イスラエルはトランプの「スモールパートナー」だった…イラン停戦が突き付けた「戦略的敗北」とは?(ニューズウィーク日本版)

世界経済を混乱に陥れたアメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、イスラエルが望む形では終わらなかった。 【動画・曽我太一が解説】イラン戦争で中東再編へ トランプ米大統領はホルムズ海峡の混乱を収め、原油市場と自国および世界経済への打撃を抑えることを優先。核問題を最終交渉の議題に残しつつも、イランの原油収入を一定程度認め、復興に民間資金を流し込む余地を残す条項さえも合意に盛り込んだ。 イラン経済を締め上げイスラム体制崩壊へと追い込む──長年そうしたシナリオを描いてきたイスラエルにとって最悪に近い幕引きだった。 イスラエル国内でも当初から、イランへの軍事攻撃が「戦術的成功」を収めても、国家安全保障上の「戦略的成功」に直結するとは限らないとの懸念はあった。 合意を受け、イスラエルの有力右派紙イスラエル・ハヨムは、今回のイスラエルの戦略的敗北を断罪したほか、民放の世論調査でも、イスラエルが勝利したと考える回答は11%にとどまった。 これは単なる世論の冷え込みではない。ネタニヤフ首相が30年近く掲げてきた対イラン戦略そのものへの不信であり、政権にとっては歴史的な誤算ともいえる。 さらに問題なのは、総選挙での勝利を至上命題とするネタニヤフがレバノンの親イラン組織ヒズボラへの攻撃を続けることで、トランプ政権との距離をさらに広げる可能性があることだ。 イスラエルにとって、それは一時的な外交摩擦では済まず、自国の安全保障そのものを揺さぶる問題になる。なぜなら、オバマ政権がイスラエルと結んだ10年総額400億ドル規模の軍事支援覚書が、2028年に失効するからだ。 皮肉なことにネタニヤフが批判し、トランプが敵視したオバマ政権こそが、イスラエルの軍事的優位を支えていた。今度はトランプがその交渉の相手となるが、ここにイスラエルのもろさがある。 6月にフランスで開かれたG7後の会見で、トランプはネタニヤフとの良好な関係を強調しつつも、イスラエルを「スモールパートナー」、アメリカを「ビッグパートナー」と表現した。 アメリカが決め、イスラエルがそれに従うという主従関係に近い構図だ。バンス米副大統領はさらに露骨だった。停戦合意をまとめたトランプを全面的に擁護し、合意を批判するイスラエルの極右閣僚を牽制しただけでなく、アメリカへの感謝を求めた。 トランプ政権はイスラエルに敵対的だというわけではない。むしろ親イスラエル姿勢を貫いてきたが、それが歴代政権のようなイデオロギー的な結び付きに支えられていないところにもろさがある。 あるアラブ系アナリストは「バイデンがイスラエルを見捨てることは絶対にないが、トランプのそうする姿は簡単に想像できる」と語ったが、トランプにとって同盟とは、価値観の共有ではなく取引の対象だ。利益になる限り支えるが、負担が重くなれば距離を置く。 共和党の親イスラエル議員は停戦合意に不満を示す一方、親トランプ陣営からはイスラエルへの支援に懐疑的な声も上がる。 ネタニヤフはこの空気を察し、今後10年でアメリカからの軍事支援をゼロにすると強がるが、自国の世論と政治的利益を優先するトランプほど、厄介な相手はいない。 イスラエルの歴代首相らは「イスラエルはバナナ共和国ではない」と語っている。意思決定を特定の国に左右されないという意味だ。 だが今のイスラエルは戦争を自らの力で終わらせることもできず、ワシントンの判断に左右されている。今回の停戦は超大国に依存してきた国家のもろさを突き付けた。 アメリカという絶対的な後ろ盾とどう向き合っていくのか。イスラエルは今、外交上の大きな分水嶺を迎えている。

曽我太一 (ジャーナリスト)

ニューズウィーク日本版
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