日銀が今週の決定会合で利上げへ、トランプ氏就任後に市場混乱なく
日本銀行は23、24日に開く金融政策決定会合で追加利上げを決める見通しだ。20日のトランプ米大統領の就任後、金融市場で大きな混乱は起きず、最大のヤマ場を乗り越えた。
就任演説では世界経済や金融市場に大きく影響する関税や為替で踏み込んだ発言はなかった。その後メキシコとカナダへの25%関税や輸入品への一律関税の可能性、10%の対中関税を検討していることに言及したが、市場の反応は限定的。今後も米政権の政策を巡る不確実性は続くが、大きな方向性が示される初日を無難に通過したことで安心感が広がり、市場の1月利上げ予想は9割台となっている。
植田和男総裁は先週、1月会合で利上げを議論して判断することを氷見野良三副総裁に続いて明言。複数の関係者によると、日銀が重視する春闘など賃上げ動向は、支店長会議での報告などを踏まえ33年ぶり高水準となった昨年に続く良好な内容が期待できる状況だ。金融市場が大きく混乱しなければ、政策金利を現行の0.25%程度から0.5%程度に引き上げる公算が大きい。
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複数の関係者がトランプ大統領の就任後に明らかにしたところによると、政府部内でも日銀による今週の会合での利上げを容認するスタンスだ。次回会合が開かれる3月には、来年度予算案の成立に向けて少数与党の石破茂政権と野党との政治的な駆け引きが想定されるため、利上げによる影響は避けたいところだ。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の木村太郎シニアエコノミストは、トランプ氏の就任初日は日本経済に大きなマイナスのサプライズを与えることなく終了したとし、「利上げによって金融緩和縮小への準備を進めている日銀の妨げにはならない」とみている。もっとも、追加関税に関する不確実性は高いままだとし、日銀も引き続き新政権の動向を注視するスタンスを維持するだろうと語った。
トランプ大統領の就任以降、円相場は関税を巡る発言で円安に振れる場面が見られるものの、日銀の利上げ観測が支えとなり、1ドル=155円台を中心に推移している。前日の米国株式相場の上昇を受け、22日の日本株は続伸している。
今週の会合で利上げが決まれば、市場の関心は改めて利上げパス(経路)に向かいそうだ。日銀は経済・物価見通しが実現していけば、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく姿勢を示している。2年半以上にわたり消費者物価(生鮮食品除くコアCPI)は目標の2%を上回り、実質金利の大幅マイナスが続く中で、日銀は段階的な利上げを継続して模索していく可能性が大きい。
17年ぶり0.5%
0.5%は2008年以来の高水準で、これを上回る領域は公定歩合が政策金利だった新日銀法施行前の1995年に遡る。植田総裁は先月の会見で、0.5%を特に意識していないとしつつ、利上げで中立金利に近づけば、その先利上げするかどうかを考える必要性を指摘した。先行きの金融政策運営に関する総裁発言に変化が出るかが注目される。
伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミストは、今後の利上げペースについて、年2回の合計0.5ポイントを基本線に「経済情勢によって一時停止もあり得るため、年1ー2回の非常に緩慢なペースになる」とみている。
ブルームバーグが9-15日に実施したエコノミスト調査によると、2025年末と26年末の政策金利水準の予想中央値はそれぞれ0.75%、1%と緩やかな利上げが想定されている。ただ、経済・物価情勢次第では、利上げペースが市場の予想より早まることも見込まれる。
円安圧力継続も
日銀が24日に政策決定する数時間前に、総務省は昨年12月の全国消費者物価指数を発表する。コアCPIの予想は前年比3.0%上昇で、前月の2.7%上昇を上回り、23年8月以来の3%台に加速するとみられている。
会合では新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)について議論する。関係者によると、コメを中心とした食料品価格の上昇や円安の進行などを背景に、消費者物価見通しの上方修正が見込まれている。インフレ的なトランプ政権の政策を背景に、為替市場ではドル高・円安圧力がかかり続ける可能性もある。
みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ終了が争点化しそうな情勢を踏まえれば、日銀が0.25ポイント利上げしても「円高の動きは限定的かもしれない」と指摘。その上で、「次回会合における追加利上げを催促するような円売りが程なく始まる可能性は高い」とみる。
経団連の十倉雅和会長は14日、日銀の金融政策について、日本の物価上昇率は2%台を維持しており、「物価の動向を見据えながら金利政策を検討することは正常であろう」と発言。経済界からも追加利上げに理解を示す発言が出ている。
BEの木村氏は、賃金・物価が堅調に推移する中で、インフレが2%近傍で推移する見通しを示しながら利上げを見送る説明をする方が難しいとみる。先行きも、展望リポートを公表する会合である「4、7月にも追加利上げを行い、政策金利を1%まで引き上げることがベースライン」と予想している。