「司法の責任をサボるな」 冤罪から16年、村木厚子さんのデジャブ
まるで猟犬が獲物を追い掛けるかのよう――。
2009年の郵便不正事件で無実の罪に問われ、164日間勾留された元厚生労働事務次官の村木厚子さん(69)は、警察や検察が犯人を捕まえて有罪にしたいと考えるのは「本能」だと言う。
自身を襲った冤罪(えんざい)から16年。この間も、警視庁公安部による「大川原化工機事件」など冤罪は後を絶たない。
捜査機関が暴走したとき、どう歯止めをかければいいのか。
その思いを聞いた。【聞き手・遠藤浩二】
大川原化工機冤罪事件に各界の人たちは何を感じたのか。 5月28日に予定される国家賠償請求訴訟の2審判決を前に、著名人たちにインタビューをしました。 村木さんは主に以下の内容を語っています。 ・取り調べは「素人がプロボクサーを相手にリングに上がるようなもの」 ・捜査機関の暴走を止めるには「塀」が必要
・司法行政関係者へのメッセージ
不当な取り調べ、「私も同じ」
――大川原化工機事件はどう感じましたか。
◆ストーリーありきの捜査で、私のときと全く同じ構図だと思いました。
デジャブですね。
また同じことが繰り返されている。何とかしなければならないと思いを強くしています。
――大川原化工機元取締役の島田順司さん(71)は逮捕前の任意の取り調べで、容疑を否認していたにもかかわらず、認めるかのような供述調書が作成されました。隠し録音したICレコーダーには「何で供述していることをそのとおり書いていただけないのですか」という悲痛な訴えが残されています。
◆私も同じでした。
検事が書きたいことしか調書にならないんです。
無罪方向のことをどんなにしゃべっても、一文字も調書になりませんでした
捜査機関のストーリーに沿った内容を字にするのが調書なんです。
「供述を変えるのが仕事」と語る検事
――村木さんは大阪地検特捜部に逮捕されました。その取り調べはどのようなものだったのでしょうか。
◆検事はまず、「僕の仕事はあなたの供述を変えさせることです」と言いました。
私は罪を犯していないので、一生懸命に説明すれば検察は分かってくれると思っていたんです。
でも、この一言で、検察は真相解明をするつもりはないんだということが分かりました。
私は役人なので文章を読むことには慣れています。
供述調書が私の意図しない読まれ方を裁判官にされるのではないかと思い、死にそうな思いで調書を何度も確認しました。
「これでいいです」と言ったら、検事は「(想定していた)最初の調書とだいぶ違うから、上の了解を取ってきます」と言って、取調室を出て行きました。
この場にいない人の了解を取るなんて、調書って何なのかと非常に驚きました。
――その後に取り調べは別の…