これは、本当に生物だったのか…あまりに小さすぎる「火星の芋虫」が起こした「地球外生命への期待」(小林 憲正)
水の次は、有機物です。NASAが本格的に火星の有機物探査に乗り出したのは、「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」という宇宙船でのミッションからで、そこでは「マーズ・キュリオシティ・ローバー」が用いられました。「キュリオシティ」は「好奇心」という意味です。
2012年に火星のゲール・クレーターに着陸したキュリオシティには、「SAM」とよばれる有機物分析装置が搭載されていました。SAMはさっそく、塩素が結合した炭化水素を確認しました。ヴァイキング計画では有機物が検出されなかったので、これは大きな進歩です。
この炭化水素は、火星の有機物が土壌に含まれる過塩素酸塩と一緒に加熱されたときに生じたものと考えられています。実はヴァイキング計画でも、同様な分子は検出されていたのですが、もとの有機物が火星起源かどうかが不明だったため、有機物が存在したとは認められていなかったのです。
しかし今回は、火星起源の有機物であることが確認されました。さらに、2018年にはゲール・クレーター内の泥岩を加熱してみたところ、ベンゼン環や硫黄を含む複雑な有機物が存在することもわかりました。ゲール・クレーターはかつて湖だったとされており、過去の生物がつくった有機物の痕跡である可能性が考えられています。
キュリオシティの次には、「MARS2020」とよばれる新たなミッションが行われました。2021年にジェゼロ・クレーターに着陸したローバーには「パーサヴィアランス」(忍耐)という名前がつけられ、また、「インジェニュイティ」(想像力)と名づけられたロボットヘリコプターも、探査に用いられました。
このミッションの目的は、火星の土壌サンプルを集めて、将来、別の探査機で地球に持ち帰る準備をすることです。火星の生命の存否は、最終的には土壌サンプルを地球に持ち帰ったあと、最先端の分析装置で分析することによって明らかになると期待されています。
一方、欧州でも欧州宇宙機関(ESA)が立案した「エクソ・マーズ計画」が、NASAの協力のもと進行中ですが、その経緯については、拙著『生命と非生命のあいだ』にまとめましたので、お読みいただければと思います。