日銀会合注目点:総裁会見で早期利上げ示唆あるか、政策維持の見込み

日本銀行が18、19日に開く年内最後の金融政策決定会合は、現状維持が見込まれている。植田和男総裁が記者会見で早期利上げの可能性にどこまで踏み込むかが焦点となる。

  複数の関係者によると、消費者物価の上昇に加速感が見られず、海外経済の不確実性が強まっている中で、日銀は追加利上げを急ぐ状況にはないと認識している。金融政策予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS) 市場は、足元で12月の利上げ確率が2割程度と見送りに傾く一方、来年1月は5割程度、3月が2割程度に高まっている。

  植田総裁の発言から利上げ時期のヒントを探ることになるが、ポイントになるのは来年の賃上げと米国の政策・経済の動向に関する認識だ。総裁は日本の経済・物価は日銀の想定通りの動きとした上で、政策判断に重要な指標として賃金動向を挙げるとともに、トランプ次期米大統領の政策とその影響の見極めが必要と先月の日本経済新聞とのインタビューで指摘した。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは、今回会合で日銀が利上げを見送った場合の理由に注目している。もう少しデータを確認したいとの理由なら1月の利上げ観測は高いままだろうとしつつ、トランプ米政権の関税政策の影響の見極めを理由に挙げた場合は、「市場の利上げ観測は来春以降に後ずれしていく可能性があろう」とみている。

  賃上げに関しては、人手不足と高水準の企業収益を背景に、来年も良好な内容が予想されている。連合による春闘の第1回集計は3月中旬の予定だが、1月23、24日の日銀会合前の9日に日銀支店長会議が開かれ、中小企業も含めて全国ベースの賃上げの感触が得られる見通しだ。一方、トランプ氏の大統領就任は1月20日の予定で、市場では1月会合の波乱要因との見方が少なくない。

  日銀が経済・物価見通しが実現していけば、利上げで金融緩和度合いを調整する方針を示している中で、今回会合では日本の経済・物価は想定通りとの認識を政策委員が共有する可能性が大きい。2%の物価安定目標の実現確度は着実に高まっており、総裁が会見で先行きの利上げパスにどのように言及するかも注目となる。

  日銀の政策決定の数時間前には、米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果が公表される。9月と11月に続く3会合連続の利下げが見込まれているが、緩和ペースの鈍化が示唆されれば、さらなる円安進行によって日銀会合の議論に影響を与える可能性もある。

  7月末の日銀の利上げは市場で予想外と受け止められ、世界的に金融市場が大きく不安定化する一因となった。植田総裁は市場との対話を一段と丁寧に行う考えを表明しているが、サプライズへの警戒感はくすぶる。ブルームバーグの5-10日のエコノミスト調査では1月会合での利上げ予想が56%を占めたが、リスクシナリオとしての最も早いタイミングは12月とする回答が88%に達した。

ブルームバーグ・エコノミクスの見方

「経済状況は日銀が政策を正常化するのに好都合であるように見える。賃金と物価のデータは、2%の物価安定目標がますます確実になりつつあることを示している。われわれは、植田総裁が記者会見で1月の利上げが検討されていることを示唆すると予想している」

木村太郎シニアエコノミスト

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多角的レビュー

  今回の会合では、日銀が1年半以上にわたって議論や分析を行ってきた金融政策の多角的レビューが取りまとめられる。将来の金融政策運営に関する知見を得ることを狙いに、過去25年間の非伝統的な金融政策の効果と副作用などをさまざまな角度から検証したもので、植田総裁は短期的な金融政策との関係を否定している。

  これまでに、2013年から始まった大規模な「量的・質的金融緩和」について、実質国内総生産(GDP)を1.3-1.8%程度、生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価の前年比を0.5-0.7%ポイント程度押し上げたとする試算などを示した。企業の賃金・価格設定やインフレ期待、自然利子率、日銀財務などに関する多くの論文も公表している。

  オックスフォード・エコノミクスの長井滋人在日代表は、多角的レビューについて、長い目で見た金融政策の正常化を正当化する内容になると想定。正常化への強い意欲を示すことによって、「短期的にも為替市場をけん制する効果は多少期待出来る」としている。

他のポイント

  • 関係者によると、12月会合で利上げが提案された場合、一部の政策委員は反対しない見通し。各政策委員の投票行動にも注目
  • インタビューでの総裁発言や報道などを巡り、会合前に市場の利上げ予想は大きく揺れ動いた。改めて市場とのコミュニケーションについて見解を問われる可能性も
  • 来年1月の会合で議論する新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)に向け、上振れ気味に推移する消費者物価やサービス価格の動向などの評価

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