トランプ氏が目指す不法移民大量送還、ドミニカ共和国に見る現実

トランプ次期米大統領は不法移民の大規模強制送還を目玉政策の一つに掲げており、とりわけ一時保護資格を受けて米国で暮らすハイチ人を標的にしている。政権発足後に実際に強制送還に踏み切れば何が起きるだろうか。その手掛かりはドミニカ共和国で現在起きている状況から垣間見ることができる。

  ドミニカ東部のサトウキビ収穫作業者向け宿泊施設ではある日、入国管理局が午前3時ごろにドアを打ち破って中に押し入り、寝ていた人々を外に連れ出した。夜が明ける頃には、白髪交じりの労働者や妊婦、子どもを含む数十人が、護送車のようなワゴンに詰め込まれていた。

ドミニカ共和国最大の収容センターの前に停車する入国管理局のワゴン車(12月4日)

  人口1130万人のドミニカは今年、33万人を超えるハイチ人を強制送還したとしている。10月にアビナデル大統領が1週間当たり1万人を国外追放する方針を掲げて以来、そのペースは加速している。

  移民当局によれば、10月から12月10日までに少なくとも7万8151人が国外追放された。米国の人口に照らせば、2カ月で230万人が強制送還された計算になる。ヒューストンの全人口とほぼ同じだ。

  ドミニカでの強制送還の動きはまだ終わっておらず、その影響はまだ完全には現れていない。しかし、すでに労働力不足や輸出への打撃を引き起こしており、カリブ地域で有数の急成長を遂げる同国経済に影を落とす恐れがある。トランプ次期政権が大規模強制送還を実行に移せば、米国でも同じことが起こるかもしれないと企業は警告している。

  ドミニカで暮らす推定50万人のハイチ人のうち、約3分の1はハイチ人の両親の下でドミニカで生まれたとみられている。しかしドミニカの法律は、出生による自動的な市民権を認めていない。

  トランプ氏が取り入れたいのがこの政策だ。今月に入って行われたNBCとのインタビューで同氏は、出生地主義の米国籍付与は大統領令によって廃止すると述べた。

  世界銀行はドミニカの今年の経済成長率を5.1%と予想。一方で隣国ハイチの成長率はマイナス4.2%と見込まれている。

  ドミニカのアルバレス外相は、経済が崩壊したハイチからの移民流入が学校や病院、予算に負担をかけていると主張。例えば、国内の病院における分娩室のほぼ40%はハイチ人によって占められているという。

  人権団体や国際社会からの非難にもかかわらず、アビナデル大統領の大量強制送還は支持を集め、今年5月の再選につながった。

  強制送還は政治的な受けこそ良いかもしれないが、安価なハイチ人労働力に依存している企業、特に経済の約20%を占める建設および農業部門には激震が走っている。

  バナナ生産者業界団体で幹部を務めるマーティン・ペーニャ氏によると、強制送還で人手が足りなくなり、輸出の期限に間に合わなかった農家も出ている。米国と同様にドミニカも農業部門の仕事は外国人依存度が高く、推定3万2000人に上るバナナ農園労働者の約75%がハイチ人だという。

  「ここでの現実は、ドミニカ人の農業労働者は見つけられないということだ」と同氏は語った。

原題:Trump’s Mass Deportation Pledges Are Already a Caribbean Reality(抜粋)

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