もうひとつの太陽系が生まれた瞬間? 赤ちゃん星「HOPS-315」の姿を初観測

Image: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/M. McClure et al.

太陽系によく似た、生まれて間もない天体の姿が初公開されました。名前は「HOPS-315」。

まだたった10万歳の赤ちゃん星です。

太陽系によく似た「赤ちゃん星」

2025年7月16日、『Nature』誌に掲載された論文にて、天文学者たちは「HOPS-315」と呼ばれる天体を発表しました。HOPS-315は、地球から約1300光年離れた場所にあり、熱い鉱物と一酸化ケイ素ガスを含んだ原始星です。

この星が特別な理由は、我々が住む太陽系の初期の姿とよく似ている点にあります。つまり、太陽系がどのように生まれたかを探るカギになる可能性があるのです。

Video: ESO Chasing Starlight / YouTube

米Gizmodoは、本研究の筆頭著者であるオランダ・ライデン大学のMelissa McClure氏にビデオ取材を敢行しました。同氏が特に注目しているのが、HOPS-315の周囲にある「原始惑星系円盤(プロトプラネタリーディスク)」です。

原始惑星系円盤とは、新しい星の周りにできるガスや塵の円盤のこと。ここから惑星が生まれます。これまでに数百もの原始惑星系円盤が観測されていますが、HOPS-315ほど若く、活発で、惑星の材料が豊富なものは極めて珍しいそうです。

惑星誕生の瞬間を目撃

McClure氏率いる研究チームは、すでに運用を終えたスピッツァー宇宙望遠鏡のデータを使い、3,000個近くの原始星を調査しました。多くの星は100万年以上と歳を取りすぎており、すでに巨大ガス惑星が漂っている段階でした。一方、若すぎる星は厚い雲に包まれて中が見えないものばかりでした。

そんな中、HOPS-315の年齢はおよそ10万年と非常に若く、観測にちょうどよい角度にあり、内部の様子を覗き見ることができました。ここで活躍したのが最新鋭の望遠鏡、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡(ALMA)です。

この2つの望遠鏡を組み合わせて使い、惑星の材料とされる「一酸化ケイ素」や「高温鉱物」を検出しました。McClure氏は、これらが惑星の種となる「星間塵(宇宙空間に漂う微細な固体粒子)」の存在を示す明確な証拠だと語っています。

「私たちは、JWSTでも同じ領域でこれらの高温鉱物を観測しました。これら2つの情報を組み合わせて、私たちがまさに『t=0』の瞬間、つまり、『すべてが始まる瞬間』を初めて目にしているのだと確信できたのです。HOPS-315は、その質量、大きさ、そして私たちが観測している時点での年齢という点で、かつての太陽と非常によく似ています。だからこそ、これは太陽の“アナログ(類似体)”といえます。つまり、私たちは今まさに、別の太陽系が形成されつつある姿を見ているのです」

とMcClure氏はコメントしています。

また、今回の発見で注目されたのが、「微惑星(プラネテシマル)」の形成です。微惑星とは、塵が集まって岩のかたまりとなり、やがて惑星になる前段階の構造を指します。これまで、微惑星は小さく壊れやすいため直接観測するのが難しく、主に地球に落ちてきた隕石サンプルを分析することで間接的に研究されてきました。

しかしHOPS-315では、微惑星がまさに形成されている瞬間をリアルタイムで観測できました。McClure氏は「これを追跡する予定」とし、「銀河の起源を探るための、他では得られないとてもクールな新しい方法になるだろう」と語っています。

進化する技術と科学者たちの情熱

Image: NASA/ESA/CSA/STScI/NASA-JPL/SSC

今回の発見は、単に最新技術のおかげではありません。最近の天文学における発見の多くは、過去に観測された天体を、より高性能な新しい観測機器を使って再調査することによってもたらされています。例えば、2006年にスピッツァー望遠鏡で観測された「宇宙の竜巻(コズミック・トルネード)」こと「Herbig-Haro 49/50」は、20年後にJWSTが再観測することで、当時は見えなかった細部が明らかになりました。

HOPS-315も同様に、長年にわたるデータと地道な調査の積み重ねから得られた発見です。それは、宇宙の謎をあきらめずに追い続ける科学者たちの粘り強さと情熱の証でもあります。

HOPS-315の観測は、惑星がどのように誕生し、太陽系がどう始まったのかを知るための大きな一歩です。こうした発見は、時に何十年という時間を要しますが、それだけに得られた答えはより貴重で、啓発的で、そして何より、美しいのです。

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