イオン買収のテーマパークが奇跡の復活…「値上げ」したのに客増加

仕事体験が楽しめる「カンドゥー」。値上げの攻防について舞台裏を取材した。

提供:カンドゥー

「ディズニーランドみたいな値上げができるのは、それはそれがディズニーランドだから。うちが値上げしたら客がこなくなる」(テーマパーク関係者)

人件費や光熱費の高騰により、運営コストが急増するテーマパーク業界。

しかし、多くのテーマパークが「値上げ」に対し慎重な姿勢を続けている現状がある。

一方で大胆な値上げによって、客単価の上昇はもちろん、来場者の満足度、従業員の働きやすさも向上させる事例も出てきている。

親子で仕事体験が楽しめるテーマパーク「カンドゥー」もその一つだ。「値上げの攻防」の現場を取材した。

カンドゥーを運営するイオンモールキッズドリーム社長の末松央行氏。

撮影:横山耕太郎

「競合と比べてもまだ安すぎるのではないか」

カンドゥーの入場料はいくらが適切か──。当時、社内では激しい議論が交わされたという。

カンドゥーは2013年12月、イオンモール幕張新都心に1号店がオープンした。カンドゥーはキッザニア創業メンバーの一人、ルイス・ラレスゴイチ氏がCEOを務め、日本ではカンドゥージャパンが運営していた。

しかし赤字が続き、2016年には負債約21億円を抱え特別精算が開始され、イオンモールの100%出資会社・イオンモールキッズドリームに事業が譲渡された。

事業譲渡後は、スポンサー契約に加え一定数の入場者数を確保できたものの、スポンサーの撤退に加え、コロナ後も入場者数の回復が思うように進まず一時は事業打ち切りも検討されていた。

そんな崖っぷちだったカンドゥーの舵取りを任されたのが、イオンモールキッズドリーム社長の末松央行氏だ。

末松氏は「来場者も低迷するなか、値上げは避けて通れないとわかっていたものの、値上げ慎重論は根強かった」と言う。

「私達にとっては来場者が減ること、そしてスポンサー企業が離れることを何よりも危惧していました」(末松氏)

離反客が出ても値上げする意味

カンドゥーが値上げについて助言を求めたのが、レジャー予約サイトを運営するアソビューだった。

アソビューはコロナ禍、入場規制を求められたテーマパークに対して、入場日時ごとにチケット販売枚数を管理することで、入場数を制限できる電子チケットの導入など観光施設のDX支援事業が急伸した。

コロナが落ち着いてからは、DX支援を実施したテーマパークに対し、チケット購入情報を基にして屋外広告やデジタルマーケティングについて助言やコンサルなども手掛けた。その一環として「値上げ」についての相談も多く受けており、その1つがカンドゥーだった。

値上げについて議論が進むなか、カンドゥー側は当初「数%の値上げ」に収めることを考えていたが、アソビューはこう力説したという。

「確かに皆さんが心配しているように、離反客はいると思います。でもそれを補うだけの価値を向上させられるはずです」

子人10%以上、大人25%以上値上げ

アソビュー専務執行役員最高戦略・マーケティング責任者の宮本武尊氏。

撮影:横山耕太郎

値上げの議論のなかでアソビューが注目したのは、休日の「大混雑」だった。

カンドゥーの来場者数は、コロナ前を割っていると言え施設内が閑散としている……という状況ではなかった。

子どもたちに人気のある「お仕事体験」、例えば「銀だこ」や「アイスクリーム」「ポケモンセンタースタッフ」などは、開園後すぐに予約を済ませないとすぐに予約枠が埋まってしまうため、週末や連休中は開園前の早朝から、施設の入口に長蛇の列ができていたという。

行列ができる人気があるにも関わらず、なぜ値上げ判断を躊躇していたのか? それは「行列ができることが人気のバロメーター」という価値観があったからだという。

「行列はメディアでも注目される。並ぶことは価値があると思っている部分があった」(末松氏)

こうした状況を受け、アソビューが提案したのが、来場者が集中する時期に値上げすることだった。

カンドゥーの従来の「子人」の入場料は平日3250円、休日や繁忙期は3960円の2種類で、大人は一律2000円に設定されていた。

それを2023年の夏からは、新たに「ミドルシーズン」と「スーパーハイシーズン」という区分を設けることに決めた。お盆などの「スーパーハイシーズン」の子人料金は、繁忙期価格から10%以上値上げし4500円、大人も25%値上げし2500円に設定した。

また2023年秋からは、振替休日の月曜日を「ミドルシーズン」と設定、子人料金は約17%値上げし3800円になった。

さらに学校などの団体客向けの平日割引価格を1400円から、70%値上げし2400円に設定した。

値上げで過去最高の来場者数に

値上げがもたらした効果は絶大だった。

値上げ後は逆に入場者数が増え、夏休み期間は開業当初並みを記録、さらに秋以降は過去最高を更新する月もあった。

「値上げ後には慢性的な赤字体質が黒字に転じました。加えて来場者のピークが分散するようになったことで、顧客満足度もあがり、三方よしの結果になった」(末松氏)

カンドゥーでは今後、有料ファストパスのように、プラス料金を支払うことで優先的に予約ができる仕組みの導入も検討しているという。

ただし有料のファストパスは、お金をプラスして支払える場合は便利である一方、金銭的な理由で使えない来場者が出てくる制度でもある。

「例えば『混雑する週末しか行けない』『絶対にやりたい体験がある』『初めて行くので、上手に回れるかどうか不安』など思っている場合、有料ファストパスは時間の節約になり、また安心を買うことにもつながる。

一方で、『何度も来場しており立ち回りが上手な方』や『空いている平日に来店できる方』は、課金までして予約する必要はないと考えるケースもあると思います。

すべてを有料予約にするなどの話ではなく、さまざまな価値を両立できるように設計することが求められる」(末松氏)

有料ファストパスだけでなく、カンドゥーでは今後も「新たな価値の提供でマネタイズできる方法を考えていきたい」とする。

「まだ頭の中にあるレベルですが、お誕生日祝いでの来園も多いので、誕生日向けの特別プランもニーズがある。顧客満足度もあげながら、収益を高めていくディスカッションは今度もどんどんしていきたい」(末松氏)

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