【米国市況】S&P500種が反発、CPI下振れ好感-ドル148円台前半
12日の米国株式市場では、S&P500種株価指数とナスダック総合指数が反発。2月の米消費者物価指数(CPI)が予想を下回る伸びにとどまったことが追い風となった。
株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 5599.30 27.23 0.49% ダウ工業株30種平均 41350.93 -82.55 -0.20% ナスダック総合指数 17648.45 212.35 1.22%過去2日の下落でS&P500種は調整局面入りが目前に迫っていたが、この日はハイテク大手が上昇をけん引した。CPIは一定の安心材料となったものの、関税が経済に与え得る影響を巡っては依然として不透明感が根強いことから、市場関係者からは今回のデータは「嵐の前の静けさ」だとの指摘も上がった。
トランプ大統領の政策を巡る不安が引き続きセンチメントに影響を与えている。米国が発動した鉄鋼・アルミニウム関税に対してカナダが報復措置を明らかにすると、S&P500種は1.3%の値上がりを帳消しにして、マイナス圏に沈む場面もあった。同指数が日中に少なくとも1%余り変動するのは14営業日連続で、2022年以来の長さだ。
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ネーションワイドのマーク・ハケット氏は「ここ3週間、この市場で買いを入れるのは落ちてくるナイフをつかむようなものだとの感触があった。だが、極端な売られ過ぎの状態であることに加え、市場のほぼ全体が悲観論に傾いていることから、リリーフラリー(安心感による相場上昇)が起こりそうだ」と述べた。
CPIデータは総合指数が4カ月ぶりの低い伸びにとどまるなど、過去数カ月にわたって停滞していたインフレ抑制に一定の進展が見られる内容となった。
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モルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメントのエレン・ゼントナー氏はCPIについて「一息つける内容だが、米金融当局がすぐに利下げを始めると期待すべきではない」と指摘。「貿易および移民政策が経済に与える影響が不透明であることを踏まえると、米金融当局は穏やかなインフレデータが続くことを望んでいるだろう」と述べた。
S&P500種は0.5%、ナスダック100指数は1.1%それぞれ上昇。一方、ダウ工業株30種平均は0.2%安で終えた。
個別銘柄では、テスラがこの日も買われ、2日間の上昇率は12%となった。エヌビディアは半導体株の上昇をけん引した。半面、ロボット掃除機「ルンバ」を製造するアイロボットは36%急落。事業継続能力に「重大な疑念」が生じたと明らかにしたことが嫌気された。
クリアブリッジ・インベストメンツのジェフ・シュルツ氏は「CPIはリスク資産にとって明らかにポジティブな材料だ。1月のデータが示したようなインフレの再加速は起きていないとの確信が強まる。米金融当局者は若干の猶予が得られ、労働市場低迷の兆しが表れた場合には政策を緩和することが可能になる」と指摘。
「しかし、当局は追加利下げに踏み切る前に、インフレ期待が最近の上昇から回復していることを確認する必要もある。インフレ期待の不安定化は多くの中央銀行当局者を不安にさせる。将来の物価安定回復に向けた課題を突きつけるためだ」と述べた。
トレードステーションのデービッド・ラッセル氏は、とりわけ鍵を握る住居費を含め、インフレが引き続き鈍化していることから、6月の利下げは依然として選択肢だと話す。
「ホワイトハウスとFRBは安堵の息をついている。関税は消費者物価に波及しなかったからだ」と同氏は指摘。「株価にはネガティブ要因が大量に織り込まれていたため、投資家にはポジティブな展開だ。相次ぐ悪いニュースは数週間ぶりに途切れるかもしれない。新たな犠牲が出なかったことは、ウォール街には朗報と受け止められよう。来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)に対する心配は少し和らいだ」と述べた。
国債
米国債相場は下落。米国株が反発するなどリスク選好の回復がCPI下振れによる追い風を打ち消した。
国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.63% 4.0 0.86% 米10年債利回り 4.32% 3.6 0.85% 米2年債利回り 3.99% 4.8 1.21% 米東部時間 16時49分CPI発表直後こそ値上がりしたが、その後は流れが反転。貿易戦争が激化するリスクが意識され、年限全般で利回りが上昇した。
英ケンブリッジ大学クイーンズカレッジ学長のモハメド・エラリアン氏はCPIについて「振り返って見れば良いニュースだが、この先を考える上で(同統計には)ほぼ何も情報が含まれていない」とブルームバーグテレビジョンで発言。「想定される関税と発動された関税による価格転嫁の影響については不明だ」と述べた。
この日実施された10年債入札(発行額390億ドル、リオープン)では、最高落札利回りが4.310%と、入札前取引(WI)水準の4.315%を下回った。
市場は引き続き、6月の25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)利下げを完全に織り込んでいる。年内は合計で約70bpの利下げが見込まれている。
為替
ニューヨーク外国為替市場では、ブルームバーグ・ドル・スポット指数が小幅高。CPI統計が市場予想を下回る伸びにとどまったことで、早い時間帯では低下する場面もあったが、米国債利回りの上昇を背景に切り返した。
為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1266.35 0.90 0.07% ドル/円 ¥148.32 ¥0.54 0.37% ユーロ/ドル $1.0889 -$0.0030 -0.27% 米東部時間 16時48分市場では関税を巡る懸念が根強く、成長とインフレに対するリスクに注目が集まっている。
R・J・オブライエン&アソシエーツのグローバル市場インサイト担当マネジングディレクター、トム・フィッツパトリック氏は「株式市場が国債利回りを下押ししてきた」と指摘。「そのため、株が持ち直せば利回りも切り上がり、ドルも対円で買われやすい地合いになるはずだ」と述べた。
円は対ドルで148円台前半に下落。一時は149円19銭まで売られる場面があったが、その後は下げ渋った。
日本銀行の植田和男総裁は12日の国会で、長期金利は市場での形成が基本との認識を改めて表明。将来の短期金利に対する市場予想を反映して長期金利が変動することは「自然な姿」との見解を示した。
関係者によると、日銀は上昇傾向にある長期金利について、国債買い入れの増額などで直ちに対応する必要性は乏しいと認識している。
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カナダ・ドルは対米ドルで上昇。カナダ銀行(中央銀行)は予想通り25bpの利下げを決定する一方、関税によるインフレ圧力を踏まえ、さらなる政策金利の変更については慎重に進める考えを示した。
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原油
ニューヨーク原油先物相場は続伸。貿易政策を巡る衝突が引き続きセンチメントに重しとなっているものの、強気のデータが相次いだことで買いが優勢となった。
米CPIの伸びが鈍化したほか、米政府が発表したデータでガソリン需要が日量920万バレルに増加したことが示された。これは昨年11月以来の高水準。原油在庫は150万バレル増と、増加幅は業界団体の予想(420万バレル)を下回った。また主要な原油貯蔵拠点であるオクラホマ州クッシングでは在庫が減少した。
ただそれでも原油先物は、1月中旬の高値をなお大きく下回っている。米国による関税発動や石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスによる生産引き上げ計画、中国での需要軟化見通しが背景にある。OPECがこの日発表した報告によれば、OPECプラスの原油生産量は2月に急増した。カザフスタンが、合意された生産枠を上回る生産を続けた。
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CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「CPIデータの軟化を受けたリスクオンの地合いの中、原油は上昇した。市場ではマクロ経済面での動きに主導される形での取引が続いている」と分析。「最新のOPEC報告では一部加盟国による過剰生産が浮き彫りとなったが、市場は引き続き、より広範なマクロ経済の力学に焦点を合わせている」と述べた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物4月限は前日比1.43ドル(2.2%)高の1バレル=67.68ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント5月限は2%上昇し70.95ドルで引けた。
金
金スポット相場は続伸。最新のインフレデータやトランプ関税発動を受け、市場では米経済の見通しと政策金利の道筋が意識された。
TDセキュリティーズの商品戦略担当グローバル責任者、バート・メレク氏は「予想を下回った今回のCPIデータは商品、特に貴金属のセクターにプラスになると私は分析している。市場はこのデータを、米金融当局による早めの利下げを可能にする内容と解釈するだろう」と指摘した。金利低下は利息を生まない金にとって追い風となる。
ただメレク氏はその上で、「関税の影響が広がるにつれて価格上昇圧力が再び強まる可能性はある」と付け加えた。
金スポット価格はニューヨーク時間午後3時15分現在、前日比18.68ドル(0.6%)高の1オンス=2934.58ドル。ニューヨーク商品取引所の金先物4月限は25.90ドル(0.9%)上昇の2946.80ドルで引けた。
原題:Stocks Rise After CPI Surprise as Trade Risks Loom: Markets Wrap
US Bonds Rebuff Cooler Inflation Data as Tariff Worries Dominate
Dollar Gains as Traders Balance Soft CPI, Tariffs: Inside G-10
Oil Buoyed as Bullish US Figures Ease Concern About Weak Demand
Gold Rises as Traders Digest US Inflation, Trump’s Metal Tariff(抜粋)