「野生動物の肉」需要高まるナイジェリア-違法販売横行で感染症懸念

ナイジェリアの首都アブジャへと続く幹線道路沿いに古い板と波形のトタンで作られた簡易な屋台がある。炭と香辛料の匂いが漂い、白い煙が立ち込める中、焼かれた肉を手際よくひっくり返すのは店主のジャスティナ・サンデーさんだ。列をなす常連客にはアフリカの伝統的なおかゆ「パップ」と共にステーキやチョップ、ケバブが提供される。だが、その肉はニューヨーク、ロンドン、東京などではめったに見かけない代物ばかりだ。

  店先には、レイヨウ(アンテロープ)、コウモリ、オオトカゲ、ハリネズミ、ニシキヘビなど野生動物の肉、いわゆる「ブッシュミート」が並ぶ。家畜として飼育された牛・豚・鶏などの肉は一切なく、いずれもハウサ族やフラニ族の猟師がわなで捕獲したり、撃ち殺したりした肉だ。

  サンデーさんは、これらの肉が畜肉よりも健康的だと断言する。「ブッシュミートは脂肪がなく、天然物だ。私たちの先祖もこれを食べて長生きしてきた。エボラ出血熱が流行した時でさえ、私の常連客は来てくれた」と述べる。

  ブッシュミートはナイジェリアの伝統的な食文化の一部だ。これまでは主に農村部で消費されていたが、近年ではその味わいや栄養価の高さ、故郷を思い出す料理として都市部でも需要が高まっている。

  ナイジェリアの野生生物保護協会(WCS)が実施した調査によると、都市部に住むナイジェリア人のうち、過去1年間にブッシュミートを食べたことがあると回答した割合は40%強と、2018年からほぼ倍増している。

  同国ではブッシュミートの販売は法律で禁止されている。だが、ほとんど全ての都市の市場で一般的な畜肉の横に堂々と並べられているのが実情だ。世界銀行の推計によると、ブッシュミートの違法取引は世界全体で年間78億-100億ドル(約1兆1500億-1兆4700億円)規模に上り、麻薬取引、人身売買、武器取引に次いで利益率が4番目に高い犯罪行為となっている。

  このような傾向は公衆衛生上の重大な脅威だと医師らは警鐘を鳴らす。世界保健機関(WHO)によると、過去10年間に発生した新興感染症のうち、約75%が動物由来だ。例えばWHOや他の主要団体は、14年に西アフリカで広まったエボラウイルス病(エボラ出血熱)はウイルスを保有するコウモリを食べたことが発端となり、ギニアから感染が始まった可能性が高いと指摘している。

  また一部の研究者は、パンデミック(世界的大流行)を引き起こした新型コロナウイルスは、19年12月に最初の症例が報告された中国・武漢の市場で、野生動物から人間に感染した可能性が高いと主張している。

  ナイジェリア医師会(NMA)のバイスプレジデント、ウシャクマ・アネムガ氏は「これは単に地域の健康問題ではない。公衆衛生上の緊急事態になりかねない」と述べた。

  ナイジェリアのイロリン大学で人獣共通感染症(動物由来感染症)を研究するヌシラット・エレル氏は、屋外での食肉処理や保護具の不足、獣医師による検査の欠如といった環境が事態をさらに危険にしていると指摘。感染リスクはブッシュミートの摂取だけではなく、取り扱いにも潜んでおり、新たな感染経路になり得ると述べた。

  また、ナイジェリアは感染症流行への対応で一定の進展を遂げたものの、ブッシュミートに関連する感染症を監視システムで確実に検出することはできないと言及。「規制されぬままこの取引が続くことは、時限爆弾の上に座っているようなものだ」と警告した。

  ウヨ大学で生物多様性の保全を専門とするエデム・エニアン教授は、ナイジェリアにおけるブッシュミートへの欲求が野生動物の個体数減少を加速させていると述べる。ウサギやクロコダイル、象などあらゆる動物が無差別に食用として捕獲されており、「このままでは、一部の種が絶滅する未来が待ち受けている」とエデム氏はいう。

  狩る側の動機は単純だ。希少な動物には1頭当たり100万ナイラ(約9万6000円)を超える値が付くことがある。エデム氏は、このような高額での取引が「長期的な生存を無視した無謀な狩猟を助長している」と指摘している。

  ブッシュミートに対する需要の高まりを受け、ナイジェリアの猟師らは現在、遭遇するほぼ全ての野生動物を捕獲している。妊娠中の雌や幼い個体、絶滅危惧種までもが対象となっている。

  同国の法律は特定の動物の捕殺を禁じているが、取り締まりは緩く、保護種の肉を合法の狩猟肉に似せて加工し、消費者や規制当局を欺く業者も少なくない。

  エデム氏は「合法か違法か、法執行官ですら見分けがつかないことが多い。種を識別するための訓練や道具が不足しており、結果として保護法は形骸化している」とコメントした。

  ナイジェリア政府は16年、絶滅危惧種のセンゼンコウ、ウミガメ、ジャコウネコ、パイソンなどの捕獲・取引に対する罰金を1000ナイラから最大50万ナイラに引き上げた。5年の禁錮刑も定められている。

  それでもナイジェリア南部の猟師オラドス・アデラニ氏は、野生動物の捕獲やブッシュミートの販売に何ら問題を感じていない。「私はあらゆる人々に販売してきた。警察官や税関職員に対してもだ。彼らは法律について話すが、私の顧客でもある」と述べた。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:As Bushmeat Consumption Grows, Nigerian Doctors Fear Outbreaks (2)(抜粋)

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