ロシアは主要ミサイルの生産を増強、弾道ミサイルの備蓄は増加に転じる
ウクライナ国防省情報総局のヴァディム・スキビツキー少将はRBC-Ukraineの取材に応じ、ロシアのミサイル攻撃、ミサイル備蓄、ミサイル生産能力に関する最新の状況や見通しを明かした。ロシアは主要ミサイルの生産を増強し、コスト交換比が悪化した自爆型無人機の生産を縮小した。
参考:РФ виконує план по ракетах, пауза в обстрілах навряд чи буде: інтервʼю з Вадимом Скібіцьким, ГУР
ウクライナメディアのRBC-UkraineやKyiv Independentは2025年6月、ウクライナ国防省情報総局の声明を引用して「ロシアのミサイル保有数は1,950発以上」「戦術弾道ミサイルのイスカンデルMを最大500発、巡航ミサイルのイスカンデルKを最大300発、Tu-160やTu-95から空中発射する巡航ミサイルのKh-101を最大260発、艦艇や潜水艦から発射する巡航ミサイルのカリブルを400発以上、Tu-22Mから空中発射する空対艦/空対地ミサイルのKh-22/Kh-32を最大280発、MiG-31Kから空中発射する弾道ミサイルのキンジャールを最大150発、北朝鮮から入手した弾道ミサイルのKN-23を最大60発を保有している」と報じた。
ロシアのミサイル生産能力についても「ロシアは月最大195発のミサイルを生産できる」「イスカンデルMを月最大60発、イスカンデルKを月最大20発、Kh-101を月最大60発、Kh-32を月最大10発、カリブルを月最大30発、キンジャールを月最大15発生産している」と、イラン製無人機シャヘドのロシアバージョン=ゲランについても「ゲラン2と中国製エンジンや部品で構成されたシャヘドの代替品=ガルピヤA1を計6,000機以上、Shahedを模した安価な囮無人機=ガーベラも6,000機以上保有し、ゲラン2とガルピヤA1を合わせて1日最大170機生産している」と報告していた。
ウクライナメディアのNew Voice(NV)は7月18日「ロシア軍は6月から現在まで200発以上のミサイルを発射した」「特にパトリオットミサイルのPAC-3が不足している状況に乗じ、弾道ミサイルで重要インフラや住宅を攻撃している」「これによりロシアが保有する弾道ミサイルの備蓄が大幅に減少したが、ミサイルの量産体制を維持して備蓄を進めている」と報じ、ウクライナ国防省情報総局はNVに対して2026年7月中旬時点でのミサイル備蓄とミサイル生産能力の見通しについて言及。
ウクライナ国防省情報総局によるロシアのミサイル備蓄とミサイル生産能力の見通し(2026年7月中旬時点) ミサイル 備蓄量 月あたりの生産能力 イスカンデルM 100発+ 約50発 イスカンデルK 60発+ 15発 キンジャール 約100発 5発 カリブル 450発+ 20発 オニキス 600発+ 5発 Kh-101 最大100発 60発 Kh-32 250発+ 10発 ツィルコン 120発+ 3発 KN-23 約50発 – RM-48U 400発+ 40発 Kh-69 最大20発 4発約1年前の見積もり保有数と比較してイスカンデルMは400発減、イスカンデルKは240発減、キンジャールは50発減、Kh-101は160発減、Kh-22/Kh-32は30発減で、この結果はウクライナに対する長距離攻撃での消耗と補充が釣り合っていないことを示唆しており、現在の攻撃ペースを維持するのは不可能なように見え、ウクライナ国防省情報総局のヴァディム・スキビツキー少将はRBC-Ukraineの取材に応じ、ロシアのミサイル攻撃、ミサイル備蓄、ミサイル生産能力に関する最新の状況や見通し(8月10日時点)を明かした。
ロシア軍は7月に巡航ミサイル(Kh-101、カリブル、Kh-32)を153発、弾道ミサイルと極超音速ミサイル(イスカンデルM、RM-48U、ツィルコンなど)を198発発射し、特に2026年1月から7ヶ月間(8月3日時点)でツィルコンの生産数は33発(予定の157%)、オニキスの生産数は60発(予定の171%)に達し、Kh-101も予定生産数の140%、カリブルも111%、Kh-35も200%で、主要ミサイルの生産は予定よりも110%~120%増で推移している。
ロシア軍の備蓄としてカウントされる主要ミサイルは戦略的備蓄ではなく「艦艇に搭載されているもの」「各部隊の基地に保管されているもの」の総数で、事実「生産ラインから出荷されると同時に消耗している=戦略的備蓄が全くない」という状況だが、8月5日時点でイスカンデルMの備蓄量は約130発で7月に65発を生産、逆にイスカンデルMの空中発射バージョン=キンジャール、空中発射型巡航ミサイルのKh-32は4月から生産を停止し、そのための資材や資金は弾道ミサイルや他のミサイル生産に再配分された。
Kh-32も命中精度の向上が目標を達成できなかったため生産を中断し、スキビツキー少将はキンジャールについて「とにかくキンジャールは目標に命中したことを思い出すのが難しいほど命中精度が悪く、効果的なミサイルであれば目標からの偏差は5m〜7mを超えてはならないのに、キンジャールの場合は30m以上だ」と述べ、S-400ランチャーから運用しているRM-48U(S-400用の迎撃ミサイル48N6を対空訓練で使用する標的に改造したもの)についても以下のように述べている。
“敵がS-400システムのミサイルを地上目標に対しても頻繁に使い始めているが、これは地上目標を攻撃するため特別に開発されたRM-48Uで弾道軌道を飛行し、速度はマッハ6に達する。重要なのはRM-48Uの生産が軌道に乗っている点で、8月の生産は約40発で備蓄量は400発程度とみられる”
地上目標を攻撃するため特別に開発されたRM-48Uとは「品質保証が切れた48N6を対空訓練の標的=RM-48Uに改造し、これを更に改造して180kg程度の弾頭を搭載した地上攻撃用のRM-48U」という意味で、S-400ランチャーから地対地モードで発射しているものの、高度3km以下になると水平線の下に隠れて地上レーダーによる誘導が効かなくなり、慣性航法のみで目標に向けて落下するため命中精度が極端に低く、イスカンデルMのような精密攻撃能力は全く期待できない。
出典:ДСНС України
そのため「何処に着弾しても何かに当たる都市攻撃もしくはイスカンデルMの囮として使用されている」というのが戦術的評価だが、それでも都市攻撃に使用されれば心理的には迎撃せざるを得ず、イスカンデルMの囮として使用されれば攻撃全体の貫通率向上に役立つため脅威であること変わりはなく、PAC-3 MSEやPAC-2 GEM-Tに余裕のない状況であればRM-48Uの脅威は更に際立ってくる。
スキビツキー少将はロシアの無人機についても「8月に予定されている攻撃用無人機(ゲラン1、ゲラン2、ゲラン3、ゲラン4、ゲラン5、ハルピヤ、ゲルベラ、ゲルベラ・カミカゼ、ゲルベラ・シーカー)の生産量は1万1,000機で、7月の無人機による攻撃頻度や規模を縮小して生産量も減らしてきた。これはターボジェットを搭載したゲラン4とゲラン5に重点を置いた生産体制に切り替えを進めているためで、既に攻撃の約半分はターボジェット搭載機によるものだ。そのため相応の速度を持つ別の迎撃手段や小型の防空システムが必要になってくる」と言及。
ロシア軍が運用するシャヘド型無人機 最大速度 最大到達距離 弾頭重量 ゲラン1/シャヘド131 約180km/h 約900km 約15kg ゲラン2/シャヘド136 約185km/h 約1,000km~2,500km 約40kg~50kg ゲラン3/シャヘド238 約350km/h~500km/h 約1,000km 約50kg~90kg ゲラン4 約500km/h 約450km 約50kg~90kg ゲラン5 約450km/h~600km/h 約950km~1,000km 約90kg高速化したゲランの脅威や対抗手段に関しては弾道ミサイルほどの非対称性はなく、迎撃ドローンの高速化やAI制御によるインタセプトが着々と配備され始めているため、戦場において大きなインパクトを残せるとは思えず、高速化した代償としてゲラン4やゲラン5に搭載するエンジン供給は完全に中国に依存し、エンジンの価格も1基あたり3.5万ドル~4万ドルと非常に高価だ。
ピストンエンジン搭載のゲラン2は1機あたり3万ドル~5万ドル(改良バージョンは推定8万ドル)だったが、ターボジェット搭載のゲラン3は8万ドル~15万ドル、ゲラン4は20万ドル~30万ドル、もはや巡航ミサイルに近いゲラン5は10万ドル~30万ドルだと予想されており、これが高速化した迎撃ドローン(1万ドル以下)で対処可能と実証されればロシアによる自爆型無人機による飽和攻撃は「攻撃と防御のコスト交換比」に耐えられなくなって終焉を迎えるかもしれない。
出典:Wild Hornets
もちろん、これは濃密な対無人機・ドローン迎撃シールドを構築しているウクライナに限った話であり、ロシアはウクライナの自爆型無人機による長距離攻撃について「蚊が刺した程度だ」と軽視していたため対無人機・ドローン迎撃シールドの構築で相当出遅れている。さらに米国を含む西側諸国にもウクライナに匹敵するような対無人機・ドローン迎撃シールドは存在しないため、自爆型無人機による飽和攻撃をコスト交換比の戦いで跳ね返せるわけではないので侮ることは厳禁だ。
そして最後に再確認しておくべき点はイスカンデルMが月50発着弾しても投射火力は約24トン程度で、これはSu-34やSu-35の約3機分に過ぎず、ウクライナの文明や産業を焦土化するには全くと言っていいほど量が足りないため、これだけで戦争の行方を左右する決定打になるのならウクライナとロシアの戦争はここまで長期化しておらず、これは社会や産業の回復力を上回る破壊力が双方に備わっていない証左である。
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※アイキャッチ画像の出典:Mil.ru/CC BY 4.0