イランがホルムズ海峡を封鎖した場合の影響は-QuickTake
イスラエルによるイラン空爆は同国の弾道ミサイル能力と軍事指揮系統に壊滅的な打撃を与えた。だが、最高指導者ハメネイ師は戦闘停止を拒否。米国が介入すれば「取り返しのつかない損害」を与えると強く警告した。
これを受け、イランが敵を圧迫する別の手段として、ホルムズ海峡の航行を遮断ないし事実上封鎖する可能性もあるとの観測が浮上している。ペルシャ湾入り口に位置するこの狭い水路は、世界原油貿易の約4分の1が通過する要衝。中国や欧州などの主要エネルギー消費地域に石油や天然ガスを輸送する巨大タンカーの通行をイランが阻止できれば、原油価格が急騰し、世界経済を不安定化させる恐れがある。
イランは過去にも商船を標的とし、海峡封鎖も辞さない構えを示していた。英当局はイスラエルの対イラン空爆直前に、地域情勢の緊張で海運に影響が及ぶ恐れがあると異例の警告を発した。世界有数の石油タンカー運航会社フロントラインもペルシャ湾からの貨物輸送に用いる船舶の運航には一段と慎重になる方針を示した。
ホルムズ海峡の場所は?
ホルムズ海峡はペルシャ湾とインド洋を結び、北岸にイラン、南岸にアラブ首長国連邦(UAE)、オマーンが位置する。
全長約100マイル(161キロメートル)で、最も狭い部分の幅は21マイル、双方向の航路の幅はわずか2マイル。
水深が浅く機雷の脅威を受けやすい。特にイランに近い位置にあるため、沿岸からの地対艦ミサイル攻撃や、巡視船、ヘリコプターによる妨害を受けるリスクが高い。
この海峡は世界の石油貿易に不可欠だ。ブルームバーグの集計データによると、2024年にはサウジアラビア、イラク、クウェート、UAE、イランから、日量約1650万バレルの原油とコンデンセートがタンカーでこの海峡を通過した。液化天然ガス(LNG)の輸送にも極めて重要で、同期間中に世界供給量の2割余り(主にカタール産)が通過している。
本当に海峡を封鎖できるのか?
イランはホルムズ海峡の航行停止を命じる法的権限を持たないため、実行には武力または武力行使の威嚇に訴えることになる。
イラン海軍が海峡への進入を阻止しようとした場合、周辺をパトロールする米海軍第5艦隊などから強力な反撃を受ける可能性が高い。
しかし、イランの軍艦が1隻も出港しなくても、深刻な混乱を引き起こす可能性はある。小型の高速巡視艇で船舶を妨害したり、沿岸や内陸の拠点からドローン(無人機)を飛ばし船舶に向けてミサイルを発射したりする可能性もある。
ホルムズ海峡を封鎖すれば、イランは石油輸出が不可能になり、自国経済に深刻な打撃を与えるだろう。
また、イラン産石油の最大の買い手であり、国連安全保障理事会で拒否権を行使して西側主導の制裁や決議からイランを保護してきた重要なパートナーである中国を刺激することにもなる。
過去の海運妨害事例は?
イランは、自国への制裁に対する不満を表明したり紛争で圧力をかけたりする手段として、ペルシャ湾での船舶への妨害行為を数十年にわたり行ってきた。
- 24年4月:イスラエル攻撃直前にイラン革命防衛隊がイスラエル系コンテナ船を拿捕(だほ)。乗組員は後に解放された。
- 23年4月:米国に向かうタンカーを拿捕。これは、米側が制裁違反としてイラン産原油を積載した船を押収した対応の報復とみられる。
- 22年5月:イランはギリシャのタンカー2隻を拿捕し、半年間拘束。これは、ギリシャと米国当局が別の船舶のイラン産原油を没収した措置への対応とみられる。
イランはホルムズ海峡を封鎖したことがあるか?
これまでのところはない。1980年から88年のイラク・イラン戦争中、イラク軍はホルムズ海峡の北西にあるカーグ島にある石油輸出ターミナルを攻撃し、イランの報復を誘発して米国を戦争に引きずり込もうとした。その後、いわゆるタンカー戦争で、両国は合計451隻の船舶を攻撃した。これによりタンカーの保険コストが大幅に上昇し、原油価格の上昇につながった。2011年にイランに制裁が課せられた際、同国はホルムズ海峡を封鎖すると脅したが、最終的には撤回した。
過去の米国と同盟国の反応は?
タンカー戦争時には、ペルシャ湾を通過する船舶を米海軍が護衛した。19年には米国が空母やB-52爆撃機を派遣。同年に米国は、イランの海上交通妨害に対抗して「センチネル作戦」を開始した。英国やサウジ、UAE、バーレーンなどが参加した。
ホルムズ海峡に最も依存している国は?
サウジはホルムズ海峡経由で最も多くの石油を輸出しているが、国内を横断するパイプラインを利用して紅海沿岸のターミナルに輸送することで、ホルムズ海峡と紅海南部を回避できる。UAEはホルムズ海峡に依存せずに原油の一部を輸出できる。同国は、ホルムズ海峡の南にあるオマーン湾のフジャイラ港まで、自国の油田からパイプラインで日量150万バレルの原油を輸送している。
イラクの石油輸出は地中海への石油パイプラインが閉鎖されているため、全てバスラ港からホルムズ海峡を通過して海上輸送されており、自由な通行に極めて依存している。クウェート、カタール、バーレーンは、石油をこの水路を通過して輸送する以外の選択肢はない。ホルムズ海峡を通過する石油の大部分はアジア向けだ。
イランも、石油輸出をホルムズ海峡の通過に依存している。イランは海峡の東端にあるジャースク港に輸出ターミナルを21年7月に正式に開設しており、この施設は、同国が海路を使用せずに少量の石油を世界に出荷する手段となる。
原題:What If Iran Tries to Close the Strait of Hormuz?: QuickTake(抜粋)