トランプ米大統領に「慈愛の心」求めた米国聖公会ワシントン教区主教 謝罪要求にも怯まず 2025年1月24日

 米ワシントンの米国聖公会ワシントン教区主座聖堂(ワシントン国民大聖堂)で1月21日に行われた「国民のための祈りの礼拝」において、就任したばかりのドナルド・トランプ新大統領を前に「慈愛の心」を求めた同教区主教のマリアン・バディ氏による説教が、国内外のメディアで報じられ注目を浴びている。

 この礼拝は1933年以来、大統領就任の際に行われてきた伝統を持つ。キリスト教(聖公会、合同メソジスト、長老派、バプテスト、アフリカン・メソジスト、福音ルーテル、メノナイト)のほか、モルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)、ユダヤ教、イスラム教、ヒンドゥー教、シーク教を含む多宗教・多教派による、多様性や分断の中における「一致の礎」を強調して行われた=写真・式文の表紙

 キリスト教の聖歌・賛美歌、祈りだけでなく、マスジッド・ムハンマド(礼拝所)から、イスラム教徒の指導者であるムハンマド・フレイザー・ラヒム氏によるクルアーンの朗読が行われたほか、ユダヤ教徒によるヘブライ語の歌もささげられた。

 礼拝では旧約聖書の申命記10章17節~21節に続き、マタイによる福音書7章24節~29節が朗読された。「『そこで、私のこれらの言葉を聞いて行う者は皆、岩の上に自分の家を建てた賢い人に似ている。雨が降り、川が溢れ、風が吹いてその家を襲っても、倒れなかった。岩を土台としていたからである。私のこれらの言葉を聞いても行わない者は皆、砂の上に自分の家を建てた愚かな人に似ている。雨が降り、川が溢れ、風が吹いてその家に打ちつけると、倒れて、その倒れ方がひどかった』イエスがこれらの言葉を語り終えられると、群衆はその教えに驚いた。彼らの律法学者のようにではなく、権威ある者のようにお教えになったからである」(聖書協会共同訳)

 バディ氏は説教の終盤、20日の大統領就任式で「ジェンダーは男女の二つしかないというのが、アメリカ政府の公式方針になる」と演説したトランプ氏に向き合い、努めて穏やかな口調で諭すように語った。

 「大統領閣下、最後に懇願させてください。何百万人もの人々があなたを信頼しています。そして、昨日、あなたが国民に語ったように、あなたは愛に満ちた神の摂理を感じておられるはずです。私たちの神の名において、今、恐怖を感じている自国の国民に慈愛を施してくださるよう、お願いいたします。

 民主党、共和党、無所属の家庭には、ゲイ、レズビアン、トランスジェンダーの子どもたちがおり、中には命の危険すら感じている子どもたちもいます。私たちの農作物を収穫し、オフィスビルを清掃し、養鶏場や食肉加工工場で働き、レストランで食事をした後の食器を洗い、病院で夜勤をこなす人々の中には、市民権を持たないか、あるいは適切な書類を所持していない人がいるかもしれません。しかし、移民の大多数は犯罪者ではありません。彼らは税金を支払い、良き隣人でもあります。彼らは私たちの教会やモスク、シナゴーグ、グルドワーラ、寺院の忠実な信徒でもあります。

 大統領閣下、どうか私たちのコミュニティで、親が連れ去られてしまうのではないかと恐れている子どもたちに対して慈愛の心を持ってください。そして、自国での戦地や迫害から逃れてきた人々に対して、この国で思いやりと歓迎の意を見出せるように支えてください。私たちの神は、私たちがよそ者に慈しみを向けるべきであると教えています。なぜなら、かつて私たちは皆、この土地ではよそ者だったからです。神が私たちに、すべての人間の尊厳を尊重し、愛をもって互いに真実を語り、互いに、そして神とともに謙虚に歩む強さと勇気をお与えくださいますように。すべての人々のため、この国と世界のすべての人々のために。アーメン」

 この日の夜、礼拝を振り返ったトランプ大統領はSNSを更新し、「21日朝の礼拝で話をした主教『とやら』は極左で強硬な反トランプ主義者だった。彼女は無礼な方法で教会を政治に巻き込んだ。人々を殺した多くの不法移民について言及しなかった。陰険な口調で、説得力も知性も感じられなかった。礼拝自体も非常に退屈で、つまらないものだった」と反発し、国民への謝罪を求めた。

 マリアン・バディ氏はCNNのインタビューで、説教の真意について「他の説教と同じように、大統領との対話を通して、聞いているすべての聴衆に語りかけた。この国で怯えている人々がいることを想起させ、できるだけ穏やかにもっと広い思いやりの余地があると反論したかった」とした上で、「(説教で言及した)LGBTQ当事者と移民の人々は抽象的な存在ではなく、私が知る実在の人々。この国で違いや立場を越えて、共通の人間性を認めるというビジョンを提示したかった」と強調した。

BREAKING NEWS:

Bishop Mariann Budde who challenged Trump says she felt a responsibility to address him.

She’s a hero.

You have to love MAGA losing their minds over it while they have no problems with Evangelical pastors preaching politics.

pic.twitter.com/g8tGKSVnjr

— CALL TO ACTIVISM (@CalltoActivism) January 22, 2025

 米国聖公会のニュースサービス(ENS)は23日、同主教の説教とCNNのインタビュー、賛否両論を交えた英文記事を掲載。「説教の時間は15分未満だった。政治的分裂の時代に信仰に基づいた一致を呼びかけるというテーマは、ワシントン教区主座聖堂での就任式後の礼拝としては、基準を外れたとは言いがたいもの。同大聖堂はこれまで10回同様の礼拝を行ってきた」などと肯定的に報じた。

(翻訳協力=西原廉太、エキュメニカル・ニュース・ジャパン)

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