聖なる装飾からセクシーへ、レースが再び流行している理由
ニューヨーク(CNN) 米メトロポリタン美術館のアントニオ・ラッティ・テキスタイルセンターにある窓のない1室。この部屋の巨大な黒い紙の上には、数百年前のレースが何枚も広げられている。微細な縫い目で円や渦、さらには動物の模様が形作られ、中には丹念かつ精密な手作業で何年もかけて完成したレースもある。
以前は、わずか数メートルのレースを作るのにも何年もかかった。現在は機械によるスピード生産が可能で、昨年のファッションウィークでは、クロエやフェンディを含むランウェーの至る所でレースを見かけた。今回の休暇シーズンはレーススタイルの人気がとりわけ高く、パーティーの装いにさりげないセクシーさや洗練を添えている。
レースの歴史を研究するエレナ・カナギールクス氏によると、レースの起源は15世紀後半にさかのぼる。当時は「小さくささやかな、目立たないとがった縁飾りとして」控え目に用いられていた可能性が高いという。最初は「ちょっとした装飾」だったものが、後に精巧さを増し、やがてステータスシンボルになった。レースの複雑さや脆(もろ)さは言うまでもなく、制作に手間がかかることも高価さの理由だったと、カナギールクス氏は説明する。
レースは衣服に必須のものではなかった。17世紀英国の歴史家トマス・フラーはレースの生地を評して、「余計な装い。飾り立てるもので、隠すことも温めることもないから」と断言している。自分の衣服、特に襟や袖口のような汚れやすい場所にレースを付けて着ること自体、その人のステータスを力強く宣言するものだった。レースを買う資力だけでなく、維持する手立ても必要になった。
米スミソニアン協会によれば、一時はあまりの需要に、「消費財のぜいたくさを制限」する16~17世紀の奢侈(しゃし)禁止法で規制されたこともある。こうした法律は珍しくなく、ビロードや金の刺しゅう、サテンなど他の織物にも制限が課された。ただ、禁止法が常に機能するとは限らず、密輸はレースの歴史の無視できない一部になった。
19世紀には産業革命が到来し、初歩的な機械でレースの繊細な縫い目を再現しようと試みられたものの、うまくいかなかった。カナギールクス氏によると、ラッダイトたち(職人技の機械化に抗議した英国の織工や繊維労働者)はレースの機械を破壊する行為にまで及んだという。最終的に、多くのレース職人が工業化の波にさらされて仕事を失ったが、手作りやアンティークのレースの価値はその後一段と高まった。
第1次世界大戦が勃発すると、ドイツ占領下のベルギーでは、一部のレース職人が米国から委託を受けて「戦争レース」(連合国のシンボルをあしらったレース)を作り、技術継承に成功した。しかしその約10年後、大恐慌の始まりとともにレースへの関心は薄れる。カナギールクス氏によると、レース作りに割かれる労力や関心は減少の一途をたどり、20世紀後半には「古臭いものという連想」が出来上がった。
レースの人気はその後の数十年で浮き沈みしたものの、花嫁衣装やランジェリーでは使われ続けた。レースは以前からリネン下着の縁飾りとして用いられていたが、時代とともに下着のサイズは小型化し、長袖から「小さなナイロンスリップ」へ変化した。技術の進化に伴い、衣服がよりぴったりした作りになり、より薄い素材が用いられるようになると、下着は自然とセクシーになっていったとカナギールクス氏は言う。セクシーさもレースの需要を押し上げる要因になった。
カナギールクス氏が40万人を超えるTikTok(ティックトック)のフォロワーにレースの歴史を紹介する動画を投稿し始めたところ、コメントを残した一部の人から、「チクチクする」のでレースは好きではないという声が出た。カナギールクス氏の見方では、この要因は最近の安いファストファッションのレースの生産方法にある。最終的な仕上がりは「ジャンクそのもので、数回着ただけで洗濯でほつれてしまう」という。
興味深いのは、低品質とはいえレース作りのスピードが上がったことで、比較的高品質なレースの作り方にも影響が出ている点だ。カナギールクス氏によると、顧客が作業にかかる時間を待ちたがらないことから、多くの高級ブランドではもう手作りのレースを使っていない。機械頼みの高級デザイナーが増えている状況だが、かといって機械レースの出来ばえが全て同じというわけではない。機械の製造品質に差があるためだ。カナギールクス氏は「精緻な」レースの例として、リバーレースを挙げる。
精巧なデザインで知られ、高級ファッションブランドから引く手あまたのリバーレースは、操作方法の習得に5~7年の修行を要する専用の機械で作られる。だが、こうした機械はもう製造されておらず、リバースレースの生産はやがて減少する可能性がある。実際、リバーレースが貴重になった状況を踏まえ、シャネルは2016年、レースの内製を続けるためフランスのリバーレースメーカー「ソフィーアレット」の株式を取得した。
レースの生産が進歩を遂げても、AI(人工知能)が未来の一部にならない可能性はある。たとえば、レースの柄はフォトショップなどでも作成できるが、人工知能によってレースを物理的に生産する仕組みは広がっていないと、カナギールクス氏は指摘する。
むしろ、レースの運命を握っているのは、カナギールクス氏やブルックリンレース・ギルドの同僚のような職人たちかもしれない。ニューヨークを拠点とするこの団体は、職人技を守る一助になろうとレース作りのワークショップを開き、展示会やイベントも開催している。
カナギールクス氏は、レース作りは「超高速消費文化」の時代に再びつながりを回復する一つの手だと言う。
「本当に腰を据えて、こういう風に頭の中でパズルを解かなければならず、すごく難しい。そして最後に、美しいレースが出来上がる」
「自分の体の中で自分自身とつながり、自分の手や細かい運動スキルとつながることができる素晴らしい方法だ。世界に拠り所がないと感じている人には、ぜひレース作りをお勧めしたい」
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原文タイトル:Dress Codes: From saintly to sexy, why we wear lace(抄訳)