上杉研究所、Schiit Audioのアンプに注目! 超弩級イヤフォン「IBUKI」も聴いた。ヘッドフォン祭 佐々木的注目機

フジヤエービック主催「春のヘッドフォン祭 2026」が25日、ステーションコンファレンス東京で開催。ここではウエスギ、Brise Audio、finalなどのブースをレポートする。

この週末に恒例のフジヤエービック主催「春のヘッドフォン祭 2026」が行なわれた。今回、全くの新規発表製品は多くはなかったが、初参加や、意外なメーカーの参加という点で面白いものがあった。

まず意外な参加という点ではfinalのブースに参考展示されていた、アメリカのSchiit Audio(シット・オーディオ)のDACやヘッドフォンアンプが挙げられる。

Schiit Audioはコストパフォーマンスの高さで海外ではとても評判が高いが、なぜかこれまで国内には入ってこなかったマニアックなブランドだ。また製品名に北欧神話由来のネーミングをし、製品解説でわりと砕けた書き方をしているのがユニークでもある。

筆者は以前、DACの初代「Loki(ロキ)」を個人輸入で購入したことがあるが、これは「DSD専用」DACで、PCMでは音が出ないというユニークな製品である。その代わりとても低コストでかつ音が良い。こうした割り切りの良さもSchiit Audioの妙味の一つだ。

finalとは北米のヘッドフォンイベントであるCanJamを通じて交流を深め、機材のやり取りをし始めているということらしい。現在のところ正式な代理店契約の予定はなく、今回は参考展示のようなものだ。だが日本では滅多に聴くことのできない製品を聴く、貴重な機会となった。

今回のヘッドフォン祭では、499ドルのヘッドフォンアンプ「JOTUNHEIM(ヨッツンヘイム) 3」、1,599ドルのマルチビットDAC「GUNGNIR(グングニール) 2」、1,199ドルのヘッドフォンアンプ「MJOLNIR(ミョルニル)」を展示した。

ちなみに、北欧神話でヨッツンヘイムは氷の巨人族の国、グングニールとミョルニルは神々の武器のことだ。ミョルニルは英語名の「トール・ハンマー」と言えば聞いたことのある人は多くなるだろう。

上から「GUNGNIR 2」、「MJOLNIR」

「GUNGNIR 2」と「MJOLNIR」の組み合わせはfinal「D8000 DC」で聴いたが、透明感がとても高く、着色感が少ないサウンドだった。

歪み感が少ない端正な音で、とても美しく感じられる。解像力も高い。「GUNGNIR 2」は医療用のR2R DACを搭載、「MJOLNIR」はA級動作アンプなので、とても滑らかで角がない聴きやすく高性能なサウンドだ。

JOTUNHEIM 3

JOTUNHEIM 3はDACボードを内蔵することが可能で、DACボードはBluetooth経由で「Forkbeard」というスマホのアプリを使うことで、リモートでイコライザーやアンプの管理が可能になるという先進的な機能も有している。試聴はiPhoneにUSB-Cで直結して聴いてみた。

JOTUNHEIM 3はfinal「DX3000 CL」と組み合わせて聴いたが、小さい割に力感がある音で、「DX3000 CL」との組み合わせではパワフルで骨太の「DX3000 CL」らしい低音が楽しめた。この組み合わせで聴くヴァイキング音楽の、地に響くような重いパーカッションには心震えるものがあった。着色感が少なく滑らかなサウンドはGUNGNIR 2とMJOLNIRの組み合わせを思わせる。この辺りがSchiit Audioの音の個性なのだろうか。

「DTAS」の測定・計算時間が大幅に短縮され、約10分程度になった

finalではもう一点、「TONALITE」で使用するパーソナライズ機能「DTAS」の測定・計算時間が大幅に短縮され、約10分程度になったことも注目点だ。

これは以前のステップの耳のスキャンがなくなったことと、サーバーの応答が最適化されたことによるものだ。耳のスキャンがなくなったのは計算のノウハウが溜まったことで同等の結果が得られるようになったとのこと。前のモードも互換性として残されているそうだ。

ここでひとつ閃いたのは、マイクを必要とする耳のスキャンのステップがなくなったということは、DTASが有線イヤフォンにも適用できるようになったのではないかということだ。このことを細尾社長に聞いてみると、もともとDTASは有線イヤフォンも念頭に入れており、今後DTAS対応の有線イヤフォンを出す計画もあるとのこと。もともと優れているfinalの有線イヤフォンが、DTASでさらにグレードアップするというのは驚くべきことで、今後とも進化するDTASに期待したい。

次は今回のヘッドフォン祭のキービジュアルとなったBrise Audio「IBUKI」を紹介する。市場想定価格で100万円という超弩級の製品だ。

Brise Audio「IBUKI」

簡単にいうと「IBUKI」は「FUGAKU(富嶽)」のイヤフォン部分を独立させて、通常のアンプで使えるようにしたものだ。ただし、もともとFUGAKUはアクティブ・クロスオーバー機構と一体化させていたため、それを取り去ったことによる改修が必要となる。

まずイヤフォン内部にパッシブ・クロスオーバーを搭載した。つまり普通のマルチドライバー・イヤフォンのようになったということだ。また従来は超高域を担当していたMEMSドライバーをESTに変更している。これは、FUGAKUはアンプ側にMEMSドライバーに必要な昇圧機構を持たせていたからだ。そして全体のチューニングも、よりリスニングに好適な楽しさを軸に考え直している。そしてダイナミックドライバーをこうした変更に合わせてチューニングし直しているとのことだ。

A&K「SR35」で聴いてみる

手持ちのA&K SR35を使用して「IBUKI」を試してみた。多少鳴らしにくさはあるが、歯切れが良くシャープなサウンドはFUGAKU譲りである。低域は誇張され過ぎないほどに適度な量感が感じられる。このためにヴォーカルも低音が被らずにすっきりとした表現で声が聴き取りやすい。

追加したESTのせいか、中高域の伸びが良く、弦楽器の倍音成分も豊かに感じられる。全体的な音質レベルはかなり高い。

次にアンプの「WATATSUMI」と組み合わせてみた。パワフルな強い力感を感じ、骨太のサウンドが再生できる点はアンプらしいアンプと言える。

WATATSUMIとIBUKIを組み合わせると、ほぼFUGAKU相当になるが、よりリスニング寄りで低音もたっぷりとしている感じだ。開発者によるとサントラやオーケストラもののように雄大なスケール感のある音楽に向いているように設計したということだ。

単に「FUGAKU」を分解しただけではなく、異なるアプローチとして展開したのは面白い試みと言えるだろう。

「WATATSUMI」と「IBUKI」を組み合わせる

最後に今回のヘッドフォン祭の初参加にして、とても玄人受けが良かった真空管ヘッドフォンアンプ、ウエスギ「TAP-101HP」を紹介する。

ウエスギ「TAP-101HP」

ヘッドフォンやポータブルオーディオ界隈には馴染みが薄いが、上杉研究所といえば真空管・スピーカーオーディオ界隈ではとても名の知れたハイエンドの真空管アンプのブランドだ。

藤原伸夫代表によると、以前ヘッドフォンイベントに参加した際に、若者の熱気に感化されたということで、若者向けに値段を下げたヘッドフォンアンプを出したかったということだ。その熱気は元々アンプビルダーとして創始された、上杉研究所の原点でもあると感じたそうだ。

藤原伸夫代表

また、小電流で高電圧というヘッドフォンアンプと真空管の相性の良さもあり、TAP-101HPは真空管式OTLヘッドフォンアンプとして、ECC82などミニチュア三極管を中心に設計されている。

上杉研究所では音の瑞々しさ・楽器の質感の高さを特徴とする三極管を得意としていて、品質の高いビンテージの新古ストック(NOSと呼ばれる)品を使用することを特徴としている。OTLとは通常真空管アンプに必要とされる出力トランスを省いた設計方式で、トランスレスなので音の着色感を排除でき、音のレスポンスも高められる。

回路図も展示された

実際に聴いてみたが、トランジスタやICに慣れた耳には聴き慣れないが、独特の高音質を堪能できた。たしかに真空管の艶っぽさや音色の良さもあるが、それよりも力強く鮮度感が高い音質の良さに圧倒された。試聴した曲のアコギの素早いピッキングも歯切れよく鳴らし、スピード感があって曲の躍動感をよく引き出すサウンドだ。真空管というとレトロで甘い音のように思われるかもしれないが、そうした概念を打ち壊すような「真空管だから可能になる」高音質が楽しめた。

価格はキットと完成品があり、キットは330,000円、完成品は440,000円とのことだ。キットはハンダ付けのハードルも低くして作りやすくしているとのこと。ヘッドフォンオーディオの世界が、さらに奥深い領域へ広がりつつあることを感じさせる一台だと言える。

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