玉ねぎやパセリ、オレンジに含まれる「アピゲニン」に糖尿病を予防する効果を確認 広島大学

日ごろから食されている食品由来成分であるアピゲニンに、糖尿病を予防する効果があることが明らかになった。広島大学などの研究グループの研究によるもので、「FASEB journal」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

研究の概要:日ごろ食べている食品の中に抗糖尿病成分

広島大学と山陽小野田市立山口東京理科大学の共同研究チームは、βチューブリンに結合して糖尿病抑制効果を示す食品成分(アピゲニン)を見いだした。

糖尿病の原因はさまざまだが、それらの一つとして、小胞体ストレス、インスリン抵抗性が挙げられる。小胞体ストレスやインスリン抵抗性を改善できる化合物を特定することは、糖尿病の治療に有益であると考えられる。本研究では、比較的安全とされる食用植物由来の化合物から、インスリン抵抗性を軽減できる物質の特定を目指した。

その結果、アピゲニンという物質が、小胞体ストレス、インスリン抵抗性を改善することがわかった。アピゲニンは、タマネギ、オレンジ、パセリなどの食物に含まれており、日ごろから食されてきた。このような、比較的安全な食用植物由来の因子が、糖尿病を予防できる可能性が示された。

研究の背景:小胞体ストレスやインスリン抵抗性を改善する食品由来成分の探索

糖尿病は、血糖値を下げる働きをもつインスリンというホルモンの分泌・作用不足により血糖値が異常に高くなる慢性代謝性疾患であり、世界的な健康上の懸念となっている。全身の血管や神経にダメージを与え、心臓病や腎臓病、失明のリスクが高まる病気で、日本に579万人の患者がいるといわれている。

インスリンは、膵臓のβ細胞という細胞から分泌される。インスリンが細胞膜上のインスリン受容体に結合すると、PI3K/Aktシグナル伝達経路という、外部からの信号を細胞に伝える身体の仕組みが活性化され、細胞内へのグルコースの取り込みが促進されることで、血糖値を下げる。しかし糖尿病では、インスリン抵抗性(生活習慣や環境、遺伝的な要因によりインスリンが効きにくい状態)により、細胞内へのグルコース取り込みが損なわれた結果、血糖値が上昇する。

本研究では、インスリン抵抗性の一つの原因として知られている小胞体ストレスに着目した。細胞に小胞体ストレスがふりかかると、小胞体内でのタンパク質の折り畳み(タンパク質がその機能を発揮できる形に構造を変えること)に問題が起き、異常タンパク質が蓄積する。本研究では、食品由来の因子449種類から小胞体ストレス軽減因子を特定し、インスリン抵抗性、さらには糖尿病改善効果を示す化合物を明らかにすることを目的とした。

研究成果の内容:アピゲニンが小胞体ストレスによる細胞死抑制を最も強く抑制

まず、449種類の食品由来化合物群の中から、小胞体ストレスによる細胞死抑制効果を示す化合物を検討した。その結果、アピゲニンという化合物が最も強い効果を示した。アピゲニンはタマネギ、オレンジ、パセリなどの食物に含まれており、抗酸化作用や抗炎症作用など、身体にとってよい影響をもたらすことが知られている。アピゲニンは小胞体ストレス応答の誘導(GRP78,CHOP)を抑制し、小胞体ストレスによる細胞死を抑制した。さらにアピゲニンは、小胞体ストレスによるインスリン抵抗性改善効果を示した。

そこでその作用機構を明らかにする目的で、アピゲニン結合タンパク質を検討した。アピゲニンとリンカーを介して磁気性ビーズに結合させたビーズを作成し、本ビーズに結合するタンパク質をSDS-PAGE、銀染色、nano LC-MS/MS解析により同定した。その結果、アピゲニンはβチューブリンに結合することが明らかになった。解析でもアピゲニンはβチューブリンに結合することが確かめられた。

そこで、アピゲニンによるβチューブリン重合・脱重合への影響を検討した。その結果、アピゲニンはβチューブリンの重合を促進することで小胞体ストレスによるインスリン抵抗性を改善することが示された。この効果は、糖尿病モデルマウスでも確認された。

今後の展開:新規糖尿病用薬の開発も期待される

食品成分は、人々が日常摂取する食品由来の成分であるため、安全性が高いと期待される。また、特定した化合物であるアピゲニンはβチューブリンと結合することが明らかになった。βチューブリンを標的とする抗糖尿病薬は知られておらず、今後はこのような知見をもとに、新しいメカニズムを有した糖尿病治療薬の開発が期待される。

(出典:広島大学)

プレスリリース

【研究成果】日頃から食されている食品由来成分に糖尿病を予防する効果があることを発見しました(広島大学)

文献情報

原題のタイトルは、「A unique compound ameliorating endoplasmic reticulum stress and insulin resistance by binding to β tubulin」。〔FASEB J. 2024 Nov 15;38(21):e70150〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)

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スポーツ栄養Web編集部


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サッカーのパフォーマンスに対する31種類のサプリメントの効果を、ネットワークメタ解析によって比較検討した結果が報告された。走行距離、筋力、ジャンプ力、スプリントタイム、敏捷性などについて、それぞれの最大化に資するサプリが示されている。中国とマレーシアの研究者らの報告。

ネットワークメタ解析で、多数のサプリの効果を比較

2億7,000万人以上が世界各地でサッカーをしていて、13万人はプロ選手であると報告されている。サッカーは世界中で最も人気の高いスポーツと言える。

サッカーは90分の試合中、有酸素性エネルギー代謝が約90%を占め、残りの約10%は無酸素性エネルギー代謝とされ、スプリント、急速な加速/減速、方向転換、ジャンプ、キックなどの多くの動作が混在し、持久力と筋力、敏捷性、集中力、認知機能が必要とされる。エネルギーの供給や筋力強化、集中力向上、回復の促進などを意図して、多くのサッカー選手がサプリメントを摂取しており、その割合は報告により47.8~93.7%の範囲に分布している。

サプリ摂取がサッカーパフォーマンスに及ぼす影響についても、既に多くの研究報告があり、またそれらの報告を用いて行ったメタ解析の報告も存在する。しかし、異なる介入を行っている多数の研究報告を統合し、どの介入が優れているかを比較する統計学的手法であるネットワークメタ解析により、多くのサプリの影響を同時に比べるという研究はまだ行われていなかった。

1,425選手、80件の研究データを基に、31種類のサプリの効果を比較検討

文献検索には、PubMed、Web of Science、Cochrane、Embase、SPORTDiscusというデータベースを用いて、2024年2月5日までに収載された論文を対象とした。包括条件は、サッカー選手を対象にサプリ介入を行い効果を検討した無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)であり、除外条件は世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)禁止物質を使用している研究、査読を経ずに掲載された学会発表、同一の試験の結果に基づいて執筆されている異なる報告、および英語以外の言語による論文。

一次検索で5,937報がヒットし、重複削除後の3,345報をタイトルと要約に基づくスクリーニングにより139報に絞り込み、全文を入手し得た128報を全文精査の対象とした。最終的に、80件の研究報告を適格と判断した。

抽出された研究の特徴

抽出した80件の研究の参加者数は合計1,425人で、性別については63件の研究で男性が1,111人、8件の研究で女性が128人参加し、1件は男性と女性の両方を対象としていて、8件は性別の記載がなかった。競技レベルはエリートレベルが50件、877人、非エリートレベルが30件、548人だった。

これらの研究で、合計31種類のサプリの効果が検討されていた。最も多く検討されていた成分はカフェインで、カフェインのみを評価した研究が21件存在していた。次いでクレアチンと炭水化物が多く、各12件だった。なお、複数のサプリを併用した介入の報告は、個々のサプリの効果と相互作用の双方を評価した。

評価指標ごとの解析結果

解析は、走行距離、筋力、ジャンプ力、スプリントタイム、敏捷性などのパフォーマンス指標ごとに行われている。要旨のみを紹介する。

走行距離

走行距離に対するサプリ摂取の影響は25件の研究報告が存在し、カフェイン、炭水化物、プロテイン、ビート根エキスなど16種類のサプリが介入に用いられていた。解析の結果、炭水化物とプロテインの併用の累積順位曲線下面積(surface under the cumulative ranking curve;SUCRA)が96.2%と最も高く、炭水化物と電解質の併用(SUCRA=85.8%)、ウシ初乳(SUCRA=81.5%)と続いた。なお、SUCRAの値が高いほど、その介入が最も効果的である可能性が高いと判断される。

これらの影響を、対プラセボの標準化平均差(standardized mean difference;SMD)としてみると、炭水化物とプロテインの併用はSMD=2.2と非常に大きな影響が観察された。次いで、炭水化物と電解質の併用がSMD=1.3と大きく、ウシ初乳は中程度の有意な影響、カフェインは小さい有意な影響が観察された。

筋力

筋力については9件の研究でカフェイやプロテインなど8種類のサプリが検討されていた。SUCRAは、ビート根エキスが83.1%、黒ショウガ(Kaempferia parviflora)が80.9%、カフェインが66.2%だった。黒ショウガの対プラセボのSMDは0.46であり、小さい有意な影響が観察された。

ジャンプ力

34件の研究でジャンプの高さに対する14種類のサプリの影響が検討されていた。SUCRAは、β-アラニンが90.9%、メラトニンが89.6%、カフェインが74.6%だった。SMDは、β-アラニンが0.83、メラトニンが0.75でそれぞれ中程度、カフェインは0.37、クレアチンは0.33であり、それぞれ小さい有意な影響が観察された。

スプリントタイム

36件の研究でスプリントタイムに対する18種類のサプリの影響が検討されていた。SUCRAは、マグネシウムクレアチンキレートが99.6%、メラトニンが93.3%、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用が86.8%だった。SMDは、マグネシウムクレアチンキレートが-3.0と非常に大きく、メラトニンは-1.9、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用は-1.4でそれぞれ大きい有意な影響、アルギニンは-1.2と中程度の有意な影響が観察された。

敏捷性

14件の研究で敏捷性に対する11種類のサプリの影響が検討されていた。SUCRAは、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用が99.8%、メラトニンが79.4%、黒ショウガが71.6%だった。SMDは、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用が-2.3と非常に大きく、カフェインは-0.38の小さい有意な影響が観察された。

ピークパワーおよび平均パワー

12件の研究でピークパワーに対する10種類のサプリの影響が検討されていた。SUCRAは、マグネシウムクレアチンキレートが87.3%、分岐鎖アミノ酸(BCAA)が74.4%だった。一方、平均パワーに対してマグネシウムクレアチンキレートはSMD=1.3と、大きい有意な影響が観察された。

自覚的運動強度

29件の研究で自覚的運動強度に対する13種類のサプリの影響が検討されていた。SUCRAは、炭水化物とプロテインの併用が93.7%、炭水化物と電解質の併用が80.2%、メラトニンが77.4%だった。自覚的運動強度に対して炭水化物と電解質の併用はSMD=-0.56の小さい有意な影響が観察された。

競技レベルで層別化したサブグループ解析の結果

エリートレベルと非エリートで層別化した解析では、サプリ摂取による異なる影響が観察された。有意な影響が認められたサプリは以下のとおり。

エリートレベル

エリートレベルを対象とする研究の解析では、走行距離に対するカフェイン(SMD=0.28)が有意。ジャンプの高さに対しては、メラトニン(SMD=0.74)とカフェイン(SMD=0.39)が有意。スプリントタイムに対しては、マグネシウムクレアチンキレート(SMD=-3.0)、メラトニン(SMD=-1.9)、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用(SMD=-1.4)、アルギニン(SMD=-1.2)が有意。敏捷性に対しては、クレアチンと重炭酸ナトリウムの併用(SMD=-2.3)、カフェイン(SMD=-0.38)が有意。自覚的運動強度に対しては、炭水化物と電解質(SMD=-0.75)が有意。

非エリートレベル

非エリートレベルを対象とする研究の解析では、走行距離に対する炭水化物とプロテインの併用(SMD=2.3)が有意。筋力に対しては、黒コショウ(SMD=0.46)が有意。ジャンプの高さに対しては、β-アラニン(SMD=0.83)とカフェイン(SMD=0.34)が有意。平均パワーに対しては、カフェイン(SMD=0.35)が有意。自覚的運動強度に対しては、炭水化物と電解質(SMD=-1.4)が有意。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of different dietary supplements on athletic performance in soccer players: a systematic review and network meta-analysis」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2467890〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部


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栄養士さん・管理栄養士さん向け情報サイト「あじこらぼ」(味の素株式会社)は、第28回 日本病態栄養学会年次学術集会で開催された共催セミナー「個人レベルでの食塩摂取量の評価に基づく実践的減塩指導」のレビュー記事を公開しました。

講師は、社会医療法人 製鉄記念八幡病院 理事長であり、日本高血圧学会 減塩・栄養委員会の委員も務められている土橋 卓也 先生。科学的根拠に基づいた“実践的な減塩指導”のヒントが紹介されました。

減塩指導における食塩摂取量の「評価」の重要性

実効性のある減塩指導を行うには、まず対象者の食塩摂取量を正確に把握することが不可欠です。土橋先生は評価なき減塩指導の限界と、実践的な評価方法の重要性を強調。減塩を意識していると回答した人とそうでない人の食塩摂取量に有意差がないというデータが示され、「意識」や「自己申告」だけでは指導の根拠にならないことが明らかにされました。

食塩摂取量の評価方法は、大きく分けて「入り口調査」(食事内容の把握)と「出口調査」(尿中排泄量の測定)の2つに分類されます。食事調査は手軽な反面、主観に依存しがちで信頼性が低いことが課題です。一方、尿中ナトリウムの測定は信頼性が高いものの手間がかかります。例えば24時間蓄尿は正確性に優れる一方で、実施のハードルが高く、実用性には課題があります。

このような課題を克服し、減塩目標を達成する指導を行うためには、具体的にどうすれば良いのでしょうか。土橋先生の講演では、より具体的な指導法やツールを紹介されています。ぜひご一読ください。

レビュー記事の全文&PDFダウンロードはこちら!

第28回 日本病態栄養学会年次学術集会「個人レベルでの食塩摂取量の評価に基づく実践的減塩指導」土橋 卓也 先生(社会医療法人 製鉄記念八幡病院 理事長)

【前編】はこちら

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スポーツ栄養Web編集部


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都市部では、社会経済的指標が低い地域の住民ほど、暑さに伴う緊急入院リスクが高いことが明らかになった。東京科学大学と東北大学の研究グループが、全国規模の入院データを解析し、居住地域や社会経済的指標によって緊急入院リスクがどのように異なるか検討した結果であり、「Journal of Epidemiology and Community Health」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。暑さの影響がとくに大きい地域では、救急医療体制の強化を含む対策の必要性が示されたことから、今後、地域の特性に応じた暑さ対策の推進が求められる。

研究の背景:社会経済的弱者は熱ストレスへの耐性が低いか?

暑さはさまざまな健康リスクを引き起こすことが知られている。一方で、暑さによる健康被害の受けやすさは、個人の特性や居住地域によって異なるとされている。

とくに、ヒートアイランド現象の影響により都市部の住民は暑さにさらされやすいと考えられている。また、社会経済的指標が低い地域の住民は、熱ストレスへの耐性が低い可能性があることも懸念されている。

しかし、こうした健康被害の実態については、十分に明らかにされていなかった。

研究の成果:都市部の社会経済的指標が低い地域は暑さに伴う緊急入院リスクが高い

本研究では、日本全国における2011年から2019年までの9年間のデータを用い、6月から9月(年間で気温の高い4カ月)に発生した緊急入院症例を対象として、1日の平均気温と緊急入院との関連を分析した。さらに、暑さによる緊急入院への影響が、居住地域や社会経済的指標によってどのように異なるのかを解析した。

入院データはDPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースから抽出し、日平均気温のデータは気象庁のデータを使用した。社会経済的指標としては、国勢調査の世帯・職業・居住に関する項目を基に算出された地理的剥奪指標(Area Deprivation Index:ADI)を採用した。また、居住地域(都市部・郊外・それ以外)は、国勢調査の大都市圏・都市圏の分類に基づいて設定した。

解析の結果、全緊急入院のうち、暑さが要因となる入院の割合は、最も社会経済的指標が高い地域では1.19%(95%信頼区間0.98~1.41)であるのに対し、最も社会経済的指標が低い地域では1.87%(同1.68~2.06)と算出された。このことから、社会経済的指標が低い地域ほど、暑さによる緊急入院への影響が大きいことが明らかになった。

また居住地域(都市・郊外・それ以外)別に比較すると、都市でも郊外でもない地域では1.42%(1.24~1.60)であるのに対し、都市部では2.03%(1.78~2.30)と推定された。これにより、とくに都市部の住民において、暑さによる緊急入院の影響が大きいことが示された。

さらに、社会経済的指標と居住地域の両方を同時に考慮すると、都市部における最も社会経済的指標が低い地域の集団において、暑さによる緊急入院は2.62%(2.26~3.03)と、最も高いことが判明した。

図1 居住地域・社会経済的指標別の暑さに伴う健康被害

(出典:東京科学大学)

社会的インパクトと今後の展開:対象により熱中症警戒アラートの情報がとくに重要

本研究により、暑さによる緊急入院への影響は、都市部において社会経済的指標が低い地域の住民ほど顕著であることが明らかになった。この結果を踏まえ、熱中症警戒アラートに基づいた暑さ対策の重要性を、とくにこうした地域の住民に対して重点的に啓発する必要があると考えられる。また、地域の実態に即した暑さ対策を講じることの重要性が示唆された。

一方、救急医療を担う医療機関では、暑さが引き起こす緊急入院への対応力を強化することが求められる。とりわけ、都市部の社会経済的指標が低い地域の医療機関では、その重要性が一層高いと考えられる。今後、気候変動の影響により暑い日が増えると予想されるなか、暑さに伴う緊急入院の増加に対応できる医療体制の構築が必要であることが示唆された。

プレスリリース

都市部における暑さによる健康被害の格差を解明 社会経済的指標が低い地域の住民ほど、緊急入院リスクが高いことを実証(東京科学大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Heat-related impacts on all-cause emergency hospitalisation differ by area deprivation and urbanicity: a time-stratified case-crossover study in Japan」。〔J Epidemiol Community Health. 2025 Jan 16:jech-2024-222868〕 原文はこちら(BMJ Publishing Group)

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スポーツ栄養Web編集部


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従来、一定強度以上の身体活動の実践が推奨されることが多い。しかし、中高年女性では、あらゆる運動強度の歩数がメタボリックシンドローム抑制に寄与することが明らかになった。愛媛大学の研究グループの研究成果であり、「Environmental Health and Preventive Medicine」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。著者らは、歩数に基づいた身体活動推奨の有用性を示唆する結果であり、日常生活の中で無理なく歩数を蓄積することの重要性が示されたとしている。

研究の概要:ウォーキングの強度でメタボ抑止効果に差はあるか?

この研究では、潜在プロファイル分析を用いて、中高年女性の日常生活における歩行活動パターンを特定し、それらのパターンとメタボリックシンドローム発生リスクとの関連を検討した。特定された歩行活動パターンには、「主に中高強度の歩行時間を蓄積することで1日1万歩程度の歩数に達するパターン」と、「主に低強度の歩行時間を蓄積することで1日1万歩程度の歩数を達するパターン」が含まれていた。

これらのパターンのメタボリックシンドローム発生に対する予防効果は同程度だった。なお、この研究成果は日本衛生学会のジャーナル「Environmental Health and Preventive Medicine」に掲載され、「Editor’s Pick」(編集者が注目すべき論文を選定しWebサイト上での強調表示を行う論文)に選出された。

図1 グラフィカル・アブストラクト

(出典:愛媛大学)

研究の詳細:あらゆる歩数が健康に寄与する

発表論文は、愛媛県東温市で進行中の東温スタディ(詳細はこちら)から得られた成果の一つ。

調査開始時点でメタボリックシンドロームでなかった中高年女性794名を対象に、1軸加速度計を用いて日常生活の歩数および強度別の歩行時間を調査した。潜在プロファイル分析を用いた統計モデリングの結果、日常生活における歩行活動パターンは四つのパターンに分類された(図1)。そのうち、「主に中高強度の歩行時間を蓄積することで1日1万歩程度の歩数に達するパターン(パターンB)」と、「主に低強度の歩行時間を蓄積することで1日1万歩程度の歩数に達するパターン(パターンC)」は、「低水準の歩行活動(パターンA)」と比較して、5年間の追跡期間中のメタボリックシンドローム発生のリスクが同程度低下する可能性が示された。

この結果は、歩行の強度にかかわらず一定水準の歩数を蓄積すること、すなわち「あらゆる歩数が健康に寄与する」という考えを支持し、歩数に基づいた身体活動推奨の有用性を示唆するものと言える。従来、一定強度以上の身体活動が推奨されることが多い一方で、本研究の結果は、日常生活の中で無理なく歩数を蓄積することの重要性を示唆している。

これまでに、同研究グループは歩行に関する指標(歩数、歩行時間、歩行の強度など)とメタボリックシンドローム発生との関連を明らかにしてきた(Int J Obes (Lond). 2024 May; 48(5): 733-740.)。しかし、日常生活環境下においては、それらの歩行指標は相互に関連し合う。

本研究では、これらの相互関係を考慮し、実社会において自然に生じる歩行活動パターンを統計モデリングによって同定した点、エビデンスレベルの高い情報を提供可能なコホート研究のデザインを用いてそのパターンとメタボリックシンドロームとの因果推論を行っている点、現場レベルでの理解・活用が容易なエビデンスを提供している点が高く評価され、ジャーナルの「Editor’s Pick」選出に至った。

プレスリリース

あらゆる歩数が健康に寄与する(愛媛大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Patterns of daily ambulatory activity and the onset of metabolic syndrome in middle-aged and older Japanese women: the Toon」。〔Environ Health Prev Med. 2025:30:11〕 原文はこちら(J-STAGE)

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スポーツ栄養Web編集部


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全国47都道府県の過去30年間の健康傾向を包括分析した結果が報告された。平均寿命は延長したが、「健康でない期間」が長期化し、地域格差が拡大したことなどが明らかになった。慶應義塾大学などの研究グループの研究成果であり、「Lancet Public Health」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

研究の概要:日本が世界に先駆けて経験している超高齢社会の健康課題が明らかに

慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)の野村周平特任教授らと、米国ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)による国際共同研究グループ※1は、世界有数の長寿国である日本の健康状態の30年にわたる変遷を包括的に分析した。世界の疾病負荷研究(GBD)2021※2のデータを用い、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含む371の疾病・傷害および88のリスク要因について、日本および47都道府県における各種健康指標の推移を詳細に評価した。

本研究は、世界最長寿国の一つである日本の1990年から2021年までの30年間の健康状態変化を都道府県レベルで分析した前例のない取り組み。日本が世界に先駆けて経験している超高齢社会の健康課題を明らかにし、健康格差の縮小や疾病構造の変化への対応など、保健医療・社会政策における優先課題を科学的に提示している。

発表のポイント

平均寿命が延長するも、健康寿命との差が拡大

2021年時点の日本の平均寿命は85.2歳となり、1990年から5.8年延長。しかし、健康寿命※3との差は拡大し、1990年の9.9年から2021年には11.3年となった。「健康な長寿」の実現が重要な課題に。

47都道府県間の健康格差が拡大

平均寿命の地域差は1990年の2.3年から2021年には2.9年に拡大し、とくに男性で格差が顕著(3.2年→3.9年)。

認知症(アルツハイマー病など)が主要死因の第1位に浮上

疾病負荷(DALYs※4:早期死亡や障害によって失われた健康的な生活年数)も2015年から2021年にかけて人口あたり約2割増加し、予防・ケア体制の整備が急務。

主要疾病の死亡率低下が鈍化

脳卒中や虚血性心疾患を含む主要疾病の年齢調整死亡率の減少ペースが鈍化。全死因の年齢調整死亡率※5の年率換算変化率※6は、1990〜2005年の-2.0%から2015〜2021年には-1.1%へと縮小。

糖尿病の状況が悪化、肥満のリスクも高まる

2015年以降、年齢調整した糖尿病に起因するDALYsは年率2.2%増加。高血糖や過体重・肥満の問題も深刻化しており、対策の強化が求められる。

パンデミック初期(2021年)のCOVID-19による死亡率は低水準だが精神疾患は悪化

COVID-19による年齢調整死亡率は人口10万人あたり3.0人と、世界全体(94.0人)の約31分の1の低水準。一方、2019〜2021年のパンデミック前後で精神疾患によるDALYsは悪化し、とくに若年層(10〜54歳)において増加が顕著だった。この年代では、女性が15.6%、男性が9.0%の増加を示し、特に若年女性への影響が大きかった。

発表内容の詳細

日本の平均寿命は過去30年で5.8年延伸、健康寿命との差は拡大

日本の平均寿命は、1990年の79.4歳から2021年には85.2歳へと5.8年延伸した。

健康寿命は、1990年の69.5歳から2021年には73.8歳へと4.4年延伸したが、平均寿命と健康寿命の差(つまり、何らかの健康問題を抱えて生活する期間)は、9.9年から11.3年へと拡大している。男女別では、この差は女性で11.1年から12.7年に、男性で8.7年から9.9年に拡大しており、いずれも増加傾向にある。

47都道府県間の健康格差が拡大

都道府県間の平均寿命の格差は1990年の2.3年から2021年には2.9年に拡大した。

女性の格差が2.9年から2.6年に縮小したのに対し、男性では3.2年から3.9年に拡大した。健康寿命の格差も1.8年から2.3年に拡大している。

年齢調整死亡率は1990年から2021年に41.2%減少したが、その減少率には都道府県差があり、最大49.0%、最小29.1%と開きが見られた。年齢調整DALYs率も24.5%減少したが、都道府県間での減少率には最大27.7%、最小19.6%と差があった。

認知症が主要死因の第1位に浮上

2021年の主要死因※7は、アルツハイマー病を含む認知症(10万人あたり135.3人)、脳卒中(114.9人)、虚血性心疾患(96.5人)、肺がん(72.1人)、下気道感染症(62.3人)だった。GBDで分類される140種類の死因の中で※8、認知症は1990年の6位から2021年には1位へと上昇した(図1)。

平均寿命の延伸は、脳卒中(1.5年)、虚血性心疾患(1.0年)、がん(1.0年)、下気道感染症(0.8年)の死亡率低下に最も起因し、これらが7割以上を占めた。

図1 日本のGBD詳細レベル(レベル3)の死因と年齢調整死亡率の年率換算変化率(%)

本図は、1990年、2005年、2015年、2021年の4時点における日本の主要死因(男女混合)とその年齢調整死亡率の変化率を示している。死因のランキングは死亡数に基づいており、GBDレベル3の分類では140種類の死因が分析対象となっている。各時点での死因順位と年率換算変化率が表示されている。

(出典:慶應義塾大学)

主要疾病の改善ペース鈍化と糖尿病の悪化傾向

年齢調整死亡率の年率換算変化率※6は、1990~2005年の-2.0%から2015~2021年には-1.1%へと減少幅が縮小した。脳卒中や虚血性心疾患も同様の傾向を示している(図)。また、年齢調整DALYs率の減少ペースも鈍化し、1990〜2005年の-1.0%から2015〜2021年には-0.5%に低下した。とくに、糖尿病の年齢調整DALYs率は悪化しており、2005〜2015年の0.1%から2015〜2021年には2.2%へと増加している。

高血糖や肥満が深刻化

GBD2021で評価した88のリスク要因は、2021年の全死亡の41.9%に寄与していた。このうち、代謝リスク(高血圧など)が24.9%、行動リスク(喫煙、不健康な食事など)が21.6%、環境・職業リスクが9.1%を占めた。高血糖や高BMI(過体重・肥満)によるDALYs率の悪化も顕著で、高血糖の年率換算変化率は2005~2015年の-0.8%から2015~2021年には0.8%へ、高BMIは1990~2005年の-0.3%から2015~2021年には1.4%へと悪化した。

COVID-19の影響は限定的も、精神疾患が悪化

COVID-19による死亡は2020年で全死亡の0.3%(10万人あたり2.7人)、2021年には1.0%(10万人あたり11.7人)を占めた。COVID-19によるDALYsは2021年で10万人あたり190.2年(全DALYsの0.6%)と、世界平均(2,686.6)や高所得国平均(2,058.9)と比べ低水準だった。一方、2019〜2021年の精神疾患のDALYs率は悪化し、とくに10〜54歳の女性で15.6%、男性で9.0%の増加が見られた。

新たなエビデンスが戦略的政策立案の基盤を築く

本研究は、日本の健康指標が長期的に向上している一方で、その改善ペースが鈍化していること、また地域間の健康格差が依然として解消されていないことを明らかにした。また、認知症や糖尿病の増加、肥満やメンタルヘルスの悪化が顕在化しており、平均寿命と健康寿命の差が拡大している。こうした状況を踏まえ、国や各地域における疾病負荷の軽減を目的とした保健活動(ヘルスプロモーション)の推進や、社会環境の整備が、これまで以上に求められる。

本研究で得られたエビデンスは、保健医療・社会政策のさらなる発展に貢献するものと言える。日本政府が推進する「健康日本21」は、第1次計画で個人の健康管理支援を重視し、第2次計画では社会環境の整備による「健康格差の縮小」が掲げられてきた。そして、2024年度から始まった第3次計画では、「誰も取り残さない」健康づくりを目指し、社会環境のさらなる整備が進められている。本研究のデータは、こうした政策の方向性を科学的に裏付けるものであり、国や自治体が地域ごとの特性に応じた効果的な健康施策を展開するための貴重な知見を提供する。

また、日本の健康課題に関する知見は、高齢化が進む諸外国からも大きな関心を集めている。本研究のような評価を今後も積極的に行い、発信していくことで、広く国際社会に貢献することが期待される。

プレスリリース

全国47都道府県の30年間の健康傾向を包括分析 平均寿命延長も「健康でない期間」長期化、地域格差の拡大も明らかに-認知症が死因1位に、健康改善の鈍化、糖尿病・肥満リスク増、心の健康悪化も判明-(慶應義塾大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Global incidence、prevalence、years lived with disability (YLDs)、disability-adjusted life-years (DALYs)、and healthy life expectancy (HALE) for 371 diseases and injuries in 204 countries and territories and 811 subnational locations、1990-2021: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2021」。〔Lancet. 2024 May 18;403(10440):2133-2161〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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オリンピックに出場経験のあるトライアスロン選手が採用していたテーパリングやグリコーゲン超回復、競技中の炭水化物摂取の戦略を調査した、ブラジルの研究者による研究結果が報告された。競技中の炭水化物の摂取量は、大半の選手が推奨値未満であったことなどが示されている。

オリンピックレベルのトライアスリートの大会前の準備や競技中の炭水化物摂取は?

この研究のための調査は、オリンピックのトライアスロンに出場経験のあるアスリートを対象として、オンラインアンケートとして実施された。適格基準は、上記に該当する18歳以上の選手で、ポルトガル語の質問項目を理解できること。

89人が回答し、このうち競技歴がトライアスロンでない(デュアスロンやアイアンマンなど)選手などを除外し、72人(男性84.7%)を解析対象とした。アンケートでの質問項目は、競技歴に関するものと、大会参加前に行うテーパリング、グリコーゲンローディング(超回復)、および競技中の炭水化物やサプリメントの摂取状況、消化器症状についてであり、すべて自己申告の回答を解析に用いた。

大会週間前はトレーニング時間を6割強程度にテーパリング

解析対象者の主な特徴は、男性、女性の順に、年齢38.9±9.4、30.2±7.7歳、トライアスロン歴4.12±4.70、3.44±3.20年であり、これらは性別間に有意差がなかった。日常のトレーニング時間は、14.14±4.06、17.79±2.52時/週で女性選手のほうが有意に長く、また大会参加前1週間のトレーニング時間も9.03±2.64、11.29±2.85時/週で女性選手のほうが有意に長かった。

女性選手の大半(90.9%)は、スポーツ栄養に関する専門家のアドバイスを受けていた。その一方、男性選手でのその割合は57.8%だった(スポーツ栄養士が55.7%、医師が1.6%)。

日常のトレーニング時間に対する大会参加前1週間のトレーニング時間の比は、63.7±17.6、64.1±15.8%であり、男性、女性ともにトレーニング時間を6割強程度に減らしていた。この比率に関しては性別間の有意差はなかった。

グリコーゲン超回復は半数弱が実行し、その大半は変法によるもの

大会前のグリコーゲン超回復戦略は、48.6%の選手が行ったと報告し、残りの51.4%は大会日まで日常の食事を続けたと回答した。

グリコーゲン超回復戦略は、以下の3パターンに分類される。

「古典的(classical)モデル」は、大会の6~4日前までの炭水化物を通常より抑え(筋グリコーゲン枯渇誘発)、大会の3日前からは炭水化物摂取量を通常よりも増やす方法。「更新(updated)モデル」は、古典的モデルのデメリットである、筋グリコーゲン枯渇誘発中に疲労が蓄積しやすいという負の影響を避けるためにそれを行わず、大会の3日前から炭水化物摂取量を増やすという方法。「改変(modified)モデル」は、やはり筋グリコーゲン枯渇誘発を行わずに、競技の24時間前以降のみ炭水化物摂取量を増やすという方法。

本研究の解析対象者では、更新(updated)モデルを行っていた選手が27.8%、改変(modified)モデルが18.0%であり、古典的(classical)モデルは2.8%にすぎなかった。

なお、栄養士に指導を受けていたアスリート(45人)のうち、グリコーゲン超回復戦略を実行していたのは57.7%だった。

競技中に60g/時以上の炭水化物サプリを摂取していたのはわずか2人

86.1%の選手は、競技中に炭水化物サプリメントを摂取していた。摂取量の平均は58.3±37.6gであり、競技時間は161±25分であったため、1時間あたりの炭水化物摂取量は22.1±14.9g/時と計算された。2時間以上の持久系競技で推奨される、60g/時以上の炭水化物サプリを摂取した選手は2人だけだった。

なお、栄養士に指導を受けていたアスリート(45人)の86.66%が、競技中に炭水化物サプリを摂取していた。

炭水化物サプリ以外のサプリの摂取状況

競技前に摂取したサプリは、カフェイン36.1%、β-アラニン33.3%、タウリン25.0%が多く、重炭酸ナトリウムが1.3%だった。一方、競技中に摂取したサプリは、カフェイン27.8%、タウリン9.7%が多く、β-アラニン、クレアチン、重炭酸ナトリウムなどがそれぞれ1.3%だった。

大半の選手が競技前・競技中に、複数のサプリを摂取していた。

五輪出場レベルのトライアスロン選手は推奨を認識していない、または採用していない

本研究の主な結果は、以下の4点にまとめられる。

1)トライアスリートの半数弱(48.6%)が競技前にグリコーゲン超回復戦略を採用しており、更新(updated)モデルまたは改変(modified)モデルを採り入れていた。2)大半のトライアスリートは、競技中に約20g/時程度の炭水化物補給戦略を採用していた。3)グリコーゲン超回復または競技中の補給戦略を採用したほとんどのトライアスリートが栄養士のアドバイスを受けていたが、1人は医師のアドバイスを受けていた。4)栄養士の指導を受けているトライアスリートは男性より女性に多かった。

この結果を基に論文は、「古典的(classical)モデルのグリコーゲン超回復を行ったトライアスリートはほとんどおらず、さらに、競技中に補給していた炭水化物の量も不十分だった。トライアスリートは栄養に関する推奨事項を十分に認識していなかったか、認識したうえでそれを採用していなかったと結論づけられる」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Self-reported carbohydrate supercompensation and supplementation strategies adopted by Olympic triathlon athletes」。〔Braz J Med Biol Res. 2025 Feb 3:58:e14189〕 原文はこちら(SciELO)

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スポーツ栄養Web編集部


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フラボノイドの一種のケルセチンが、高齢者の筋力トレーニングの効果を押し上げることを示唆するデータが報告された。日本人対象RCTの結果であり、閾値の高い(強い力を出す)運動単位が動員されて、プラセボよりも高い筋力向上が認められたという。中京大学大学院スポーツ科学研究科の渡邊航平氏らの研究によるもので、「European Journal of Nutrition」に論文が掲載された。

高齢者の筋トレの安全性と有効性を両立させる戦略を探る研究

加齢に伴うサルコペニアやフレイルの抑止のために、筋力トレーニング(筋トレ)が推奨される。より効果的に筋力を高めるためには高強度の筋トレが適しているが、高齢者では関節機能の低下や安全性の懸念などがあり、十分な負荷をかけられないことが少なくない。

一方、加齢に伴う筋力低下は、筋線維萎縮や筋神経支配の喪失などによって運動単位(motor unit;MU)が減少することの影響が大きいと考えられており、これに対して、高出力を発揮するための運動単位(動員閾値の高い運動単位)を増加させる介入方法が提案されている。例えば、全身の振動を併用した筋トレや、血流制限下での筋トレだ。ただし、それらはいずれも専用機器と専門家の監視が必要であり、実用性が乏しい。

他方、ケルセチンはアセチルコリンやドーパミンなどの神経伝達物質の放出を刺激したり、運動単位の発火頻度を変化させたりすることが知られている。ケルセチン摂取により、筋線維の伝道速度が上昇するといった、先行研究の報告もある。よって、ケルセチン摂取という簡便な手法が、高齢者の筋トレ効果を高める可能性がある。渡邊氏らはそのような仮説の下、以下の研究を行った。

日本人高齢者を対象に、筋トレを併用して6週間介入

研究参加者は65~82歳の健康な高齢者30人。BMI18.5~35、運動制限がないことが適格条件で、人工関節置換術の既往者やケルセチンを含むサプリメント摂取者などは除外されている。

試験デザインはプラセボ対照二重盲検並行群間比較試験であり、年齢、性別の分布、およびベースライン時点の筋力のバランスを考慮したうえで、ケルセチン摂取群とプラセボ摂取群に割り付け、6週間の筋トレ介入中にそれらを摂取してもらった。

ケルセチン群は200mgのケルセチンとデキストリン1.8g、プラセボ群は2gのデキストリンを毎朝水とともに摂取。これらは、外観などから区別できないカプセルとして支給した。筋トレは膝伸展筋の強化を意図して、最大随意筋力(maximal voluntary force;MVF)の60%の強度で10回を3セット、週3回とした。

評価項目は、体組成、MVF・筋肉厚・運動単位(いずれもトレーニングを行った脚で測定)、体力テスト(椅子立ち上がりテスト、timed up&go test〈TUG〉)などであり、介入前、介入開始3週時点、介入終了1週間後という3時点で評価した。

運動単位(MU)については、動員閾値の変化を把握するために、すべての運動単位(MUall)に加えて、MVFの0~20%(MU0-20)、20~40%(MU20-40)、40~60%(MU40-60)と、負荷強度を細分化した評価も行った。なお、運動単位の動員閾値とは、筋肉が収縮する時、ある運動単位が活動を開始するのに必要な最小限の力のことで、小さい力で働く運動単位は動員閾値が低く、大きな力を出す運動単位は動員閾値が高い。

このほか、簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)と国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)により、栄養素摂取量と身体活動量を評価した。

主要評価項目は最大随意筋力(MVF)であり、上記のその他の指標は副次評価項目として設定されていた。

ケルセチンは動員閾値の高い運動単位への働きかけを介して、筋力を向上する可能性

介入中に4人が脱落し、解析対象は26人となった。ケルセチン群が13人(73±4歳、男性6人)、プラセボ群が13人(71±5歳、男性5人)であり、ベースライン時点で、体組成、筋力、筋肉厚、運動単位(MU)、栄養素摂取量、身体活動量など、すべての評価項目に有意差がなかった。

ケルセチン群で筋力が有意に大きく上昇

主要評価項目である最大随意筋力(MVF)は、プラセボ群が介入前111.2±47.4Nm、介入後117.1±49.9Nm、ケルセチン群が同順に93.9±25.4Nm、105.9±25.5Nmであり、両群ともに有意に上昇していたが(p<0.001)、介入後の値に有意差はなかった(p=0.240)。ただし、介入前後での変化率は、プラセボ群5.3±4.8%、ケルセチン群15.1±11.0%であり、後者のほうが有意に大きく上昇していた(p<0.001)。<>

筋肉厚、筋肉量、体力テストについては、本研究の6週間の介入では時間効果が有意でなく、群間差も非有意だった。

ケルセチン群では動員閾値の高い運動単位の発火頻度が低下

運動単位の動員閾値は、介入前は群間に有意差がなかった。それに対して介入後には、ケルセチン群において発火頻度が低下しており、とくに閾値の高い運動単位で群間差が有意だった(MUallおよびMU20-40、MU40-60は群間差が有意であり、MU0-20は非有意)。

また、ケルセチン群において、介入前後のMU40-60の変化率はMVFの変化率と有意に正相関していた(r=0.642、p=0.018)。MUallやMU20-40、MU40-60の変化率とMVFの変化率との関連は非有意であったことから、ケルセチンは動員閾値の高い運動単位への働きかけを介して筋力向上作用を高める可能性が示唆された。なお、プラセボ群では負荷強度の強弱にかかわらず、動員閾値とMVFの変化率との有意な関連は認められなかった。

著者らは、「われわれの研究結果は、ケルセチンの摂取がより高い動員閾値の運動単位の適応を向上し、筋力トレーニングと組み合わせることでその効果が拡大し、高齢者の筋力改善における有効な戦略となり得ることを示している」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Quercetin ingestion alters motor unit behavior and enhances improvement in muscle strength following resistance training in older adults: a randomized, double-blind, controlled trial」。〔Eur J Nutr. 2025 Mar 10;64(3):117〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)、介入後の値に有意差はなかった(p=0.240)。ただし、介入前後での変化率は、プラセボ群5.3±4.8%、ケルセチン群15.1±11.0%であり、後者のほうが有意に大きく上昇していた(p<0.001)。<>

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行と神経性やせ症の若年患者の日本における関係性の傾向を、大規模診療データを用いて検討した結果、COVID-19流行後に患者数が増加に転じていることが明らかになった。東邦大学の研究グループの研究成果であり、「Medicina(Lithuania)」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

研究のポイント:日本も欧米諸国同様の変化が生じていた

COVID-19の流行後、欧米諸国から若年者の神経性やせ症の患者数が増加していることが報告された。しかし、日本を含むアジア地域においては明らかになっていなかった。

今回の研究により、COVID-19の流行前の期間では、神経性やせ症の若年患者数は経時的に減少傾向だったが、流行後の期間では増加傾向にあることが明らかになった。とくに男性や低年齢群での増加率が高いこともわかった。

欧米諸国も同様の結果であり、社会や文化的な差異を超えた、COVID-19の流行およびCOVID-19流行後の生活様式の変化という、各国に共通する状況が神経性やせ症の発症に強く関連したと考えられる。また、本人の心理状態や家族および友人との関係性などが発症に関わるリスク要因として示唆された。

本研究の結果を踏まえ、今後、世界的な感染症の流行や甚大な災害時などの有事の際には、リスク要因に応じた介入を行い、重大な社会的損失を伴う神経性やせ症の発症を予防していくことが望まれる。

発表内容:男子、低年齢でより強い影響

神経性やせ症は思春期から好発する精神疾患で、その症状は長期的な治療を要する場合が多く、経済的な面も含めて個人だけでなく社会に大きな影響を与える。そのため、発症を予防し早期に介入していくことが必要であり、発症に関連する要因を明らかにすることが喫緊の課題となっている。

2020年からCOVID-19が世界的に流行する中で、米国、カナダ、オーストラリアおよび欧州諸国から、COVID-19の流行後より若年の神経性やせ症の患者数が経時的に増加していることが報告された。しかし、日本を含めたアジア諸国においては、神経性やせ症の若年患者数が経時的にどのように変化したかについては明らかになっていなかった。そこで本研究グループは、大規模診療情報データを用い、日本でのCOVID-19の流行前後における神経性やせ症の若年患者の状況を明らかにすることを目的として研究を行った。

本研究では、リアルワールドデータ株式会社から提供を受けた大規模診療データベースを用いた。同データベースに登録されたわが国の医療機関の小児科、精神科および心療内科において、神経性やせ症と新規に診断された7~19歳の患者を対象とした。日本では2020年3~5月の臨時休校以降、子どもの生活様式が大幅に変化していることから、2020年3月以前をCOVID-19の流行前、同年5月以降を流行後と定義し分割時系列解析を行い、COVID-19流行前後に神経性やせ症と診断された若年患者数の経時的な変化を比較した。

その結果、COVID-19の流行前に神経性やせ症と診断された7~19歳の患者数は41人(1.08人/月)で、流行後に診断された患者数は34人(1.48人/月)だった。男女別では、男性の流行前が1人(0.03人/月)で流行後が5人(0.22人/月)であるのに対して、女性では流行前は40人(1.05人/月)で流行後が29人(1.26人/月)と、男性の増加率の方が高いことがわかった。また、年齢別ではCOVID-19流行後に神経性やせ症と診断された7~14歳の患者数が15~19歳の患者数よりも多く、7~14歳の1カ月あたりの患者数は流行前では0.74人/月であったのに対し、流行後は1.13人/月で約1.5倍の増加を認めた。

分割時系列解析では、COVID-19の流行前の期間では神経性やせ症と診断された患者数は経時的に減少傾向だったが、流行後の期間では増加傾向を認めた(図1)。図1では月別の神経性やせ症と診断された患者数を示し(〇印)、2020年3月の縦の一点鎖線は臨時休校開始の時期を示している。実線は患者数の経時的な変化を示しているが、2020年3月以降、その実線の傾きはCOVID-19が起こらなかったと仮定したときの推計値(破線)よりも急になっている。

図1 神経性やせ症と診断された若年患者数の経時的変化

一点鎖線は2020年3月の臨時休校開始の時期を示している。

(出典:東邦大学)

欧米諸国と同様にアジア地域に位置する日本においてもCOVID-19の流行後に若年者の神経性やせ症の患者数が増加していることから、これらの国々に共通するCOVID-19の流行そのものと、流行後の生活様式の変化が患者数増加に関与していると考えられる。また、欧米諸国と日本での結果が同様であったことから、これら国々の違いに基づく社会文化的な要因よりも、当人や家族および友人に関連するリスク要因(完璧主義や不安といった心理状態、および家族や友人らとの関係性の希薄化など)が、COVID-19流行後の神経性やせ症の発症により関与している可能性が考えられる。

将来、世界的な感染症が流行した場合や甚大な災害等が生じた場合、COVID-19流行時と同様に生活様式が急激に変わり、そのような有事の際に、上記のリスク要因を考慮した介入を早期から行うことで、若年者の神経性やせ症の発症予防につながり得ると考えられる。

プレスリリース

日本においても神経性やせ症の若年患者がCOVID-19流行後に増加に転じたことを実証(東邦大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Association of COVID-19 Pandemic with Newly Diagnosed Anorexia Nervosa Among Children and Adolescents in Japan」。〔Medicina. 2025 Mar 3;61(3):445〕 原文はこちら(MDPI)

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国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition;ISSN)はこのほど、格闘技の栄養と減量戦略に関する見解(position stand)をまとめ、同学会発行の「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に発表した。

ISSNによる格闘技の栄養と減量戦略に関する16項目の見解

国際スポーツ栄養学会(ISSN)のポジションスタンドは、ISSNの編集者と評議会が、読者の関心を引くトピックを特定してそのトピックに関するエキスパートに執筆を依頼する招待論文であり、執筆された草稿はレビューと修正が加えられたうえでISSNの公式見解として承認される。

今回発表されたポジションスタンドは、PubMed、MEDLINE、Google Scholarという三つの文献データベースを使用して、包括的な文献レビューを実施したうえで、格闘技における栄養と減量戦略に関する見解が16項目にまとめられている。論文の本文の一部をピックアップして紹介したうえで、それらのポジションスタンドを示す。

イントロダクション

格闘技の歴史は古代オリンピックにまで遡り、紀元前688年頃の第33回ギリシャオリンピックにパンクラチオンという格闘技の記録がみられる。現在では、レスリング、柔道、キックボクシング、テコンドー、ムエタイ、総合格闘技、ブラジリアン柔術など、さまざまな競技に発展してきている。しかし、格闘技のパフォーマンスに関する科学的研究はまだ始まったばかりである。既に多くの競技アスリートにとって最適な食習慣が十分な研究されているが、格闘技に特化したデータは著しく少ない。

格闘技の栄養戦略を立てる際、予測可能な要因と予測不可能な要因の両方を含め、考慮すべき変数が多数存在する。例えばエネルギー要件、体重階級、トレーニングのスタイル・量・強度などにより食事計画を個別に調整する必要がある。また、減量戦略を立てる際には、競技ごとの計量のタイミングの違いが重要となる。試合24時間前の計量とする競技が多いが、回復時間を1~2時間程度しか確保できない条件での試合が求められることもある。

生体エネルギー

格闘技に必要なエネルギーは、アデノシン三リン酸・クレアチンリン酸系(ATP-Creatine Phosphate system;ATP-CP系)、解糖系(乳酸系)、有酸素系(酸化系)の三つによる。例えば空手では、平均的な4分27秒の試合中に、有酸素系が77.8%、ATP-CP系が16.0%、有酸素系が6.2%とされている。また、格闘技の種類にかかわらず、試合時間が長くなるにつれて有酸素系の占める割合が増加することが、一貫して認められている。

これらのうちATP-CP系は、高いパワーを発揮するために重要である。スポーツ栄養の専門家は、エネルギー需要、エネルギー消費、代謝コストに影響を与える可能性のある多くの要因を認識しておく必要がある。

準備期

準備段階では有酸素運動能力とスキルを向上させ、パワー、スピード、可動性など最適化にあてる。この間、参加する試合の体重クラスより12~15%重い範囲を保つ。タンパク質必要量は1.2~2.4g/kgの範囲で、2g/kgに近い量が目標摂取量とされている。炭水化物については持久系アスリートでは体重1kgあたり8~12gが推奨されるのに対して、格闘技アスリートの場合は4~5gがスタート時点の摂取量として考慮され得る。

カフェイン、クレアチン、ベータアラニン、硝酸塩、必須アミノ酸などのエビデンスの裏付けのあるサプリメントは、格闘技選手のトレーニング要求と回復をサポートするために使用可能。β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)は、体重減少段階で除脂肪体重を維持に資する可能性がある。

試合期

安静時代謝量(resting metabolic rate;RMR)を測定する手段がない場合、Mifflin St Jeor 式またはCunningham式によりエネルギー需要を推計する。1週間あたり0.5~1kgの体重減を目指す。より積極的に体重を減らすには、より大きなエネルギー不足とするが、RMRを下回らないようにする。

炭水化物摂取量は3~4g/kg/日を下回らないようにする。タンパク質摂取量は1.6~2.2g/kg/日とする。脂質摂取量は0.7~1.3g/kg/日とするが、体重減少の促進のためにはこの範囲以下にする必要があることもある。

トレーニング、スパーリング中の水分補給をモニタリングする。必要に応じて、発汗を促すために熱順応戦略を検討する。

栄養補助食品に関する考慮事項

マルチビタミン
アスリートが毎日の微量栄養素の必要量を満たし、欠乏のリスクを最小限に抑えるのを助ける。毎日の摂取。
ビタミンD(カルシフェロール)
ビタミンDレベルが低いと、怪我や上気道感染症のリスクが高まる。1,000 IU/日。
ビタミンC
鉄の吸収を高め、免疫力をサポートする。抗酸化物質として働き、酸化ストレスを軽減し、外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)後の回復を助ける可能性がある。男性90mg/日、女性75mg/日。
摂取量が少ないため、十分な鉄分レベルを維持できないアスリートに考慮。女性18mg/日、男性8mg/日以上。
マグネシウム
欠乏状態ではサプリメントを使用することを支持するエビデンスがある。推奨摂取量(recommended dietary allowance;RDA)は男性420mg/日、女性320mg/日、最大500mg/日。
亜鉛
免疫機能をサポート。男性11mg/日、女性8mg/日。
ω3
回復、抗炎症作用をサポート。脳の健康と機能をサポート。1日あたり2g以上のEPAとDHA。
クレアチン
急性運動能力を高め、筋肉のクレアチン貯蔵量を増やし、除脂肪体重を増加させる。TBI後の神経保護効果をもたらす。3~5g/日。
カフェイン
運動パフォーマンスを高め、疲労の発現を遅らせる。3~6mg/kg。
重炭酸ナトリウム
高強度の運動をサポート。0.2~0.5g/kg。
β-アラニン
細胞内緩衝能力の向上により運動パフォーマンスを向上。4~6gを2~4週間以上摂取する。
HMB
除脂肪体重をサポート。1日1~3gまたは38~40mg/kg。
抗酸化物質
脳機能をサポートし、炎症を軽減し、酸化ダメージから保護する効果がある。果物、野菜、クルクミン、N-アセチルシステイン、ビタミンE、グルタチオン、コエンザイムQ10、ビタミンB群に含まれている。

国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解

  1. 格闘技にはさまざまな体重区分、公式計量時間、競技頻度があり、トレーニングや競技における栄養と減量の戦略に影響を与える。
  2. 試合時間が4分を超えると、有酸素系の寄与は70%以上に上昇するが、高出力バーストはATP-CP系と解糖系がサポートする。
  3. オフキャンプ/一般的な準備段階では、アスリートは体重カテゴリーの要件より12~15%高い体重を維持する必要がある。
  4. クレアチン、β-アラニン、HMB、カフェインなどのサプリメントは、準備段階、競技中、競技後のパフォーマンスや回復を高めることが示されている。
  5. ファイトキャンプ中は、効率的な縦断的体重減少のために、カロリー摂取量を戦略的に減らす必要がある。個人のカロリー必要量は、間接熱量測定法、またはMifflin St. JeorやCunninghamなどの検証済み推算式を使用して決定する。
  6. 減量期間は、除脂肪体重を維持するためにタンパク質を優先する必要があり、炭水化物を適時に摂取することでトレーニング要求に応えることがでる。主要栄養素は、炭水化物3.0~4.0g/kg、タンパク質1.2~2.0g/kg、脂質0.5~1.0g/kg/日を下回らないようにする。
  7. 適切な体重減少は、体重測定前の72時間で6.7%、48時間で5.7%、24時間で4.4%の範囲。
  8. ナトリウム制限と水分補給は、多尿と急性の水分喪失を誘発するのに効果的。
  9. 試合週中は、運動と炭水化物の制限により水分に結合したグリコーゲン貯蔵量が枯渇し、体重が1~2%減少する。同様に、食物繊維の摂取量を4日間で1日あたり10g未満に抑えることでも、同程度の体重減少が見込まれる。
  10. 試合週中は、サウナ、温水浸漬、マミーラップなどの急性の水分損失策を、適切な監督下であれば効果的に使用可能(最適な減量幅は計量の約24時間前までに体重の約2〜4%が目安)。
  11. 計量後、試合上の優位性を得る目的で、競技前に失われた体液/体重を回復するために急速な体重増加戦略が活用される。
  12. 体重測定後すぐに、50~90mmol/dLのナトリウム濃度の経口補水液(1~1.5L/時)を摂取する。
  13. 経口補水液の後に、耐容速度60g/時以下での速効性炭水化物を摂取する必要がある。体重測定後の食物繊維の摂取は、胃腸障害を避けるために制限する必要がある。
  14. 試合週中に大幅なグリコーゲン枯渇戦略を実施した格闘技選手の場合、計量後の炭水化物摂取量は8~12g/kgが適切である可能性がある。適度な炭水化物制限の場合は4~7g/kgが適切である可能性がある。
  15. 体重測定後、パフォーマンスの低下と急激な体重減少による悪影響を軽減するために、水分補給/栄養補給プロトコルで体重の10%以上を回復することを目指す必要がある。
  16. 頻繁な減量が健康とパフォーマンスに及ぼす長期的な影響は不明であり、さらなる研究が必要。

原題のタイトルは、「International society of sports nutrition position stand: nutrition and weight cut strategies for mixed martial arts and other combat sports」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2467909〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部


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運動不足と腹部肥満は、どちらも修正可能ながんの主要なリスク因子だが、それらのいずれか一方のみが良好な状態であったとしても発がんリスクは高いことが、英国の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータ解析から明らかになった。つまり、腹部肥満がなく、かつ、日常の身体活動が多いことが、発がんリスクの抑制につながることが示唆された。

がん予防に必要なのは身体活動か腹部肥満解消か? それとも両方か?

運動不足と腹部肥満はどちらもがんのリスク因子としてしられている。これらは代謝の低下やインスリン抵抗性の亢進、慢性炎症などを介して発がんリスクを高めると考えられている。しかし、世界人口の4割以上が腹部肥満であり、3割がガイドライン推奨の身体活動量を満たしていないとされ、それが世界のがん患者増加の一部に関与していると考えられる。

一方、これまで、運動不足および腹部肥満のそれぞれとがんリスクとの関連は研究されてきているが、例えば身体活動は多いものの腹部肥満の場合、あるいは、腹部肥満ではないが身体活動が少ない場合に、がんリスクがどのように変化するのかという点は不明だった。これを背景として、今回取り上げる論文の著者らは、英国で行われている一般住民対象の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて、この点を検討した。

UKバイオバンクのデータを11年追跡

UKバイオバンクは、2006~10年に、40~69歳の英国内の一般住民50万2,356人を登録して、現在も追跡調査が続けられている大規模な疫学研究。本研究では、追跡開始時点での非黒色腫皮膚がん以外の皮膚がん罹患者、BMI18.5未満、極端なウエスト周囲長(0.1パーセンタイル以下)、データ欠落者などを除外した、31万5,457人(56.1±8.2歳、女性48.1%)を解析対象とした。

身体活動量は国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)で評価し、10MET-時/週以上を「身体活動量が多い」と定義した。腹部肥満については世界保健機関(WHO)の欧米でのカットオフ値(女性88cm超、男性102cm超)を用いて判定した。

身体活動量の多寡と腹部肥満の有無により4群に分類した場合、各群の該当者数と割合は以下のとおり。

  • (1)腹部肥満でなく身体活動量が多い(腹部肥満-/身体活動+)群14万7,502人(46.8%)
  • (2)腹部肥満でなく身体活動量が少ない(腹部肥満-/身体活動-)群7万8,310人(24.8%)
  • (3)腹部肥満で身体活動量が多い(腹部肥満+/身体活動+)群4万6,580人(14.8%)
  • (4)腹部肥満で身体活動量が少ない(腹部肥満+/身体活動-)群4万3,065人(13.7%)

「腹部肥満-/身体活動+」群に比較し、他の3群は交絡因子調整後も有意にハイリスク

10.9年(3,321万1,486人年)の追跡で、2万9,710人が何らかの原発性悪性腫瘍を発症していた。

(1)の「腹部肥満-/身体活動+」群を基準として、交絡因子(年齢、性別、民族、身長、喫煙・飲酒習慣、座位行動、握力、教育歴、心血管代謝疾患、健康的食事スコア、貧困〈タウンゼント指数〉、がん健診受診〈大腸がん、乳がん、前立腺がん〉、がん家族歴、医療機関、女性のホルモン補充療法および経口避妊薬の服用、初経年齢、閉経前・後、出産回数、子宮摘出年齢)を調整後に発がんリスクを比較。その結果、3群すべて以下のように、がんリスクが有意に高いことが明らかになった。

(2)の「腹部肥満-/身体活動-」群はHR1.04(95%信頼区間1.01~1.07)、(3)の「腹部肥満+/身体活動+」群はHR1.11(同1.08~1.15)、(4)の「腹部肥満+/身体活動-」群はHR1.15(1.11~1.19)。

運動不足や腹部肥満に関連するがんについてはより強固な関係

上記はすべてのがんのリスクの解析だが、続いて、運動不足や腹部肥満がリスクに影響するとのエビデンスのあるがん種(食道腺がん、大腸がん、肝臓がん、閉経後乳がん、子宮内膜がんなど)で解析が行われた。その結果、以下のように、上記の解析結果よりもさらに強固な関係が明らかになった。

(2)の「腹部肥満-/身体活動-」群はHR1.08(1.01~1.14)、(3)の「腹部肥満+/身体活動+」群はHR1.38(同1.30~1.47)、(4)の「腹部肥満+/身体活動-」群はHR1.48(1.39~1.58)。

健康的な食事と身体活動へのアクセスを増やす政策立案が求められる

感度分析として、逆因果関係(例えば未診断のがんがありその影響で身体活動量が減ることなど)が結果に影響を及ぼしている可能性を回避するため、追跡開始2年以内または5年以内に診断された患者を除外した解析、および、非喫煙者のみでの解析、飲酒量を考慮した解析、性別の解析を実施。それらの結果も主解析とかわらなかった。

また、すべてのがんの2.0%(1.5~2.5)は、身体活動が少なく腹部肥満であることに起因するがんと推計され、6.1%(5.0~7.3)はそれらのいずれかが関与したがんと推計された。

これらの結果に基づき著者らは、「腹部肥満のために上昇するがんリスクを、身体活動では相殺できないことが明らかになった。同様に、腹部肥満のない人でも、運動不足であれば、がんリスクは高いことも示された」と総括。また、「腹部肥満や運動不足を誘発しやすい社会環境をターゲットとする政策介入と、健康的なライフスタイルに関する一般生活者の意識向上への働きかけが必要とされる」と付言している。

文献情報

原題のタイトルは、「WHO guidelines on waist circumference and physical activity and their joint association with cancer risk」。〔Br J Sports Med. 2025 Jan 22:bjsports-2024-108708〕 原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)

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スポーツ栄養Web編集部


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レストランのメニューに添えてあるカロリー量の表示は、「ないよりはあったほうが良い」くらいに考えている人が多いかもしれない。しかし、摂食障害の人にとってはその表示が重荷になっているとする、システマティックレビューとメタ統合の結果が報告された。著者らは、「公衆衛生の政策立案者は、カロリー表示の負の側面も考慮すべきだ」と記している。

カロリー表示の負の側面への視点

肥満人口を抑制するための公衆衛生施策が世界的な優先事項となっている。その施策の一つとして、外食店のメニューにエネルギー量(カロリー)や栄養素量を併記することが推し進められている。例えば米国では、店舗が一定数以上ある外食チェーン店は表示を義務付けるという州がある。また英国では、従業員数が250人以上の場合にそれを義務化している。その一方、英国では、そのような義務付けを推進する動きに距離を置く主張もみられる。

相反する主張が展開される理由は、摂食障害をもつ人々への影響を考慮に入れた場合、期待される肥満人口の抑制という効果は、負の影響とのトレードオフに見合うほどのものではない可能性があるというものだ。ただし、外食店でのカロリー表示について、そのような負の側面から検討した研究はまだ多くなく、今回取り上げる論文の著者によると、システマティックレビューはまだ行われていないという。

現在の公衆衛生対策は、摂食障害患者への影響をほとんど考慮せずに推し進められている

この研究は、既報研究を対象とするシステマティックレビューとメタ分析として実施された。文献検索は、2023年6月29日に、MEDLINE、EMBASE、APA PsycINFO、Web of Science、CINAHLといった8件のデータベースを用いて行われた。一次検索で758報がヒットし、重複削除後の578報を2名の研究者がタイトルと要約に基づき独立してスクリーニングを実施。34報を全文精査の対象とし、最終的に16件の研究報告を抽出した。

16件のうち8件は米国、5件は英国で実施されており、他はサウジアラビアが2件、カナダが1件だった。研究デザインは実験的研究と横断研究が各5件で、6件は定性的研究または混合研究法での研究だった。論文ではこれらの研究デザイン別に、メタ統合(質的解析)を行っている。内容の一部を紹介する。

実験的研究

大学のカフェテリアでの栄養成分表示の試験的導入の前と後で学生の評価を比較した研究では、参加者の大半は表示導入を前向きに評価し、50%は継続を支持していた。しかし、摂食障害をもつ人々への懸念を表明した学生も少なくなかった。具体的には、16%が表示によって摂食障害発症リスクが高まるのではないかと回答し、47%は摂食障害を既に有する場合にそれが悪化するのではないかと回答。また35%が摂食障害からの回復が困難になることを懸念していた。

女子大学生を対象に行われた別の研究では、カロリー表示が高体重の人ではなく、むしろ低体重の人の摂取量を減らすように作用する可能性が示されていた。例えば、表示を目にすることで「高カロリーのメニューを避ける」と答えた割合は、高体重群が2.8%であるのに対して低体重群は6.5%だった。

摂食障害をもつ人々への影響を調べた研究は1件のみだった。その研究では、摂食障害のある人ではカロリー表示の有無によりメニューの選択が明らかに異なるものの、摂食障害のない人ではカロリー表示があってもなくてもメニューの選択肢に違いはみられなかった。

横断的研究

サウジアラビアの大学生を対象に、カロリー表示を開始後に行った調査では、74%がその変化を認識しており、45.7%は高カロリーの選択肢を避けるためにその情報を利用していた。そして、カロリー表示を認識していることと、それを利用していることは、いずれも体重への懸念と摂食障害の増加に関連していた。また米国の大規模なコミュニティーサンプル(n=1,830)での調査では、52.7%がひと月以内にレストランのカロリー表示がスタートしたことを認識し、そのうちの50.1%(全体の26.4%)が高カロリーメニューを避けるために利用していた。米国の大学生対象調査では、ほぼ全員が栄養表示に賛成だったが、29%は既存の摂食障害を悪化させる可能性があると感じ、34%はその表示によって回復が困難になると考えていた。

英国で行われた研究からは、摂食障害をもつ人は他の精神衛生上の懸念をもつ人に比べて、カロリー表示の方針に同意する割合が低いという結果が報告されていた。また、摂食障害をもつ参加者の半数以上が、カロリー表示によって症状が悪化する可能性があると回答していた。

定性的研究・混合研究

6件の研究報告の分析により、カロリー表示が摂食障害のリスクを高めたり、回復の妨げとなる可能性が示された。

研究対象者のコメントの一部を挙げると、「表示を見たあと、カロリーのことを過剰に意識してしまい、体が膨張し汚れたように感じる」、「集中的な治療を受けてきたのに、カロリー表示を見ると、『それは正しいことではない』と言われているような気がして困惑する」といったものが含まれていた。

また英国からの報告の中には、カロリー表示政策は、低カロリーの食品を選択することが、健康を維持する唯一の方法であることを暗示するものだとの主張や、摂食障害を持つ人々への配慮が欠けているとの不満の声もあることが記されていた。

著者らは、「この研究結果は、外食店のカロリー表示を推進していくうえで、摂食障害の精神病理に及ぼす潜在的な影響を調査することの重要性を強調するものであり、政策立案者はカロリー表示政策を決定する際に、肥満と摂食障害の双方への影響を考慮する必要がある」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Impact of out-of-home nutrition labelling on people with eating disorders: a systematic review and meta-synthesis」。〔BMJ Public Health. 2025 Jan 29;3:e000862〕 原文はこちら(BMJ Publishing)

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スポーツ栄養Web編集部


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過栄養・肥満の関与が大きいと捉えられることの多い2型糖尿病だが、実際にはビタミンやミネラルが不足している患者が少なくないことが、システマティックレビューとメタ解析により明らかになった。経口血糖降下薬のメトホルミンが処方されている人では、ビタミンB12の不足が多いことも示されている。著者らは、「糖尿病患者において、栄養不良の二重負荷が生じている」としている。

2型糖尿病における栄養不良の二重負荷の実態は?

2型糖尿病の患者数は世界的に増加しており、その原因の多くは、運動不足と不適切な食習慣、より具体的には過食による肥満にあるとされている。その一方で、微量栄養素の不足がインスリン抵抗性の発生に関与することを示唆する研究結果が報告されている。ただし、2型糖尿病患者の栄養状態に関する研究の大半は、主要栄養素の過剰に焦点を当てており、微量栄養素の不足は顧みられることが少ない。

近年、世界中で肥満や2型糖尿病の増加に象徴される過栄養が健康課題となっているのと同時に、依然として多くの人々が低栄養に苛まれている実態を「栄養不良の二重負荷(double burden of malnutrition)」と呼び、対策が急がれている。この問題は通常、ある国や地域内で相反する栄養状態の人々が存在することをさす。しかし、糖尿病患者に対しては栄養素摂取量を適切にする(多くの場合は抑制する)という指導介入が行われ、それが過剰になされた場合、栄養不良の懸念が生じる。このことから、2型糖尿病患者という集団内でも「栄養不良の二重負荷」が発生している可能性がある。また、前述のように、微量栄養素不足が2型糖尿病の一因である可能性もある。

これらを背景として、今回紹介する論文の著者らは、2型糖尿病患者の微量栄養素の不足について、システマティックレビューとメタ解析による検討を行った。

文献検索とメタ解析の対象について

システマティックレビューは、Embase、ProQuest、PubMed、Scopus、コクランライブラリ、Google Scholar、LILACS、および灰色文献(学術的ジャーナルに掲載された論文以外の記事)を対象として、PRISMAガイドラインに則して行われた。包括基準は、18歳以上の2型糖尿病患者の微量栄養素の不足を検討した横断研究、縦断研究、無作為化比較試験などであり、除外基準は1型糖尿病や妊娠糖尿病、18歳未満での検討、および、症例報告、ケースシリーズ、レビューなど。

文献データベースから7,344報がヒットし、それ以外の灰色文献として1,466報を特定。重複削除後の4,886報を2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。160報を全文精査の対象として、127報(データセットとしては132件)の報告を適格と判断した。

132件の研究の対象者数は合計5万2,501人だった。研究デザインは横断研究が94件で最多であり、研究対象は大半(124件)が医療機関ベースであって、26件は糖尿病合併症を有する対象で検討され、30件はメトホルミンが処方されている患者でのビタミンB12不足(同薬の服用でB12レベルが低下することが知られている)を調査していた。報告年は96件が2016年以降で、128件は英語で報告されていた。

調査されていた微量栄養素は、ビタミンではA、B1、B6、Eが各1件、B12が36件、Cが2件、Dが67件であり、ミネラルではヨウ素、カリウムが各1件、鉄が3件、マグネシウムが16件、亜鉛が2件などだった。

2型糖尿病患者の45%が微量栄養素不足

微量栄養素不足の分布を正規分布に近づけるための統計学的処理(二重アークサイン変換)の後のメタ解析により、2型糖尿病患者における微量栄養素不足の有病率は45.30%(95%CI;40.35~50.30)と計算された。このほか本研究では、性別、医療機関ベースか地域ベースかの別、地域別など、いくつかのサブグループで解析がなされている。

男性より女性、地域ベースより医療機関ベースの研究で、微量栄養素不足の有病率が高い

2型糖尿病患者の微量栄養素不足の有病率を性別にみると、男性は42.53%(95%CI;36.34~48.72)、女性は48.62%(42.55~54.70)であり、女性の有病率のほうが高かった。地域ベースと医療機関ベースの比較では、前者での有病率は46.30%(41.21~51.43)、後者は22.49%(5.98~45.55)であり、医療機関ベースのほうが有病率が高かった。

地域別にみた場合、最も高い有病率は北南米の54.04%(35.07~2.48)だった。次いで東南アジアが49.73%(38.88~60.60)であり、以下、東地中海が46.94%、アフリカ40.54%、欧州39.82%、西太平洋39.21%と続いた。

微量栄養素別の不足の有病率

3件以上の研究報告のある微量栄養素(ビタミンD、B12、マグネシウム、鉄)については、それぞれ単独での解析も行われている。それらの中で不足の有病率が最も高かったのはビタミンDであり、60.45%(55.17~65.60)だった。次いでマグネシウムが41.95%(27.68~56.93)、鉄は27.81%(7.04~55.57)、ビタミンB12は22.01%(16.93~27.57)だった。

なお、ビタミンB12については、メトホルミンが処方されている患者を対象とする研究でのメタ解析も行われており、有病率は28.72%(21.08~36.37)であって、全体解析より6.7パーセントポイント高値だった。

糖尿病の栄養介入では、総合的な最適化を優先すべき

これらの結果を基に著者は、ジャーナル発のプレスリリースの中で、「我々の研究結果は、2型糖尿病の患者集団において、栄養不良の二重負荷が実際に起こっていることを示している。2型糖尿病の治療では、エネルギー出納と主要栄養素の摂取量に重点が置かれることが多いが、いくつかの微量栄養素不足の有病率の高さが明らかになったことから、総合的な栄養の最適化が常に優先されるべきであることの再認識が求められる」と記している。

なお、解釈上の留意点として、一般集団での微量栄養素不足の有病率のエビデンスがなく、比較が不能なこと、および、システマティックレビューで抽出された研究の大半は横断研究であったため、微量栄養素不足発生の時間的前後関係が不明な点を指摘。そのうえで、後者の点に関連し、微量栄養素の不足がインスリンシグナル伝達経路に影響を及ぼし、2型糖尿病発症に重要な役割を果たすことも考えられるとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Burden of micronutrient deficiency among patients with type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis」。〔BMJ Nutr Prev Health. 2025 Jan 29;0:e000950〕 原文はこちら(BMJ Publishing)

プレスリリース

Lack of essential vitamins and minerals common in people with type 2 diabetes(BMJ)

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スポーツ栄養Web編集部


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やせていることがパフォーマンス上、有利と捉えられる傾向のある長距離においても、そうとは言えない可能性を示唆するデータが、米国から報告された。大学女子選手対象に行われた前向き観察研究の結果であり、シーズン前にエネルギー不足だった選手はエネルギーが充足していた選手に比べて、シーズン中のパフォーマンスが有意に低いという。著者らは、エネルギー不足は長距離ランナーのトレーニング効果を低下させてしまう可能性があるとしている。

エネルギー不足のパフォーマンスへの影響を前向き研究で検討

長距離選手はエネルギー出納が負になる傾向のあることが知られている。その理由として、(1)トレーニングによる消費を食事で満たせていない、(2)やせているほうがパフォーマンス上有利という信念、ということのほかに、(3)摂食障害を生じている場合も当てはまる。一方でアスリートのエネルギー不足は、回復の遅延、疲労の増大、トレーニング効果の低下などにつながり、とくに女性ではRED-S(relative energy deficiency in sport)を介して月経異常や妊孕性低下、疲労骨折などの健康障害が生じやすいことが報告されている。

さらに、前記の理由の(2)に関しては、エネルギー不足によってむしろパフォーマンス低下を来す可能性を示唆する研究結果もある。ただし、そのエビデンスは少なく、ことに前向き研究の知見はほとんどない。

これを背景として、全米大学体育協会(NCAA)のディビジョンI、またはエリートレベルの競技団体に所属している、大学生女子長距離選手を対象とする前向き観察研究が実施された。

NCAAディビジョンIレベルの女子大学生選手を10~12週間観察

研究参加者は、年齢が18~25歳の大学生で長距離大会に積極的に参加しており、健康な非喫煙者を適格条件として募集された42人で、このうち38人がシーズン前のテストに参加、さらに21人はシーズン後のテストにも参加し縦断的解析の対象とされた。

38人のおもな特徴は、年齢19.3±0.2歳、BMI20.2±0.3、体脂肪率22.8±0.7%で、安静時代謝率(resting metabolic rate;RMR)は1,212.5±18.1kcal/日であり、Cunningham式に基づき除脂肪体重から算出したRMRの予測値(predicted RMR;pRMR)に対するRMR実測値(measured RMR;mRMR)の割合である「mRMR/pRMR(RMR比)」は0.95±0.01だった。なお、RMR比が0.92未満の場合、エネルギー不足であるとする先行研究の報告に基づき、本研究でもこれをカットオフ値として、2群に分けて後述の検討を行っている。

このほか、VO2maxは59.7±1.2mL/分/kg、5kmタイムトライアル(5kmTT)は21.0±0.4分、トレーニング時間は409±53分/週、摂取エネルギー量は2,017±102kca/日、運動による消費エネルギー量は613±42kcal/日で、エネルギー可用性(energy availability;EA)は43.9±3.2kcal/kgLBM(除脂肪体重)だった。また、甲状腺ホルモンの総トリヨードサイロニン(total triiodothyronine;TT3)は、96.6±4.1ng/dLだった。なお、エネルギー不足状態では代謝の抑制に関連してTT3は低値となる。

月経状態は16人が正常、8人は月経異常、2人はこの質問に対して明確に回答せず、12人は経口避妊薬を使用していた。

この研究において解析は、ベースライン時点でのRMR比0.92未満/以上での2群での比較という横断的解析と、シーズン前と10~12週間のシーズンを経た後の変化をその2群間で比較するという縦断的解析が行われている。なお、観察期間中の脱落の理由は、多忙(11人)、疲労骨折(2人)などだった。

シーズン前時点のエネルギー不足がシーズン中とシーズン後のパフォーマンス不良に関連

シーズン前のベースラインにおいて、RMR比が0.92未満でありエネルギー不足と判定された選手が12人、RMR比0.92以上でエネルギー充足と判定された選手が26人だった。この2群のベースラインデータを比較すると、年齢、BMI、体脂肪率、摂取エネルギー量、運動による消費エネルギー量、VO2max、5kmTTの記録には有意差がなかった。しかし、エネルギー不足群はエネルギー可用性(EA)が有意に低く(35.9±2.0 vs 48.9±4.5kcal/kgLBM、p=0.046)、総トリヨードサイロニン(TT3)が有意に低値であり(82.69±4.51 vs 103.64±5.13ng/dL、p=0.013)、代謝の抑制が生じていることが示唆された。

縦断的解析の対象者ではシーズン前、シーズン後ともにパフォーマンスに有意差

シーズン後にもテストを受けて縦断的解析の対象となった21人に絞ると、シーズン前にRMR比が0.92未満でありエネルギー不足と判定された選手が7人、RMR比0.92以上でエネルギー充足と判定された選手が14人だった。この2群のベースラインデータを比較すると、EAは有意差がなかったが、TT3はやはりエネルギー不足群のほうが有意に低値であった。

さらに、この2群間ではパフォーマンス指標にも、シーズン前とシーズン後の両時点で、以下のような有意差が認められた。

VO2max

シーズン前は、エネルギー不足群が57.7±4.3、充足群が62.5±6.7mL/分/kgで、エネルギー不足群のほうが8.8%低値だった。シーズン後は同順に59.2±5.9、66.0±4.1mL/分/kgであり(p=0.018)、両群ともにシーズン前より有意に増加していたが群間差は11%に拡大していた。

5kmTT

シーズン前は、エネルギー不足群が22.5±0.7、充足群が20.52±0.7分で、エネルギー不足群のほうが有意に不良だった(p=0.04)。シーズン後は同順に22.2±0.7、20.3±0.7分であり(p=0.040)、両群ともに有意な変化はなく、群間差は引き続き有意だった。

シーズン前のTT3は、5kmTTのシーズン中の変化およびシーズン後の記録の予測因子

次に、シーズン後のVO2maxの群間差の影響を統計学的に調整したうえで、シーズン前のTT3とシーズン前後での5kmTTの走行速度の変化、およびシーズン後の5kmTTの走行速度との関連を線形回帰分析で検討。その結果、シーズン前のTT3はシーズン前後に生じていた5kmTTの走行速度の変化の有意な予測因子であり(R2=0.455、p=0.014)、かつ、シーズン後の5kmTTの走行速度の有意な予測因子だった(R2=0.662、p=0.001)。

つまり、シーズン前にエネルギー不足による代謝抑制が生じていると、シーズンを通してパフォーマンス向上が妨げられ、シーズン後のパフォーマンスが不良になるという関連が認められた。

著者らは、「長距離ランナーのパフォーマンス最大化のために、アスリートのエネルギー不足による代償機転を早期に検出する必要があるのではないか」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Pre-Season Energy Deficiency Predicts Poorer Performance During a Competitive Season in Collegiate Female Long-Distance Runners」。〔Eur J Sport Sci. 2025 Mar;25(3):e12261〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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スポーツ栄養Web編集部


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中国、日本、韓国という東アジア3カ国のサッカーのレベルを、海外、とくに欧州でプレーする選手数の多寡と関連づけて解析した結果が報告された。それぞれの国から出て、欧州リーグで活躍する選手数が多いほど、FIFAランキングが上位であることが明らかにされている。スポーツ栄養とは直接的な関連のある研究ではないが、選手がハイレベルでの環境で経験を積むことがその国のレベル向上につながることを示す、興味深いエビデンスの一つとして紹介する。中国の研究者らの報告。

人材の海外流出は、その人たちが帰国後に国内で活躍することで、長期的にプラスとなる

本稿ではまず、論文のイントロダクションに述べられている内容を紹介する。

専門家の海外流出は、その国の人的資本を枯渇させる可能性が指摘されている。その一方で、時間の経過とともに、海外に移住した人たちの経験が、その国の人的資本を強化する可能性がある。サッカーにおいても、“先進国”と呼ばれる国々のリーグが、サッカーの“発展途上国”のエリート選手を引き抜くことにより、引き抜かれた国の戦力低下がもたらされ、格差をより拡大しているとする批判がある。

トップリーグの人材獲得競争の激しさを表す数値として、例えば欧州5大リーグの1995年の全選手のうち、外国人選手は20%だったが、2005年には39%、2015年の時点で既に50%に達していた。しかし、このようなサッカー選手の海外流出が、その国のレベル低下をもたらすとすることのエビデンスは不足している。一方で、技術者の流出と国内回帰でみられるようなプラスの影響がサッカーにおいても成立し、時間の経過とともに国家間の競技レベル差の縮小につながる可能性も考えられる。具体的には、海外に出てプレーした個々の選手が身に付けたテクニック、身体能力、経験、およびサッカーの戦略や考え方、姿勢などが、帰国後に国内組の選手や指導者、組織に変化をもたらす可能性がある。

東アジアの3カ国、中国、日本、韓国は、地理的に隣接し、文化・歴史・民族という点でも類似点が少なくない。しかしこの3カ国のうち中国は、サッカーの成績という点で日本と韓国から大きく水をあけられている。2024年現在、日本は国際サッカー連盟(FIFA)ランキングが世界で18位、アジアでトップ、韓国は世界23位、アジアで3位であるのに対して、中国は世界で87位、アジアで13位である。

中国の日本に対する対戦成績は7勝15敗8分けで、最後の勝利は1998年までさかのぼる。当時は中国も日本も海外でのプレー経験のある選手がごく限られていた。2026年ワールドカップ予選で、中国は日本に0対7という大敗を喫したが、その時点で日本は海外のハイレベルリーグで21人がプレーしていたのに対して、中国はゼロだった。

論文のイントロダクションでは以上のような事実を整理。そのうえで、海外でプレーするサッカー選手の人数や種通常試合数などと、その国のFIFAランキングとの関連が検討されている。

若い才能の効果的な育成につながる知見

この研究では、海外組の選手を欧州リーグでプレーしている選手数と定義した。その理由として、欧州はサッカーの競争が激しく、名門クラブがしのぎを削っており、東アジアの選手の移籍先としても定着しているためと述べられている。

解析には2000年以降の2万2,972試合のデータが用いられた。FIFAランキングを従属変数、海外移籍選手数を独立変数、出場回数とプレー時間を媒介変数とする解析など、詳細な検討がなされている。以下に結果の一部を紹介する。

ポジション別の選手数

2000年以降、中国、日本、韓国の3カ国から、欧州リーグへの移籍者数をポジション別にみると、フォワードが519人、ミッドフィルダーが332人、ディフェンダーが314人だった。日本と韓国はフォワードが多いのに対して、中国はディフェンダーが多かった。詳細は以下のとおり。なお、論文では国別データを記載する順序として、中国、日本、韓国の順に示されているが(中国発の研究であるためと考えられる)、以降はFIFAランキングにそって、日本、韓国、中国の順に記す。

表1 2000年~2024年に欧州でプレーした東アジア出身サッカー選手の人数

※ゴールキーパーはサンプル数が少ないため当論文では除外されている

欧州移籍選手数やその選手の参加試合数、先発出場数、プレー時間などは、以下のように、すべてFIFAランキングと有意な相関が認められた。

FIFAランキングと欧州リーグ移籍選手数との相関はr=-0.5338(移籍選手数が多いほど順位の数値が小さいため相関係数はマイナスとなる)、ビック5でプレーする選手数との相関はr=-0.3927、ビック5以外でプレーする選手数との相関はr=-0.4681、選手の出場試合数との相関はr=-0.4731、先発メンバーとしての出場試合数との相関はr=-0.4665、ピッチ上でのプレー時間との相関はr=-0.4709。

なお、日本の選手はいずれの指標についても3カ国間で大きくリードしており、2022年において出場試合数は1,731回、先発出場は1,316回、ピッチ上の時間は90分フル出場に換算して1299.5試合相当だった。韓国の選手は2020年に最高のデータを記録し、出場試合数は399回、先発出場は246回、ピッチ上の時間は250.2試合相当だった。中国の選手のピークは2007年であり、出場試合数109回、先発出場58回、ピッチ上の時間70.6試合相当だった。

論文の結論は、「この研究は、東アジアのサッカーの発展にとって国際的な進出の重要性を強調しており、世界的なキャリアを目指す若い才能を効果的に育成するための洞察を政策立案者に提供するものである」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「East Asian expatriate football players and national team success: Chinese, Japanese, and South Korean players in Europe (2000-2024)」。〔Sci Rep. 2025 Jan 29;15(1):3707〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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農林水産省は3月21日、令和6年10月に全国の市町村を対象に実施した、「食品アクセス問題(買物困難者)に関するアンケート調査」の結果を公表した。食品アクセスについて「対策が必要」、「ある程度必要」と回答した市町村が約9割(88.1%)に上った。

調査の背景と方法

近年、高齢化の進展や食料品小売店の減少等の社会・経済構造の変化によって、中山間地域はもとより、都市部においても、食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる者(いわゆる「買物困難者」)が増加している。この問題は単に商店街の衰退や地域公共交通の機能低下といった側面を有するだけでなく、食料の安定供給の確保という食料安全保障の観点からも、効果的かつ持続的な対策が求められている。このため、農林水産省では平成23年度より、この問題の現状分析の一環として、全国の市町村を対象に、買物困難者への対策に関するアンケート調査を実施してきている。

今回発表された結果は、令和6年10月に実施されたもので、調査対象は全国の1,741市町村(東京都特別区を含む)で、有効回答数は1,033市町村(回答率59.3%)だった。結果の一部を以下に紹介する。

対策の必要性と背景

食料品の買物が不便・困難な住民に対する対策の必要性と行政による対策の実施

  • 現時点で対策を必要としている市町村(「対策が必要」または「ある程度必要」と回答した市町村)の割合は88.1%であり、平成29年度以降、増加傾向にある(図1上)。
  • 上記市町村のうち、行政による対策が実施されているのは75.5%であった(図1下)。

図1 対策を必要としている市町村の割合

(出典:農林水産省)

対策を必要とする背景

  • 人口規模の小さい都市ほど、対策が必要だと感じている割合が高い(図2)。
  • 対策を必要とする背景としては、都市規模にかかわらず「住民の高齢化」が最も多く挙げられ、次いで「地元小売業の廃業」「中心市街地、既存商店街の衰退」と続いている(図3)。
  • 対策を必要とする背景として「中心市街地、既存商店街の衰退」を挙げた割合は、中・小都市よりも大都市の方が高かった。

図2 対策を必要としている市町村の割合(都市規模別)

「対策を必要としている市町村」とは、「対策が必要」または「ある程度必要」と回答した市町村。

(出典:農林水産省)

図3 対策を必要とする背景として挙げられた割合

(出典:農林水産省)

対策を必要としている市町村における行政または民間事業者による対策の実施状況

  • 対策を必要としている市町村において、行政または民間事業者のいずれかで対策が実施されている割合は89.2%(図4上)。
  • 平成30年度以降、民間事業者が独自に参入している市町村に比べ、行政による対策が実施されている市町村の割合が高い(図4下)。

図4 対策を必要としている市町村における行政または民間事業者による対策の実施状況

「対策を必要としている市町村」とは、「対策が必要」または「ある程度必要」と回答した市町村。

(出典:農林水産省)

行政による対策の実施状況

対策の内容(図5)

  • 行政が実施している対策内容としては、「コミュニティバス、乗合タクシーの運行等に対する支援」が最も多く、80.9%となったほか、「移動販売車の導入・運営に対する支援」が一貫して増加傾向にあり、33.9%となった。
  • 本年度調査から選択肢として新設した「買物支援バスの運行等に対する支援」を行っている市町村の割合は15.3%であった。

図5 市町村が実施している対策の内容の推移

(出典:農林水産省)

都市規模ごとの対策の実施状況

  • 行政が実施する対策のうち、「コミュニティバス、乗合タクシーの運行等に対する支援」は小都市ほど実施率が高く、「宅配、御用聞き・買物代行サービス等に対する支援」は大都市ほど実施率が高い。
  • 対策によってカバーできている割合については、「30~60%程度」と回答した市町村が最も多い(図6)。

図6 対策によってカバーできている割合

(出典:農林水産省)

関連情報

食品アクセス問題に関する全国市町村アンケート調査 令和6年度調査結果 令和6年度「食品アクセス問題(買物困難者)」に関する全国市町村アンケート調査結果の公表について

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スポーツ栄養Web編集部


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筋トレが高齢者の血管系の潜在的なリスクを高める可能性があり、入浴によってそのリスクが部分的に緩和されることを示唆するデータが中京大学大学院スポーツ科学研究科の渡邊航平教授の研究チーム(渡邊航平研究室)から報告された。同研究室の竹田良祐氏らを中心に、主に愛知県名古屋市、長久手市、豊田市在住の高齢者約200名を対象として行われた研究であり、「International Journal of Biometeorology」に論文が掲載された。

筋トレで血管に悪影響? 入浴がそれを抑制?

筋力トレーニングは、高齢者のサルコペニアや糖代謝異常などのリスク抑制のため、広く推奨されている。その一方、心血管系への有益性のエビデンスが豊富な有酸素運動とは異なり、筋トレはその強度や頻度次第で血圧上昇や動脈硬化の悪化という負の影響が生じ得ることを示唆する研究結果が複数報告されている。心血管リスクが高い状態にあることの多い高齢者では、この点への留意がより重要となる。

他方、入浴(湯船に浸かる入浴)の心血管リスク抑制作用に関して、多くのエビデンスが蓄積されてきている。では、高齢者での筋トレ効果を維持しつつ、筋トレで生じ得る負の側面を、入浴で抑制できないだろうか? 今回紹介する論文の研究は、このような疑問に基づき実施された。

解析対象者の特徴

この研究には、現喫煙者やBMI30超を除く196人の地域在住高齢者が参加。身体活動習慣を「国際標準化身体活動質問票(international physical activity questionnaire;IPAQ)」を用いて把握したほか、入浴習慣や服薬状況に関する調査、心血管の健康状態、筋力・筋肉の質などを評価した。本トピックに関する解析は、心血管系に作用する薬剤を服用している人(66人)、筋トレを行っていない人(96人)を除外して、34人(男性13人、女性21人)を対象とした。なお、環境(気温)による血圧等への影響を避けるため、これらの調査は秋季に実施された。

解析対象者の主な特徴は、年齢72.2±5.6歳、BMI20.8±2.8、血圧127.4±17.1/76.3±10.7mmHgであり、動脈の柔軟性の指標である上腕-足首脈波伝搬速度(brachial-ankle pulse wave velocity;baPWV)は1,656.6±319.7cm/秒で、筋力の指標として評価した最大等尺性膝関節伸展トルク(maximum voluntary contraction;MVC)は113.5±39.3Nmだった。筋トレ強度については、自己申告のトレーニング内容に基づき、米国スポーツ医学会のガイドラインの基準を用いて評価した結果、1.8±0.5任意単位(a.u.)だった。

入浴については1人を除いて全員が習慣的に行っており、頻度は5.5±2.2回/週、入浴時間は16.5±6.2分、湯船の温度は40.3±0.8℃だった。

筋トレのみを行っている高齢者では、負の影響がより明確

ふだんの筋トレ強度が高い高齢者は収縮期血圧が高い

まず、日常の筋トレ強度と筋量(筋肉の厚さ〈筋厚〉や四肢骨格筋量〈appendicular skeletal muscle mass;ASM〉)や筋力、筋肉の質、および心血管リスクとの関連を検討した。

全員が日常的に筋トレを行っているこの集団において、筋トレの強度は、筋厚、筋力(MVC)、筋肉の質(エコー強度)、ASMとの関連は有意でなく、かつ、動脈硬化の指標として評価したbaPWVとの関連は非有意だった(p値が最小で0.144)。

収縮期血圧(systolic blood pressure;SBP)との関連も、交絡因子未調整段階では正の関連の傾向が認められるにとどまった(r=0.344、p=0.063)。ただし、年齢、性別、入浴状況(頻度、時間、湯船の温度)などの交絡因子を調整する(これらの要因を除外する)と、筋トレの強度が強いほどSBPが高いという有意な関連が確認された(r=0.409、p=0.034)。

つまり、高強度の筋トレが高齢者の心血管リスクとなり得ることが示唆された。

筋トレと並行して有酸素運動を行っている高齢者では関連が非有意

次に、筋トレだけでなく、有酸素運動も行っている高齢者15人(71.4±4.7歳、男性8人。全員が習慣的に入浴)を対象として同様の解析を行った。

その結果、筋トレの強度は、前記の各パラメータとの有意な関連がなく、交絡因子調整後にbaPWVとの有意水準未満の負の関連(筋トレ強度が強いほど血管の柔軟性が良好な傾向)がみられるにとどまった(p値が最小でp=0.06)。

筋トレのみ群では心血管リスクとの関連がより強く、入浴習慣が部分的に緩和

続いて、運動は筋トレのみを行っている高齢者19人(73.1±6.3歳、男性5人。1人のみ習慣的には入浴していない高齢者)を対象として同様の解析を行った。

その結果、筋トレの強度は、筋厚と正相関し、筋エコー強度との関連は非有意だった。この結果は、年齢や性別、入浴状況を調整した後にも変わらなかった。

一方、年齢と性別を調整後、baPWV(r=0.541、p=0.037)、およびSBP(r=0.681、p=0.005)は筋トレ強度と正相関し、とくにSBPについては入浴状況を調整後には、より強い相関が認められた(r=0.744、p=0.006)。つまり、筋トレの強度が高いほど心血管への負の影響が強く現れていて、入浴がその影響を部分的に緩和していることが示唆された。

他方、筋トレ強度とMVCとの関連は、わずかに非有意だが正相関の傾向を示し(年齢と性別を調整後にr=0.524、p=0.054)、この相関は入浴状況を調整後にも変わらなかった(r=0.524、p=0.098)。よって、入浴は筋トレの主効果である筋力には負の影響を及ぼさず、心血管リスクを緩和すると考えられた。

より安全で効果的な入浴方法の確立に期待

これら一連の結果を基に著者らは、「習慣的に筋トレを行っている高齢者では、筋トレ強度が高いと心血管系に悪影響が生じることが示唆され、それに対して習慣的な入浴が、筋トレ効果を損なうことなく、悪影響の一部を抑制すると考えられる」と総括している。

一方、研究対象のほぼ全員(1人以外)に入浴習慣があったために比較対照群を置いていないこと、横断研究であること、運動強度を自己申告に基づき判定していること、残余交絡の存在の可能性などを限界点として挙げ、さらなる研究の必要性を指摘。とくに、血管イベントの起こりやすい冬季の安全な入浴方法の確立が求められるとしている。

なお、高齢者において筋トレが心血管に負の影響を及ぼし得るメカニズムとしては、先行研究の知見を基に、運動負荷に応じた交感神経系の亢進、血圧上昇を介した血管内皮機能の低下などが考えられるとし、入浴には交感神経活性抑制および内皮機能改善作用が報告されているという。

文献情報

原題のタイトルは、「Impact of higher resistance exercise and bathing habits on cardiovascular risks in older adults」。〔Int J Biometeorol. 2025 Mar 11〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


Page 18

味の素株式会社は、福島県二本松市と連携し、「適塩」をテーマとした子どもとその保護者向けの食育活動を展開しています。その実践内容と教材が、食と健康の情報サイト「あじこらぼ」にて公開されました。

本活動は、生活習慣病予防を目的とする「食でつながる 食で健康プロジェクト」の一環として行われており、幼稚園や小学校の授業に“うま味”を活かした減塩の工夫を取り入れた体験型プログラムが実施されました。

二本松市立油井幼稚園では、保護者参観日に「適塩みそ汁体験」を開催。園児と保護者が一緒に、ぬりえワークシートやだしの試飲を通じて、“ちょうど良い塩加減でおいしい”みそ汁の作り方を楽しく学びました。

また、二本松市立塩沢小学校では、5年生の家庭科授業と連携し、「だし」の種類や、うま味による減塩効果を学ぶ授業を実施。児童たちは、実際にだしを味わったり、塩分濃度の異なるみそ汁を体験したりしながら、だしの相乗効果やうま味の活用について理解を深めました。

本プログラムで使用された教材やワークシートは、味の素株式会社公式サイト「あじこらぼ」にて無料公開中です。現場の先生方の声をもとに工夫された内容は、他の自治体や教育現場への展開も期待されています。

「あじこらぼ」では、Ajico Reportの全文を無料公開しているほか、PDFを無料でダウンロードすることができます。下記ボタンからチェックしてください!

記事全文・PDFダウンロードはこちら(あじこらぼへ)

【あじこらぼ】Ajico Report&Ajico News バックナンバー

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スポーツ栄養Web編集部


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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染後のアスリートに生じるパフォーマンスの低下を、サプリメント摂取を含む積極的な栄養介入によって抑制できることを示唆するデータが報告された。ルーマニアのサッカープロクラブに所属し、COVID-19に罹患した13~15歳の男子選手を対象に行われた研究の結果であり、栄養介入を受けていた群と対照群との間で、5種類の指標のうち4種類について罹患後に有意差が認められたという。

COVID-19罹患後のパフォーマンス低下を、サプリを用いた栄養介入で防げるか

COVID-19のパンデミックは収束したが、依然として公衆衛生上の脅威として存在している。通常、若年であることの多いアスリートの場合、COVID-19罹患時の症状は比較的軽度だが、そうであっても呼吸機能低下などが生じて急性期以降もパフォーマンスに影響が残り得ることが報告されている。これに対して、積極的な栄養介入がCOVID-19罹患の影響を抑制する可能性が考えられるが、そのエビデンスは乏しい。

以上を背景として今回紹介する論文の研究では、ルーマニアにおいて、COVID-19パンデミック中にとられていた、サプリメント摂取を含む栄養介入強化戦略が、感染した場合のパフォーマンス低下抑制や回復促進につながっていたかを、後方視的デザインで検討している。

ルーマニアのプロクラブに所属する13~15歳の男子サッカー選手を対象に検討

この研究が行われたルーマニアのプロサッカー界では、COVID-19パンデミック中、選手の感染抑止を期して、積極的な栄養介入戦略がとられていた。その内容は、摂取すべきエネルギー量として2,000~2,500kcal/日を基本として推奨し、トレーニングの時間と種類に応じて3回の食事と2回の間食で摂取すべき食品・栄養素を提示して、かつ、朝・昼・夕に摂取すべきサプリメントの種類・量を、季節に応じて設定し推奨するという緻密なもの。推奨されたサプリは、ビタミンCやD、亜鉛など(詳細は論文中のtable2と3を参照)。

ただし、サプリ摂取については、すべてのクラブがその推奨に従ったわけではない。つまり、パンデミック中に選手に対してサプリ摂取介入を行ったクラブと行わなかったクラブがあった。この研究は、この違いを生かして、パンデミック中にサプリによる栄養介入強化を受けた選手と受けなかった選手とで、COVID-19感染後のパフォーマンスに差が生じていたか否かが検討された。

解析対象者は、2021~22年の間にCOVID-19に罹患した、プロクラブに所属する13~15歳の男子サッカー選手99人。なお、当初は129人が登録されたが、追跡調査中の脱落、栄養介入プロトコルからの逸脱、負傷などを除外し99人となった。

COVID-19罹患前、およびCOVID-19急性期から回復後は、毎週5種類のパフォーマンステストが実施されていた。その内容は、握力、10mスプリント、30mスプリント、ビープテスト(インターバルをおかないYo-Yoテスト)、およびベンチプレス。これらは、フィジカルトレーナー、理学療法士、看護師、医師の監督下で実施されていた。

COVID-19罹患前は同等だったパフォーマンスが、罹患後はサプリ摂取の有無で有意差

対象者の約半数(49.5%)は13歳で、残り半数を14歳と15歳が同数ずつ(各25.3%)占めていた。COVID-19急性期から回復後に20人(20.2%)が、スパイロメトリーで軽度の呼吸機能低下が認められ、その他の79.8%の呼吸機能は正常だった。

全体として58.5%がサプリを摂取し、41.4%は摂取していなかった。この2群間で、年齢、BMIに有意差はなかった。かつ、スパイロメトリーで軽度呼吸機能低下が認められた選手の割合は、サプリ摂取群が20.6%、非摂取群が19.5%で同等だった(p=0.732)。

パフォーマンスの比較には、COVID-19罹患の1カ月前、罹患後1カ月、3カ月の時点のデータが用いられている。5種類の指標のいずれも、罹患1カ月前には群間差が非有意であり、罹患後にはベンチプレスを除く4種類の指標で、サプリ摂取群のほうが良好な結果となっている。詳細は以下のとおり。なお、データはすべて中央値。

握力(kg)

罹患1カ月前はサプリ摂取群が25.6 vs 非摂取群は22.3(p=0.206)。罹患1カ月後は同順に26.5 vs 18.1(p<0.05)、3カ月後27.3>

罹患1カ月前はサプリ摂取群、非摂取群ともに2.2(p=0.164)。罹患1カ月後はサプリ摂取群が2.2 vs 非摂取群は2.3(p=0.001)、3カ月後2.1 vs 2.2(p=0.002)。

30mスプリント(秒)

罹患1カ月前はサプリ摂取群が5.1 vs 非摂取群は5.3(p=0.091)。罹患1カ月後は同順に5.1 vs 5.4(p<0.001)、3カ月後4.9>

罹患1カ月前はサプリ摂取群、非摂取群ともに7.5(p=0.835)。罹患1カ月後はサプリ摂取群が7.5 vs 非摂取群は7(p<0.001)、3カ月後8>

ベンチプレスは前述のようにすべての時点で有意差がなく、罹患1カ月前と罹患1カ月後は20kg、罹患3カ月後は25kg。

COVID-19以外の呼吸器感染症にもサプリ介入が有効な可能性

著者らは、本研究の対象が思春期の男子サッカー選手のみであるため、結果の一般化が制限されるとしたうえで、結論を以下のように記している。「思春期のアスリートに対する厳格な食事計画に基づく栄養介入、および、ビタミンとミネラルのサプリメントによる介入は、COVID-19感染後の身体パラメータのより迅速な回復に効果的である可能性がある。この有益な効果は、COVID-19だけでなく、他の呼吸器感染症でも検討すべきであろう」。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effect of Dietary Supplementation on Physical Performance in Adolescent Male Soccer Players Infected with SARS-CoV-2」。〔Nutrients. 2025 Jan 31;17(3):527〕 原文はこちら(MDPI)

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クエン酸飲料は運動負荷によって生じる乳酸を速やかに除去するように働くことが知られているが、この作用がクエン酸飲料の摂取タイミングで異なるのか否かを検討した研究結果が報告された。信州大学医学部保健学科理学療法学専攻の岡野怜己氏らが、男子学生対象クロスオーバー試験として実施し、論文が「Journal of Physical Therapy Science」に掲載された。

パフォーマンス低下につながり得る乳酸を効率よく除去するには

乳酸はかつて疲労の原因物質と考えられていたが、現在では疲労の直接的な原因ではなく、重要なエネルギー基質と認識されている。しかし乳酸産生に伴うpH低下によるアシドーシスなどを介して筋収縮が抑制されることは、身体的パフォーマンスの阻害因子となる。運動負荷によって蓄積した乳酸が体内のアシドーシスとある程度関連しているという点から、乳酸の迅速な除去がパフォーマンス低下抑制に寄与すると考えられ、そのための手段として、アクティブリカバリーの有用性とともに、代謝を通じてpH低下を抑制するように働くクエン酸摂取の有用性が報告されている。

後者のクエン酸についてはその含有飲料が広く流通していることから、スポーツあるいは理学療法の臨床において簡便に応用可能。しかし、クエン酸飲料を運動の前に飲んだ場合と運動の後に飲んだ場合のどちらがより効果的なのかという点は、これまで研究されていなかった。

男子大学生を対象に、摂取タイミングの差異の影響をクロスオーバー試験で検討

この研究は、健康な男子大学生41人(20.9±2.5歳)を対象とする無作為化クロスオーバー試験として実施された。ビタミンCやクエン酸を含むサプリメントまたはアルコールを習慣的に摂取している学生、運動に支障のある疾患を有する学生は除外されている。

試験条件は以下の4条件で、試行順序を無作為化したうえで、各条件の試行には1週間以上のウォッシュアウト期間を設けた。

設定した4条件とは、運動負荷開始30分前にクエン酸(citric acid)を摂取する条件(pre-CA)41人(全員)、運動負荷終了直後にクエン酸を摂取する条件(post-CA)41人、運動負荷終了直後にクエン酸を含まない水(water)を摂取する条件(post-W)20人、運動負荷の前後ともになにも摂取しない条件(nothing)21人。pre-CAとpost-CAは全員に試行し、post-Wとnothingはどちらか一方を試行した。

クエン酸の用量は4gとし、100mLの水に溶解して支給。運動開始30分前または運動終了直後に摂取してもらった。運動負荷には自転車エルゴメーターを用い、無酸素性閾値(anaerobic threshold;AT)の150%で5分間の負荷とした。

乳酸値の測定には指先穿刺の簡易測定器を用い、運動負荷前、負荷終了直後、5分、10分、20分、30分後に測定した。なお、試行の24時間前からは激しい運動を禁止した。

運動負荷前の摂取でも負荷後の摂取でも乳酸値の低下は同等

研究参加者全員が全条件の試行を終了し、解析対象となった。

まず、乳酸値の変動をみると、全条件で運動負荷前より負荷直後の値が有意に高く(すべてp<0.001)、その後は時間の経過とともに低下していた。絶対値で比較した場合、4条件の間に有意差が認められたポイントはなかった。<>

次に、運動負荷終了直後に観察された乳酸値の最大値を基準に、その後の時間経過に伴う乳酸値の低下率を検討。すると、負荷終了30分後までに、条件にかかわらず、最大値に対して61~65%低下していて、この低下率に有意差はなかった。

ただし、時間経過のゾーン別に細分化して解析すると、クエン酸を摂取した2条件では摂取タイミングにかかわらず、負荷終了5分後から10分後(pre-CAはp=0.022、post-CAはp=0.009)、10分後から20分後(p値は同順に0.001、0.019)、20分後から30分後(0.029、0.004)にかけて、それぞれ乳酸値の有意な低下が観察された。それに対して水を摂取した条件(post-W)では、乳酸値の有意な低下が観察されたゾーンはなく、なにも摂取しない条件(nothing)では10分後から20分後の減少のみが有意だった(p=0.017)。

至適用量の探索が今後の課題

以上より論文の結論は、「クエン酸飲料を運動前に摂取するか、運動後に摂取するかという違いは、乳酸除去に有意な影響を及ぼさないことがわかった。さらに、摂取タイミングにかかわりなく、クエン酸を摂取することで運動後の乳酸値の低下速度が速まることが確認された。この結果は、運動後や筋肉疲労が生じた後でも、クエン酸が乳酸の除去に有効である可能性を示唆している」とまとめられている。また、「この結果に基づけば、リハビリテーションやスポーツの現場で、少なくとも本研究と同等量のクエン酸摂取を実施することで、身体活動後の回復促進に役立つと期待される」と付け加えられている。

なお、運動負荷終了後30分間での乳酸値の絶対値や低下率が、クエン酸を摂取しない群と有意差がなかったことについて、4gという用量が少なすぎ、また観察時間が30分では短すぎた可能性があると述べられている。本研究における4gという値は、パイロット研究に基づき、不快感などの有害事象を来さないレベルとして設定されたもので、体重換算で63.2mg/kgとなるが、既報研究の中には500mg/kgを摂取することで3時間後にアルカローシスがピークになるとするものがあるという。

このことから著者らは、「不快感を来さずに有効性を期待できる摂取量の確立が今後の課題」としている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of timing of citrate drink ingestion on blood lactate removal」。〔J Phys Ther Sci. 2024 Dec;36(12):772-775〕 原文はこちら(J-STAGE)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)、その後は時間の経過とともに低下していた。絶対値で比較した場合、4条件の間に有意差が認められたポイントはなかった。<>

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国内の40歳以上の地域住民を対象とする研究から、カルシウム摂取量が少ない場合に転倒リスクが高いことが報告された。横断的解析と縦断的解析のいずれでも、有意な関連が認められるという。新潟大学大学院医歯学総合研究科健康増進医学講座の蒲澤佳子氏らの研究の結果であり、「The Journal of nutrition、health and aging」に論文が掲載された。

カルシウム摂取量と転倒リスクとの関連は?

転倒は高齢者の外傷の主要な原因であり、転倒に伴う骨折を機に、長期臥床、身体障害、認知機能低下、要介護、死亡へとつながることも少なくない。一方、高齢者の骨折のリスク因子として骨量減少を主徴とする骨粗鬆症が挙げられ、骨量減少に対してはカルシウム摂取量を増やすことが有効とするエビデンスがある。ただし、カルシウム摂取量と転倒リスクとの関連の知見は少ない。

これを背景として蒲澤氏らは、新潟県で行われている地域住民コホート研究(魚沼コホート、湯沢コホート)のデータを用いて検討を行った。

40歳以上の地域住民を対象とした前向きコホート研究5年追跡データを分析

この研究は、解析に必要なデータの欠損、および体格指数(BMI)と摂取エネルギー量の外れ値を除外し、横断的解析は男性1万8,439人、女性2万127人、縦断的解析は同順に1万3,872人、1万5,361人を解析対象とした。

カルシウム摂取量は食物摂取頻度調査票から把握し、残差法により摂取エネルギー量で調整した値を用いた。転倒については、過去1年以内の転倒の有無を質問票で調査した。ベースラインの分析対象者の特徴として、男性は平均年齢が62.7歳、カルシウム摂取量のエネルギー調整中央値は463mg/日、過去1年間で転倒を経験していた割合は19.5%であった。女性は同順で、63.5歳、577mg/日、18.8%であった。

本研究では、性別ごとのカルシウム摂取量の四分位数に基づき、それぞれ4群に分け、第4四分位群(カルシウム摂取量が多い上位25%)を基準として、過去1年以内に転倒の経験を有することのオッズ比を算出した。横断的解析では、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、BMI、喫煙・飲酒習慣、身体活動量、摂取エネルギー量、地域、慢性疾患の有無、骨折の既往、独居/同居)を調整した。縦断的解析ではさらに、ベースラインの転倒経験の有無を調整した。

男性・女性ともにカルシウム摂取量が少ない群に転倒経験者が多い

横断的解析では、男性、女性ともに、カルシウム摂取量が多い群に比べて、少ない群ほど転倒経験者が多いという有意な関連が認められた。この結果は縦断的解析でも同様であり、カルシウム摂取量の四分位群の最も少ない群は、最も多い群に比べた転倒の調整オッズ比が男性では1.20 (95%信頼区間1.04、1.40)、女性では1.23 (95%信頼区間 1.09、1.39)であった(男女とも傾向性p<0.05)。<>

年齢層(65歳未満/以上)、BMI(22未満/以上)、および身体活動量(性別ごとの中央値〈男性39.9、女性38.5MET・時/週〉未満/以上)で層別化した解析を実施したところ、男性では若年、BMI低値、身体活動量が多い群で、より明らかな関連が認められた。女性ではそれらの特徴による差異は認められなかった。

以上一連の結果に基づき著者らは、「40歳以上の一般成人の転倒予防において、適切なカルシウム摂取が重要であるというエビデンスを得られた。食習慣が異なる他の集団での、さらなる研究が求められる」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association of dietary calcium intake with risk of falls in community-dwelling middle-aged and older adults」。〔J Nutr Health Aging. 2024 Dec 31;29(3):100465〕 原文はこちら(ELSEVIER)

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スポーツ栄養Web編集部

0.05)。<>

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2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピック(東京2020)の選手村の食事に関する、国際的な評価の結果が発表された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック発生にかかわらず、事前計画よりも改善された食事が提供されていたことなどが報告されている。

オリンピック・パラリンピックでの食事提供に関する国際評価

オリンピック・パラリンピックにおける食事に関するスポーツ栄養士等による国際的な評価は、2008年の北京オリンピックで始まって以来、毎回行われている。この評価は通常、2回以上のフェーズで行われる(東京2020では3回)。最初のフェーズは開催の約12~9カ月前であり、食事提供計画を書面でレビューして評価。2回目のフェーズは実際の大会開催期間中の現地調査で評価する。東京2020におけるレビューの方法は以下の通り。

1回目は2019年6月、2回目は同年9月。これらはいずれも書面でのレビュー。3回目は2021年7~9月の大会会期中に現地でレビュー。

レビュー者:

大規模大会での食事提供の経験に基づき、かつ、すべての大陸を網羅することを勘案して特定したスポーツ栄養士/栄養学者に対して、電子メールで研究参加を招待した。

フェーズ1では9人のスポーツ栄養士が評価を行い、そのうち7人はフェーズ2でも評価も行った。フェーズ3(現地調査)では18人の国際的に活動しているスポーツ栄養士が評価した。レビュー者のスポーツ栄養の経験年数は、フェーズ1は22±8.7年、フェーズ2は18±9.1年、フェーズ3は17±9.8年だった。

評価項目

書面でのレビューでは、国際オリンピック委員会から提供された、選手村のメインダイニングホール、サテライト選手村、競技会場のメニューを基に行い、計画されているメニューに対してフィードバックを行った。なお、事前計画のメニューには、イベント全体のすべてのサービス時間帯(朝食、昼食、夕食、夜間)で、各サービスエリア(世界、アジア、日本、ピザ/パスタ、グルテンフリー/ベジタリアン、ハラール、冷製料理など)から提供される個々のメニューの情報が含まれていた。

評価には、オリンピック・パラリンピックにおける食事の提供状況を確認するために以前に開発された調査票を改訂し用いられた。フェーズ1では、食べ物の種類、特定のニーズ(グルテンフリー、ベジタリアン/ビーガン、食物アレルギー/不耐症向けのケータリングなど)、スポーツ特有のケータリング(回復食、補食、スポーツフード、体重別階級競技用アイテムなど)、文化的多様性、安全性、食事の提供(ラベル付け、アイテムの命名、サービスエリア内の場所など)について、「非常に悪い」から「非常に良い」の1〜5段階で評価。また、各項目について自由形式のコメントを追加可能とした。フェーズ2のレビューでは、最初のレビューで指摘した項目への改善の程度に関する質問も含まれていた。

このほかに、メインダイニングホールについては各レビュー段階で、0~10点の総合評価も行われた。

フェーズ1~3の評価結果とフェーズ間の比較

フェーズ1の評価結果

2019年6月のフェーズ1の評価結果は、「メニュー全体の多様性」が中央値4点(良い)だった。その他、28項目のうち26項目は中央値4点または3点(ふつう)であり、「パスタ、麺類、ライス」については5点(非常に良い)で、「スナック、スポーツ食品」は2点(悪い)だった。

自由回答には、「ランチとディナーのメニューの繰り返しが多い」、「メニューにアジアの影響が強くみられる」、「軽食の選択肢が少なく、とくに食堂外へ持ち出せるものが不足している」などの記述がみられた。

フェーズ2の評価結果

2019年9月のフェーズ2では、メニュー項目を表す写真が導入され、自由回答のコメントにそれを評価する記述があり好評だった。全体的な多様性とワールドメニューの多様性は「やや改善」と評価され、スナック/スポーツフード、リカバリーアイテム、アレルギー/不耐症、および体重別階級競技用アイテムについては「変化なし」と評価された。

フェーズ2で「大幅に改善」と評価された唯一の項目は、夜間の食事だった。一方、自由回答のコメントでは、文化の多様性への配慮の欠如や、グルテンフリーやビーガンに対する懸念が依然として指摘された。

フェーズ3の評価結果

オリンピック・パラリンピック開催期間中の現地調査では、メインダイニングホールについて、安全性(93%)、グルテンフリーメニューの配置(93%)、栄養成分表示(86%)、メニュー項目の名称(87%)、ケータリングスタッフとのやり取り(76%)、アレルギー/不耐症向けメニュー(68%)、全体的なバラエティー(67%)など、大多数の回答者から「良い/非常に良い」と評価された。サービスのバラエティーは「ふつう」(53.3%)、特定のリクエストへの対応力は「悪い/非常に悪い」(64%)と評価され、また、スタッフの柔軟性のなさについてのコメントがあった。

自由回答には、栄養表示について「アレルギー情報が部分的であり、パッケージ情報のGoogle翻訳以外の情報がなかった」、文化の多様性への配慮について「アフリカやカリブ文化の選択肢は非常に限られていた」、カジュアルダイニングのメニューについて「日本食中心であり多様性が低かった」などの記述がみられた。

メインダイニングホールの総合評価、およびその他の評価項目の推移

メインダイニングホールに関する評価結果は、フェーズ1と2の間で有意に改善し(p=0.037)していた。また、フェーズ3の評価結果は10点満点中8点となり、三つの評価時点の中で最高点であって、フェーズ1との比較で有意差が認められた(p=0.042)。

その他、フェーズ1からの評価結果の変化を解析すると、フルーツ(良い→ふつう→非常に良い)、ピザ(ふつう→ふつう→良い)、冷製デザート(ふつう→悪い→良い)、ヨーグルト(ふつう→ふつう→非常に良い)、体重別階級競技用アイテム(ふつう→良い)、スナック/スポーツフード(悪い→ふつう)は、統計的に有意な変化が認められた。

経験が豊富な評価者ほど低く評価

このほかに、レビュー(評価)者の経験年数と評価結果との相関が検討され、経験が長い評価者ほど、低い評価をするという有意な関連が検出された(r=-0.492、p=0.008)。

結果の総括:COVID-19パンデミックにもかかわらず事前計画から大幅に改善

論文のアブストラクトには、総括として以下のように記されている。

  • スポーツ栄養士が、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のアスリートに対する食事の提供案と実際の食事を評価した。COVID-19パンデミックにもかかわらず、選手村での食事の提供は、2019年に提案されたものと比べて、全体的にも、現地でのメニューの特定の側面においても大幅に改善されたと評価された。
  • ケータリング業者へのリードタイムの​​延長、パンデミック中の参加者数の減少、食堂での滞在時間の短縮、食品の安全性を確保するための食品の回転率の向上により、全体的な品質が向上した可能性がある。ただし、スポーツ会場やサテライトビレッジでの食事はメインの食堂での食事ほど高く評価されておらず、今後の大会の留意点。
  • より経験豊富なスポーツ栄養士は、全体的なメニューを低く評価しており、これは過去のイベントと比較したコメントや、会場内でメニュー以外の品物を注文できないことに反映されている。
  • 全体として、評価プロセスとフィードバックにより、提案されたメニューと現地での食事の提供に前向きな変化がもたらされ、将来の組織委員会にとって貴重な情報となった。オリンピック・パラリンピックでの食事の提供をモニタリングすることは、アスリートの健康とパフォーマンスに適した食事の提供を改善するために不可欠。

関連情報

文献情報

原題のタイトルは、「Sports Dietitians Evaluation of Food Provision for Athletes at the Tokyo 2020 Olympic and Paralympic Games」。〔Eur J Sport Sci. 2025 Apr;25(4):e12276〕 原文はこちら(John Wiley & Son)

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スポーツ栄養Web編集部


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次世代の教師と考える『うま味』の魅力を伝える教材とは?

味の素株式会社は、2024年11月に開催された『食と科学のふしぎ博 in 堺』にて、未来の教師たちとともに考えた体験型講座「〈うま味ってなあに?〉」を実施しました。この取り組みのレポートおよび教材が、食と栄養の情報サイト「あじこらぼ」にて公開されましたのでお知らせいたします。

味の素株式会社は、武庫川女子大学教育学部の藤本勇二教授と藤本先生のゼミ生の皆さんとともに、小学生が実験を通して「うま味」を学ぶ体験講座を実施。「みそ湯」やグルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウムを使った実験により、子どもたちは科学と食の関係性を楽しく学びました。

実際に講座を行った藤本ゼミの学生や参加した子どもたちの保護者からは「子どもたちの笑顔や驚きの表情を見られて嬉しかった」「世代を問わず楽しめるプログラム」といった声が寄せられており、この体験プログラムの質と実用性が評価されています。

このイベントの模様は、あじこらぼが発行している「Ajico Report Vol.9」でご覧いただけます。また、このイベントで使用した教材のスライドデータ(PowerPoint)については、「あじこらぼ」の「教材・ツール ダウンロード」コーナーで公開していて、誰でも無料でダウンロードして活用することが可能です。教育現場での授業や食育活動、地域イベントなど、さまざまなシーンごとにアレンジすることもできますので、ぜひご活用ください。

「あじこらぼ」では、Ajico Reportの全文を無料公開しているほか、PDFを無料でダウンロードすることができます。下記ボタンからチェックしてください!

記事全文・PDFダウンロードはこちら(あじこらぼへ)

【あじこらぼ】Ajico Report&Ajico News バックナンバー

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スポーツ栄養Web編集部


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食事​​時間は咀嚼回数と正相関し、咀嚼のテンポとは負の相関があることが報告された。藤田医科大学の研究グループの研究成果であり、「Nutrients」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。著者らは、十分な食事時間を保つために、「まずは噛む回数を増やす、一口を小さくすることを意識して食べるのが良いのではないか」としている。

研究の概要

肥満者に対して「ゆっくり食べたほうが良い」と指導することがあるが、どのような方法でゆっくり食べるかは、実は難しい問題。藤田医科大学の研究グループは、さまざまなテンポのリズムを聞かせることで、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数(ピザを何口で食べるか)、咀嚼テンポ(噛むスピード)を測定し、食事時間に影響を与える要素を検討した。

食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数は男女で差があるものの、咀嚼テンポは男女で差がみられなかった。さらに、食事時間は咀嚼回数、口に運ぶ回数と関連するが、咀嚼テンポやBMIとは関係していなかった。

最後に、メトロノームで咀嚼テンポを調節した場合、通常の半分のゆっくりしたテンポのリズムを聞かせると、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数を増やすことができた。テンポを早めた場合よりも、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数に与える影響は強くみられた。

以上から、単に「ゆっくり食べる」と説明するのではなく、「咀嚼回数を増やす」、「一口に入れる量を減らし食事を口に運ぶ回数を増やす」、「ゆっくりとしたテンポの音楽を聴きながら食事をする」などと、指導するのが良いと考えられた。

研究成果のポイント

  • 肥満者の食事について、「ゆっくり食べたほうが良い」と昔から説明されてきたが、ゆっくり食べる方法の科学的な裏付けは不明な点が未だ多い。
  • 食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数は男女で明らかに違うが、咀嚼テンポには性差が少ない。
  • 食事時間と、咀嚼回数、口に運ぶ回数、咀嚼テンポ、BMI、運動能力(5回椅子立ち上がり試験)、普段の摂取エネルギーおよび栄養素との関連について、性別を考慮して解析したところ、咀嚼回数、口に運ぶ回数でのみ、食事時間との関連が見られた。
  • メトロノームのリズムに合わせて食事するよう指示すると、ゆったりとしたテンポに合わせたほうが、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数に与える影響が大きかった。
  • 咀嚼回数を増やす、一口に入れる量を減らし食事を口に運ぶ回数を増やす、ゆっくりとしたテンポの音楽を聴きながら食事をすると、食事時間を伸ばすことができるので、肥満の予防に活用できる可能性がある。

研究の背景

肥満の人は早食いが多いとよく言われる。そのため、肥満の患者にはゆっくりと食事をするよう指導することが古くから行われてきた。しかし、「肥満者は早食い」とする根拠は自己申告による論文がほとんどであり、定量的な解析は少ないのが実情。以上から、ゆっくりと食事することの意味を科学的に説明するためのエビデンスは非常に少ないと考えられる。

そのため、テスト食(ピザ)を用いて食事時間を定量的に測定し、食事時間の性差、食事時間に影響を与える因子の同定を行った。さらに、外部よりメトロノームによる音刺激を与えることで、食事時間や咀嚼時間、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数が変化するかを検討した。このような手法で食事時間に影響を与える因子を同定することで、肥満に対する“ゆっくりと食べる”指導をより科学的に行うことができるようになる。

研究手法・研究成果

研究グループでは既に、人の咀嚼リズムがおよそ80bpm程度であることを確かめている。80bpmを基礎的なテンポとして、遅いリズム(40bpm)、同じリズム(80bpm)、速いリズム(160bpm)に合わせて、20~65歳までの被験者33名のピザを食べる食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数、BMI、運動能力(5回椅子立ち上がり)、握力を測定した。被験者は、朝食を少なくとも4時間前までに済ませて実験に臨み、食事中の水分摂取は禁止とした。

ピザ(直径20cm、総エネルギー317kcal〈たんぱく質13.0g、脂質12.6g、炭水化物38g〉)を4等分し、1/4枚ずつ、ヘッドフォン下でメトロノームの刺激(0・40・80・160bpm)に合わせて食べるように指示し、食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数を測定。食事時間はストップウォッチ、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数は咀嚼計Bitescanで測定した。また、BDHQ(食品頻度摂取調査質問票)試験により普段の食事成分の摂取量を評価。5回椅子立ち上がり試験、握力は食事テストの10分前までに行った。

0bpmのデータに関して、男女間の比較、食事時間を従属変数、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数、BMI、5回椅子立ち上がり試験、総エネルギーおよび各栄養素を独立変数、性別を調整因子として、線形回帰分析を行った。

次に、各群(0・40・80・160bpm)における食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数の比較をOne way ANOVAののち、Tukey法で比較。図1に実際の工程を示す。

図1 研究の工程

メトロノームのリズムに合わせて、1/4枚ずつのピザを実食。食事時間とともに、Bitescanで咀嚼回数、咀嚼リズム、口に運ぶ回数を測定した。

(出典:藤田医科大学)

結果

  • 1枚(約20センチ)のピザを4等分して、メトロノームのリズム(0・40bpm・80bpm・160bpm)に合わせて、1/4ずつ食べてもらい、食事時間、咀嚼回数、咀嚼のテンポ(スピードに当たる)、口に運ぶ回数(1/4切れのピザを何口で食べたか)について調べた。
  • 参加者は平均37.2歳、男性15人、女性18人。
  • 何もメトロノームのリズム刺激をしていない時の結果を用いて、性別による違い、食事時間に関係する因子をまず調べた。
  • 食事時間と咀嚼回数、口に運ぶ回数は男性で有意に少ない一方、咀嚼テンポは男女で差がみられなかった。BDHQでエネルギー摂取量、各栄養素の摂取量を調べたが、異常はみられなかった。
  • 次に食事時間と関連する因子について、性別で調整し、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数、BMI、5回椅子立ち上がり試験との関係を多変量解析により調べた。握力は性別と関係するため、因子に含めなかった。
  • 咀嚼回数、口に運ぶ回数は有意に食事時間に関連したが、咀嚼テンポ、BMI、5回椅子立ち上がり試験との関連はみられなかった。
  • また、食べている栄養が食事時間に関係するかを調べたが、エネルギー量、たんぱく質、脂質、炭水化物との関連はみられなかった。
  • 最後に、メトロノームのリズム刺激が、咀嚼テンポ、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数に与える影響を検討。40bpmと遅いリズム刺激を与えると、咀嚼テンポは有意に低下、食事時間は有意に延長、咀嚼回数は有意に増加、口に運ぶ回数は有意に増加した。他方、160bpmと速いリズム刺激を与えると、咀嚼テンポは有意に増加、食事時間は有意に延長、咀嚼回数は有意に増加、口に運ぶ回数は有意に増加した。しかし160bpm刺激による効果は40bpm刺激による効果に比べると小さいものだった。性別による違いでは、女性でのみ有意だったが、男性でも同様の傾向を示した。

図2 研究結果の抜粋

メトロノームのリズム(40bpm・80bpm・160bpm)に合わせて、1/4枚のピザを食べるのに要した食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数を測定。この結果は男女合わせたものを示している。

(出典:藤田医科大学)

今後の展開

今回の検討を通じて、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数は男女で違いが見られる一方、咀嚼テンポは性差がみられなかった。従って、食事時間の速い/遅いを論じる場合、男女の差を考慮する必要がある。研究グループでは過去に、性別による食事の嗜好の違いも報告しており、栄養指導には男女の違いを十分に意識する必要がある。

次に、食事時間は咀嚼回数、口に運ぶ回数と関連しており、噛む回数を増やす、一口を小さくするなどの指導は科学的にも理にかなっていることが示された。他方、テンポはある程度一定なので、テンポを変化させることは難しいこともわかった。早い音楽に合わせて、早く食べることは難しいようで、逆にゆっくりとした音楽をかければ、食事時間もゆっくりとなる可能性がある。今回の検討でも通常の半分のテンポのリズムに合わせると、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数がいずれも増加した。音楽をかけながら食べることには人により好みが分かれるため、まずは噛む回数を増やす、一口を小さくすることを意識して食べるのが良いと考えられる。

研究グループでは、「今後はより複雑な食べ物(一皿に硬さの異なる食事が混在しているものとの比較)、食べる順番の影響が食事時間にどのように影響するかを明らかにしたいと考えている」としている。なお、本研究の成果を受け、藤田医科大学羽田クリニック(東京都大田区)では、肥満の予防・改善を目的とした食事指導の一環として、テスト食を用いた評価プログラムを導入している。このプログラムでは、実際に食事をしながら食事速度や咀嚼回数を測定するなど、患者ごとの食習慣を客観的に評価し、より実践的な指導を行っている。

プレスリリース

肥満患者の生活指導“ゆっくり食べる”を科学的に検証(藤田医科大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Greater Numbers of Chews and Bites and Slow External Rhythmic Stimulation Prolong Meal Duration in Healthy Subjects」。〔Nutrients. 2025 Feb 16;17(6):962〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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メンタルヘルスの課題に直面した際に、助けを求めたり、自分の心の様子を人に伝える“強さ”を育む教育に、アスリートの経験が役立つ可能性を示唆する研究結果が報告された。小学校の授業で、5年生の生徒とラグビー選手がアート作品を共同制作することで、子どもたちに前向きな変化が見られたという。これは、日本ラグビーフットボール選手会と研究者による「よわいはつよいプロジェクト」の一環として実施された研究であり、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の小塩靖崇氏らによる論文が「Discover Mental Health」に掲載された。

学習指導要領の改訂に伴う子どもたちのメンタルヘルスリテラシー教育の課題

思春期のメンタルヘルス

思春期のメンタルヘルスは世界的に公衆衛生上の懸念とされている。国内では自殺者数は近年減少傾向にあるものの、10代の若者の自殺者数は大きな変化が見られず、むしろ微増しており、依然としてこの世代の死因のトップを占めている。メンタルヘルスの問題に直面したとき、多くの人が他者に相談したり助けを求めたりすることをためらう傾向があるが、特に若年層は、自力で問題を解決しようとする傾向が強いことが報告されている。

こうした現状を受け、世界各国で学校カリキュラムにストレス対処法や助けを求める重要性など、メンタルヘルスリテラシー教育を取り入れる動きが進んでいる。日本でも2020~22年に学習指導要領が改訂され、体育(保健領域)や保健体育の授業でメンタルヘルス教育が導入された。この教育では、知識の伝達だけでなく、体験的・実践的なアプローチが効果的とされ、音楽、ダンス、演劇、アートなどの創造的な活動が、スティグマ(社会的烙印)の軽減に寄与することが報告されている。

アスリートのメンタルヘルス

一般的にアスリートは、強靭な肉体と精神力を兼ね備えた規範的存在と見なされがちである。しかし実際には、エリートアスリートも一般の人々と同様に、あるいはそれ以上にメンタルヘルスの問題に直面することが報告されている。とくにアスリートの場合、メンタルヘルスの上の課題を抱えていることが「弱さ」と見なされ、キャリアに影響を及ぼすことを懸念し、問題を隠そうとする傾向が強い。

このような課題を解決するために、著者らの研究グループと日本ラグビーフットボール選手会は、2019年に「よわいはつよいプロジェクト」を立ち上げ、アスリートやサポートスタッフに向けたメンタルヘルス啓発活動を展開してきている。

小学校の授業でのワークショップ開催

この背景を踏まえ、「よわいはつよいプロジェクト」が小学校の体育(保健領域)におけるメンタルヘルス教育に参加する試みが企画された。企画会議では、小学校の図画工作の授業を担当し、画家でもある教師が「絵を描くことで生徒が自身の心の状態を表現できる」というアイデアを提案。この手法は複数の研究で有用性が示されており、アートを活用したメンタルヘルス教育ワークショップが開催されることとなった。対象は小学校5年生である。

事前の準備

ワークショップに向けて、ラグビー選手にはメンタルヘルスの専門家によるトレーニングセッションが実施された。アスリートが個人的な経験を構造的に表現できるよう支援した。

このワークショップでは、「子どもたちの非言語表現の促進」、「アスリートとの社会的接触の促進」、「協力的な学習環境の醸成」という変化が期待された。

ワークショップの内容

ワークショップは通常の授業時間4時限内で実施された。主な内容は、以下の通りであった。

  • 1) アイスブレーカー(15分):ラグビーパスとタックルの実演と体験
  • 2) エリートアスリートによる講演(15分):「よわいはつよいプロジェクト」の理念、メンタルヘルス経験の共有、助けを求めることの重要性
  • 3) ストレスとパフォーマンスの関係を学ぶ体験活動(15分):ストレスを可視化し、負荷の影響を理解する
  • 4) アートを用いた活動(75分):メンタルヘルスの状態を色と形で表現し、仲間と共有

ワークショップ後のフィードバック

ワークショップの主な成果は以下の3点にまとめられる。

  • 1) アスリートからメンタルヘルスについて学ぶ
  • 2) 芸術的表現を通じてメンタルヘルスの状態や感情を明確に表現する
  • 3) 他者のメンタルヘルスに関心を持ち、サポートする意識を育む

実際に参加した生徒の多くは肯定的な感想を述べ、否定的な反応はみられなかった。とくに、「アスリートからメンタルヘルスについて学ぶ」という点に関しては、多くの生徒がアスリートの個人的な経験談に興味を示した。「堂々とした逞しいアスリートと対話し、実際に彼らの存在に触れることで、不安や心配といった心の状態を否定せずに受け入れられるようになった」、「不安や悩みを他者と共有することは恥ずかしいことではないと感じた」といった意見が寄せられた。また、複数の生徒が「絵を描くことで徐々に心が落ち着き、他者に感情を表現する力や、仲間の感情を理解する力が向上した」と報告をした。さらに、助けを求めることと、他者を助けることの両方が大切だとの気づいた」といったコメントも多くみられた。

加えて「ラグビー選手がとても背が高くて大きいことに驚いた」「ラグビーをやってみたい」といった感想もあった。これらはワークショップの直接的な目的とは異なるものの、生徒たちが積極的に関与し、アスリートとの信頼関係を築いたことを示していると考えられる。

最もアプローチが難しい世代へのメンタルヘルス教育におけるアスリートの役割

著者らは、本研究が単一の小学校のみで実施され、ワークショップ前後の生徒の知識や態度の変化を定量的に評価していないといった限界点があることを認めたうえで、次のように結論を述べている。

「アスリートによるアートを活用したワークショップは、子どもたちのメンタルヘルスを促進する有意義で革新的なアプローチとなる可能性がある。アスリートがアートを用いることで、参加者は感情を表現しやすくなり、助けを求めたり、他者を支えたりすることへの心理的なハードルを下げることができる。」

また、「アスリートとメンタルヘルスの専門家が協力することで、若年世代にも根強く残るスティグマを軽減することが可能となる。とくに、このアプローチが難しい世代向けたメンタルヘルス教育では、新たな指導方法の模索が重要である」と付言している。

文献情報

原題のタイトルは、「Elite athlete initiatives in school mental health: crafting an art-based educational methodology for promoting mental health help-seeking」。〔Discov Ment Health. 2025 Mar 9;5(1):30〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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女性アスリート特有の健康リスク抑制作用が期待される多価不飽和脂肪酸(PUFA)だが、栄養指導に際しては、単にPUFAの摂取量を把握するのみでなく、食事性炎症指数(DII)やω3指数を評価することの重要性を示唆する研究結果が報告された。摂南大学農学部食品栄養学科の藤林真美氏、京都華頂大学現代生活学部食物栄養学科の林育代氏、京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室の坂根直樹氏らの研究によるもので、論文が「Journal of Nutritional Science and Vitaminology」に掲載された。

女性アスリートとPUFA

女性アスリートに特有の健康障害として、トライアド(利用可能エネルギー不足、月経異常、骨粗鬆症という三主徴)の存在が古くから指摘されている。これに対して、心血管リスク抑制に関するエビデンスが豊富なω3脂肪酸が、骨代謝の改善、抗炎症、細胞内シグナル伝達のサポートなどによって、トライアドのリスク抑制にも寄与する可能性が示唆されている。また、トレーニングによる筋損傷や外傷性脳損傷からの回復促進効果も示されていて、ω3脂肪酸はアスリートが積極的に摂取すべき栄養素と考えられる。

一方、全身の慢性炎症が種々の疾患のリスクに深く関与していることが明らかにされ、慢性炎症の規定因子の一つとして食事の催炎症/抗炎症作用が注目されてきており、その評価指標として「食事性炎症指数(dietary inflammatory index;DII)」が用いられている。そのほか、血液中の総脂肪酸に占めるエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の合計の割合である「ω3指数(Omega-3 index;O3i)」も、食事の適切さを判定する指標の一つとして活用されている。ただし、女性アスリートのPUFA摂取量とDIIやO3iとの関連はこれまで十分検討されておらず、非アスリートとの相違の有無も明らかでない。

以上を背景として坂根氏らは、日本人女性アスリートおよび非アスリートを対象に、これらの評価指標同士の関連性を検討した。

女性アスリートと非アスリートを対象にPUFA摂取量、DII、O3iなどを調査

研究参加者は年齢18~29歳の女性とし、ω3サプリメント摂取、抗凝固療法、易出血傾向に該当する場合を除外して、74人のアスリート群と38人の非アスリート(対照)群を設けた。アスリートが行っている競技は、短距離42.4%、中距離3.4%、長距離5.1%、跳躍25.4%、ハードル6.8%、投擲13.6%などだった。

食事性炎症指数(DII)は、食事摂取状況を食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)で評価したのち、Shivappaらが開発した食品パラメーターごとの炎症スコアをもとに、環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」で用いられた手法により算出した。なお、DIIには脂肪酸摂取量のほかに、食物繊維や植物性化合物などの摂取量も反映される。

血中脂肪酸については、ひと晩絶食後の採血により、ω3脂肪酸(EPA、DHA、α-リノレン酸〈ALA〉)、ω6脂肪酸、飽和脂肪酸(SFA)、一価不飽和脂肪酸(MUFA)、トランス脂肪酸など、計22項目の脂肪酸を測定した。

このほか、生体インピーダンス法により体組成を測定。また、月経状態を質問し、3カ月以上月経がない場合は無月経と定義した。

アスリート群と対照群の特徴

アスリート群と対照群の特徴を比較すると、年齢は同順に19.7±1.2歳、20.0±0.9歳、BMIは21.1±2.4、20.3±2.4で有意差がなかったが、体脂肪率は21.2±5.1%、27.1±5.9%でアスリート群のほうが有意に低く、骨格筋量は23.5±2.6kg、19.4±2.7kgでアスリート群のほうが有意に多かった(いずれもp<0.001)。無月経の割合は、7.5%、2.7%で有意差がなかった(p=0.645)。<>

エネルギー摂取量は、アスリート群1,869±490kcal、対照群1,672±391kcalで、前者が有意に多かった(p=0.033)。エネルギー摂取量に対する主要栄養素の割合については、タンパク質はアスリート群、脂質は対照群で有意に高く、炭水化物は有意差がなかった。

脂肪酸の摂取量については、EPA(182.1±122.5 vs 120.4±78.0mg、p=0.002)、DHA(322.2±178.8 vs 226.9±120.0mg、p=0.004)はアスリート群が多く摂取していたが、SFA、MUFA、PUFA、ω3PUFA、ω6PUFA、ALAは有意差がなかった。

食事性炎症指数(DII)、ω3指数(O3i)は群間に有意差なし

食事性炎症指数(DII)は、エネルギー摂取量で調整した値である「E-DII(energy-adjusted dietary inflammatory index)」として比較すると、アスリート群1.96±2.65、対照群2.54±2.06であり前者のほうが低値だが有意差はなかった(p=0.237)。なお、DIIやE-DIIは値が高いほど催炎症作用が強いことを意味する。

ω3指数(O3i)もアスリート群4.88±1.37、対照群4.50±1.38であり有意差はなかった(p=0.173)。先行研究に基づき、O3iが8%以上を心血管疾患リスクが低いと定義すると、その割合はアスリート群が24.3%、対照群が42.1%でありアスリート群で少なかったが、有意差はなかった(p=0.082)。

このほかには、アスリート群は対照群に比較し、SFA/MUFA比(1.68±0.15 vs 1.49±0.15、p<0.001)、トランス脂肪酸指数(0.41±0.38>

次に、脂肪酸関連指標同士の関連性をみると、アスリート群においてO3iは、EPA+DHAの摂取量と正相関し(r=0.356、p=0.002)、DIIとは負の関連が認められた。一方、対照群ではいずれの関連も非有意だった。

また、エネルギー摂取量で調整した食事性炎症指数(E-DII)とO3iは、アスリート群(r=-0.284)、対照群(r=-0.514)の双方で有意な負の相関が認められた。その一方で、ω3PUFAの摂取量とO3iの関連は両群ともに非有意だった。

女性アスリートへの栄養指導にはPUFA摂取量ではなくDIIを評価

著者らは本研究のアスリート群の多くが陸上競技選手のため、結果解釈の一般化が制限されること、横断研究であることなどを限界点として挙げたうえで、以下のように結論づけている。

「DIIには食品中の催炎症性成分と抗炎症性成分の双方が反映される。われわれの研究結果は、ω3PUFA摂取量そのものを評価するよりもDIIのほうが、女性アスリートのO3iの予測において優れていることを示唆している。よって医療専門家とコーチは、女性アスリートのω3PUFA摂取量のみに頼るのではなく、DIIあるいはO3iに基づく栄養指導を検討する必要がある」。

文献情報

原題のタイトルは、「Association of Dietary Inflammatory Index with Omega-3 Index in Female Athlete」。〔J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2025;71(1):55-62〕 原文はこちら(J-STAGE)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)、トランス脂肪酸指数(0.41±0.38>0.001)。無月経の割合は、7.5%、2.7%で有意差がなかった(p=0.645)。<>

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