予測不能トランプ氏が揺らす市場、機敏な対応必須-利益即蒸発も
トランプ米大統領による序盤の貿易戦争は方向性が目まぐるしく変化し、トレーダーは通常よりも保守的な、あるいは容易にポジションを逆転させることが可能な取引を増やすことで対応を余儀なくされている。
ノムラ・インターナショナルのG10スポットトレーディング責任者アントニー・フォスター氏(ロンドン在勤)は、「市場は、非常に予測不可能な状況と人物を予測しトレードしている」と指摘。あるポジションで見込まれていた高リターンが状況のわずかな変化だけでゼロになるとし、為替市場でのポジションを縮小させていると述べた。
より機敏に、あるいはより慎重に取引を行う必要があるだけではない。投資家は相反する見出しから身を守るために、より複雑な取引戦略を採用しつつある。トランプ氏の言動に起因するボラティリティーの急上昇が世界中で見られるため、投資家はメキシコ・ペソから中国株に至るまで、複数の資産に機敏に対応する必要に迫られている。
投資家が守りを固める中で、3000億ドル(約45兆3400億円)を超える規模の外為オプション市場の取引量は急増し、数年ぶりの高水準を記録。アジア株式の指標となる10日間のリアライズド・ボラティリティー(RV)は昨年10月以来の高水準に急上昇した。また、関税を巡る動きが米金融当局の政策見通しを曇らせる中、米国債の見通しもより複雑になっている。
ブルー・エッジ・アドバイザーズのポートフォリオマネジャー、カルビン・ヨー氏は「数週間かかる市場の動きが、数日、あるいは1日単位に圧縮されている」と言及。市場の変動を測定する方法について「日中の変動が激しくなっているため、トレーダーはボラティリティーを測定する際に過去のデータを検討せざるを得なくなっている」とし、同氏自身は取引のエントリーとエグジットを早めているとコメントした。
投機的なファンドでさえ、市場のあらゆる変化に対応してポジションを調整するのが難しくなっている。30年間にわたり市場に携わってきたジョージ・ブーブラス氏も確実な取引を見つけるのがますます難しくなっていると語る。
K2アセット・マネジメントで調査責任者を務める同氏は債券や株式について、「ポジションの保有期間が非常に短くなっている。以前は数日や1週間が通常だったものが、今では24時間未満というケースも出てきている」とし、「為替であれクレジットであれ適応しなければならない」と述べた。
ボラティリティーの上昇が目立つ市場の一つがアジアを中心とする株式市場だ。
トランプ氏による関税賦課がインフレ急上昇への懸念をあおる中、米国のトレーダーらは高まったボラティリティーを管理するために複雑なヘッジ戦略に目を向けている。一部のトレーダーにとって厄介なのは、市場リスクを管理する手段として好まれているオプションの価格が、関税や中国の人工知能(AI)技術を巡る不安、決算発表シーズンのピークなどを背景に一段と上昇していることだ。
TDセキュリティーズの株式デリバティブ戦略部門の責任者リン・ゾウ氏は「全体的に難しい局面であり、今は確信を持つことがさらに難しくなっている」と指摘。際立っている取引の一つは、「悪い」材料はすでに織り込み済みで、今後はトランプ氏による発言の一部撤回や中国政府による追加の景気刺激策があり得るとの見方を背景とした中国への投資だという。
ブルームバーグが集計したデータによると、クレーンシェアーズCSIチャイナ・インターネット・ファンドやiシェアーズ中国大型株ETFといった人気の中国関連上場投資信託(ETF)のオプション取引量がこの1カ月で大幅に増加している。
ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのクロスアセットストラテジスト、チャーリー・マケリゴット氏によると、昨年11月の米大統領選挙以降、ヘッジファンドはロング(買い持ち)とショート(売り持ち)の双方のポジションを積み増してきたが、膨らんだリスクを管理するために主にオプション市場を通じてヘッジ取引を実施。市場の大幅安による影響を緩和するためにアウト・オブ・ザ・マネーのプットオプション(原資産の価格が権利行使価格を下回っているプットオプション)を取得するなどしているという。
債券ポジション
債券トレーダーも同様に警戒している。トランプ氏の政策により、米国でインフレが本格的に復活し、金融緩和の根拠が弱まるのではないかという議論が再燃しているためだ。また、利上げリスクを懸念する声もあり、不確実性が増している。
DWSアメリカズの債券部門責任者、ジョージ・カタロンボーン氏は「インフレは債券投資家にとって弱点だ」とし、インフレ懸念が再燃した場合には迅速な対応が迫られるとの見方を示した。
トランプ氏の関税賦課を巡って市場が混乱する中、トレーダーによる比較的短期の米国債先物のポジション解消は3日に昨年11月以来の規模に膨らんだ。
一方、JPモルガン・チェースの直近の顧客調査によると、現物債の投資家はほぼ15年ぶりの高水準までネットロングを積み上げていたが、急速にそのポジションを解消している。
関連記事:米国債市場、ポジション中立化が進行-関税巡る混乱で投資家は慎重に
原題:Traders See Profits Evaporate in Minutes as Trump Convulses Bets(抜粋)