前線で1カ月身動き取れず、救助に現れたのは車輪のついたロボット ウクライナ東部

無人機を使って避難したウクライナ兵の治療にあたるスタッフ=11月、ウクライナ・ドネツク州コンスタンチノフカ近郊/Iryna Rybakova/Ukrainian Armed Forces/Reuters

キーウ(CNN) ウクライナ東部の戦場を3時間かけて運ばれる間、マクシムが感じた時間は永遠にも思えるものだった。マクシムは重傷を負い、ずぶぬれのまま、無人の小さなカプセル型の車両に閉じ込められていた。疲れ果て、孤独で、恐怖に震えていた。

だが、何度も脱出に失敗し、脚に止血帯を巻いたまま無人地帯に33日間身を潜めてきたマクシムにとって、これは生き延びるための最善の、そしておそらく唯一の機会であることは明らかだった。

爆発物を積んだロシア軍のドローン(無人機)が前線周辺の数十キロにわたって飛び交うなか、これまでのような医療救助はほぼ不可能になっている。そのため、ウクライナ軍が遠隔操作する避難用の装甲陸上ドローンに乗ることが最善の避難方法となりつつある。ウクライナはこの車両を「マウルカ」と呼ぶ。

第22機械化旅団の兵士であるマクシムは「何も見えず、どこへ向かうのかも分からない」と振り返った。マクシムは、この記事で引用されている他の兵士たちと同様に、安全上の理由から氏名の公表を控えるよう取材班に要請した。

(First Separate Medical Battalion)

「助からないと思った。(ドローンが)ぶつかってくるか、爆発してどこかに閉じ込められて、そのまま取り残されるのではないかと思った」(マクシム)

こうした恐怖は根拠のないものではなかった。マクシムの救出に向かった無人車両は、これまでに6台が途中で破壊され、そのうち1台はマクシムのもとまで到達した直後、ロシア軍に爆破された。

負傷兵の医療救助は常に大きな危険を伴う。救助隊はしばしば、徒歩や車両、航空機で、戦闘のまっただ中に飛び込まざるを得ないからだ。

無人機の登場により、こうした任務はさらに致命的になった。無人機の航続距離が延び、兵士が最も攻撃にさらされる前線周辺の「キルゾーン」は数十キロにまで拡大した。

戦場での治療は常に危険な任務だが、ドローンの登場によりさらに危険なものとなった(Omega special forces, National guard of Ukraine)

医療救助に関する広く受け入れられている国際基準は数十年にわたって変わっていない。北大西洋条約機構(NATO)の軍事ドクトリンでは「10-1-2原則」と定義されており、負傷した兵士は10分以内に応急処置、1時間以内に適切な高度な医療、2時間以内に手術を受けるべきだとされる。

この「ゴールデンアワー」の原則は、NATO軍が制空権を維持したイラク戦争とアフガニスタン戦争で、多くの命を救ったとされる。

だが、第1独立医療大隊に所属するウクライナ人衛生兵のヘンナディーは、こうした最善の慣行がウクライナでは容赦なく書き換えられていると話す。

ヘンナディーはCNNに「残念ながら、無人機が戦場を変えてしまった。ゴールデンアワーの時間内にヘリコプターで負傷者を病院に運ぶことは不可能だ」と語った。

兵たんや避難のための無人車両がお披露目された=4月/Andrew Kravchenko/Bloomberg/Getty Images

ロシアが戦争初期からウクライナの大部分の空域を掌握してきたため、航空機による搬送はもともと良い選択肢ではなかった。それでも、ロシアが無人機を本格投入する前の開戦当初は、車両で負傷者を迅速に搬送できたという。

「こうしたケースは以前よりずっと少なくなっている。なぜなら、負傷者を1人救助するだけで、車両にどれだけ装甲が施されていても救助隊自身も負傷する可能性があるからだ。車両の装甲が厚ければ厚いほど、(ドローンにとって)優先的な標的となる」(ヘンナディー)

ロシアの無人機技術が急速に進歩し、現場の状況が刻々と変化するなか、ウクライナ軍は解決策を模索し続けている。

マクシムのように絶望的とも思える状況に置かれた人々にとって救いとなっているのが、こうした課題に取り組んでいるウクライナの優秀な技術者たちだ。

無人機を使って避難訓練を行うウクライナ軍兵士=ウクライナ・キーウ州/Julia Kochetova/Bloomberg/Getty Images

数百人を救助、さらに増え続ける

ウクライナ軍第3軍団のアカデミーは「キルハウス」の愛称で呼ばれ、同国の最先端ドローン産業の中枢だ。研究開発拠点と訓練施設を兼ね備え、技術者やソフトウェア開発者、軍関係者のチームが、各部隊の具体的な要望に合わせてドローン兵器を絶えず改良している。

ウクライナでの戦争は、陸海空を問わずドローンが大規模に投入された初めての紛争だ。そのため、現場のチームは状況に応じて対応していくしかない。こうした取り組みは、高官級の軍事使節団から、ウクライナの最新技術を自らの目で確かめたい西側諸国の開発者や技術者まで、多くの外国人を絶えず引き寄せている。

ある日の午後、施設では、工具とモーターの騒音に満ちた小さな部屋で訓練が行われていた。兵士も民間人も、男性も女性も、生徒たちは走り回りながら様々な種類の陸上ドローンを組み立て、発進させていた。こうした陸上ドローンは、正式名称では地上ロボット複合体(GRC)と呼ばれる。

地雷を踏んで負傷したウクライナ軍兵士を搬送する救急隊=2023年1月、ウクライナ・ドネツク州/Yasuyoshi Chiba/AFP/Getty Images
負傷したウクライナ兵を搬送する救急車=2024年5月/Diego Herrera Carcedo/Anadolu/Getty Images

ドローンの設計は、車輪と、その上に貨物ケージまたは装甲ボックスを搭載したプラットフォームという簡単なものが多い。さまざまな地形や攻撃に耐えることが求められる。車輪型もあれば、戦車のようなクローラー(無限軌道)を備えたものもある。

こうした機体は前線に数百台が投入され、陣地に必需品を運ぶほか、負傷兵を医療拠点へ搬送することで人命を救っている。

戦闘で損傷した無人機/Kosta Gak/CNN

「ドローンは消耗品だ。価格と品質のバランスが必要になる」と、スタークの通称を持つ教官はCNNに語った。地上ドローンの価格は1台5000ドル(約78万円)から2万ドル超まで幅がある。

「陸上ドローンは優先的な標的で、常に狙われている。しかし装甲車より小さく、目立たず、音も小さい。だから隠しやすい」(スターク)

無人機の試験の様子(CNN)

スタークによると、旅団の兵站(へいたん)任務の90%は地上ドローンが担っている。マクシムのように幸運にも装甲カプセルに乗れる例もあるが、多くの負傷兵は遠隔操作の簡易な台車のようなドローンの上に横たわり、防弾毛布に包まれて搬送されている。

「GRCは戦場のウーバーのようなものだ。部隊指揮官が輸送すべき物資や支援が必要な物資を指示し、GRC部隊がそれらの任務を遂行する」とスタークは説明する。

スタークの旅団だけでも、過去1年でドローンは約7万キロを移動し、数百人を避難させたという。

アカデミーの教官の中には陸上ドローンによる救助がどのようなものか身をもって知っている人もいる。戦前は歴史の教師を目指していたことからヒストリアンのコールサインを持つ教官は自身について、ドローンで避難した最初期の1人だった可能性が高いと語った。

軍服に身を包み、右足と、左足の代わりとなった義足にそれぞれスニーカーを履いたヒストリアンは、ロシアの攻撃か即席爆発装置で負傷したと話す。仲間がヒストリアンに応急手当てを施し、近くの塹壕(ざんごう)へ運んだ後、地上ドローンで安全な場所へ移送した。

陸上ドローンで避難した最初期のひとりだったと話すヒストリアン/Kosta Gak/CNN

道はでこぼこ

「道がでこぼこで車両にサスペンションがなかったため、負傷した左足が外れて地面を引きずり始めた瞬間があったが、戦友がすぐにそれに気づいて引っ張り上げてくれた」(ヒストリアン)

乗り心地は「少し不快」ではあったが、目的地まで時間のかかる装甲車での避難を待つよりは、はるかに良い選択だったという。

移動は約1時間半。ドローンや砲弾が飛び交う場面を除けば、おおむね順調だった。

「車から逃げ出したい瞬間もあったが、どうにもできない」とヒストリアンは失った足を指さして笑った。これは、鍛え抜かれたウクライナ兵だけが笑える冗談だろう。

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