「脳の最盛期」は40代後半に開花する…医師が説く「脳がヨボヨボになる人」と「ピンピン元気な人」の決定的違い(プレジデントオンライン)

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記憶力の衰えを感じたらどうすればいいのか。脳内科医の加藤俊徳さんは「『年齢を重ねて物覚えが悪くなった』と嘆く人がいるが、それは勘違いである。もし『衰え』を感じた場合、脳の成長が滞り始めているサインかもしれない」という――。 ※本稿は、加藤俊徳『すごい記憶力の鍛え方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。■テストの成績と脳の発達はまったくの別物 「暗記ができる人=賢い人」 多くの人はそのようにイメージするでしょう。しかし、私はそう思いません。見たもの、聞いたものをそのまま覚えることができる人には、確かに才能がひとつ備わっているといえます。記憶したことを確認するためのテストで良い成績を取れれば、果たして本当に「賢い」のでしょうか? 僕が思うに、同じ「記憶」でも試験に受かることと、脳が発達することは全くの別物です。 この両者の違いの謎を解くためには、そもそも世間一般でいわれている「暗記」について考える必要があります。私は英語が苦手な学生でした。英単語や文法がなかなか覚えられず、周囲はまさに「暗記」ができる学生だらけで、当時はその人たちを崇高な存在に祭り上げて、本当に「賢い」と思っていました。暗記するとは、見たり聞いたりしたことが、脳に記憶として定着することです。ところが暗記しているか否かはヒントなしでスラスラと思い出してみないと自覚できません。 教科書や参考書などの本の文章を見ている時は覚えられる気がするのですが、いざ試験を受けると暗記力の差が歴然とするのです。■脳科学的に優秀なのは「長期記憶」 さらに、私と賢い学生との差はまず、その英単語を覚える時間にありました。私が1日何時間もかけて覚える英単語を、丸暗記が得意な学生は10分程度、時には一度で覚えてしまう。その時間の差は確かに大きいといえるでしょう。 時間的な視点で見たら、瞬間的に覚えられる人が優秀だとなるかもしれませんが、脳科学的な視点で考えると、どちらがより優れているでしょうか。結論からお伝えすると、長期記憶の方が脳科学的には優秀となります。 記憶には、短期記憶と長期記憶があり、どちらも記憶を司る「海馬」を働かせることで物事を記憶しています。 記憶は時間とともに薄れるものと、長期記憶化して「一生もの」として身につくものがあります。海馬がしっかり働く時間が長ければ長いほど記憶に定着しやすいのです。脳科学的に見ると、私のように英単語を覚えるのに時間がかかる人は、勉強にかける時間も必然的に長くなるため、英語力が「一生もの」になりやすいといえるのです。 学生時代でしたら、短時間での「丸暗記」は、試験の点を取ることには役立つでしょう。しかし、我々中高年の大人は時間をかけて覚えた方が、長期記憶として適切に情報を取り出すことでより優れた結果を残せるでしょう。

 テストで効果的にいい点を取れる「従来型の暗記」と、“脳科学的な視点から見た、本当に頭のいい人”がしている「真の暗記」、これら両方のメリットを最大限に活かすための方法をこの後、解説していきます。

■「大人になると記憶力が落ちる」はウソ 年齢を重ねて、記憶力が落ちた、物覚えが悪くなったと嘆いていませんか? これこそが、脳に対する大きな勘違いです。もはや「呪い」とも呼べるような、その“思い込み”を、私は全力で否定します。 私から言わせてもらえば、大人になっても、記憶力が衰えることはありません! あなたの脳が成熟した結果、「記憶」するための脳の働きが変わっただけなのです。その仕組みをお伝えすることで、私は皆さんにかけられた「記憶力の呪い」を解く。それがこの本の目的のひとつです。 子供は、言われたことをそのまま繰り返す「オウム返し」が得意です。知らない言葉でもそのまま記憶することができる若い脳は、まさに従来型の「暗記」が得意であるといえるでしょう。 子供の頃は、耳から聞いた情報をそのまま記憶すること、つまり言葉の習得のために、聴覚から記憶に繋がる脳の回路が最初に発達していきます。この時には、記憶の中枢である海馬と聴覚は相補的な関係になっていて、よく聞けば海馬が働いて記憶できるし、海馬が働かなければ聞こうともしないのです。 このような子供の頃の脳の仕組み、すなわち、聞いたものをそのまま吸収できる「学生脳」は20歳頃まででピークを迎えます。そのまま記憶することを「無意味記憶」といいます。■子どものほうが「暗記」が得意なワケ 生まれてから20歳くらいまでの、成長段階の脳が得意とする「丸暗記」や「オウム返し」は、脳科学的な働きでいうと「耳から聞いた情報をそのまま記憶する力が強かった」だけということに他なりません。 従来型の「暗記」は無意味記憶をする力がある、つまり脳の使い方が未成熟だからこそ備わっていた脳の仕組みなのです。 聞いただけで理解をしなくても覚えられるというのは、確かに強力な才能であるように思えます。ただ、これができるのはズバリ「他の脳機能が未熟だから」に他なりません。 一般的には、他の脳機能が発達していくほど無意味記憶ができる脳からは、遠ざかっていきます。補足すると例外的に、幼少期の記憶の仕組みが強く残っている人もいます。無意味記憶が得意な人は、記憶した後で、じっくり理解していくことになります。 成熟した大人の脳は、無意味記憶には向かなくなりますが、「意味記憶」を行うことが得意になっていきます。

 脳のネットワークが発達することによって意味記憶を生み出すことができていきます。その言葉や、姿、形が持つ意味を深く理解することで、大人の脳はどんどん記憶力を高めていくことができるのです。

■脳科学的な「成人式」は30歳 脳は、生涯にわたり成長を続けます。現在の日本では18歳で成人を迎え、大人になったことを実感すると思います。脳の働きでいえば、その頃はまだ成長過程。記憶力や判断力、決断力など、あらゆる面を考えても、20歳以降の大人の脳の方がレベルは上です。 脳科学的な「成人式」は30歳です。 代までの脳は、器官としてはまだ未熟で、成長段階にあります。脳の成人を迎えた後も、脳の機能はどんどん成長し、本来の「脳力」を発揮できるようになります。 その成長に「終わり」はありません。生涯にわたって、成長を続けます。 脳の中には、複雑な情報処理を行う部分があります。脳の「エリート集団」とも呼べるその場所を、私は「超脳野」と呼んでいます。 超脳野には、以下のようなものがあります。----------①超側頭野……記憶や知識の蓄積を担う。30代が成長のピーク②超頭頂野……情報をもとに分析や理解をする。40代が成長のピーク③超前頭野……実行力や判断力を司る。50代が成長のピーク---------- これらの高次的な脳の力は、中年期以降がピークで、後天的に伸ばしていけるものです。つまり、学ぶには絶好の時期だといえるでしょう。■老化ではなく、得意なことが変わるだけ 脳全体の最盛期は40代後半から50代です。 皆さんが「老い」を感じる頃が、実は脳の“旬”なのです。結婚や就職、仕事……ライフステージのさまざまな変化を経験し、新しい刺激を受ければ受けるほど成長する脳の高次機能が熟成をするのは、中年以降。 30代〜50代、特に45歳から55歳までの期間は人生における脳の「ゴールデンタイム」といえるでしょう。 さらに大人の脳は、いくつになってからでも「学びたい」という欲求があれば驚くべき成長ができる可能性を秘めています。それはゴールデンタイムを過ぎた60歳でも80歳でも同じ。 繰り返しになりますが、脳は生涯成長をし続ける仕組みを備えています。ですから、脳の「衰え」を感じた場合、脳の成長が滞り始めているサインです。 たとえば、得意なことが変わっていくだけで、以前できたことができないために、私たちはその変化を「老化」だと思いこんでしまうこともあります。----------加藤 俊徳(かとう・としのり)脳内科医昭和大学客員教授。医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。MRI脳画像診断・発達脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや脳科学音読法の提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。

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プレジデントオンライン

最終更新:3/20(木) 6:17

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