米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ=日銀展望リポート
[東京 1日 ロイター] - 日銀は1日に発表した展望リポート(経済・物価情勢の展望)で、米国の高関税政策の影響を踏まえ成長率と物価の見通しを引き下げた。経済と物価の見通しが実現していくとすれば引き続き政策金利を引き上げる方針を示す一方で、基調的な物価上昇率が目標の2%に到達する時期を「見通し期間後半」とし、従来から後ずれさせた。
日銀はこれまでも、基調物価が2%に到達する時期を「見通し期間後半」(2025年度後半から26年度)としてきた。今回から見通し期間が27年度まで延長されたことで、表現は同じでも達成時期は後ずれしたことになる。
実質国内総生産(GDP)の政策委員見通しの中央値は、25年度を前回のプラス1.1%からプラス0.5%に、26年度をプラス1.0%からプラス0.7%にそれぞれ引き下げた。今回初めて公表した27年度はプラス1.0%だった。
日銀は経済の先行きについて、各国の通商政策等の影響を受けて海外経済が減速し、企業収益なども下押しされるもとで「成長ペースは鈍化する」とした。ただ、個人消費については、当面は物価上昇の影響を受けつつも、雇用者所得の増加が続くことなどから「緩やかな増加基調を維持する」とした。
消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の見通し中央値は、25年度がプラス2.4%からプラス2.2%に、26年度がプラス2.0%からプラス1.7%に下方修正。原油価格の下落や今後の成長ペースの下振れの影響が出るとみている。27年度はプラス1.9%とした。
より基調的な生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価指数(コアコアCPI)の見通し中央値は、25年度がプラス2.1%からプラス2.3%に上方修正。26年度はプラス2.1%からプラス1.8%に下方修正、27年度はプラス2.0%となった。
日銀は基調的な物価上昇率について、成長ペースの鈍化などで伸び悩むものの、その後に成長率が高まれば人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから「徐々に高まっていく」とした。
物価動向を占う上で重要なマクロ的な需給ギャップは「現状程度で維持した後、見通し期間終盤にかけて再び改善していく」とした。中長期的な予想物価上昇率については、成長ペースの鈍化などで「伸び悩む」ものの、成長率が高まり、労働需給の引き締まりが明確となれば再び緩やかに上昇していくとした。
前回1月の展望リポートでは、予想物価上昇率の説明の部分で賃金と物価の好循環が「引き続き強まっていく」との記述があったが、今回はこの記述がなくなった。
リスク要因はさまざまあるものの、特に「各国の通商政策などの今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性は極めて高く、その金融・為替市場や日本経済・物価への影響については十分注視する必要がある」とした。
リスクバランスは、経済の見通しについて「25年度と26年度は下振れリスクの方が大きい」、物価の見通しについても「25年度と26年度は下振れリスクの方が大きい」とした。
日銀は金融政策の先行きについて、現在の実質金利が「極めて低い水準」にあることを踏まえると「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と明記し、利上げ路線を維持した。ただ、経済・物価の見通しが実現していくかについては、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を巡る不確実性が極めて高い状況にあることを踏まえると、「内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要」と指摘した。
今回の展望リポートは米国の関税政策を巡る不確実性が非常に大きい中で作成された。日銀は展望リポートの脚注で、展望リポートの中心的見通しは「今後、各国間の交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提に作成している」と記述。今後の各国の政策の帰すうや、それを受けた各国の企業・家計の対応次第で「経済・物価の見通しが大きく変化し得る点には注意が必要だ」とした。
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