【ベトナム】スマホ関税、二重の打撃 クアルコムなど半導体製造に暗雲
トランプ米政権が検討しているスマートフォンへの追加関税が、ベトナム政府が育成に力を入れる半導体産業に影響を与える恐れが出てきた。追加関税が発動されれば、同国北部でスマホを量産する韓国サムスン電子が直撃を受けるだけでなく、同社の半導体サプライヤーのベトナム事業も減産を強いられる可能性があるためだ。サムスンのサプライヤーの米半導体大手クアルコムの後工程を担う同国のアムコー・テクノロジーはベトナム工場の増強を計画しているが、スマホ関税はこうした投資に水を差しかねない。【坂部哲生】 トランプ政権は11日に相互関税の対象からスマホなどの電子機器を除外したが、13日にスマホなどの製品は今後導入する分野別の「半導体関税」に含まれるとの見解を示した。 半導体関税の詳細は明らかになっていないが、ラトニック米商務長官は今後1、2カ月で導入される可能性に言及している。韓国経済新聞は、発動されればサムスン電子が生産調整を迫られるリスクを指摘している。同社は世界で販売する年間2億2,000万台の約60%をベトナム北部で製造している。 サムスン電子が生産量を減らせば、同社向けにシステム・オン・チップ(SoC)を供給するクアルコムのベトナム事業も余波を受けそうだ。SoCは複数の集積回路(IC)を1つの半導体チップ上にまとめた先端品で、クアルコムは「スナップドラゴン」という商品名のSoCを製造する。サムスン電子は自社でも「エクシノス」という独自のSoCを製造しているが、同社の高機能スマホにはクアルコム製品を使うのが一般的とされる。 クアルコムの2024年度(23年10月~24年9月)の売上高389億6,000万米ドル(約5兆5,470億円)のうち12%をベトナム事業が占めた。国別では中国(香港含む)に次いで2番目に高い比率だ。クアルコムのベトナム製品の多くはサムスン電子のベトナム工場向けに製造されているとみられる。 ■アムコーの増強計画に影響も トランプ政権によるスマホへの追加関税は、後工程請負会社(OSAT)で世界2位の米アムコー・テクノロジーのベトナム事業にも影響を与える可能性がある。 同社のベトナム工場は、SoCの製造に不可欠な複数のICを1パッケージにまとめる「システム・イン・パッケージ(SiP)」工程を担う。米クアルコムや同エヌビディアなどのファブレス企業が設計したシステム半導体のほか、サムスン電子とSKハイニックスなどが海外で生産した半導体メモリーを封止・検査の後に出荷している。 ベトナム外資系企業協会(VAFIE)の電子メディア「インベスター」によると、アムコーは北部バクニン省の工場の年産能力を現在の12億個から10月までに36億個に拡大する計画を立てている。24年に稼働したばかりの工場が早くも増強を決めた背景に、SiPの好調な受注があるようだが、半導体関税の行方によって左右される恐れがある。 韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)の調べでは、23年のベトナムの半導体輸出の80%を占めるのはプロセッサーやコントローラーなどの「システムLSI(大集積回路)」だった。クアルコムや半導体大手インテルなどの製品が該当するものとみられる。 インテルもこれまでベトナムに15億米ドルを投資し、同社の半導体組み立て・封止・検査業務の6~7割を同国で行っている。今月上旬に来越したサラ・ケンプ副社長(国際政府関係担当)は、グエン・ティ・ビック・ゴック財務次官との会見で、ベトナム政府が新たに設立する投資支援基金を利用した追加投資を検討する可能性を表明した。インテルがベトナムで製造する新型マイクロプロセッサー「ルナレイク(Lunar Lake)」などは主にパソコン向け。パソコンも相互関税から除外された電子機器に含まれており、今後は半導体関税を課せられる可能性がある。 米半導体工業会(SIA)と米ボストンコンサルティンググループの共同報告書では、ベトナムの半導体後工程の世界シェアは22年の1%から32年には8~9%まで拡大する見込みだ。ドイツの調査会社スタティスタによると、ベトナムの半導体産業は24年以降年11%のペースで成長に、29年には313億9,000万米ドル規模に達する見通しだが、高率の半導体関税が課せられれば成長シナリオは狂いかねない。 ■「中国の抑え込みが最終目的」専門家 英調査会社オムディアの南川明シニアコンサルティングディレクターはNNAに、トランプ政権の関税政策について「中国を抑え込むことが最終目的であり、他の国々への関税は各国との交渉にするための材料に過ぎない」と説明した。 中国は既に、各国を経由してさまざまなハイテク製品を迂回(うかい)輸出している。鉄鋼や液晶、太陽光パネル、バッテリーなど有り余る製造能力を持つ中国は米国による関税強化を受けて各国への輸出を増やそうとしている。南川氏は「(米国はこの)両方を阻止するために各国を説得するための材料として関税を使っており、その交渉次第で関税率が決まってくる」とし、スマホに高関税がかかる場合、ベトナムの半導体産業にも影響が及ぶとの見方を示した。