ネタバレ解説『ほんとにあった怖い話』「S銅山の女」ラストの意味は? モデルとなった場所、アレの正体を考察
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2014年放送の「S銅山の女」
2014年の『ほんとにあった怖い話 15周年スペシャル』で放送された「S銅山の女」は、放送から10年が経った今でも傑作として知られる作品だ。脚本は酒巻浩史、演出を鶴田法男が手がけており、2025年8月16日(土) 放送の『ほんとにあった怖い話 夏の特別編2025』では、視聴者の声を元に選出された6編の一つにも選ばれている。
今回は『ほん怖』のエピソードの一つである「S銅山の女」について、ネタバレありで解説&考察していこう。以下の内容は「S銅山の女」の結末までのネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
ネタバレ注意 以下の内容は、『ほんとにあった怖い話』の「S銅山の女」の内容に関するネタバレを含みます。
『ほんとにあった怖い話』の「S銅山の女」で主演を務めるのは石原さとみ。2014年当時、石原さとみは27歳。1年後の2015年にはドラマ『5→9〜私に恋したお坊さん〜』で月9初主演を務めることになる。準主役的な扱いである桑原を演じた小池徹平は当時28歳で、実は石原さとみより一つ上である(生まれ年は同じ、1月生まれで学年が一つ上)。
「S銅山の女」の舞台は香川県の某所とされている。ちなみに『ほん怖』の作中で舞台となる場所は、モデルとなった本当の場所とは別の都道府県に設定されていることが多い。生命保険会社で働く主人公の山辺夏美は、営業に失敗した後、桑原との車での帰り道に道を間違えて山奥へと入ってしまう。
そして、何十年も前に閉鎖された「S銅山」に辿り着く。桑原によると、「S」というのは本当の名前の頭文字をとっているらしい。銅山というのは、その名の通り、銅の素材となる銅鉱石を採掘する山のこと。銅は電気ケーブルなどに使用されており貴重な資源だったが、日本では価格が低下して輸入銅が大勢を占めるようになり、1994年には国内の全ての銅山が閉山となっている。
「S銅山」は心霊スポットとして知られていたが、仕事で失敗して香川に飛ばされ参っていた山辺夏美は、自暴自棄になって坑道に近づいてしまう。この時、山辺はこの4ヶ月意識して考えないようにしていたことが自分の中で大きくなっていくのを感じた、と話している。それは「死」のことだろうか。
山辺が見たのは、坑道の入り口の柵に付けられた、目と口のところに穴が空いた仮面だった。山辺が柵に触れると鍵のついた鎖が落ち、閉ざされた坑道の奥から何者かの視線を感じた山辺夏美は急いで「S銅山」を後にしたのだった。
その後、仕事の成績が上がらない山辺は営業部長から叱られるのだが、社訓が書かれたアクリルボードに反射した営業部長の顔には「S銅山」で見た仮面がつけられていた。営業部長は銅山には行っていないはずだが、なぜ山辺は営業部長の顔に仮面が見えたのだろうか。
桑原と営業に出かけた営業部長は、二人で銅山に行ってしまい、雨の日なのに車を洗うという異常な行動を見せるようになる。その後、営業部長は入院し、桑原も会社を休む事態に。山辺が桑原の家を訪ねると、体調が悪そうな桑原は営業部長が銅山から仮面を持って帰っていたことを明かすのだった。
二人が営業に出かけた日、桑原が山辺と道に迷った時の話をすると営業部長は坑道に行き、柵が開いていて坑道の中に入ってしまったという。意図せずではあるが、柵の鍵を外したのは山辺である。桑原が営業部長のお見舞いに行った日、病室には仮面があり、責任を感じた桑原が持って帰ったそうだ。
ここで怪しいのは、営業部長が本当に仮面を持って帰ったのかどうかということだ。桑原はその瞬間を見ていなかったため、仮面が意志を持って営業部長についてきたと考えることもできるだろう。
ラストの意味は?
山辺夏美は、自分が疲れ切ってどうでもよくなり、坑道の中を覗いてしまいたくなったことで坑道を閉じていた鎖が落ちてしまったこと、そのせいで営業部長が坑道に入っていったことに責任感を感じ、仮面を返すために「S銅山」へ向かう。到着時にカーラジオが突然つくのは、序盤で桑原が言っていた「S銅山」での心霊現象の一つだ。
山辺が仮面を返すために坑道の中を進んでいくと、そこには複数の仮面が祀られていた。山辺は仮面を返して立ち去ろうとするが、音がして振り返ると、髪の長い黒装束の女性が立っており、うめき声をあげながら追いかけてくる。これが本作のタイトル「S銅山の女」である。
黒い髪に黒装束で、一見すると真っ黒な外見の女。山辺は丁寧にもシートベルトをつけて車で逃げ切るが、前回道に迷った時の分かれ道で止まった時、振り返ると車の外に真っ黒な女がいたのだった。
それでもなんとか帰りついた山辺だったが、車の背後にはびっしりと黒い手形がついていた。中盤で営業部長が雨の日であるにもかかわらず、必死に車のリア(後部)を洗っていたのは、営業部長の車も同様に黒い手形がついていたからだと考察できる。
後日、桑原は元気になり、山辺も仕事に慣れて好成績を収めていた。一方の営業部長は入院したまま。お見舞いに行った山辺は、真っ黒い女とそっくりな見た目となった営業部長の姿を目にしたのだった。
『ほんとにあった怖い話』「S鉱山の女」ネタバレ考察
「S銅山」のモデルは?
『ほん怖』における「S銅山」のモデルとなった場所は二つの可能性が考えられる。一つは愛媛県新居浜市に存在した別子銅山、もう一つは栃木県上都賀郡足尾町(現・日光市足尾地区)にあった足尾銅山だ。
別子銅山は、「S銅山の女」の舞台となった香川の隣県に位置する。1691年から1973年まで住友財閥によって経営されており、日本三大銅山の一つとして知られていた。別名を「住友別子鉱山」といい、イニシャルが「S」であることから「S銅山」のモデルになった可能性があると考えられる。
足尾銅山は1610年から1973年まで運営されていた銅山で、日本初の公害事件とされる足尾鉱毒事件が起きた場所として知られる。足尾銅山から漏れ出たガスや排水、排煙などの有毒物質が周囲の環境に悪影響を及ぼし、田んぼの稲が枯れるといった被害があった。また、周辺地域の死産率が平均より高く、鉱毒水を飲んだ住民が死亡したといった証言も残っている。
別子銅山もまた、煙害(銅山から出る煙による被害)が指摘され、1893年には銅精錬排ガスによると思われる大規模な水稲被害も発生している。日本から銅山がなくなった理由は、採掘量の減少及び鉱脈の枯渇、銅価格の低下も挙げられるが、環境汚染及び公害問題も大きな要因になっている。こうした背景を踏まえると、「S銅山の女」の正体も見えてくる。
「S銅山の女」は誰?
『ほん怖』の「S銅山の女」に登場する真っ黒な女の正体は、おそらく銅山の公害によって命を落としたかつての住民なのだろう。鉱山では事故もあり得るが、S銅山の女の服が作業着ではなく、作業に向かない長い髪を持っていることから、作業員の霊ではないはずだ。
では、なぜS銅山の女の外見は真っ黒なのだろうか。それはもちろん、煙や水、ガスといった有毒物質による鉱毒被害を受けた被害者の住民であることを示しているのだろう。S銅山の女に出会った後に車が黒く汚れたのは、黒い物質がS銅山の女の“外”に付着した物質だったからだ。
もう一つ、S銅山の女の正体についてトリッキーな考察をしてみるならば、スラヴ神話などに登場する“銅山の女王”をベースにしているという可能性も考えられる。銅山の女王は銅山で働く人々を守る守護神である。
S銅山の女が坑道の外ではなく中にいたのは、S銅山の女が山と銅を守る神だったからなのかもしれない。しかし、強欲な人間達が銅を取り尽くしたことによって、あるいは山を毒で汚したことによって“銅山の女王”は真っ黒な姿になってしまった——この説も一理ありそうだ。
営業部長はなぜ…?
気になるのは、なぜアクリルボードに反射した営業部長の顔がS銅山にあった仮面になっていたのか、という点だ。あの時点で営業部長はまだS銅山に行ってもいなかったし、なんなら仮面のことは知りもしなかったはずだ。
重要なのは、営業部長の顔が仮面になっていたのは主人公の山辺夏美の視点だということだ。山辺は仮面を見て坑道に惹かれ、柵を開放したことで黒い女の力を若干得たのではないだろうか。叱責してくる営業部長にネガティブな感情を持っていた山辺は、知らない内にその力を営業部長に向けてしまい、営業部長は坑道に導かれたのかもしれない。
結果、営業部長はS銅山から仮面と共に帰ってきて、黒い女のような姿になってしまった。鉱毒被害で亡くなった住民たちの怨念が営業部長に乗り移ったのだろう。山辺は仮面を返したが、元気になったのは桑原だけで、営業部長は回復しなかった。
桑原の調子が悪くなったのは病室にあった仮面を持って帰ったからで、営業部長が入院したのはそもそも山辺を起点とした怨念を一身に受けたからだったのかもしれない。生命保険の営業という命に関わる仕事に就いていた山辺は、仕事がうまくいかず「死」について考えるようになった。その情念によってS銅山に導かれ、引き出された怨念が営業部長にぶつけられたということである。
『ほんとにあった怖い話』「S銅山の女」のストーリーを考察するとすれば、こんなところだろうか。銅山公害の歴史と、現代社会のストレスを交差させた優れた作品であったように思う。皆さんはどう感じられただろうか。
『ほんとにあった怖い話』はFODチャンネル for Prime Videoで配信中。
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