天の川銀河の超大質量ブラックホールは約1000万年前に別のブラックホールと合体していた?

こちらは複数の電波望遠鏡が連携して観測した天の川銀河中心の超大質量ブラックホール「いて座A*(いてざエースター、Sgr A*)」の画像です。2022年5月に国際研究グループ「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT: Event Horizon Telescope)」が公開しました。

【▲ 電波で観測された天の川銀河の超大質量ブラックホール「いて座A*(Sgr A*)」の画像(Credit: EHT Collaboration)】

いて座A*の質量は約400万太陽質量(※1)。ブラックホールそのものを電磁波で直接観測することはできませんが、周囲のガスから放射された電波を観測することで、シャドウと呼ばれる中央の暗い領域が捉えられています。

※1…1太陽質量=太陽1個分の質量

いて座A*は1000万年前に別のブラックホールと合体していた?

北京大学物理学院/KIAA=カブリ天文天体物理研究所の劉富坤教授が率いる研究チームは、いて座A*が約1000万年前に別のブラックホールと合体した可能性を示す研究成果を発表しました。合体したのは約1万5000太陽質量の中間質量ブラックホールであり、2億5000万~5000万年前にかけて天の川銀河の中心を周回していたと研究チームは考えています。

研究チームが着目したのは、天の川銀河を高速で移動する超高速度星です。超高速度星は天の川銀河の中心から秒速数百km以上で放出されたとみられる星で、KIAAによればこれまでに約20個が特定されています。

超高速度星を生成するメカニズムは2種類が予想されています。1つは、2つの星からなる連星がブラックホールに接近した時に片方が捕獲される一方で、もう片方が弾き出されるというもの。もう1つは、ブラックホールの連星に接近した星が加速されて弾き出されるというものです。ただ、どちらのメカニズムも秒速700km以上の極端に高速な超高速度星が数多く生成されると予想しており、実際の観測結果と矛盾しているといいます。

【▲ 超高速度星が発生する2つのメカニズムを示した図。上は連星をなす星の片方が弾き出されるパターン、下はブラックホールの連星に接近した星が弾き出されるパターン(Credit: KIAA)】

劉教授らは今回、いて座A*が比較的最近まで連星ブラックホールをなしていたとすれば、極端な超高速度星が少ない理由を説明できることを発見しました。研究チームのモデルは、超大質量ブラックホールが連星をなしている場合に接近した単一の星や連星は質量が小さなブラックホールと相互作用する可能性が高くなり、結果として放出時の速度が比較的低くなることを示しているといいます。ブラックホールの合体後には1つの超大質量ブラックホールが残るため、接近した連星が崩壊する時に極端な超高速度星が生成されるようになります。

既知の超高速度星の速度分布を分析した研究チームは、前述の通り約1万5000太陽質量の中間質量ブラックホールが2億5000万~5000万年前にかけて天の川銀河の中心に存在しており、いて座A*と約1000万年前に合体したと考えています。この中間質量ブラックホールは約100億年前に天の川銀河と合体した矮小銀河(※2)に由来すると研究チームは推測しています。

※2…Gaia-Enceladus-Sausage、Gaia-Sausage-Enceladus、Gaia-Enceladus、Sausage Galaxyなどと呼ばれる。

今回の研究成果は超高速度星の速度分布を説明するだけでなく、天の川銀河の中心における超大質量ブラックホールの形成と進化の過程について新たな知見を提供するものとなりました。今後はチリに建設された「ベラ・ルービン天文台」のシモニー・サーベイ望遠鏡(2025年観測開始予定)などによってさらに多くの超高速度星が発見されることで、天の川銀河中心の歴史やブラックホールの進化に関する理解がより深まると期待されています。

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

参考文献・出典

  • KIAA - New “Archaeological” Discovery by PKU Astronomers: Supermassive Black Hole Binary Merger at Milky Way’s Center 10 Million Years Ago-The Kavli Institute for Astronomy and Astrophysics at Peking University

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