25年春闘は中小の賃金底上げが鍵、政府は環境づくり強化を-連合会長
日本最大の労働組合の全国組織である連合の芳野友子会長は、社会全体の賃金の底上げに向けて2025年の春闘は中小企業の賃上げが重要になるとの認識を示した。労組のない企業にすそ野を広げるためにも、価格転嫁の円滑化などの環境整備で政府に取り組みの強化を訴えている。
芳野氏は19日のインタビューで、中小の賃上げ実現に向けて「価格転嫁は非常に大きい」課題だと指摘。1対1の取引関係であれば取り組みやすいものの、多層構造にあるサプライチェーンでは全体でやらなければ価格転嫁は非常に難しいと述べた。賃金の「全体の水準を上げていかないと経済は回っていかない」ため、政府に対して賃上げをしやすい環境の整備を求めた。
政府は価格転嫁を徹底するため、親事業者が下請けに不当な値下げを求めるなどの行為を取り締まる下請代金支払遅延等防止法(下請代金法)改正の早期実現を目指している。芳野氏は、25年春闘は「とりわけ地方の中小・小規模事業者がポイント」であり、特に労組を持たないこうした事業者の賃上げを促すには「政府の力が非常に大きい」と述べた。国内の企業の99%超は中小企業で、労働者の約7割を雇用する。
連合は25年の賃上げ目標を24年と同水準の「5%以上」、中小企業には格差是正分を加えた「6%以上」を要求する方針だ。24年は33年ぶり高水準の賃上げを実現したが、平均の5.10%に対し組合員300人未満の中小は4.45%で、大手との格差は前年から広がった。今年の基本給は順調に伸び、実質賃金も改善傾向にあるものの、物価高に負けない賃上げで実質賃金がプラス圏で定着するには中小の底上げが鍵を握る。
25年春闘の賃上げ目標「5%以上」、新たなステージの定着目指す-連合
芳野氏は、全体で5%以上の賃上げを軌道に乗せることができれば、「実質賃金も上がっていくことが可能になる」と指摘。連合は24年に転換したステージを「定着」させ、賃金や経済、物価の動きを「巡航軌道に乗せる年」と25年を位置付けている。
中小企業の賃金底上げを巡っては、生産性の向上へ省力化・デジタル化のための設備投資に対する支援も必要だとの考えを示した。22日にも政府が閣議決定する総合経済対策の原案には、中堅・中小企業の稼ぐ力や地方経済の潜在力を引き出す国内投資を促進する方針が明記されている。
春闘の動向については、追加利上げの時期を探る日本銀行も注視している。日銀は経済・物価見通しが実現していけば緩和度合いを調整していく方針だ。植田和男総裁は10月の金融政策決定会合後の会見で、賃上げだけで利上げの判断をすることはないとしながらも、「今年と広い意味で同じ程度の賃上げ率になっていけば、私どもの目標にとっては良い動きかなと思う」と語っていた。
金融政策に関して芳野氏はコメントを控えたが、連合としては今年を上回る結果を目指す姿勢を示した。
最低賃金の引き上げ
所得環境の改善策の一環として、石破茂首相は最低賃金を全国加重平均で1500円に引き上げる政府目標の達成時期を2020年代とし、従来の30年代半ばから前倒しする方針だ。現在の1054円から毎年約7.3%の引き上げが必要となる。芳野氏は「1500円の根拠が明確になっていないので根拠を示すべきだ」と指摘した。
連合は「誰もが時給1000円」をまず実現していくとし、中期目標である一般労働者賃金の中央値の6割水準達成に向けては、35年ごろに1900円程度まで引き上げる必要があると述べた。「1500円は通過点」と受け止めているという。
先月の衆院選では、連合が支援する立憲民主党や国民民主党が議席を伸ばし、目標に掲げた与党の過半数割れが実現した。芳野氏は「一強多弱ではなく、緊張感のある政治を求めていた」とし、与野党が緊張感を持った今後の国会運営に期待を示した。その上で、さまざまな政策実現に向けて立憲と国民民主を中心に要請する考えを示した。
自民、公明両党は20日、国民民主との政策協議で、政府の総合経済対策に国民民主が主張した「103万円の壁」の引き上げを明記することを確認した。年末の税制改正で詳細を議論する。
年収の壁を巡って芳野氏は、税の壁と社会保険料の壁をトータルで考える必要があると指摘。社会保険料が発生する106万円の壁については不公平感が強く出ているとし、「働き方も性別にとっても中立的な制度」にする必要があると指摘した。