靴は脱がなくてOK、液体持ち込みも緩和-悪名高い米空港検査に変化
靴を脱がなければならない保安検査や、シャンプーの機内持ち込み制限。米国の空港利用者は、2001年9月11日の米同時多発テロ後に導入された保安措置に、あきらめといら立ちを抱きながら従ってきた。
だが、約20年ぶりに状況が変わりつつある。
米国では7月から、搭乗前の保安検査で靴を脱ぎ、X線検査にかける必要がなくなった。次の段階として、機内持ち込み液体容器を3.4オンス(約100ミリリットル)以下に制限する規則を緩和する方針も示されている。ただ、この変更が全ての乗客・空港に適用されるのか、それとも一部に限られるのかは明らかになっていない。
米運輸保安局(TSA)のシュタール副長官代行は、8月28日のインタビューで「こうした変更は、一つ一つは小さなことに聞こえるかもしれないが、積み重なれば乗客に大きな影響を与える」と語った。9月1日のレーバーデー(労働者の日)の週末にかけ、TSAは前年比2%増の1740万人近い乗客を検査する見込みだ。
シュタール氏は、液体ルールの変更について具体的には言及しなかったが、近く発表がある見通しだと明かし、ノーム国土安全保障長官にとって「極めて優先度の高い課題」だとも述べた。機内持ち込み荷物からノートパソコンを取り出して検査する規則も、見直し対象の一つだという。
さらにTSAは7月、ロンドン発の一部の国際線乗客について、米国内での乗り継ぎ時に再検査を免除する試験的プログラムを開始した。本人確認に生体認証を使う取り組みも拡大している。
こうした変更が実行されれば、2026年のFIFAワールドカップや28年の夏季五輪に向けて増加が見込まれる訪問客の利便性向上につながる可能性がある。ただし、渡航注意勧告やトランプ大統領の税・歳出パッケージに盛り込まれた入国者の手数料引き上げといった、外国人渡航者にとっての新たな障害を打ち消す効果があるかどうかは、まだ不透明だ。
米国旅行協会の旅行保安専門家ライアン・プロピス氏は「これはTSAにとってかなり大きな転換点となる動きだ」と語った。
リスクとのバランス
靴や液体に関する規則は、同時多発テロ後に続いたテロ未遂事件を受け、2006年に導入された。01年12月にリチャード・リード服役囚が、アメリカン航空機内でスニーカーに仕込んだ爆薬を爆発させようと試みて失敗した。06年8月には、英国から米・カナダ行きの航空機で液体爆弾を起動させるテロ計画が発覚した。
検査時のコート着用禁止や、到着・出発ターミナルへの立ち入り制限といった同時多発テロ以降の規則の多くは過剰で、「セキュリティー・シアター(見せかけの安全対策)」に過ぎないと主張する批評家もいる。
だが、現役または元政府当局者は、そうした見方に否定的だ。2010年から14年までTSA長官を務めたジョン・ピストル氏は、「脅威は現実のものであり、リスクは非常に大きい」と述べた。
デンバーのメトロポリタン州立大学航空・宇宙科学学部のジェフ・プライス教授は、政府が手続きを見直せるようになった大きな要因の一つとして、2006年以降の技術革新を挙げた。
とはいえ、政府の保安体制は、テロから市民を守ることと、円滑な旅行を確保することとの間で綱渡りのようなバランスを取らなければならない。
シュタール氏は「私たちはより焦点を絞り、より革新的に、そして技術を積極的に取り入れるようになっている」と述べ、TSAが安全を犠牲にするようなことはないと強調した。
液体
匿名を条件に語った関係者2人によると、機内持ち込みの液体の制限見直しについては、規制の完全撤廃ではなく、持ち込める量を増やす方向で検討されている。
セキュリティーの専門家によると、より大量の液体を安全かつ広範に認めるためには、爆発物などの脅威を検出する能力に優れた3D画像を生成できるコンピューター断層撮影(CT)型の検査機を広く導入する必要がある。
TSAによると、こうした装置はすでに米国の商業空港432カ所中285カ所に設置されているが、全面的な導入は2043年になる見通しだ。シュタール氏は、導入を加速させる方法を模索していると述べた。
生体認証
トランプ政権は旅行者の本人確認や保安検査の迅速化のため、生体データの活用拡大も目指しているが、この取り組みは議員やデータプライバシー団体からの反発を招いている。
TSAは8月、セキュリティーシステム運営会社のクリア・セキュアと協力し、一部の空港で旅行者の生体データをIDや搭乗券と自動的に照合する「eゲート」の運用を開始したと発表した。
だが、こうした取り組みは抵抗に遭っている。
超党派の上院議員グループは今年、顔認証技術について、利用により厳格な制限を設ける法案を提出した。上院商業委員会委員長のクルーズ議員(共和党)は先月、旅行業界団体や航空会社、空港経営者による強いロビー活動を受け、この法案の採決を延期した。だが、議会が夏季休会から開ければ、論争は続く見通しだ。
シュタール氏は「生体認証と顔認証は、最も効果的な本人確認手段のひとつと言える」と述べ、プライバシーに関する懸念を理解しているとして、議会と協力して解決策を探っていく考えを示した。
原題:Shoes On, Liquids OK: TSA to Change How Flyers Pass Security (1)(抜粋)