野生のシャチは人間に食べ物を分け与えようとすることが、科学的に確認される
まるで猫が飼い主に狩ってきた獲物を差し出すように、シャチも人間に獲物を分け与えようとすることが、国際的な研究チームの新たな研究で明らかになった。
シャチは高度な知能と社会性を持つことで知られているが、シャチは人間に興味を持っており、食べ物を分け与えることで、関係を築こうとしている可能性があるそうだ。
研究では、カナダ、ニュージーランド、メキシコの研究者たちが過去20年にわたり世界各地で記録された34件の事例を分析。
シャチが人間に食べ物を分け与えようとする姿が詳細に報告された。
この研究は『Journal of Comparative Psychology』(2025年)に掲載された。
カナダ・ベイセトロジー、ニュージーランド・オルカ研究財団、メキシコ・MAREAの研究チームは今回、過去20年において世界中の海で記録されたシャチが人間に対して、食べ物を分け与えようとする様子を詳細に分析している。
これらの記録は、彼ら自身の体験や、他の研究者への聞き取り調査、映像や写真に収められたものなど、全部で34件ある。
うち11件は水中の人間に対して、21件はボート上の人間に対して、2件は海岸にいる人間に対して行われた。
こうしたシャチの人間に対する「おすそ分け」の事例は、いずれもシャチ自らが自発的に人間に近づき、その目の前に食べ物を落としていくというものだ。
この画像を大きなサイズで見るニュージーランドの若いシャチNZ155(フォッシー)が、西南太平洋の海中でイングリッド・N・ヴィッサー氏にワシエイの肝臓の一部を差し出す様子。映像からの静止画 Credit: Journal of Comparative Psychology (2025). DOI: 10.1037/com0000422カラパイアでも、南極の海でメスのシャチが、人間のダイバーに対し、自分が獲った魚をごちそうしようとしている姿を撮影した映像を紹介したことがある。
そのシャチも、ダイバーのいる場所まで泳いでくると、おもむろに口を開け、獲物である魚の一部を差し出すかのようにそっと放した。
また1件を除き、どのシャチもその後の人間の反応を観察していたこともわかった。
そのうちの7件では、人間が受け取りを拒否したにもかかわらず、シャチは再び食べ物を差し出していたという。
この画像を大きなサイズで見るシャチが東部熱帯太平洋で、船にいたレオナルド・ゴンサレス氏に丸ごとのイトマキエイを差し出す様子 Credit: Journal of Comparative Psychology (2025). DOI: 10.1037/com0000422犬や猫といった飼いならされた動物が、人間に食べ物を差し出すことなら知られているが、野生動物によるこうした行動は非常に珍しい。
シャチは海の覇者ともいえる優れたハンターだが、非常に賢く、社会性が高い動物でもある。
研究チームは「人間に獲物を差し出す行動には、シャチが学習した文化的行動を実践したり、遊びや探求を通じて人間について学んだり関係を築こうとしたりする可能性がある」と述べている。
この画像を大きなサイズで見る東部北太平洋で、若いメスのシャチT046C2(サム)が、ジャレッド・R・タワーズ氏とその同僚が乗った船に丸ごとのアザラシを差し出した後、それを回収しようとしている様子 Credit: Journal of Comparative Psychology (2025). DOI: 10.1037/com0000422研究チームの中心メンバーである、カナダのベイ・セトロジーのジャレッド・タワーズ氏はこう語る。
シャチは仲間同士で餌を分け合うことで関係を深めます。その行動が人間に向けられるのは、私たちと関係を築こうとしているのかもしれません(ジャレッド・タワーズ氏)
シャチは自分たちよりも大きな獲物を狩ることも多く、食べ物が余ることも珍しくない。
だから食べ物を分け合って、家族や仲間とも関係を築くことがあるが、そして同じことを人間に対してしようとしているのかもしれないというのだ。
この画像を大きなサイズで見るニュージーランドの成体のメスのシャチNZ51(ディアン)が、西南太平洋でブライアン・スケリー氏にトビエイイを差し出した後、その大部分を回収する様子 Credit: Journal of Comparative Psychology (2025). DOI: 10.1037/com0000422かつて、人間と協力して狩りを行ったシャチの群れも存在した。
事実上人間は陸の覇者である。海の覇者であり、同じ哺乳類であるシャチが、人間に興味を持つのはあり得ない話ではないかもしれない。
だが、2020年からヨーロッパで、シャチが船を襲う事件が続出しているのも事実だ。
その行動の理由はまだ推測の域を出ないが、いくつかの説がある。
人間に嫌な思いをさせられたシャチが身を守るために船を襲うようになり、それが親から子へと受け継がれているという防衛説と、人間が驚く姿が面白いかららやってるという遊び説だ。
References: Psycnet.apa.org / Killer whales, kind gestures: Orcas offer food to humans in the wild
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。