焦点:イランの狙いは「消耗戦」、原油施設攻撃で経済的に欧米揺さぶる
[ドバイ 10日 ロイター] - イランは米国やイスラエルに軍事力で勝つのではなく、持久戦に引きずり込み、消耗戦を耐え抜くことで勝機を見いだそうとしている。戦略は明確だ。すなわち、ドローン(無人機)やミサイルを放ち、重要なエネルギー輸送路を遮断し、世界市場を揺さぶることで、米国が先に折れるよう圧力をかけるというものだ。
米・イスラエルの軍事攻撃と要人殺害という衝撃にもかかわらず、長らくイランにとって究極の守護者であり続けてきた組織である革命防衛隊は、なお主導権を握っている。戦場での指揮、事前に練られた対応計画の実行、戦略や攻撃目標の決定まで掌握している。さらに、米・イスラエルの攻撃で最高指導者ハメネイ師が死亡した後、その息子モジタバ師を最高指導者に推挙する上でも、革命防衛隊は決定的な役割を果たした。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのファワズ・ゲルゲス氏は「革命防衛隊にとって、これは存在そのものを賭けた戦いであり、まさに全面戦争だ。自分たちの生き残りがかかっていると本気で信じている。だからこそ、すべてを巻き込んででも戦う覚悟だ」と話した。
中東研究所の上級研究員でイラン政治専門家のアレックス・バタンカ氏も、「彼らは血を流している獣のようなものだ。傷ついているがゆえに、これまで以上に危険だ」と述べた。
こうした「全面戦争」の発想が、カタールからサウジアラビアまでのエネルギー拠点を狙うイランの攻撃拡大を支えている。近隣諸国や欧米の経済に打撃を与え、そのコストを最大化することで、米国の政治的意志を試そうとしている。
一方、トランプ米大統領は9日、共和党議員らに対し、今回の戦争は「イランを完全かつ決定的に打ち負かすまで続く」と述べつつ、終結は間近だとの見通しも示した。また、作戦完了後は、イランが米国・イスラエル・同盟国に対して長期間使える兵器を持たなくなるだろうと語った。
イラン国内の関係者によると、このような事態の激化は「戦争開始のはるか前から想定されていた」。イラン側は、米国やイスラエルとの衝突は避けられないと考え、革命防衛隊の幅広い軍事ネットワークや代理勢力を総動員し、多層的な戦略を練り上げていた。
そして今、失うものがほとんどなくなったイランは、その計画を実行に移し、政治的・経済的に相手を疲弊させる消耗戦へと戦いの様相を変えつつある。
その影響は国内にも及んでいる。内部関係者によると、モジタバ師の最高指導者就任は、人事を左右する「影の実力者」として革命防衛隊の支配力が決定的になったことを示す。つまり、権力の重心はすでに移ったということだ。形式上は最高指導者が国家の頂点に立つが、イランの行方も聖職者支配の権威も、米・イスラエルの軍事作戦に革命防衛隊が持ちこたえられるかどうかにかかっている。
<どこまで続けられるか>
カーネギー中東センターのモハナド・ハージ・アリ氏によると、今回の戦争の重大な不確定要素は、革命防衛隊がミサイル攻撃という戦略の柱をどこまで維持できるかにある。米政府は、イランの兵器庫の大部分はすでに破壊されたと主張するが、現地筋は「なお戦争前の半分以上を保有している可能性がある」とみている。この推計が正しければ、イランはなお数週間にわたりミサイル攻撃を続けることができ、その間に国内外の経済的圧力が強まれば、米国にとって重大な局面となる。
革命防衛隊の影響力は戦場を超え、日常生活にも及んでいる。イラン筋によると、「以前は港で何週間も滞っていた物資が即座にさばかれ、書類は後回しになっている」という。当局者はこうした動きについて、「戦時経済への備え」であり、供給網を維持しつつ、革命防衛隊の国家統制を強め、統治の継続性を確保するための体制づくりだと説明する。
内政の安定も極めて重要だ。関係者によると、現時点で抗議デモ、有力者の離反、体制内部の亀裂などは見られない。イラン国内の関係者によると、爆撃下の首都テヘランは「窓が昼夜を問わず揺れているが、生活は続いている」という。商店や銀行は営業を続け、物資は確保され、住民の多くは首都を離れていない。
むしろ攻撃が続くことで、米・イスラエル側の狙いとは逆の動きが起きている。インフラ攻撃や内乱の可能性が公然と議論される中、長年の不満を抱えていた市民の間では、国家としての一体感がむしろ強まっており、「誰もイランの分裂など望んでいない」という。
こうした空気が、当面の体制延命に寄与している可能性がある。この関係者は「長期的に体制が存続するかどうかは分からない。しかし少なくとも向こう数週間で崩壊することはないだろう」と話した。
<どちらが先に折れるのか>
戦略面からみると、今回の戦争は次第に二つの持久力が試される局面に収れんしつつある。すなわち、イランがどこまでミサイル攻撃を続けられるか、そして米国とイスラエルが、それを止めるための経済的・軍事的・政治的負担にどれだけ耐えられるかという点だ。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのゲルゲス氏は「先に音(ね)を上げるのは誰なのか。トランプ氏なのか、イラン指導部なのか。それが最大の焦点だ」と話す。
イランは、エネルギー価格を押し上げ、西側経済に圧力をかけることで、米国が撤退を余儀なくされると見ている。実際に原油価格は高騰し、ガソリン価格も上昇している。米政界では11月の中間選挙を控え、経済的影響をめぐる不安が強まっている。
ゲルゲス氏は、こうした圧力が強まれば、トランプ氏が「勝利」を宣言して手を引く可能性があるとみる。その際、イラン最高指導者の殺害や、核・ミサイル能力、主要な軍事インフラの破壊を成果として掲げるだろうという。
だが、イランにとっては、生き残ること自体で十分だ。たとえ戦略インフラの多くが破壊されたとしても、イラン指導部は、史上有数の巨大な軍事機構を相手に生き延びたこと自体を勝利だと主張できる。
その先に現れるのは、深手を負ったイランかもしれない。だが、血を流すイランは、この紛争に入る前の体制よりも同じくらい危険であり、あるいはそれ以上に予測不能な存在となる可能性がある。
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