読書なんてめんどいって人へ! “ページの半分がスマホ画面” という異色のホラー小説『スワイプ厳禁』が斬新すぎる

「本が売れない」と言われて久しい。先日の芥川賞・直木賞の「受賞者なし」が衝撃をもって受け止められたのは、例年なら受賞作がメディアに大々的に取り上げられることで、起爆剤的に本が売れる一大イベントだからだ。

商業出版の世界は、文学性や作家性を追求するという側面もゼロではないだろうが、いかに「売れる本」「話題になる本」を見いだせるかの過酷なサバイバルだ。

大人の読書離れ……特に紙の本の苦境を憂う小説家・知念実希人(ちねん みきと)氏が出版不況に一石を投じた。特殊判型なのに妙に手に馴染むサイズ感、ページの半分はイラスト、税込499円という低価格。異例づくしの書き下ろし小説『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』をご紹介したい。

・『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』(税込499円)

すぐ気づくのは、その変なサイズ。文庫本サイズでも単行本サイズでもない。妙に細長くて、本としては見慣れない形なのに手にしっくりと馴染む。

これ、スマホだ! 写真はイメージだが、実際に筆者のiPhone 16 Pro Maxとほぼ同じ。

タイトルにも「変死した大学生のスマホ」とあるとおり、物語のキーアイテムはスマホ。全編がスマホを中心に展開していくと言っていい。

ページ構成も超個性的。見開きの片側がスマホ画面なのだ。「たまに挿絵として入っている」というレベルではなく、全ページがこう!

先述のとおり本自体がスマホサイズなので、画面も実物大。着信画面、SNS投稿画面、画像フォルダ、地図アプリ、ネットショップ……見慣れた画面が次々と登場する。

本作は「モキュメンタリー・ホラー」と銘打っているのだが、モキュメンタリーとはフィクションをあたかも現実に起きたように見せるフェイクドキュメンタリー演出のこと。読み飛ばさず注意深く右ページを見ていると、自分の手元のスマホを見ているような気になる。

右ページいっぱいがイラストなので、文章は左ページだけ。かなり少ないし、主人公の語りなので難しい言葉もない。ライトノベルよりもさらにライトな読み心地。

フォントサイズも非定型で、太字になったり揺れたり、どこかマンガやウェブメディアのつくりに似ている。我がロケットニュースは特にそうなのだが、HTMLの制限を受けつつも、文中の空白で間(ま)を取ったり、集中線で勢いを表現したり、擬似的に動きが伝わるようなマンガ的な表現を多用する。

今回の小説も、実際には紙に文字が印刷されているのだから動きはないのだが、目が左右を行ったり来たりする。このインタラクティブな感じ、分岐はないけどゲームブックを読んでいるような……。新鮮な体験だ。

主人公は古来の妖怪「百目鬼(どうめき)」の都市伝説を追っていく。詳細には触れないが、ぜひ1ページ1ページを飛ばさずじっくり楽しんで欲しい。

読了時間は、ライター業で読み書きに比較的慣れている筆者で20分ほど。本当にあっさり読み終わる。読書が苦手で「最後まで読めない」という経験がある人も、きっと「読み切った!」という体験になるはず。

・本編『閲覧厳禁』もまもなく発売

ネタバレを避けるため内容は割愛するので、ホラー小説としての評価は個々に委ねるが、とにかく斬新な読書体験だった。

長文に拒否感のある人でも絶対に読了できる読みやすさ。都市伝説にスマホを駆使して迫るという現代的なテーマ。丸々半分がイラストというページ構成は、単に読みやすくなるだけじゃなく、ページ内にいろんな仕掛けを仕込めそうな可能性を秘めている。

「これ、いろいろなジャンルで読みたい!」と思うようなアイディア光る1冊だった。ミステリ、ホラー、SF、恋愛もいけそう。たまに出てくる挿絵はいかにも意味深だけれど、全ページに挿絵があるなら重要な情報とそうじゃないダミーを混ぜ込んだり……「字を読む」だけに留まらない複合エンタメに発展しそうなポテンシャル!

なお、本作は9月18日発売予定の『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』の前日譚となっている。こちらはスマホサイズではない本格小説なのだが、もし『スワイプ厳禁』で読書の楽しみを知った人が『閲覧厳禁』を買うような流れができたらすごいことだ。

参考リンク:双葉社 執筆:冨樫さや Photo:PR TIMES、RocketNews24.

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