寄生虫を使って脳に薬を届ける研究が進行中

科学者たちにとって、安全に脳内に侵入できるようにトキソプラズマを改変することが課題だ。

Photograph: Ke Hu and John M. Murray/Wikimedia Commons

しかし、現在、世界人口の3分の1が、何の症状もないままトキソプラズマを脳内に保有しているといわれている。最近の研究では、トキソプラズマ感染が統合失調症、間欠性爆発性障害、恐怖感や不安感の鈍化を引き起こすリスクの増加に関係していることが認められ、この「静かなる感染」によって深刻な神経疾患に陥っている人がいる可能性が示された。

トキソプラズマ感染の蔓延は、多くの人が治療にトキソプラズマを用いられないことを意味し、医療使用の実現を阻むもうひとつの問題となっている。この寄生虫をすでに保有している何十億という人が将来の感染に対する免疫を獲得しているため、治療用に改変されたトキソプラズマは、体内に注入されると免疫システムによってすぐに破壊されてしまうのだ。

しかし、場合によっては、トキソプラズマを治療薬の運び屋として使用するメリットが、リスクを上回る可能性もある。この寄生虫の良性型をつくれば、わたしたちが何者であるかを定義する器官──脳──に害を与えることなく、患者が必要とするタンパク質を生成できるようになるだろう。

ビル・サリヴァン|BILL SULLIVAN『Pleased to Meet Me:Genes, Germs, and the Curious Forces That Make Us Who We Are』の著者。ペンシルベニア大学で細胞・分子生物学の博士号を取得後、インディアナポリスにあるインディアナ大学医学部の教授に就任。同大学で遺伝学と感染症を研究し、受賞歴も有する。

(Originally published on The Conversation, translated by Tomoyo Yanagawa/LIBER, edited by Michiaki Matsushima)

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