【悲報】万博の自動運転バス、半分以上が「誘導型」 なぜかトヨタは不参加
大阪・関西万博の会期が近づいてきた。慌ただしくも会場の工事は進み、全体像が姿を現しつつあるようだ。
6カ月間の想定来場者数は約2,820万人で、単純計算で一日平均15万人超が会場となる夢洲に足を運ぶ。人工島である夢洲へのアクセスは限られるため、来場者を安全かつ効率的に輸送する手段が重要となる。その一翼を担うのが自動運転バスだ。
自動運転バスは、大阪駅と夢洲を結ぶルートなど計3ルートでの運行が予定されており、それぞれ自動運転レベル4相当で走行する。ドライバー不足が常態化する中、多くの人が無人サービス・技術の将来性に触れる機会としても意義あるものとなりそうだ。
ただ、会場外路線では磁気マーカーを活用したインフラ頼みの誘導型が採用されるなど、汎用性の観点からはやや残念な結果となっている。閉幕後、自動運転バスの他エリア転用も計画されているだけに、ここは頑張ってほしかったところだ。
万博における自動運転サービスの最新状況に触れていこう。
■大阪・関西万博における自動運転サービスの概要
大阪・関西万博は2025年4月13日~10月13日の184日間に渡り、大阪ベイエリアの人工島「夢洲」を会場に開催される。
未来社会のショーケースとして「スマートモビリティ万博」をうたっており、旅客船には国内初の水素と電気のハイブリッドで航行する水素燃料電池船を導入するほか、自動運転レベル4相当の自動運転や走行中給電などの新技術を融合したEVバス、空飛ぶクルマ、未来社会の実証実験の場としてロボットエクスペリエンスを体験できる。
会場へのアクセスは、大阪メトロの中央線やシャトルバス、船舶が中心となる。中央線は、咲洲に位置するコスモスクエア駅から3.2キロメートル延伸し、「夢洲駅」を新設する。夢洲駅は2025年1月19日に一足早く開業する予定だ。
シャトルバスは、新大阪駅や桜島駅、尼崎駅、堺・堺東駅など各所から運行されるほか、舞洲駐車場など自家用車向けのシャトルバスも運行される。
このうち、京阪バスと阪急バスが担う新大阪駅・大阪駅ルートと、大阪メトロが担う舞洲駐車場、万博会場内の外周道路を走行するバスはEV化を図っており、この3ルートにおいて計12台の自動運転バスを通常EVとともに運行する。
▼各ルートにおける自動運転の検討状況(概要) https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/cmsfiles/contents/0000628/628130/04_1-1kakuru-to.pdf
出典:大阪市公開資料京阪バスと阪急バスが担う新大阪駅・大阪駅ルートは、阪神高速道路の淀川左岸線2期を対象にドライバーが乗車するレベル4相当で運行する。京阪バスは BYD製の観光バスタイプ1台、阪急バスはEVモーターズ・ジャパン製の観光バスタイプ1台をそれぞれ採用した。
自動運転システムの詳細は不明だが、利用するインフラ設備として磁気マーカーとラインペイント、合流支援を挙げている。
大阪メトロが担う舞洲駐車場から万博会場間のシャトルバスもレベル4相当を予定しているが、2024年5月の段階では、関係者間で安全面や技術面、運用面の検討を進め、実現可能なレベルを決定していくとしている。
車両はEVモーターズ・ジャパン製の大型バス6台を自動運転化する。利用するインフラ設備には、磁気マーカー、ラインペイント、信号協調、スマートポールを挙げている。
万博会場内の外周道路ではEVモーターズ・ジャパン製の小型バス4台を自動運転化して運行する。インフラ設備は道路状況により検討中で、基本的には車載センサーで対応する方針としている。
会場外周道路も最終的にどうなるかは不明だが、少なからず会場外から会場に向けたルートについては磁気マーカーによる誘導式が採用されているようだ。
新大阪駅・大阪駅ルートにおいてドライバーが同乗するのは、走行ルートの全区間をレベル4走行するわけではないためだ。過去の資料では、新大阪駅ルート(全19キロ)においては豊崎~海老江JCT間の4.3キロ、大阪駅ルート(全12キロ)においては大淀~海老江JCT間の2.4キロをレベル4区間とし、それ以外は手動運転区間とされている。
つまり、各行程のうち4分の1未満のほぼ直線の区間、時間にして2~4分間ほどをレベル4走行するだけだ。そう考えると、無理に自動運転を導入しなくても良かったのでは?──とも思える。
もちろん、将来的な高速道路でのレベル4実現の礎にするため──といった意向もあるかもしれないが、であるならば汎用性に疑問が残る磁気マーカー式を採用すべきではなないと感じる。
過去の実証では10メートル間隔でマーカーを設置しており、まさに誘導式の自動運転だ。時速60キロ設計の自動車専用区間のため、そこは純粋なレベル4を目指してほしかった……と感じる人も多いのではないだろうか。
一方、舞洲駐車場から万博会場までのルートは約3キロと思われ、こちらは全行程がレベル4運行される可能性が高そうだ。ドライバーレスにすることも可能な区間だが、イベント輸送の性質上乗務員(添乗員)が配置される可能性も高い。こちらも磁気マーカー式を採用している。
出典:大阪市公開資料万博会場内の外周道路については、唯一磁気マーカーを用いない純粋な自動運転システムが採用される見込みのようだ。外周ルートは4.8キロで、停留所を6カ所設置し往復運行するようだ。
小型の路線バスタイプを導入し、添乗員のみのドライバーレス自動運転で遠隔監視センターから監視を行う計画としている。走行中給電も導入する。会場外周のため基本的には歩行者と交わる可能性は低く、一般車両の流入もない。横断歩道が設置される予定区間は1カ所のみで、自動運転に適した環境と言えそうだ。
万博で利用された自動運転バスは、閉幕後、大阪府内で公共交通の維持困難に直面しているエリアで再活用する計画も進められている。
ドライバー不足や赤字の慢性化などを要因に継続困難な路線に無人の自動運転バスを導入し、路線維持・事業継続を図っていく狙いで、2023年12月に設置した「新モビリティ導入検討協議会」で検討が進められている。
2024年9月に開かれた第3回会議では、万博閉幕直後に直ちに走行実証に入ることができるよう、2024年度中に走行試験を行う必要があるとし、運行ルートにおける高精度3次元地図データの作製・車両調律や区画線整備を実施し、2026年度春から乗客乗車による実証開始を目指す方針が示された。
実証ルートは、羽曳野市と太子町にまたがる北部ルートと、富田林市を中心とする南部ルートに決定したようだ。
純粋な混在空間下でどのような自動運転を行うのか注目が集まるところだ。磁気マーカーシステムによる自動運転となるのか、汎用性を高めた車載センサー主体のシステムとなるのか。動向が気になるところだ。
【参考】自動運転バスの転用については「レベル4自動運転バス、万博終了後「レベル2格下げ」で転用案」も参照。
■万博における自動運転
全体としては、自動運転実装のハードルが比較的低い環境下での導入となる。未来社会のショーケースとしての性質と、国内外から大きな注目を寄せられる一大事業としての性質を踏まえ、ぜひとも未来につながる自動運転技術・サービスを実現してもらいたいところだ。
国際的な注目の観点では、東京オリンピック・パラリンピックと重なる面がある。2021年の東京五輪においても、ワールドワイドパートナーを務めるトヨタが自動運転サービス専用モビリティ「e-Palette(イー・パレット)」を導入し、選手村で関係者の送迎を実施した。事故が起こったのは残念だったが、体験した選手らがe-PaletteをSNSに投稿し、話題となった。
このほかにも、フィールド競技をサポートするロボットやヒューマノイドロボットなどさまざまな面で大会に貢献するとともに、先端技術を世に発信した。
万博は、こうしたPRの場として最上位のイベントと言える。会場外の輸送のみならず、会場内における自動運転車いすをはじめとしたパーソナルモビリティの活用など、さまざまな技術・サービスを結集させて然るべき場なのだ。
万博会場で実現したい「未来社会(技術・サービス)」アイデアとして、過去に日本国際博覧会協会に寄せられた移動・モビリティ関連の提案には、SB ドライブ(現BOLDLY)による自動運転車両を活用した会場内外の移動最適化案をはじめ、自動運転モビリティと共存するすべての人が輝く空間の創出(ティアフォー)、ロボティクスモビリティ・移動サービス&歩行する搭乗型ロボット(パナソニック)、一人乗り自動運転モビリティによる安心で快適な移動(非公表)、自動運転 EV マイクロモビリティによる自由で便利な移動の提供(非公表)、会場の内の電動キックボードによる自動走行(LUUP)、自動運転機能付き貸し出し用電動車椅子(プロアシスト)、駐車場の自動駐車・配車システム(オージス総研)、万博施設自動清掃(非公表)――など、さまざまな案が寄せられている。
採用の可否は不明だが、さまざまなアイデアが寄せられていたのは事実だ。今のところ公式発表はないが、自動駐車システムや自動運転パーソナルモビリティなどの導入はあるのか。続報に期待したいところだ。
【参考】トヨタ×五輪の取り組みについては「海外メディア「五輪の栄光はトヨタの手に」 自動運転e-Paletteをどう評価?」も参照。
トヨタは今回の万博にノータッチなのだろうか。2005年にトヨタのお膝元・愛知県で開催された「愛・地球博」では、パビリオン「トヨタグループ館」を設置し、未来コンセプトビークルやパートナーロボットの展示・パフォーマンスなどを実施していた。トヨタグループとしてもデンソーや豊田自動織機など16社が参加した。
東京五輪では、言わずもがなワールドワイドパートナーとして大きく関与していた。
しかし、今回の大阪・関西万博においては特にトヨタの名前が見当たらないのだ。デンソーや豊田自動織機、トヨタ車体、トヨタ紡織などはシグネチャーパビリオンに協賛しており、また自動運転で使用される磁気マーカーシステムは愛知製鋼が提供するなど、グループとしては万博を後押ししている。しかし、本家が見当たらないのだ。
トヨタに声がかからなかったのか、あるいはトヨタが手を挙げなかったのかは定かではないが、過去の万博や五輪の実績を踏まえると、トヨタが先陣を切ってe-Palette導入を促進していてもおかしくはない。むしろ、関わらない方が不自然ではないだろうか。
五輪から4年を経て進化したe-Paletteをお披露目する場としてももってこいだ。関係者のみだった五輪とは異なり、国内外から広く押し寄せる来場者に体験してもらうことができる。これを契機にe-Paletteの本格事業化を図っていく戦略もあったのではないだろうか。
もしかしたら、五輪の事故が影響しているのか。あるいは技術面でレベル4に達することができず諦めたのか。憶測の域を出ないが、万博という大舞台を活用しないのはもったいない話に思える。
日産やホンダ、ティアフォーなど開発各社が参加し、せめて自動運転車のデモ走行くらいは行ってほしいと感じる。
■【まとめ】大舞台ならではの最新技術結集を……
空の移動に革新をもたらす空飛ぶクルマは商用運航を諦め、デモフライト実施に留まる見込みだ。陸の移動に革新をもたらす自動運転は、せめて米国・中国に見劣らない最新技術の粋を集めた展示・サービスを行ってほしいと感じる。
世界の注目が集まる大舞台。最終的にどのようなモビリティが登場するのか。期待を裏切らず、あっと言わせるパフォーマンスを見せてほしいところだ。
【参考】関連記事としては「自動運転バス・シャトルのサービス事例一覧 事故の発生状況は?」も参照。