望月ヘンリー海輝に期待される「酒井宏樹ロールの復活」 あと9か月でどこまで成長できるか
はじめのいーっぽ。森保さんがころんだ。 メキシコと0-0で引き分け、アメリカに0-2で敗戦。来年行われる北中米ワールドカップでの優勝を目指し、出発した9月シリーズは、見事にずっこけた。2試合共に無得点はさみしい結果だ。 【動画】「ワールドクラスのゴールだった」英国ファンの度肝を抜いたゴラッソ!松木玖生の初得点を見る ただ、「こんなチームが優勝なんて恥ずかしい。身の程を知れ!」と怒り心頭の方には申し訳ないが、個人的にはスタメンを見た瞬間からワクワクすることがあった。それは…。来たか、望月!! 当たり前だが、A代表という海はレッドオーシャンだ。ハイレベルな選手が競争を繰り広げ、多くの選手が脱落していく。まして大半の選手は海に入ることすら許されない。今回、声がかかった国内組の荒木隼人や安藤智哉も、仮にCBのけが人が全員復帰すれば、招集外に逆戻りだろう。A代表は皆、サバイバルの末に赤く染まった海に立っている。 ただし、望月ヘンリー海輝はやや事情が違う選手だ。彼の周りは、ちょっとだけ海の色が青い。192センチという圧倒的長身のスピード豊かなサイドプレーヤー。どのチームも、サイドは高さのある選手が少ないので、空中戦になれば望月はほぼ無敵だ。希少なスペックだけに、並ぶライバルが少ない。 このブルーオーシャンに生きる望月を、森保監督は継続的にチェックしてきた。昨年9月と10月の最終予選で初招集し、今年7月のE-1選手権でデビュー。そしてついに、アメリカ戦のスタメンに指名した。菅原由勢の序列を下げてまで、抜てきしたわけだ。 そこにはやっぱり、意図があるに違いない。アメリカ戦を見れば、その答えは一つしかなかった。ずばり、「酒井宏樹ロールの復活」だ。 前半6分に佐野海舟の浮き球パスに反応し、裏へ抜け出した望月は、アメリカの最終ラインをぶっちぎった。15分には伊東純也をオーバーラップし、相手を縦にかわしてクロス。こうしてスピードやストライドの大きさを発揮した後、21分には長身の強みが出る。長友佑都のクロスから、相手DFに競り勝ってヘディングシュートを放ち、ゴールに肉薄した。 セットプレーで長身が一人増えたのも大きかったが、極めつけは前半45分だ。この頃には1-0でリードしたアメリカが完全に主導権を握り、日本はビルドアップが機能していなかった。そこでGK大迫敬介のロングパスで相手のプレッシングを越え、空中戦で望月が競り合って頭で落とす。このボールを伊東純也が持ち運び、最後は折り返しを佐野がシュート。日本は劣勢の中、酒井宏樹を彷彿とさせる望月の空中戦から、チャンスを生み出した。 このシンプルなプレス回避術は、困ったときこそ効いてくる。ワールドカップに挑戦する上では、やはり酒井宏樹ロールが欲しい。そんなことを森保監督やコーチ陣はずっと考えていたのではないか。 ただ……まあ、言いたいことはわかる。望月はまだ酒井宏樹のレベルではない。見せ場は数々作ったものの、前半30分に緩慢な1対1から突破を許し、失点の原因になった。そんな選手を信頼できるかと言われたら、ぐうの音も出ない。身長は酒井より7センチ高く、技術も酒井より高そうだが、それでも本当に生死をかけたギリギリの勝負に挑もうとすれば、みんな今でも戦士・酒井宏樹をパーティに選ぶはず。そりゃそうだ。疲労もプレッシャーも段違いの、ワールドカップだもの。 圧倒的なスペックを持つ望月は、日本の奥の手になり得るが、まだ経験が不足しているのは否めない。あと9か月でどこまで成長できるか。引き続き見守りたい。 いずれにせよ、これまでの招集と起用を見る限り、森保監督がワールドカップで酒井宏樹ロールをオプションに欲しがっているのは明白だ。仮に望月の成長が間に合わなければ、土壇場では本家に声がかかるかもしれない。 [文:清水英斗]