広島に上陸…高橋大輔と覚醒した「滑走屋」たち(田中 亜紀子)

2024年福岡での上演に続き、2025年3月8日、9日に広島で再演された、高橋大輔さんフルプロデュースのアイスショー「滑走屋」。本番6公演は大盛況。そのダークでカッコよく、艶のあるショーの動画が今もSNSでは話題を呼んでいる。一体どんなことが起こっていたのか? ゲネプロから広島で参戦したライター田中亜紀子さんが終演後に振り付けの鈴木ゆまさんにも話を聞き、レポートする。

楽公演を終えた滑走屋たち。出演スケーター;高橋大輔、村元哉中、村上佳菜子、友野一希、島田高志郎、三宅星南、青木祐奈、大島光翔、櫛田一樹、門脇慧丞、木科雄登、佐々木晴也、北村凌大、松岡隼矢、菊地竜生、矢島司、戸田晴登、大中惟吹、大久保政宗、中西樹希、三宅咲綺、江川マリア、奥野友莉菜、岩野桃亜、櫛田育良、竹野比奈 写真/高橋大輔公式インスタグラムより

2024年からの大きな「違い」

「あれ?」と違和感があったのは、「滑走屋」の公演前夜、ゲネプロ(公開リハーサル)が始まってすぐのことだった。今回の「滑走屋」は再演とはいえ、あちこち振り付けが見直され、使う部分が増えた曲があったり、新しいプログラムもあるという。さらにアンサンブルスケーターが6人も増え、総勢26人の大所帯になりフォーメーションも変わっていることも予想された。だから印象が違うのは当然だが、そういうこととは違う「何か」がある。

そう考えながら見ていて、気がついた。学生のアンサンブルスケーターを含め、全体的に演技の緩急がものすごく大きくなっているのだ。率いる高橋大輔さんは緩急はもちろん、独特の間合いが常にあるが、キャスト全体がスピーディーでダンサブルなナンバーを必死に踊りながらも、観るものの目を意識した、いわばエンタメ集団になっている。これは「滑走屋」たちが覚醒し、大きな進化をとげているのではないか?

2024年、福岡で産声をあげた「滑走屋」を初めて見たときの驚きは忘れられない。暗闇の中からわらわらとわいてくる、暗黒集団のような黒いマントと仮面をつけたスケーターたち。ダークでクールな楽曲にあわせ、メインスケーターもアンサンブルスケーターも入り乱れたグループナンバーがとにかくカッコよかった。総合演出の高橋大輔さんと、陸のダンサーで、振付師である鈴木ゆまさんらが、多くのプログラムを時間のない中で0から生み出したショーの仕上げに、スケーターたちはそれに必死に挑戦。

2024年の「滑走屋」 写真/「滑走屋」Officialインスタグラムより

しかも高橋さんが自ら選んだ若手のアンサンブルスケーターは、ショーに出ること自体初めての選手も多かった。それでもそんな彼らが国際的なスケーターたちに必死にくらいついこうとする、粗削りながらエネルギッシュな演技があいまって、リンクからのエネルギーの渦にまきこまれたような衝撃があった。新たな試みであるがゆえ、様々な困難に見舞われたが、それさえも、みなぎる緊張感とエネルギーに変え、「創造の瞬間」を現場で、そしてSNSにあふれる観客動画から、観るものに体験させてくれるような魅力があった。

「動画をアップしてくれた観客の方たちには、本当に感謝です」

今回はまたそれとは別の魅力がある。二期生の参戦に刺激をうけて、メインキャストもアンサンブルスケーターも一期生たちは、さらにがんばったのであろう。全体が「魅せる」ことに覚醒し、物語性やテーマ性がより明確に伝わってくる。進化した照明に彩られ、滑走屋に新たなページが開かれたのだ。

ゲネプロ終了後、振り付け担当の鈴木ゆまさんとすれ違ったときに、「どうだった?」と感想を求める彼女の目の奥に、自信がのぞいているような気がした。ゆまさんは言う。

「練習は関東組からスタートしたのですが、当初は今回から参加する関東組の2期生たちはかなり緊張していたんですね。でも、村元哉中さんや村上佳菜子さんはもちろん、前回から参加した一期生の大島光翔くんや青木祐奈さんたちが自発的に指導役として、2期生たちを引っぱってくれた。関東と関西組が合流した松山合宿では、さらにメインスケーターや一期生たちが率先して引っ張り、出番ではないときも若い子たちに指導して無駄な時間がないよう動いてくれていました。おかげで私と大輔さんは、新しい振付やクリエイティブな作業に集中できた。

鈴木ゆまさんが「いざ広島へ!関東組関西組と合流!」とポストした写真 写真/鈴木ゆま公式インスタグラムより

また福岡公演の時はスケーターは俯瞰で全体を見られないので、自分たちがやっていることがよくわかっていなかった部分があったんですね。でも、福岡公演の観客のみなさんがたくさん動画をSNSにあげてくださったことで、今回は一期生も二期生もそれを見て、滑走屋の世界観を理解し、自分たちに何が求められているのか、そして作品を自分なりに分析して予想以上に理解した状況で練習にのぞんでくれたのは大きい。動画をアップしてくれた観客の方たちには、本当に感謝です」

練習のときの高橋大輔さんと鈴木ゆまさん 撮影/森清

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