は平均約20%上昇したと推定されている。同法は世界恐慌による影響の緩和を狙ったものだが、結果的には外国政府の報復関税を誘発し、世界貿易の落ち込みと世界恐慌の深刻化につながった。この苦い経験が自由貿易時代の幕開けにつながり、1995年の世界貿易機関(WTO)の創設として結実する。その間、共和党にとって関税は忌み嫌うべき存在だった。

  しかし、関税はトランプ政権1期目の2017-21年に復活。米国の製造業を活性化させ、米国が不公正と見なす中国の貿易慣行に対抗するためにトランプ氏は関税に目を向けた。後任のバイデン前大統領もその流れを引き継いだ。

Mexico, Canada and Vietnam look vulnerable in a trade war with the US

Source: UN Comtrade, UNSD-BEC, Bloomberg Economics.

議会の承認なしに関税の引き上げは可能か?

  可能だ。議会は多くの法令を通じて、さまざまな懸念に対処するために関税を修正する権限を大統領に与えている。これには、国家安全保障への脅威、戦争や緊急事態、米国産業への損害や潜在的損害、外国による不公正な貿易慣行などが含まれる。

  ワシントンを拠点とするシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が掲載した元USTR法務顧問ウォーレン・マルヤマ氏共同執筆の解説によれば、企業は法廷で関税引き上げに対抗しようとするかもしれないが、過去に大統領の権限が尊重された経緯があるため、そのような挑戦は「険しく困難な状況に直面するだろう」。

関税はどのように機能するか?

  関税は通常、通関手続き中に申告された商品価値のパーセンテージとして計算される。また、各品目に対して一定額を課すこともできる。国境を越える商品には、「国際統一システム 」と呼ばれる標準化された一覧表の下で、数字コードが付与される。関税は例えばトラックのシャシーに関連する特定の製品コードに割り当てることも、電気自動車(EV)のような大まかなカテゴリーに割り当てることもできる。税関が関税を徴収する。

誰が関税を支払うか?

  関税は輸入業者または輸入業者に代わって仲介業者が支払うが、そのコストは一般的に転嫁される。トランプ氏は最終的に関税を負担するのは輸出側だと主張している。調査によると、負担はもっと分散している。製品を製造する外国企業は、輸入業者への譲歩として価格引き下げを決定するかもしれない。あるいは、関税を回避するために多額の費用をかけてどこかに工場を建設するかもしれない。あるいは輸入業者(米国ではウォルマートやターゲットが最大手だ)が、その商品を販売する際に値上げする可能性もある。この場合、関税コストを間接的に負担するのは消費者だ。

中国はどのような位置にあるか?

  自由貿易に対する信念は米国内の超党派のコンセンサスと、安価で効率的な外国のサプライチェーンへのアクセスを求める多国籍企業によって長年支えられていた。しかし、中国が世界的な経済大国として台頭してきたことでこのコンセンサスは崩れた。2001年にWTOに加盟した中国は、自国の産業に補助金を提供したり、中国に進出している外国企業にノウハウの供与を強要したりするなど、自由貿易ルールの文言と精神に違反していると批判されながらも、世界市場へのアクセスを拡大した。多くの研究者が、輸入急増に直面した米製造業の間で中国との競争が雇用減少の引き金になったと結論付けている。

  トランプ氏は政権1期目の18年と19年に約3800億ドル相当の中国からの輸入品に新たな関税を課した。バイデン政権はこれらの関税を維持し、24年にはさらに180億ドル相当の商品に対してさらに関税を引き上げた。関税への新たな積極姿勢は欧州連合(EU)にも広がっている。EUは昨年10月、中国製電気自動車(EV)に最高45%の関税を課すことを決定した。中国は欧州製品に報復するとしている。

  トランプ氏は昨年の選挙戦で、全面的な関税には国内産業を守る以上のメリットがあると主張した。具体的には、米財務省に多額の歳入をもたらし、米国内で商品を生産していない企業に生産を促し、米国は同盟国からもライバル国からも譲歩を引き出すことができるというものだ。

関税引き上げは米国にどんな影響を与えてきたか?

  関税の経済効果を整理するのは難しい。関税は企業が課税国に工場を移転することで関税を回避しようとするため、投資を誘致して雇用を刺激する可能性がある。同時に、報復関税を誘発し、経済の他の部分で雇用を犠牲にすることもある。

  関税の潜在的な問題の一つは、新たな関税の対象となる商品の国内需要を満たすために、国内の製造業者が必ずしも参入してくるとは限らないという点だ。また、関税を課す国に代替となる国内供給がない場合、その商品の価格が上昇する可能性がある。

  エコノミストらは、トランプ政権1期目の関税賦課がインフレにもたらした影響と、米中貿易戦争がスタートして間もなく始まったサプライチェーンと経済活動へのもっと大きな衝撃、すなわち新型コロナウイルス禍との関連性をまだ解明しようとしている。

  サンフランシスコ連銀は19年2月、関税が消費者物価上昇率に0.1ポイント、企業の投資コストを測る指標に0.4ポイントを上乗せしているとの推計を示した。超党派のタックス・ファウンデーションのシニアエコノミスト、エリカ・ヨーク氏は、トランプ、バイデン両政権の関税引き上げにより、米家計の年間コストは625ドル増加したと推計している。

  ヨーク氏はさらに、関税引き上げによって14万2000人の正規雇用が失われ、長期的には国内総生産(GDP)を平均0.2%押し下げると推計した。トランプ氏が提案するさらなる大幅な関税引き上げを批判する人々は、それが一段と大きな規模で同じような影響を及ぼすだろうと指摘している。

原題:What Trump Aims to Achieve With His New Tariff Plans: QuickTake(抜粋)

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